アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男 作:カサノリ
箒型ライフルとかめっちゃロマンやん!!!!
A.S.122年。
人類は母なる星を離れ、地球圏を中心とした宇宙に居住区画フロントを建設。
宇宙開発を加速度的に進め、今やあらゆる機器に使われるパーメットが宇宙でしか取れないことから、地球と宇宙との経済格差はいつの間にか逆転。
そうしてスペーシアンとアーシアンの区別が生まれ、その覆せない人種意識のまま、歪んだ宇宙時代は進行している。
しかしながら、地球で暮らしていようと宇宙で暮らしていようと、人類の感性に大きな進歩はない。
だから宇宙で暮らす人々には、宇宙で暮らすなりの娯楽が必要であった。
そして、
「あ、あの、社長……? ほんとに、ほんとにやるんですか?」
「もちろん! ここに来たからには伝統のアレをやるしかないっ!」
「はぁ……すごい目立つよ、これは。君はただでさえ派手なんだから。サビーナさんだっているんだし」
「私は……アスムがやりたいなら、やるだけだ」
((うわぁ……健気すぎる))
顔を赤らめながらも彼氏と思い出を作りたいなんて純情を爆発させているサビーナに、ニカとアリヤが見とれる中、ロマン男は承認を得たとばかりにテンションを上げながら叫ぶのだ。
かつて地球が文化の中心だった時代に、何度となくされていたという伝統の儀式を。
少年少女四人組は互いに手を握って、
「「「「海だーーーー!!!!」」」」
水辺に向かってジャンプ。
だが、あいにくとここは海ではない。プールである。
機動戦士ガンダム 水星の魔女
アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男
彼らがやってきたのは、『ドキドキざぱーん』というプールリゾート。
そこはアスティカシア学園から輸送便で一時間ほどのフロントに存在していて、そもそもフロント全体がショッピングモールやレストランなど、娯楽施設が満載になっている。
人の感性が変わらないのと同様に、宇宙に居を移しても人が暮らしやすい場所は変わりがない。
娯楽は一か所にまとめたほうが便利であるし、かといって騒々しさから居住区には向かない。結果、このフロントのように、人々の居住フロントから程よい位置に娯楽フロントが建設されるようになっている。
そして、その中でも二月前にオープンした『ドキドキざぱーん』は人気の娯楽施設だ。
アド・ステラ以前のとある島国で有名な換算方法を使うと、『トーキョードーム』五つ分にもなる広大な敷地に、ウォータースライダーやら流れる巨大プール、疑似的なビーチエリアや、ホットスプリング、サウナまでと、あらゆる水に関する娯楽が結集した場所。
それに惹かれて、主に高所得のスペーシアンから人気を博しており、既に一年先まで予約でいっぱいという状況。だが運営がグラスレーの子会社であったため、サビーナはチケットを手に入れることができていた。
実際にはシャディクから『使用状況のリサーチも頼むよ』と仕事も依頼されているのだが、チケットを融通してくれる建前だろう。
ともあれ、到着早々にアスムは広大な海の景色(模造品だが)に大興奮で飛び出し、女子はそんな彼に苦笑するという一幕があった。
それはどこまでも子供っぽく見えるところもあるのだが……そこは惚れた弱みというものだろう。ロマン男がその名のままに満開の笑顔でいると、彼女たちも満足してしまう。
だが、あくまでまだ到着しただけ。
水着に着替えてからの遊びが本番だ。
なので男女で分かれて、更衣室に移動したのだが。その着替えの途中でニカはぽつりと、隣にいるサビーナにつぶやいた。
「私、こういう風に遊ぶのも初めてなんですけど……びっくりしました。宇宙でも水って貴重な存在なのに、あるところにはあるんですね」
地球にいたころは遊ぶどころの環境ではなかったニカ。
だから、その口調には贅沢を謳歌できるスペーシアンへの軽い羨望も混じっている。
そして事実として水を大量に消費できるこの施設は異質でもあった。
言うまでもなくフロントの外、つまり宇宙空間は無重力だ。
水があっても、外へと放出されて蒸発するばかり。そもそも水を持たない宇宙空間は液体の水を保つのに相性最悪で、それでいて人は水を必要としている。
今は水生成プラントもあって、宇宙開発初期のように水を運び出すために地球と争う必要もなくなったが、それでもこの規模で水を娯楽に使えることをニカは羨ましく思ってしまう。
地球と宇宙の格差はこれほどまでに広がっているのだと。
すると元アーシアンであるサビーナは静かに、ニカにとっては意外なことを伝えるのだ。
「実はな、ここはシャディクが考案した施設でもあるんだ」
「えっ!? シャディクさんが!?」
「ああ。……どうして、と思っただろう?」
「えっと、それは……はい」
ニカはシャディクがテロリストと企てをしていた過去を知っている。なので、こんなスペーシアンだけに贅沢をもたらす施設を、彼が主導で作るとはニカには思えなかった。
今も彼はやり方を穏便に変えても地球と宇宙の格差をなくそうとしていると聞いていたのに、これでは逆効果に見える。
しかしサビーナは淡々とその意図を伝えだす。
「表面的にはただの娯楽施設。だが、実際にはグラスレー系列で開発した新型浄水装置のテスト運用と、その開発・量産資金を得るための場でもあるんだ。見る限り水質などにも問題ないし、たいした性能だな」
「え? でも、そのやり方って……」
どこかの妖怪がやりそうな二枚舌。
ロマン実現のために、軍事教練という建前をつくって開いた体育祭。今回は遊びが建前ではあるが、考え方はよく似ている。
そして実際にサビーナは穏やかに微笑みながら言うのだ。
「ああ、アスムとシャディクが考えた策だ。元々、貴重な水を使って遊びたいという欲求はスペーシアンの間に大きくてな、二人はそこに目を付けた。
……将来的に、地球環境を浄化することを目的としてな」
「地球を!?」
「ことエンターテインメントに関しては、やはりアイツは目ざといよ」
ドローン大戦や今も続いている紛争のために、かつて豊かだった地球の水源は大部分が重金属などで汚染されている。
水が目の前にあるのに飲めず、我慢しきれずに飲んで命をなくす子供も多くいる惨状だ。
母なる地球を綺麗にするために、その大本となる水環境の改善は必須。だがそれを改善しようにも多額の資金がいるし、その財をもつスペーシアンは地球環境には無関心。
その意識を変えるのも一朝一夕ではできないとなれば、策を弄するしかない。
「だから、この施設を?」
「施設へと娯楽目当ての富裕層が金を落とし、その利益を使って浄水装置量産化を行う。
そしてそれを地球にも提供し、地球環境を改善させるというのが二人のプランだ」
「でも……スペーシアンの人たちが、地球の浄化に使うって言って納得してくれるでしょうか?」
「そもそも支払った料金がなにに使われているかを気にする人間はそう多くない。自分たちの目に見える不利益にならなければな。もちろん投資家はその点も見るが、彼らは営利を求める。地球での需要の高さは理解できるだろうし、適正な値段で売買すれば地球の負担も少なく、投資家にも利益を返せる。であれば、文句をつける者もいないだろう。
それに加えて仕掛けもある。このリゾートの一番の売りは、ビーチ施設だが。実はあそこは地球に実際にある場所を模している。今は環境汚染で見る影もないが」
「もしかして、ここで遊ぶだけ遊ばせて?」
「地球に行けば、地球をよくすれば、もっと広いビーチで遊べますよと喧伝する。地球は水の星だ。そういった観光地が多くあったというのも事実だからな。
富を手にした人々の欲求には際限がない。いずれ狭い施設でチケットを待つくらいなら、地球に行く手間をかけても、より広い海で思うまま遊びたいという人も多くなるだろう」
「それで、ですか……」
どこまでも娯楽の皮を被った、シャディクとアスムの策が隠された施設。
だが、ニカはサビーナの話を聞きながら思い出したことがある。アスムと仕事の合間にした会話だ。
『ニカに質問です。
人間はどうすれば人助けのために、喜んでお金を出してくれるでしょうか?』
『えーっと、まずは困っている人の現状を伝えます。それで、あなたの助けが必要だってことも、救える命があることも』
『うん、それも一つの正解。っていうか正攻法だし、それで必要なお金が集まればいい。ただ……それで助けてくれる人はごく一部だ』
『……やっぱり、そうですよね』
実際にそんな優しい人ばかりなら、地球で貧困が生まれるわけもない。
そしてアスムも苦笑いしながらそれを肯定しつつ、だけど、とその先を説明するのだ。
『残念だけど、人間はどこまで行っても動物。自分の利益を求めるし、損やリスクを負いたくない。覚えておいて? そんな人間を理解することがビジネスの一歩だ。
だからこそ俺達も、人々の需要、つまり彼らが求める利益を見極めて、製品を売ってる。そして……嫌な言い方に聞こえるかもしれないけど、人助けも商品でもあるんだ』
もちろん人には感情があって、人助けをしたいという良心もある。
だが大部分はそれと自分の利益とを天秤にかければ利益を取るし、それ以前に遠く離れた土地での悲劇には無関心。それが事実。
人助けをしたいなら、その人間を直視しなければいけないとアスムは語り……そして次の瞬間に笑顔で言う。
『でも! そんな利己的な人間も……娯楽には喜んで金を払ってくれるんだよね!
なぜなら、それが楽しいから!』
楽しみとは、人間と他の生物を分ける不思議な感情。
食事という原始的欲求と結びつく娯楽ならわかるが、人間は思い出という無形なものにも娯楽を見出し、リスクを払うことさえしてしまう。
観光地に出向いたり、時間を浪費したり、それでいて相場より高い値段であっても楽しいからとリスクを喜んで差し出す。
だから、人助けがその人の娯楽と結びつくならば……喜んで金を出させることができる。
それを聞いたサビーナは頷きながら言うのだ。
「アイツや今の君のように自分から問題解決に動こうとしてくれる人もいるが、全体では少数だ。それでもと強引に改革を迫るなら、奪いとるしかない」
かつてシャディクが無理矢理にでもベネリットの資産を地球に下ろそうとしたように。
だが娯楽の皮を被せるだけで、人は喜んで資金を出すのなら、武力を用いる必要はなくなる。要は人々が気持ちよくリスクを許容できる建前を用意すればいいのだから。
もちろん、それで得た資金の運用方法を決定する企業の首脳陣が、問題を意識していることは必要だが、一般市民全体までそうある必要はない。
「ということだから、ニカがこの施設でどんなふうに遊んでも、巡り巡って地球の利益になる。
……なんのためらいもする必要はないぞ」
「……はい! ありがとうございます!」
サビーナがそうして話を締めくくると、ニカは元気に返事をして、微笑みながら着替えを始めた。先ほどまでは自分がこんなことをしていいのかとためらいがあったのだが、それも切り替えてくれたようだ。
そんな彼女を見ながら、サビーナもどこか心が温かくなる。
思えばシャディクも自分も、かつては結果を最短で求めていた。それが必要な側面もあるし、実際に今も失われる命を想えば、あちらが正解だったという場合もある。
だが、少なくともこんな娯楽の皮を被せて地球支援に結び付けようなんて策は、アイツと一緒にいなければ思いつかなかっただろう。
そんな風に自分たちが変われたことも嬉しいし、柔軟なアスムのことも頼もしく思う。
(ああ、そうだ。アイツもそろそろ待っているだろうし、私も準備をしなければな)
サビーナもまた気持ちを入れ替えて着替えを始める。
ニカに説明したように、今回の休日には客として施設の利用状況や人々の反応を見る側面もあったのだが、それ以前に彼とのデートでもある。
あまり待たせるわけにはいかないと、シャツや下着を脱ぎ、そしてレネ達のアドバイスで選んだ水着を身に着け……
(私から誘ったことだ、ニカ達も、もちろんアスムも楽しんでくれるようにしなければな……私も水泳教練以外で水着になるのは初めてだが……ん?)
しかしそこで気づく。
(…………ちょっと待て、水着?)
そして鏡に映る自分をサビーナは見た。
どう見ても水着姿で、必然的に肌の露出は激しくて。
ついでに言えば、これから会う彼氏も水着姿。
アスムも元から鍛えていることは知っているし、シャディクみたいに普段からさらけ出すようなことはしていないから見たことはないが、プロポーションは優れているだろうと予測できる。
つまり、ほぼ半裸状態でデートすることになるわけで……
「っ…………!?」
かぁっと、火がついたように頬が熱を持つ。
なぜ、思い至らなかったのかと今更になってサビーナは頭を抱えだしてしまった。
世間一般のデート知識も本などの聞きかじりしか知らないサビーナ。だが、その中でも手を組んだり、抱き合ったり、キスをしたりといった、少し前までは浮ついているとしか思えなかった行為をするのが明白で……
(それを、水着で!?)
ハードルが高い。高すぎる。
キスだってまだあの不意打ちの一回だけで、手をつないだりもしていない。だというのに素肌で触れ合いをするなどというのは急展開にもほどがある。
(誰だこんな提案をしたのは…………シャディクだっ!)
『みんなで遊びに行くと言うなら、このプールリゾートはどうだい? アイツ好みのロマンだし、それにリサーチの依頼も来ていたから渡りに船だ。サビーナ、行ってきなよ』
とか、 初デートにプールで水着などという数段飛ばしのプランを出してきたのは、あの策略家。
レネたちもそうだ。
『ロマン先輩相手なら、こういう水着がいいんじゃないの♪』
とか何とか言って水着一式を仲間全員で押し付けてきた。
あの時、やたらとレネがにやにやしていたのは、こうなるのを確信していたからだろうとサビーナはようやく気付く。
それを初デートの嬉しさにぽやぽやしていたサビーナは気づいていなかった。
あるいは彼女にとってその浮かれポンチ状態のままで彼に対面したほうがまだ被害は少なかったかもしれないが、ニカに施設をめぐるビジネス話をしてしまったせいで、恋愛脳が覚めて現実を直視することになってしまったのだ。
結果、
「サビーナさん、こっちも着替え終わったし、そろそろ……」
「……って、サビーナさん!? どうしたんですか!? 顔まっ赤……!!」
「…………もうだめだ」
「「どうして!?!?」」
結局、サビーナを更衣室から引っ張り出せたのは、それから十分も後のことだった。
「夏! 海! そしてロマン!!」
一方その頃、先に着替えを終えたアスムは更衣室から少し離れたとこで仁王立ちしながらビーチを眺めていた。
その恰好は……驚くほど普通。
ひざ丈までの短パンに、前を開いたラッシュガード。どれも変なアニメのガラなどは入っていない。
というのもシャディクから、
『いいかい? 女子との初デートなんだ。まずは相手が楽しめることを第一に考えること。
お前が好きな炎やらドラゴンやら青い稲妻な水着は、サビーナみたいなクール系美人と並んだら大変なことになるからやめておくんだ』
と懇切丁寧に何度も何度も念押しされたのでやめている。
なので今のアスムは元からの王子様っぽい顔立ちに、くっきりと割れた腹筋やらパイロットをする中で鍛えられた両手足も相まって、かなり欠点のない外見だ。
通りすがりの女性たちもそんな彼をちらりと見て『あ、かっこいい人いる!』とか思ったりするのだが、次の瞬間に、
ずももも
と音がするほどうずたかく積まれた浮き輪やらなにやらのビーチグッズを見て、『あの人やばい』と逃げ出すことになる。何事も度が過ぎるというものがあるのだ。
シャディクのアドバイスはちゃんとアスムも理解している。
理解しすぎている。
『つまり、みんながプールでエンジョイできるように全力を出す! 全力を!!』
だが持ち前の変なバイタリティが作用して、夏を前に羽目を外しすぎている男になってしまっていた。
さて、そんな風に女子たちを出迎える準備を、十分すぎるほどにしていたアスムだったが。
「サビーナさん、ほら頑張って!」
ようやくニカたちの声が後方から聞こえてきたので、勢いよく振り返る。
そして、
「みんな、やっとき…………」
アスムもまたフリーズした。
彼の目の前には、ある意味でアニメやゲームで憧れた景色、そして純情な精神年齢十一歳児(恋人ができたので昇格した)には刺激の強すぎる景色が広がっていたからだ。
「あの……これ、どうでしょうか?」
まずはニカ。
全体を見ると彼女の髪のインナーカラーである青を基調にしたビキニスタイル。ただ、露出は多くならないようにひらひらとフリルで装飾されており、下半身もスカート状。
落ち着きと清楚、それでいて女の子らしさを強調する格好。
だが過去にドレスを着た時にアスムは知っていたのだが制服姿では着痩せて見えてしまう豊かな胸部は体型を隠す水着でも目立っている。
東洋人らしい可愛らしい顔立ちと、小柄ながら豊かなプロポーションを活かしたコーデだった。
次に、
「ふふ♪ こら、あまりじろじろ見るのは失礼だよ? って……もしかして、固まってるのかい?」
アリヤはニカともサビーナとも違って、ワンピーススタイルだ。
彼女のエキゾチックな雰囲気とトロピカルな花柄の調和性もよく、それでいてオフショルダーや少し大胆に開いた胸元が褐色の肌をなまめかしく強調する。おそらく水を浴びると、その色気と呼べるものはもっと華やかになるのだろう。
アリヤはニカほどに起伏がないが、そのほそりとしたスタイルを大人っぽさで補っていた。
そして最後に、
「そ、その……、あまり見ないでくれ」
顔を真っ赤にしながら右手で左腕を掴むようにして、体をよじっているサビーナ。
彼女は一言で言えば煽情的だった。
黒のビキニは大胆に胸元が開かれているが、それでいてセクシー一辺倒ではなくワンポイントでリボンが可愛らしく飾り付けられているし、ホルターネックのスタイルもほどよい大人感を出してサビーナの美人な雰囲気にマッチしている。
下半身もロングのパレオをつけているが、その状態でもよく鍛えられて引き締まったシルエットが分かり、目に毒といった状態。
パイロットとして、さらには軍事教練によって日ごろから鍛えられた彼女は、下手なモデル顔負けの引き締まった抜群のプロポーションを持っていて、その大人びた外見と一目で初心とわかる表情とのギャップが強烈だった。
三者三様の水着。
それに優劣をつけることはできない。可愛らしいニカに、エキゾチックな魅力のアリヤ、そして上品で大人っぽいサビーナと、どれもが素晴らしい魅力にあふれていた。
そしてそれを見せられたロマン男は、さっきまでのプールを前にはしゃぐテンションがどこにやら、彼の『ロマン』と『すごい』しかない語彙力の限界に挑もうとしているように口をパクパクさせて……
「その、すごく……すごく似合ってる。三人とも、かわいくて、きれいで……ああっ、くそっ! ごめん、言い表せないけど、すごく好きだ」
なんて照れながら言うしかなかった。
そしてそれを見たサビーナたちは一瞬きょとんとして、
「「「ぷっ……あはは」」」
顔を見合わせて笑ってしまう。
彼の背後に積まれた水遊びのグッズを見ると、どれだけ彼がテンションを上げてプール遊びを楽しもうとしていたのかがわかる。ただ、それはどちらかと言えば少年心を元にしたもので、女子と遊ぶのだという意識が薄いものだ。
だけど今、彼ははしゃぎまわることを忘れて、わかりやすいほどに女性の水着姿に見とれて照れている。
もちろんロマンを追いかけている彼を魅力的に思っている三人だが、それでもお互いに彼に女性として見てほしいという願望だってあるのだ。
なんだかロマン男という妖怪に一矢報いた気持ちで楽しくなってしまっていた。
「でも、社長? 彼女さんはあくまでサビーナさんなんですから」
「そうだよ。まずはサビーナさんと並んで、ほら。それでちゃんと褒めてあげないと」
「こ、こら、二人ともっ……! いきなりは心の準備が……!!」
「「まあまあ、てれないで」」
「~~~~っ!」
なんて二人のおせっかいでサビーナは背中を押されて一歩前に。
必然的に彼女とアスムとの距離は近づいて。
「…………」
「…………」
「…………そのっ!」
「な、なんだ……」
ここで誉め言葉の一つも言えないようならロマンじゃないと、サビーナのか細い声にアスムは決意を固める。
「サビーナの水着、すごく似合ってる。ほんと、似合いすぎてて……アニメのヒロインみたいで、すごくロマンがあって、ドキドキしてる……」
「っ…………」
その言葉はどう見ても少年の本音で。
サビーナは照れよりも喜びの感情で胸を満たされていく。
だが、その言葉を返すのはサビーナの方もだ。
身近に年がら年中半露出狂みたいなシャディクがいる上に、孤児院時代から寝食を共にしてきた彼を見ることに羞恥心などない。
だけど目の前の恋人の水着姿は違った。彼女から見てとてもカッコよく、魅力的で、普段とは違う息が詰まるような胸の苦しさを抱いてしまうほど。
「お前の方こそ……とても魅力的だ。一緒に歩けることが夢のように思うくらいに」
「そ、そっか……! シャディクからアドバイス受けてよかったよ」
「ちなみに……それがなかったらどんな水着にする予定だったんだ?」
「えっと、第一候補はアニキのYo Sayなやつ。ガムテープとか言われてるの」
「ふふっ、どんな水着なんだそれは」
「絶対に世界でオンリーワンだと思うんだよな、あのデザイン」
「つまり、私に合わせるために考えてくれたんだな……ありがとう」
ああ、このままお互いに見つめ合っているだけで幸せだ。
そんな多幸感がサビーナを支配する。
そもそもが男女での遊びに慣れていない二人であるし、一段も二段も飛ばした水着デートというのは恋愛初心者にはハードルが高い。
なので、本来であればこのままお互いの距離を探るというのもありではあるのだが、
『行動、開始』
そうは問屋がおろさない。
見つめ合ったまま動かないでいるアスムの背後を小柄な人影が通り、
「きゃー、こけちゃったー」
などと棒読みにもほどがある声でアスムをポンと押したのだ。
すると、
「うおっ……!?」
「アスム……!?」
背の高く、バランス感覚にも優れたアスムを的確に転ばすという偶然にしてはできすぎた、クリティカルヒット。そして転びそうな彼を支えようとサビーナが前に出ると、自然に抱き合う形になってしまう。
「「っ……」」
息を呑んだのは同時。
男性的な逞しさと、女性のやわらかさを素肌で感じてしまった二人は飛び跳ねるように距離を取って
「そ、その……人が多いから大変だな! ハハハ!」
「そうだな、あまり離れないようにしないとな……」
などとぎこちない会話を始めるのだが、その態度に先ほどよりも甘いものが混じっているのをおせっかいな乱入者は見逃さなかった。
『HQ、こちら作戦第一段階終了。ロマン君、かなり意識しているわよ』
『HQ了解。引き続き、第二、第三に移行するよ』
通りすがりの観光客を装い、アスムをサビーナの方向へ押し出した女性……エナオがサングラスとウィッグを取ってその顔をさらけ出す。
そして彼女が連絡を取っていた者もまた、もはや明白だ。
施設のセキュリティセンターの中心に陣取って、そしてレネ、イリーシャ、メイジーを従えながら親友と家族を怪しく監視する……シャディク。
「さあ、始めようか。君の心をサビーナに渡してもらうよ、アスム」