アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
「サビーナは鷹に似てるよな」
少年が空を見上げながらそういったことを、サビーナは覚えていた。
「俺も図鑑でしか見たことがないんだけど、地球にいるすごく大きい鳥でさ。大きいのにとんでもなく速くて、目標を見つけたら一直線って感じなんだよ」
まだアスティカシア学園の一年生の頃の話だ。
もちろんアーシアンであるサビーナは少年が楽しそうに話す鷹のことを知っていたし、見たこともあった。
だが、サビーナが彼に自分が元アーシアンであったことを告白していなかったので、そんな彼女に熱心に説明するロマン男の様子は、全てを知っている者がいたならば少し滑稽な姿に映っただろう。
だけれど、邪気なく話す少年にそんな野暮な話をすることの方がサビーナには嫌なことで、話に合わせながら探るように少年に尋ねた。
「それは……私が恐ろしいという意味か?」
表情を変えることなく、むしろ視線を鋭くしながら。
だけれど内心では少年が自分をどう思っているのか、恐る恐ると。
すると少年は一瞬だけきょとんと呆けて、次いでくすりとほほ笑みながら言うのだ。
「まさか! サビーナのことをそんな風に思ったことはないよ。
むしろ、かっこいいって思ってる。サビーナも鷹も、ちゃんと前をまっすぐ見て、力強く飛んでいける奴だから。それってすごくロマンあるだろ?」
明るく、どこまでもそれが事実だと信じているような声。
彼は知らないだろう。
彼が無邪気に少女をほめる言葉に、その笑顔に、彼女が切なく胸を焦がしていたことを。彼と話した言葉の一つ一つを、少女が決して忘れないようにしていたことを。
そして、
(私はそんなに大層な存在じゃない……)
サビーナが自分の浮き立つ心を必死に押さえつけていたことを。
地球にいたころ、サビーナはよく空を見上げた。
そこに飛んでいる大きな鳥に手を伸ばした。
それは薄汚れて、その日の生活にも困り、挙句の果てには人には決して言えないことまでしなければいけなかった困難な暮らしから、文字通りに連れ出してくれることを子供心に期待して。
だけれど鳥はサビーナを一瞥すると、ただ自分の道を行くように羽ばたいては姿を消した。
まだまだ幼い少女はそのたびに落ち込んで、そして自由な鳥を憎んで……けれど分別がつくようになってからはむしろ、それでいいのだと思うようになる。
鳥はあんなにキレイで自由なのだから、私のような人間がぶら下がってはいけない。
こんな汚れた自分なんて気にせずに、ずっとずっと自由に空へ……
そして今サビーナは、出会ってしまった奇妙な少年のことを、その鳥のように思っている。
彼が気高いなどと過大評価する自分よりも、もっと自由で勇敢で、見上げる人々すべてに夢を与えるような鳥。
だから、そんな彼と結ばれたいなどと思ってはいけない。
自分と一緒にいれば、彼を汚してしまうだけなのだから。
サビーナ・ファルディンは血にまみれた罪人なのだから。
そうして少女はずっと、自分の心に蓋をしていた。
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
だというのに、
「行くぞ、サビーナ!!」
「くっ……!」
少年は鋼鉄の巨人に乗って、少女の目の前にいる。無遠慮に、少女の葛藤など気にも留めないほどの元気さで。
その意気が乗せられたようなヴィクトリオンの突進を、サビーナのベギルペンデが片手に備えた盾で受け止め、そして反撃に出るためにもう片方の手でビームサーベルを抜き放ち、切りかかる。
すると今度はヴィクトリオンが一歩後ろに下がると、ビームサーベルを大上段に振り下ろし、サビーナ機とつばぜり合い。
時間にすると数秒だが、大型のMSを自在に操るという点で、二人の実力は拮抗しつつ、それでいて傑出していた。
そしてそこから攻防が始まる。
ベギルペンデは盾とサーベルを使った堅実な戦術を取り、対するヴィクトリオンは時に大胆に行動を変化させて。
それはまるで中世の騎士と、野生の獣が戦いをしているかのような異種格闘戦の様相。
だが、
「きれい……」
エアリアルに乗りながら見ていたスレッタは、攻防の様子をそう評した。
二機はお互いの動きが分かっているかのように巧妙に攻防を入れ替えながら行動を続け、かといって止まることもない。
それはあのインキュベーションパーティーで、搭乗者の二人がダンスをしていた姿に重なって見えたのだ。
なによりロマン男がそんなサビーナとの戦いを心の底から楽しんでいることが、ヴィクトリオンのいきいきとした動きで外野にも伝わってくる。
「ははは! さすがだ、サビーナ! 最高にロマンしてる!!」
そしてその喜びをぶつけるように、決闘の最中とは思えないほどに満面の笑顔でアスムは言う。
一方でサビーナはと言えば、
「まったく、お前という奴はいつもいつも……!」
めちゃくちゃだ、と。
汗のにじむ顔で呟いた。
そうこの男はサビーナにとって、いつも常識の破壊者だった。
ロマンばかりを追い求め、無茶をして、セオリーを無視し、波乱ばかりを巻き起こす。
(だけど、お前は……)
絶対に誰かを笑顔にしてしまう妖怪ロマン男。
そんな彼との踊るような戦いの中、サビーナの脳裏には彼と初めて刃を交えた一年の頃が思い出されていた。
(ああ、そうだ……あの時もこんな風に戦っていた)
シャディクを助けるためという大義に酔って、無実の少年を殺そうとしていた殺人者。
それがあの時のサビーナという少女。
学生らしくもない軍隊仕込みの戦術を駆使したサビーナは、本気でアスム・ロンドを殺しにかかっていたというのに、それを少年はいなしながら、おおよそ戦術のセオリーからは外れた動きで対応してみせて……
結果、サビーナは敗北となり、あのシャディクにも多大な心労をかけることになる自爆騒動まで起こすことになった。
けれど、何の因果だろう。
彼女はそんな本気の殺意を向けた相手に、今度はまったく真逆の感情を秘めながら戦っている。
サビーナは動きを止めないまま、自問自答する。
仲間たちの余計なお世話のせいで、その立場で、この決闘が始まった時点でもう逃げ出すことはできない。
(私は、どうすればよかったんだろうな。入学前にお前をシャディクから離しておけば? そもそもお前と関わりを持たなければ? 決闘を仕掛けたりしなければ?)
いや、きっとどんな選択を選んだとしても、サビーナという少女は彼を知ろうとしたはず。
シャディクとともに社会を変える道には、彼が必ず立っていたはずだから。
だからきっと、
(どんな道を選んでも、私はお前に恋焦がれていた……)
きっとコクピットで楽しそうに笑っている少年を想いながら、サビーナは考える。
彼と出会ってからの一分一秒の全てを。
あの決闘の後、サビーナはアスム・ロンドを観察するようになった。
自分を殺そうとした女を許し、それでいて『自分を大事にしろ』なんて、大人の誰もかけてくれなかった心配をしてくれた不思議な……いや、理解不能な少年。
シャディクがそんな彼とともに世界と戦うと決めたことで、その人となりをもっと知るというのは彼女にとって必須事項となったからだ。
だからずっとサビーナはアスム・ロンドを見て……そして彼を知っていく。
彼は笑顔の似合う少年だった。自分の楽しみよりも、他の誰かの喜びを見た時の方が何倍も嬉しそうに笑っていた。彼の周りには笑顔があふれていた。
優しい少年だった。弱いものが傷つけられた時、その人よりも強く憤って、弱者の盾になることを厭わなかった。その優しさに守られた人々は、彼の力になろうと共に立ち上がっていた。
強い少年だった。アーシアン差別の防壁になって、上級生から何十、何百の石をぶつけられようと、度重なる細工や暴力を受けようと、決して自分の意思を曲げることはしなかった。
なにより、その夢を追い求める姿は……どこまでも眩しかった。
彼が見ている明日は明るくて、希望にあふれていて、自分たちは現実の戦争にすりつぶされてきたというのに、それでもと思わずにはいられないほど素敵な夢だった。
シャディクが彼を見て、自分たちの行動に疑問を持ったのも、今なら納得できる。
シャディクも自分たちも、これから自分たちがなそうとしている罪を理解していた。その罪が先々の平和に、地球と宇宙をつなぐ道になればそれでいいとさえ思って吞み込んでいた。
だというのに彼は、サビーナたちが大義を為そうとするために知らずに切り捨てた人間性と呼ばれるものを、誰よりも力強く示し、理想を実現していくのだ。無視できるわけがない。
そして彼は時に激しく、時に慎重にロマンと名付けた夢を追い求めて、とうとうこのスペーシアンの負の面が凝り固まり、歪となっていた学園すらも変えてしまった。
(だから私たちも、変わることができた……)
エナオは口数が少ないがシャディクと彼が並んでいると微笑むようになった。
メイジーとイリーシャもより自然に年頃の少女のような感情を見せられるようになった。
レネだってそうだ、こんな風にサビーナを応援するような真似、あのままならすることはなかっただろう。
そしてサビーナも、
(いつからだろう、お前の顔を見るたびに胸の奥がうずくようになったのは)
彼とすれ違い挨拶を交わすだけで心が楽になった。
彼から笑いかけられるだけで、どんな困難にも立ち向かえるようになった。
その心が恋愛などという、捨て去ったはずの感情だとサビーナが理解するのに、そう時間はかからなかった。
けれど、
(命を助けられたからじゃない……私はお前と共に過ごす中で、お前に恋をしてしまった)
命を救われたのはただのきっかけ。
そんな一つの出来事で心を変えるほどにサビーナの過去は軽くはない。
ただ、それでも自分がアーシアンだと彼に打ち明けた後も、まったく少年は変わらずに自分と接してくれたことは大きなきっかけだっただろう。
シャディクやグラスレーとの関係を考えると、捨て去るべき感情だと理解していたが……だからこそ気持ちは捨て去れずに強くなっていく。
名前で呼ぶのを頑なに禁じ『ロングロンド』と呼び続けても無駄だった。
何度も彼と結ばれた夢を見て、目が覚めた後に情けなさに涙を流した。
自分自身の笑顔のひとつも浮かべられない頑なさを何度も呪った。レネのように愛想よく、エナオのように柔軟に、メイジーのように朗らかに、イリーシャのように可憐になりたいと思うようになった。
シャディクがミオリネへの感情に悩み続けたように、一度自覚してしまった感情は本人の理性に関係なく、ただ膨れ上がるだけだ。
もっと彼の近くに、もっと彼と親しく。
そして叶うならば……彼の心も欲しい。
だけど、それは叶わない。叶えてはいけない。
「だって、私にはその資格がない……!!」
サビーナは言葉を食いしばりながら、シールドバッシュの要領でヴィクトリオンを弾き飛ばす。重MSを浮かすには、自分の体ではないMSを使って正確に力点を狙うことが必要だが、動揺する心のままでもサビーナはそれが可能な技量を持っていた。
何度も何度も盾を振り回し、ヴィクトリオンを後退させていく。
それはまるでサビーナの心を表しているように。
ずっと自分を律して守ってきたあまりにも繊細で脆い本音を、誰にも聞こえないからとぶつけていく。次第に口調も崩れて、年頃の少女になっていく。
「力になりたいと思った! お前を守りたいと思った! そうして私も変われば、いつかお前と一緒にいられるかもしれないと希望にすがった!」
シャディクが応援してくれた体育祭など、他の生徒の手前で鉄面皮を崩せなかったが、内心はこんな幸福があるのかと思うほどに満たされていた。
アスムに協力して、共に夢を実現したいというのはずっと願っていたことだったから。
だけれども、それをとうのサビーナが壊した。
アスムに対してニカ・ナナウラが接触し、彼の秘密を地球寮に暴露したと聞いた時、サビーナを支配したのはただただ強い怒りと殺意。彼との思い出を汚され、そして彼自身の理想を踏みにじられたと思い、気がつけば拳銃を取り出してニカに突き付けていた。
シャディクが止めなければ、きっと引き金を引いていただろう。
なのにその被害者であったはずのアスム本人がニカを引き留め、救い、そして自分の庇護下に置いてしまったのだ。
希望を捨てずに追いかけた彼と、簡単に諦め手を汚そうとした自分。
そうして気づく。自分がやろうとしたのは、彼のためでもなんでもない。ただ自分の優しい思い出を汚されたからという私欲にまみれた殺人未遂だと。
三つ子の魂百まで。
あの時、シャディクを救うためだとアスムを殺そうとしたのと同じで、まったく変わりようがない。
殺人という選択肢が自分に沁みついてしまっていたことにサビーナは絶望した。
幼いころに見た鳥と同じだ。
いくら手を伸ばしても届くはずがない。いや、届いてはいけない。
血にまみれた両の手は、きっと鳥を捕まえた瞬間に翼をへし折ってしまう。
「だから……! 私はお前とは関わらないと決めたのに……!!」
「なんで、この心はお前を求めるんだ……」
やめろ、と理性が何度も訴えるのに、この手は操縦桿を離さない。
彼のためだと、地球と宇宙の未来のためだと、何度もお題目を並べて諦めたはずなのに、勝てば彼と結ばれるのだと言われただけで、勝ちたいと思ってしまう。
なんて浅ましい。
そんな自分が恥ずかしい。
冷酷で味方さえも敵ごと撃ち抜ける覚悟はどこに行ったのか。
こんな自分、消してしまいたい。
だけど、それでも、
「それもロマンだろうがぁあああああ!!!!」
「っ……!?」
ヴィクトリオンがベギルペンデの盾を貫かんとばかりに拳を突き出し、サビーナ機を大きく揺らした。
聞こえていたのかと、サビーナが思わず機器を確認するほどのタイミングでのスピーカー越しの怒声。サビーナが動揺する中、接触回線でアスムの顔がモニターに映される。
そして少年はサビーナをまっすぐ見ながら言うのだ。少女にとって、意外な言葉を。
「知ってるか? 戦ってるだけで相手の気持ちがわかることがあるんだってさ。ロボットものでもアクションものでもめっちゃ常識的な話なんだけど、俺も今日、その気持ちがわかったよ」
「ロングロンド……」
「俺も事情は知らない。サビーナがなにに悩んでそんな顔してるのかはわからない。けど、戦ってるの見るだけで今のサビーナがめっちゃ青春してるのは分かる!」
「これが、青春だと……?」
「もちろん!」
アスム・ロンドは笑顔で言う。
「悩んで、つまずいて、それでもあきらめきれないで成長する! それが青春とロマンだろ!!」
だから今のサビーナは最高に青春をしているのだと。
ほかならぬ妖怪ロマン男は保証した。
それに、
「シャディクにも言われたけど、俺は自分の恋愛ごとには疎いみたいだし、きっとサビーナがこんなに悩むなら、あのサリウスの爺さんが余計なこと言ったりとかいろいろあるんだろうけど。
俺は……サビーナが俺のことそう思ってくれてたなら、すごく嬉しいよ」
最後の言葉は少し照れくさそうに。
サビーナは知らずに流していた涙をぴたりと止めて、少年の顔を見る。
それはサビーナと少年が出会ってから初めて見た表情だった。
「…………お前は、どこまでも」
どこまでも楽観的で、人を信じて、人の良いところばかりを見て。
(こんな私でも、いいと言ってくれるお前が……!)
そしてサビーナは、
「っ…………!!!!」
思い切り盾を振りかぶり、ヴィクトリオンへと向けて投げつけた。
「うおっ!? サビーナ!?」
そのやけくそのような動きにアスムが仰天する中、
「私は勝つぞ、ロングロンド……!」
こぼれそうになる涙を我慢しながら、サビーナはベギルペンデを操縦する。
それは先ほどのように統制された軍隊仕込みのものではなく、どこまでも不格好で、だけれどもサビーナらしい鋭さにあふれた動き。
(ああ、私はこの期に及んで理解していなかったのかもしれない)
確かに少年は鳥だった。
だけれど自分の翼で自由に飛びたてる、そんな勇敢で上品な鳥じゃない。
ロマンというおいしそうなエサが見つかれば、その持ち主ごと空高くにもっていってしまう、ハゲタカのような大バカ者だ。
だったら、サビーナだって。
「私は勝ちたい! シャディクのために、なにより私のために……!」
三年間。
ずっと、ずっと恋焦がれた。
何度も何度も機会があったのに、ヘタレて逃げてしまった。
最後まで言い訳ばかりをして、レネ達に尻を叩かれるまで勝負の土俵にすら立てなかった。
だけれどそんな情けなく、手も汚れている自分でも、この少年は肯定してくれる。
そんな人なんて、この先の人生で二度と現れるわけがない。
(だから……!)
サビーナはただ勢いに任せてビームサーベルを振りかぶる。
もう迷いはない。狙うはただ一つ、ブレードアンテナ。
(ああ、シャディクがあそこまで熱くなったのも今ならわかる。気持ちをさらけ出しながら戦うというのは、こんなにも清々しいんだな)
だからサビーナは、自分たちのリーダーと同じように。
「お前の隣に立つのは、私だ!!」
宣言した必殺の一撃は、
「いいねえ、いいロマンだ……!」
だけど、
「勝つのは俺たちだ……!!」
ベギルペンデを抱きしめるような勢いで組み付いてきたヴィクトリオンによって避けられ、そして倒れながらベギルペンデのブレードアンテナが破壊されていた。
『第三回戦 勝者:株式会社ガンダム』
『よって勝者:株式会社ガンダム』
瞬間、学園中で歓声が爆発し、そして数秒後に
『お前、ロマン男ふざけんなっ!』
『レネちゃんたちメイドにするとかマジ死刑!!』
『サビーナ様と付き合う流れでしょそこは!?』
とロマン男への大ブーイングが始まってしまう。
それを聞く株式会社ガンダムサイドの管制室でも、ようやく一回戦の疲れから回復したオジェロとヌーノが、
「そういえば、うちの会社の存続かけた戦いだったなぁ……」
「いろいろありすぎて、まじ忘れてた」
と言う始末だ。
おそらく学園中が同じ意見で、合体デミトレやらシャディクの恥ずかしい告白やら、ロマン男のメイド権獲得やらで当初の目的や決闘条件は完全に忘れ去られているだろう。
ただ、その当事者というより株式会社ガンダムの代表であるミオリネはといえば、
「始まったばっかりなのに、うちの会社のイメージがぁ……」
この全世界に流されている決闘の結果に頭を抱えていた。
「み、ミオリネさん、大丈夫ですよ! な、なんだかたのしいなーってことは分かりますしっ!」
「それのどこが大丈夫なのよ!? 完全に色物枠になりそうじゃないっ!!」
「でもぉ……ガンダムが呪いって言われるより、私はずっといいと思います」
「…………はぁ、スレッタってホントにたまにいいこと言うわね」
「そ、それってほめてます!?」
「誉め言葉よ。……って、あのバカ、外に出てなにやってんのよ?」
「サビーナさんもいますよっ!」
ミオリネ達が言う様に、廃墟区画の中、地面が安定した場所に移動したヴィクトリオンとベギルペンデからパイロット二人が下りていた。
アスムは精一杯ロマンに挑戦できたことで嬉しそうに。
そしてサビーナはと言えば、どちらかと言えば意気消沈しているような面持ちだ。
アスムは朗らかにサビーナに言う。
「悪いな、株式会社ガンダムのためには負けられなかったから」
「その結果があの大ブーイングだが、ここは私に勝ちを譲る方がロマンだったんじゃないか?」
「うっ……いや、それはけっこー悩んだわけだけどさ。ま、学園のみんなも楽しんでくれたみたいだし、おっけーおっけー」
「お前ってやつは本当に……」
サビーナはそんなアスムの態度に呆れたようにため息をつく。
そしてそんな彼を見るたびに、まだまだ足りないとばかりに高鳴る自分にも。
「…………ロングロンド、そこを動くな」
「……へ?」
サビーナが突然発した、警察のフリーズのような鋭い声に思わずアスムが足を止める。
その声はいかにもアスムに危機がせまっているような真に迫っていて、一歩も動かさないというほどに本気に満ちていた。
そんなアスムの元へとサビーナは一歩、また一歩と近づき……
「……一応断っておく、嫌なら私を突き飛ばせ」
「え、なにを……んん!?」
瞬間、少年の唇に温かいものが重なっていた。
鼻孔をくすぐる甘い香りに、視界を覆う、きれいな顔。
なにをされているのかを理解するまもなく、とっさにアスムはサビーナの背に手を回していて、待ち望んだ反応に体を震わせたサビーナはさらに強く唇を押し付けていた。
十秒、それほどの短い時間。
だけれど、サビーナにとってはそれで十分だった。
まだ呆けている少年へ向けて、サビーナは見せたことのない穏やかな微笑みを浮かべながら言う。
「アスム、ロンド……」
「ずっと……、ずっとあなたのことが好きだった」
そしてその言葉はお約束のように拡散し、学園中が黄色い歓声に包まれるのだった。