アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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感想への返信が遅れてすみません!
週末になるべくお返しします!

今は調子のいいうちに、書けるところまでいきます!


61. Sisters Noise

『エリクト、サマヤ……』

 

 自らをそう名乗ったティーンにも満たない外見の少女。アスムは彼女を見つめながら、小さく呟いた。

 

 その名前に、特にファミリーネームに彼は覚えがある。

 

 ベルメリアから聞いた、二十一年前に行方不明となったヴァナディース機関の一員の名前。それが確かエルノラ・サマヤであり……

 

(プロスペラさんの正体だろうって、思ってたんだけど……)

 

『うん、正解』

 

『うえっ!?』

 

『ふふふ、キミの考えなんてお見通しだよ♪』

 

 アスムが脳内で考えただけのことに反応しながら、エリクトは楽しそうに笑った。

 

 それは単なる勘働きとは違う、相手の考えに確信をもっての返事で。アスムはうへーと苦笑いしながら続ける。

 

『まいったな。俺が頭で考えたことまで知られちゃうんだ……。いや、そもそもが逆で、これが脳内の出来事なんだろうな』

 

『正確にはデータストームの中、パーメットによってつくられた空間。ボクの生存できる唯一の場所だよ』

 

 それはつまり、

 

『……エアリアルの内部』

 

 なるほど、とアスムは静かに頷く。

 

 いきなりの事態であるが、彼にとっては恐ろしいことではない。むしろ夢の中では何度も体験してみたいと思っていた不思議体験であり、だからこそアスムの脳はフル回転しながらこの現象を理解する。

 

 エアリアルとリンクした瞬間に起こったパーメットへの意識の転移。

 

 さらにここまではっきりと意思疎通ができる人格を持った未知との遭遇。

 

『隠し事はできないみたいだから正直に言うけど、エアリアルに乗っているスレッタさんがどうしてデータストームの影響を受けないのかってのには、いくつか仮説を立ててたんだ』

 

 人を害する禁忌の機体とその例外。あるいは特定個人にのみ操縦が許される機体。

 

 それはある意味でロボットアニメのお約束であり、アニメ知識を総動員すればおのずと選択肢は限られてくる。

 

 その中には、実はエアリアルが未来からやってきたガンダムであったとか、外宇宙から漂流してきたという与太なものもあったが、特に有力な説は……

 

『データストームを誰かが肩代わりしている』

 

 つまりは、

 

『別の人が中にいるってこと。で、その人が機体とパイロットとの仲介をして、人間が処理できるようにデータストームを変換してるって説だ』

 

 先ほどファラクトで体験して感じた仮説が正しければ、モビルスーツに適応していない人間の体に直接データストームを流す方法では永遠に問題は解決しない。人間が種として変貌しなければ無理だ。

 

 だが、例えばその機械からの信号を、人間に解釈できるように変換してくれるソフトがあれば、無理な処理を行って体が負担を受けることもなくなる。

 

 あくまで仮説は仮説。

 

 そんな高性能のパソコンやAIが組み込まれている痕跡はエアリアルにはなかったので、確信を持てずにいたのだが……ここにきてエリクトの存在だ。

 

『キミだったんだろ? スレッタさんを守っていたのは。

 ……スレッタさんの、お姉さん?』

 

 その言葉にエリクトはふよふよと浮いたまま、呆れたようにため息を吐いた。

 

 見た目は本当に十歳にもみたない姿だというのに、受け答えはかなりしっかりしているし、その様子を見ると自分よりも年長であるかのように少年は感じる。

 

 それ以上に、どこか浮世離れした……シチュエーションを考えれば当然だが、そんな雰囲気をエリクトからは感じていて、それがエアリアルに感じていたミステリアスの正体なのだとアスムはだんだんと理解した。

 

『はぁ……まったくオタクの妄想ってすごいね。ほとんど正解だよ。

 っていうか、キミは前からその可能性に気づいていただろ? あのボクとスレッタと戦った決闘の時から』

 

『そりゃあもう♪ あんなロマンあふれる戦いと、ロマンの化身なエアリアル相手だからな!

 妄想も空想もしまくったっての!』

 

『ちなみに、参考になったのはどんなアニメなの?』

 

『〇ヴァとか鉄〇とか』

 

『ちょっと待ってね? ……あー、人の脳とか魂を生贄にとかそういうのじゃないから、一応』

 

 エリクトはなにやら顔をしかめると『一緒にされるのは心外』とでも言いたげな様子。

 

 それはロマン男が出した作品を知っているかの如き振る舞いで。ロマン男は目を丸くしながらエリクトに尋ねた。

 

『え、今の一瞬でアニメ一本見終わったの?』

 

 万能じゃん、と。

 

 しかしエリクトは得意げになることもなく、ごく普通に続ける。

 

『君が想像したところだけだよ。ここにいる間なら、時間をかければもっといろいろとキミの思考を読み取れるけどね』

 

『うわ、エスパーとかうらやましいなぁ。

 でも脳みそとか魂を乗っけてないなら、どうやって?』

 

『ボクの……あえて生前っていうけど、生前の生体データ、特に記憶や人格のところだね。それをデータストームの中に転写したんだ。

 だから魂とも言い換えられるかもしれないけど、元々それをしないと死んじゃうところだったし、非道な人体実験とかじゃないからね?』

 

『……テセウスの船とかスワンプマン。いや、これは余計な口出しだな』

 

 話を聞く限りでは、このエリクトと生前のエリクトが同一存在かと言えば疑問が残るが、本人に連続した記憶があり、おそらくはプロスペラも娘として扱っている以上は、外野からは余計な詮索でしかないのだろう。

 

 だからアスムが気にするとしたら一つだ。

 

『スレッタさんは知ってるのか? それと……』

 

 スレッタ・マーキュリーとは。

 

 エリクトはこの質問には真剣に、真摯に答えた。

 

『生まれはキミが想像した通りだけど、スレッタはボクの大切な妹。お母さんの娘。それだけだよ。ただ、ボクが姉だってことは知らない。こうして誰かの意識に干渉できるようになったのもつい最近だから、これまではエアリアルを通して簡単に意思を伝えるしかなかった』

 

『おっけ―、じゃあそれを信じるよ』

 

『…………ほんと、キミっていい性格してるよね?』

 

 エリクトはにこやかにスレッタの存在を許容した青年を見て、肩をすくめる。

 

 これまでエアリアルを通して見て来たとおりであるが、少年は肩書や生まれにまるで頓着しない。あるがまま、その相手の人格だけに重きを置いている。

 

 おそらく聞く人が聞けば、顔をしかめるであろうスレッタの生まれにも『スレッタさんがカワイイ後輩なことに違いないし』とごく当然のように受け止めていた。

 

 だからこそ、ボクは姿を見せたのだけど、と。

 

 声には出さずにスレッタの姉はアスム・ロンドを見る。

 

 そのロマンに汚染されまくった思考の奥を見定めようとする。ちなみに今もアニメやラノベという娯楽小説の知識がひっきりなしに表れては消えているので、ノイズがすさまじい。

 

 ただ、そんな変人であっても……

 

(ああ、いい人だね)

 

 エリクトは静かに思う。

 

 世にいう主人公気質というのがあるならば、彼はそれに当てはまる。いや、そうであろうと自己を規定している。

 

 人にやさしく、愛情深く、勇敢で、誰も分け隔てることない。

 

 もちろんそれは幼少期の体験から生まれた、すこし歪んだものであるかもしれないが、彼の気質によってエリクトの妹は世界を広げることができた。

 

 今もそうだ。

 

『えーっと、それでエリクト?

 俺って、向こうの世界だとどうなってんだ? さすがにエアリアルに乗って死にましただと、スレッタさんにも申し訳ないんだけど』

 

 ただでさえデータストームの被害を実際に見て意気消沈気味だったというのに、これで親しい友人がエアリアルに乗って命を落としたらトラウマでは済まないだろう、と。

 

 ……そこで自分の体の心配をしないのはほんと"アスム・ロンドらしい"。

 

 エリクトは少し返事に迷って。

 

 そして意地悪をしたくなった。

 

『うーん。あ、ごめんミスした。キミ、もう死んでる』

 

『はぁ!? ちょ、まだ見終わってないアニメが!!』

 

『ぷっ、くくく♪ 冗談だって、冗談!

 君の体は無事だよ。リンクスタートした一瞬を切り取って、その体感時間を拡張しているんだ』

 

 つまり、外では一秒ほどの出来事を今は一時間ほどに拡大しているのだとエリクトは説明する。

 

『あくまでデータと量子の世界での出来事だから、こういうこともできるみたい。まあ、ボクも詳しい仕組みは分からないし、無駄に時間を延ばしても暇なだけだからめったにやらないけどね』

 

『無量空処とかイザナミ? いや、クロックアップとか?』

 

『だからイチイチアニメとかで例えるのはやめてよ、話がそれるから』

 

『とりあえず俺はロマンの最前線にいることは理解した』

 

 アスムはそう言って腕を組みながら、この出来事を生涯忘れまいと脳に刻み込む。

 

 なにせロボットに乗ったら精神と時の部屋に連れてこられて、後輩そっくりな女の子に翻弄されているのだ。まさにアニメの一場面。現在の科学では到達していない魔法の領域にいることには間違いない。

 

 だがここで一つ疑問だ。

 

 どうしてエアリアルの中に、目の前のエリクトは誘ってくれたのか。

 

 話の本題はそこであろう。

 

 ずっと誰にも正体を明かさないままで過ごしてきたと推測できるエリクト。そんな彼女が自分に接触してくれたのにはきっと大いなる理由があるはずだ。

 

 そしてその答えを聞こうと気合を入れたロマン男へと、エリクトは意外過ぎる答えを言うのだった。

 

 

 

『アニメを見たいから、協力して』

 

 

 

『……へ?』

 

 言われた意味が分からず茫然とする少年。

 

 しかし次の瞬間にエリクトは駄々をこねた子供のように、あるいは日ごろのうっぷんを晴らすように声を荒げて言う。

 

『だからアニメだよアニメ! わかるでしょ!?

 ここ、退屈なのっ! あの子たち以外はスレッタとお母さんしか話し相手いないし、スレッタが持ち込むのは頭お花畑な少女漫画とかばっかりだし、お母さんはいつまでも子ども扱いで『良い子の昔話』とか送ってくるの!』

 

『お、おう……』

 

『でも、お母さんも苦労してるし『送ってくれる作品がつまらない』とか言えないし……

 だからアニメでも漫画でも何でもいいから、面白い作品をエアリアルを通して送って! 送り先はキミの生徒手帳に記入しておくから!』

 

『……もしかして俺を呼んだの、それだけ?』

 

『重要なことだよっ!

 何も知らないままなら退屈も許せたけど、最近のスレッタはキミが見せた作品の話ばっかりするし、それ以外はキミや、あのミオリネとかグエルの話ばっかり!

 外には楽しいものがあるって、そのせいでボクも知っちゃったんだ! このままじゃ狭くて窮屈な生活がもっと苦しいものになっちゃうんだよっ! なんとかしてよっ!』

 

『…………』

 

 つまるところ、こんな人類未到達の不思議体験をアスムにさせておきながら、エリクトが望んでいたのは自分の退屈解消ということらしい。

 

 確かにその点でロマン男を選ぶというのは正解に近い。

 

 なにせ旧時代の娯楽という娯楽を掘り起こしてアーカイブ化し、再提供しているような筋金入りだ。お望みのままに届けてくれるだろう。

 

 だが、なんか他に方法ないのかなぁとアスムは思わずにはいられなかった。

 

 そんな100%わがままとしか言いようがないエリクトの要求だったが。

 

 ロマン男の答えは決まっている。

 

 

 

『任せろ!』

 

 

 

『っ、ほんとにいいの?』

 

『当たり前じゃん! ロマンを布教するチャンスだし、楽しみたいってやつがいるなら協力するのが俺の生き方だよ。とにかく一生でも見切れないくらいのデータと推薦リスト送る! 約束するよ、これからはエリクトを退屈させたりしないって!』

 

 そして、

 

『あと、エリクトのことはみんなにはナイショで、だろ?』

 

『うん、スレッタにはいつか話すけど……まだミオリネたちにも話すのはやめてほしい』

 

『だよなぁ』

 

 正直に言えば、アスムは話したい。

 

 シャディクやミオリネとも事実を共有して、未来のための計画を進めていきたい。

 

 特にこのパーメットに生体情報を転写することなんて、再現できれば世界が一変する。外宇宙に進出するのに寿命の心配をしなくても済むし、危険な地域への探査もお手の物。地球にいながら、宇宙を開発することだって夢じゃない。

 

 だが、夢の技術がもたらすのは夢だけじゃないこともアスムは知っている。

 

『事実上の不老不死の実現。安全なGUND以上のデリケートな話題だし、原理が分からない限りは再現を狙って人体実験が山のように行われることになる。エアリアルも今度こそバラバラに解体でラボ送りだ。

 それは許されないけど、今の俺たちじゃ防ぐことはできない。……株式会社ガンダムが力を持っていない今は、その時じゃない』

 

 そして言葉には出さないが、

 

(プロスペラさんがずっとエリクトのことを黙っているのも、何か企てがあってのことだろうし)

 

 エリクトもアスムの考えを読み取っているはずなのに反論しないので、その予想は当たっているのだろう。

 

 企てはおそらくデリングまで巻き込んだ大それたもので、その秘密を明かしてくれるほどにエリクトもアスムのことを信用していない。

 

 エリクトが姿を見せてくれたのは、退屈解消という理由に加えて、プロスペラへの何かしらの影響を与えることを期待してのものかもしれない。あるいは彼女に利することをさせるため。だが、秘密をばらしたと悟られたら最後、エリクトがこちらにコンタクトをしてくれることはなくなる。

 

 シャディクとは互いに隠し事はなしだと約束しているが、『隠し事ができちゃったけど、言えない』とでも話して、察してもらうしかない。この間も同じ理論で決闘を吹っ掛けられたからお相子だ。

 

 アスムも、自分一人で秘密を抱え込むことへのリスクは承知している。

 

 だけれど、それ以上に彼には譲れないものもある。

 

『困っている女の子を見捨てるのは、ロマンじゃねえよな』

 

 言い切り、少年は笑顔を浮かべた。

 

 そして小指を突き出して、エリクトへと向けるのだ。

 

『じゃあ約束な。俺は秘密を守って、キミに娯楽を提供する。で、交換条件じゃないけど……』

 

『うん、わかってるよ。キミたちの安全なGUND-ARMに協力できることがあったら、ボクの知識を提供する。ただあんまり期待はしないでほしいけどね』

 

 方法を知っているのはエルノラの方で、エリクトは感覚的に理解しているだけだからと。

 

『それじゃあ』

 

『うん』

 

 

 

『『指切りげんまん』』

 

 

 

「んっ……?」

 

 ふ、と水の上に浮上するように、アスムの意識は目覚めた。

 

 今いる場所は眠る前と変わらないエアリアルのコクピット内で、

 

『ちょっと、ぼーっとしてんじゃないわよ』

 

「あっ……わるい、なんか眠くなっちゃって。きっとさっきの実験の影響だな」

 

 アスムは怪訝そうな顔をモニタ越しに向けてくるミオリネに、すまんすまんと頭を下げた。それはまさに実験を開始しようという光景で、なにも変化した様子はない。

 

(……あの子が言っていた通り、外界での時間経過はなし、か)

 

 アスムにとって、思い返してみても夢のような出来事。

 

 もっと言えば魔女のかけた魔法のような奇跡。

 

 むしろ夢だったと忘れる方が現実的なのだろうけど、

 

『夢じゃないからね!』

 

『わかってるって』

 

 耳元で聞こえてきてエリクトの声に、アスムは苦笑いしながら心の中で答えた。

 

 不意にリアルロボット世界からスパロボに突入したような不思議な感覚がある。

 

 それはとても厄介で、一歩間違えれば世界を壊してしまうほどの秘密。

 

 しかし、この現実に起こっている理不尽を解決する力にもなりうる。

 

 その未来のためにも一歩ずつ。

 

(まずは最高のアニメセレクションでロマンを教えてやらないと)

 

 ロマン男は次なるロマンへの期待に、顔を輝かせた。

 

 

 

 そして次の日、エアリアルの中にて。

 

『あっ、もう送ってきたんだ』

 

 エリクトはふよふよと空間を浮かびながら、アスムが送ってきたデータを確認する。それは確かに膨大な量の映像データで、これからクエタでの長い改修の間に見切れないほどの量。

 

 ご丁寧に『これ面白いぞ!』なリスト付きだ。

 

『ふふ♪ 律儀な子だね』

 

 なんてエリクトも、初めての家族以外へのコンタクトがうまくいったことに胸をなでおろしながら……

 

『それじゃあ、さっそく見てみようかな。えーっと、おすすめの一番上にあるの、子供向けっぽいけど……』

 

 

 

『まどか、マギカ?』

 

 

 

 その後、クエタに到着したエアリアルから荒れ狂うデータストームが検出され、プロスペラが大慌てする一幕があったとかないとか。




次回、シン・エラン!!

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