アスティカシアの中心で『ロケットパンチ』と叫んだ男   作:カサノリ

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聖なる夜に間に合ってよかったです。


では、みなさんご準備を……


07. エンダァアアアアアア!!!!

『KP001! グエル・ジェターク! ダリルバルデ、出るぞ!!』

 

『LP041、スレッタ・マーキュリー! エアリアル、行きます!』

 

 コクピットの二人の音声が、拡声器を通して校内に響く。それと同時に、湧き上がる大きな歓声。ギャンブルであったり、観戦であったり、身内の応援であったりと学生たちが決闘を見る理由は様々だが、この時ばかりは声をそろえて、決闘者二人の行く先を応援する。

 

 その一方で、解説席に座った黒髪で眼鏡をかけた男子、学内でも安定した実況で有名なドゥーエが解説役であるロマン狂いへと話を振る。

 

「さて、ロマン先輩はこの決闘、どうなると予想されますか? 前回の決闘ではスレッタちゃんがグエル先輩を圧倒する結果となりましたが」

 

「見事なロマンぶりでしたね。ただ……、あの結果はあまり参考にならないかもしれません」

 

「というと?」

 

 するとロマン男は解説席の映像など放映されていないのにかっこつけたように顎に手を当てながらいう。

 

「まずエアリアルとスレッタさんの力が卓越しているのは疑いようがないです。あの状況で瞬殺を免れるパイロットはアスティカシアのどこにもいないでしょう。では、今回も同じ結果になるかというと、そうではない。

 宿命のライバルとして、グエル・ジェタークは学園トップのパイロットであると断言できるからです」

 

 決闘の口上にもある通り、決闘はブレードアンテナを破壊するという決着方法を除けば、なんでもありの戦いだ。生徒に危害が及ばないように戦闘範囲の厳密な取り決めはロマン男の働きかけで行われたが、機体は何を使っても良いし、大量のブーイングと学内における評判を気にしなければ妨害行為も許されている。

 

 その中でトップとして君臨していたグエルだ。常に追われる側でありながらも、ロマン狂いのいくつかの勝利を除けば全勝してきた猛者。その結果は、ジェターク社がいくら性能のいいMSを提供しようとしても、本人の実力が伴っていなければ不可能。

 

 だからロマン男は断言する。

 

「間違いなく、グエルは対応してきますよ。ダリルバルデという新型を引っ提げても来ましたし。あの時のような一方的な結果にはならないでしょう」

 

「となると、エアリアルが不利と?」

 

「うーん、そうとも言い切れないですね。エアリアルとスレッタさんの戦いを見るのも、これが二回目ですから。スレッタさんたちの実力がグエルよりも上ということも、十分にあり得ます」

 

「つまり……!」

 

「結果が分からない! ロマンあふれる戦いですねっ! っていうか、ダリルバルデかっこよすぎだろっ!! ジェタークの重装甲にスマートさがあふれる騎士っぽい姿っ!! 燃えるわぁああああ!!」

 

「いつもながらロマン優先の解説ありがとうございますっ! と、おぉっ!! 先に動いたのはエアリアルだっ!!」

 

 生徒一同が見守るモニターの向こう、白く美しいMSが躍動する。

 

 今回の舞台となった戦術試験場は高低差の激しい岩場と、局地的な森林が設定されている。その中でエアリアルが陣取ったのは高台。太古の昔から、相手にたいして有利をとれる場所だ。

 

 エアリアルはそこからビームライフルを発射するが、

 

「初撃はグエル先輩が防いだっ!! と、ここでダリルバルデが槍を振りかぶって……」

 

「投げたぁあああああ!!」

 

 妖怪が興奮したように叫ぶ。ダリルバルデが投げたビームジャベリンはなんと腕のユニットとともに射出され、エアリアルにはじかれたと思いきや、空中で方向転換し、さらにエアリアルを強襲した。

 

「ロケットパンチだ! ロケットパンチだ! ジェタークの堅物も、とうとうロマンを理解したぞぉおお!!」

 

「はいはい、ロマンに狂い始めた人は放っておきましょう。おっと! スレッタちゃん、さらに攻める、攻める! ガンビットによる包囲攻撃は……しかし、グエル先輩に防がれた!!」

 

「…………ん?」

 

 しかし、そこで妖怪は踊り狂うのをやめて、モニターを静かに見つめ始める。

 

 スレッタとエアリアルによる縦横無尽の射撃を、的確に肩のシールドや高速機動で避けていく赤いモビルスーツ。その動きは洗練されていると言っても良いが、

 

「……なんか、グエルの動きと違うぞ?」

 

 ロマン妖怪が呟くと同時に、異変に気がついたものが他にもいた。それは決闘委員会で見守るシャディクや、暗がりでモニターを見つめる鉄面皮の少年、そしてジェターク寮の管制室でふんぞり返りながら試合を見守っていたミオリネもだ。

 

「……意思拡張AI、ね。ジェタークの資料で見たけど、実戦レベルまで仕上がってたわけか」

 

「はっ! いったい、なんのことやら……」

 

「とぼけないでよ、義父様。別にルール違反じゃないしね。でも、あのレベルの制御をさせてるってことは、グエルにコントロールできるところなんて少しも残していないんじゃないの?」

 

「だとしたら、どうした? このくだらない決闘に勝つことが全てだ。たとえどんな手を使ったとしても、グエルが勝ったという結果さえ残ればいい」

 

「ふーん、で、あんたたちもそれでいいの?」

 

「「「…………っ」」」

 

 ミオリネは呆れた表情で、後ろに控えたラウダたちを見る。

 

 すると三人はそろって、気まずそうにミオリネから顔をそらした。ヴィムの言葉に完全に同意したわけでもない、むしろ内心では反発しているようだが、

 

「……なにも言えない、と。まあ、そうよね」

 

 フェルシーとペトラはジェタークの重役の娘、ラウダは複雑な事情がある息子。ジェタークCEOが乗り込んできて、目の前で工作を命令したとして、歯向かえる立場ではないだろう。

 

 そこで黙りこくったミオリネを見て、ヴィムはほくそ笑む。予定していた降水機による妨害は失敗したが、それがなくても最新AIに一学生が勝てるはずがないと。

 

 実際にモニターの向こうでは、AIが操縦するダリルバルデが、ドローンによる斬撃を繰り出しながらエアリアルを押していた。

 

「貴様は黙ってそこで見ていろ。貴様の"花婿"がジェタークに敗北するさまをな!」

 

「……ふーん」

 

 冷たく表情をとどめたままのミオリネ。その内心を知る者は、まだ誰もいない。

 

 

 

 そして当のダリルバルデの中では、

 

「くそっ! くそっ!!」

 

 グエルが悔しさに顔をゆがめながら、操縦桿を握りしめていた。

 

「父さんも、ラウダも……! なんで俺を信じてくれないんだ……!!」

 

 ここまでするとはグエルも思っていなかった。

 

 結果の取り消しも、補助AIを取り付けたMSも苦々しくも受け入れた。父の言う会社のため、勝利のためという言い分も、納得できるところはあるからだ。

 

 だとしても、これはあんまりだ。

 

 パイロットでありながら操縦も許されず、ただAIが敵を倒すのを見ているだけ。文字通り、グエル・ジェタークが勝利したという事実をつくるための置物でしかない。

 

(この決闘だけは……そう、思っていたのに!!)

 

 正々堂々と、ホルダーとして勝利を収める。それが再戦という卑怯な手段で決闘を汚してしまった自分にできるけじめであると。

 

 だが、それすら許されずに不本意な結果で決闘は進んでいく。

 

 そして、時間がたてばたつほどに、

 

『あれ、グエル先輩へんじゃね?』

 

『あんな面白くない戦いする人じゃないだろ……』

 

「っ…………!!」

 

 いつもは集中しているがゆえに耳にも入ってこない、観客席の声。しかし、自分を応援してくれる人々への礼儀として回線だけは小さく開いていたところから、困惑の声が拾われてくる。

 

 サブカメラが映す学園内の様子もそうだ。横断幕や旗を掲げていた応援団は、次第に熱気を失い、一人、また一人と、顔を落胆に染めていく。

 

 グエルという戦士が、いかに華々しく、そして勇猛なパイロットであることを知っているがゆえに応援してきたファンほど、今のダリルバルデの動きがグエルらしくないと映る。確かにそれはスマートで合理的な動きであるが、まったくグエルらしくもないものだから。

 

(俺は、俺は……!)

 

 そんな現状に、グエルの心の底から申し訳なさと恥ずかしさがこみ上げる。同時に、自分がいかにこの決闘という自分をさらけ出せる場を愛して、応援してくれていた人々に支えられてきたのかを理解する。

 

 だが、そんな葛藤など心無いAIは考慮してくれない。合理的にエアリアルを追い詰めようとして、

 

『……もう、わかっちゃいました!!』

 

 スレッタの声が響くと共に、エアリアルの動きが変わった。

 

(あいつ、ビットを使ってフェイントを……!?)

 

 エアリアルから射出されたビットが、さらに複雑で有機的な動きをし始める。それは子供がかくれんぼをしたり、追いかけっこをするような、機械であるのに動物めいた動き方。そしてAIはその動きを反応のまま追いかけようとして、

 

「ばかっ! 見え見えの陽動にっ……ぐぁああ!?」

 

 ガードが緩んだところを、別のビットに狙撃されダリルバルデは態勢を大きく崩し、岩場へと倒れこむことになった。

 

(…………ここまで、か?)

 

 グエルはうなだれながら考える。

 

 もうこのままでは結果は決まったも同然。変則的すぎるロマン妖怪を相手してきた自分ならいざ知らず、AIではあのエアリアルの動きを捉えることはできない。このまま自分は何もしないまま敗者の汚名を着せられ、砕けたプライドだけを抱えて決闘の舞台から去るしかないのか。

 

 見ているだろう父もラウダも何も言ってこない中、しかし、そのコクピットに。

 

『みんな、聞いてくれ。グエルが操られている』

 

「………………は?」

 

 バカのバカみたいな妄言が届いた。

 

 

 

 

「操られている、ですか!? 先輩、それはどういうことですっ!」

 

「たった今、うちの情報部が手に入れた情報ですが、今のグエルは何者かに操られているらしいのです。どこかの研究所から脱出した邪悪な機械生命体がダリルバルデに取りつき、グエルの体を操って決闘に挑んでいると!」

 

「な、なんと! そんなことが!!」

 

「にわかには信じられませんが、事実ですっ!」

 

 嘘である。

 

 それを聞いていた誰もがしっている。その白々しく子供っぽい説明に学園中の人間から、ロマン妖怪へと白い目が向けられる。

 

 だが、妖怪は解説席でヒートアップしながら、騒ぎ出すのだ。

 

「だがしかしっ! グエルは抗っている、戦っている! たぶんすっげーあやしい悪役のバイザーとか、髪が真っ白になったりとんでもないことになっているけれど、グエルが完全に操られるわけがないっ! だって、だって……!」

 

 叫ぶ。

 

「俺たちが知っているグエル・ジェタークは、そんな弱い男じゃないだろっ!!」

 

 バカによる、バカのための、バカみたいな叫び。

 

 だが、それは確かに誰かの心に届いた。

 

『……そうだ、俺はグエル先輩の戦いに憧れて、パイロット科になったんだ』

 

『いつも偉そうで、ぶっきらぼうで、でも俺たち寮生のことは暑苦しいくらいに守ってくれた……』

 

『俺、グエル先輩が勝った時の決めポーズ、ちょっとダサいと思ってたけど好きだった!!』

 

『グエル先輩は、こんなダサい戦いする人じゃないっ!!』

 

 いくぞ、と誰かが小さく呟く。

 

 ポツリポツリと静かに生まれ出していた熱い気持ちが団結していく。

 

 そして、

 

「みんなーっ! グエルが元に戻れるように、応援するぞっ!!」

 

『『うぉおおおおおおおおおお!!!!』』

 

 バカの号令をきっかけとして、学園のいたるところから声が響く。

 

『グエルー、がんばれーっ!!』

 

『負けるな、負けるなっ!』

 

『戻ってきて、グエル先輩っ!!』

 

 かつて、地球が繁栄していたころを知る者なら、気づいたはずだろう。それはとある島国でよく見られた光景。舞台の上のヒーローのピンチに、応援する子供たちが必死にエールを送るほほえましくもロマンある、ヒーローのお約束である。

 

 それを知っているロマン男は、誰よりも本気の声でマイクへと叫ぶのだ。

 

「グエル・ジェタークは、こんなことであきらめる男じゃねえだろっ!!」

 

 

 

 そして、その声は当然、グエルの元にも届く。

 

「っ……! 勝手なこと、言いやがって……!!」

 

 だが、今更どうしろというのか。AIは態勢を立て直すのに手間取り、確実な隙を与えてしまっている。水星女とエアリアルならば、瞬時にブレードアンテナを叩き折ることすら可能な状況。

 

 ここから、自分にできることなどないと考えたグエルをさらなる衝撃が襲う。

 

「なっ……!?」

 

 こちらへと狙いを定めていたエアリアルが、撃ってこない。

 

 あきらめたわけでも、やる気をなくしたわけでもない。戦う意思を示したまま、待っている。

 

 そのコクピットの中で、スレッタは呟くのだ。

 

「ごめんね、エアリアル。勝たなきゃいけない戦いだって分かってる。ミオリネさんとエアリアル

それから私の未来がかかってるから……」

 

 この決闘の意味を、理解していないスレッタではない。

 

 だが、

 

「それでもね、私、友達になりたいって言ったの。まだやり方わからないけど、ちょっとあの人のこと怖いけど、それでも先輩に言ったみたいに、逃げないで友達だって100人つくりたい……」

 

 学園で初めに戦った人。

 

 自分のことを田舎者だと思っていて、だけれど、大好きな母のことをほめてくれた人。そんな人が不本意な戦いをさせられているのなら、こんな形で勝ちたくはない。友達になりたいと言ったのだから、

 

「ちゃんと本気で戦いたい……!」

 

 グエルにその言葉は届かなかったが、その少女の行動を理解できないほど、グエルは愚鈍な戦士ではない。

 

「っ、上等だ……!」

 

 グエルは奥歯をかみしめながら、低く唸りを上げる。

 

 父のことも、会社のことも、忘れたわけじゃない。これからの行動の先に、自分の将来が閉ざされる可能性だって十分に理解している。

 

 だが、この状況で。

 

 敵は自分の再起を待ち、ライバルは自分の復活を信じ、ファンたちは自分の活躍を期待している。その中で、むざむざと機械ごときに従ったまま敗北できるものか?

 

 否、

 

 男なら。そして、

 

「俺は、グエル・ジェタークだ……!!」

 

 ゴンっ、とグエルの拳が目の前のモニターを叩く。

 

『エラー、エラー! コウゲキヲヤメテクダサイ!!』

 

「黙れっ! このふざけた操縦を停止しろっ!」

 

『ニンショウバンゴウガヒツヨウデス!!』

 

「あぁ!? こいつでどうだ!!」

 

『バンゴウガチガイマス』

 

「だったらこいつは!?」

 

『バンゴウガチガイマス』

 

「がぁあああああ!? うっせーっ!!!!!」

 

 もう我慢の限界。

 

「これがグエル・ジェタークだっ!!!!!!」

 

 大きく振りかぶって、たたきつけた拳。それは今度こそ生徒手帳と、その奥にあるAIの基部をぶち壊し、

 

『おぉおおおおおお!! ダリルバルデが立ったー!!!!』

 

 バカが叫び、学園が熱狂する。

 

 目に光を取り戻したダリルバルデがゆっくりと立ち上がり、エアリアルへと向き直る。そして、操縦桿を握りながら、グエルは汗まみれの顔で笑みを浮かべた。

 

 やはりこの感覚だ。MSという大きく繊細な力を、この二本の腕と自分の機転だけで動かし、勝利へと一直線に向かう。この感覚に憧れて、グエルはエースパイロットを志したのだから。

 

 グエルは興奮を隠しきれないまま、スレッタへと声を送る。

 

「待たせたな、水星女……!」

 

『っ、はい! 待ってました!!』

 

「ここからが俺たちの……」

 

 

 

「決闘だぁああああああ!!!!」

 

 

 

 叫び、ブースターの炎と土煙と共にダリルバルデが突貫する。

 

 それは先ほどまでと比べると泥臭く、荒々しく、スマートでなないがむしゃらな動き。だが、それを見た瞬間、

 

「グエル先輩だ! グエル先輩が帰ってきたぞ!!」

 

「いっけーっ!!!! グエルぅうううう!!!!」

 

 解説席では『アンタどっちの味方よ!?』と後でミオリネに折檻されることが確定したロマン男が後輩と肩を組みながらマイクへ向かって叫び、

 

『グエルせんぱぁああああああい!!!!』

 

『いっけぇえええええええ!!!』

 

『うぁああああああああああああああ!!』

 

 グエル応援団からはもはや言葉にならない涙ながらの歓声が響き渡る。

 

『グ・エ・ル!! グ・エ・ル!!!!』

 

『スレッタ!! スレッタ!!』

 

 猛るグエル陣営に、それでも負けんと息巻くスレッタ陣営、両者の応援がヒートアップする中、決闘も激しくなっていく。

 

 スレッタが駆るエアリアルへ、ダリルバルデが飛ばしたビームサーベルが迫る。当然、エアリアルは避けようとした。それはAIの判断ミスで武装の多くを失ったグエルにとっては、ほぼ唯一の武装。だというのに、

 

「うそぉっ!?」

 

 それがエアリアルの目の前で爆散して、メインモニターをふさいでしまった。

 

「武器なんざ、この拳と脚で十分なんだよっ!!」

 

 そしてその煙幕の中から、突撃してくるダリルバルデに、初めてエアリアルは捕まる。膂力はダリルバルデのほうが上、エアリアルは地面へと押し倒され、スラスターの出力任せにゴリゴリと背面を削られる。

 

 しかし、そのままやられるエアリアルではない。

 

「みんな! お願いっ!!」

 

 スレッタの号令の下、ガンビットたちがダリルバルデの上空へと殺到、その背へとビームを打ち出し、スラスターの一基を破壊した。

 

 バランスを崩し、もつれ倒れこむ二つのモビルスーツ。しかし、次の瞬間には立ち上がり、取っ組み合いの形へと雪崩れこむ。。

 

『なんて熱い戦いだっ! 両者ゆずらず!!!!』

 

『うぉおおおお!! ロマンだ、これぞロマンだ!!』

 

 解説の雑音が聞こえてくるが、グエルには関係ない。

 

「まだまだぁ!!」

 

 飛び上がるダリルバルデ。それは本来なら不可能な挙動。スラスターの片側が壊れていれば、くるくるバランスを崩して回ることになりかねない。その動きをグエルは利用する。

 

 ダリルバルデに残された隠し武器。脚部が変形した有線式のクロ―がエアリアルを掴み、空中へと放り投げる。

 

 するとモニターの向こうで、

 

『また隠し武器っ! まるで武器のデパートだ!!』

 

『ぐぉおおおおおおお!!』

 

『だれか、担架! 担架を!! またロマン先輩がロマンで死んでおられるぞ!!!!』

 

 とうとうバカが興奮しすぎて倒れたらしい。グエルはそんな他所の喧騒を聞きながら、一瞬考えた。

 

 あのロマン男がここまで反応しているのなら、これこそがロマンといえるのかもしれない。父に歯向かい、機体を自分で壊し、むちゃくちゃな戦法で勝利を狙う。

 

 これまでロマンという言葉に惹かれることはなく、妖怪がグエルの行動をロマンだと称してもピンとくることさえなかったが。

 

(そうか、これがロマンか……!)

 

 この胸の高鳴りが、血潮の猛りがロマンというのなら、

 

「悪くねえ……!!」

 

 もう双方に残された手は少ない。

 

 それでも勝利を望むなら、手段は一つ。

 

 向き合った両機は一瞬の沈黙をつくり、そして同時に、

 

「『勝つのは……!!』」

 

「俺だ!!」

 

『私ですっ!!』

 

 全速力で相手へと突っ込んだ。

 

 捨て身の、武器としての機能性や洗練さを無視したタックル。だけれども、それは見ている万人を魅了するほどの、美しさに満ちていた。

 

 火花を散らして接触するエアリアルとダリルバルデ。どちらのボディも相手のブレードアンテナへと掠れ、あと少しの力のかけ具合で勝敗が決まる。そして、

 

『お願い、エアリアル!!』

 

 言葉に反応して、エアリアルがわずかに身じろぎした。

 

 そして、そのわずかな動きが勝敗を決した。

 

 交差し、倒れ込む二機。

 

 その傍らには、砕けた赤いブレードアンテナ。

 

 

 

『勝者 スレッタ・マーキュリー』

 

 

 

 試験場の上空に、光る文字が現れる。

 

 しかし、それを観客の誰も、パイロットの二人でさえも認識できない。この華々しい名勝負に、結果が生まれたのだと、信じられなかったのだ。

 

 だが、それでも、勝利者はただ一人。

 

「ぉ、ぉお……」

 

「ぅおおお……!」

 

 

 

「「「「うぉおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」

 

 

 

 学園が爆発した。

 

 いや、それほどの歓声が吹き上がった。続くグエルとスレッタ、二人を称賛する歓声。その中には当然、復活した妖怪のものも含まれており、妖怪は実況席から会場へと飛び降りようとして後輩に羽交い絞めにされていた。

 

 そして、

 

「……バカ野郎どもが、騒ぎやがって」

 

 グエルはその光景をモニターで見つめると、ふと苦笑いを浮かべて、汗にまみれたヘルメットを脱ぎ去った。

 

 負けた。

 

 その事実が悔しく、だけれども、どこかすがすがしかった。

 

(正々堂々戦って、負けることができた)

 

 グエルは荒れた髪を整えると、ハッチを開けて試験場へと降り立つ。

 

 なんだか、この狭いコクピットの中にいることができないほど、胸が火照って仕方なかった。

 

 地面の感触を踏みしめながら、風の心地よさを浴び、そして空を見上げる。

 

 そうして待っていると、別の方向からもハッチの開閉音がした。そちらへとグエルが目を向けると、エアリアルからスレッタが下りてきている。そのままスレッタはグエルの元へと走り寄ってきて、

 

「あ、あのっ!」

 

 緊張した顔で、胸の前にぎゅっと手を握りしめながら話しかけてきた。

 

 汗でさらに乱れたくしゃくしゃ髪。女の子というには、化粧っけもなく、田舎者丸出しという風貌に変わりはない。

 

 だけれど、グエルはそのスレッタを見た瞬間、

 

(っ…………!)

 

 不意に胸が跳ねた。

 

 そんなグエルの変化に気づかず、スレッタはグエルをまっすぐに見つめながら言う。

 

「あ、あなたは、その……! ほんとに、ほんとに、強かったですっ! すごくて、ほんとに、こんなに戦うのがドキドキしたのも初めてでっ……!」

 

 小さな唇から出る、グエルだけを見た、グエルだけに向けた素直な称賛の言葉。

 

 その響きが耳に届くたびに、グエルの頭はしびれるように衝撃を受け、ドキドキと心臓は高鳴りをまし、視界には何かのフィルターが差し込まれたようにキラキラと輝いていく。

 

「だから、その、よかったら……!」

 

 

 

「わたしと、友達になってくれませんか……!」

 

 

 

 手を伸ばすスレッタ。

 

 一心に自分を求めてくれる一途な少女。

 

 そしてグエルは、

 

(ああ、この気持ちは……)

 

 

 

(この気持ち、まさしく……!)

 

 

 

 その熱い気持ちに吞まれたまま、グエルはひざまずいた。

 

 

 

 その様子は解説席でも当然、目撃されていて、

 

「いやぁ、感動的な光景ですねえ……。勝者と敗者に別れましたが、両者を賞賛する声が学園中に響いています。解説のロマン先輩はいかがですか?」

 

「この一年のベスト決闘に選ばれるほど、素晴らしい試合でした。まさにロマンの体現! この景色が見れたことで、一片の悔いもありません!!」

 

「以上、泣きすぎて顔が変形しているロマン男さんからの解説でした。それでは、最後にお互いの健闘を称えあっている両パイロットの様子を……せ、先輩!! 先輩!!」

 

「ん? グエルがひざまずいて……ま、まさか、まさかあれは……!! BGM、BGMの準備をはやく……!!!!」

 

 

 

 それはまさしく絵画の光景のように。

 

 光が差し込む広大な大地の上で、一人の男がひざまずき、恭しく少女の手を取り、そして……

 

 

 

『スレッタ・マーキュリー……』

 

 

 

『俺と、結婚してくれ……!!』

 

 

 

 

 

 

『『『エンダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

イヤアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』』』

 

 

 

 

 

 

 謎の美声が響く中、こうしてこの学園にまた一つ新たな伝説が生まれた。

 

 これが100年先まで語り継がれる『アスティカシア三大恥ずかしい告白』の二つ目。

 

 

 

 『グエル・ジェタークの求婚』である。




みなさんも一緒に叫びましょう(筆者はグエスレ急進派です)。

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