武装神姫 とあるマスターと神姫の出会いの日   作:矢代大介

1 / 6
※attention!!※
 本作は、2012年放映のアニメ版武装神姫と、アーケードゲーム「バトルコンダクター」以外のメディア展開に触れられていないにわか武装紳士な作者によって執筆された二次創作となります。
 可能な限り公式の作品における設定を踏襲する形で執筆しておりますが、作者の独自解釈による設定改変などが多々存在するため、公式媒体と設定の齟齬が生じる場合がございます。あらかじめご了承ください。


第1話

 

 

「おーい(けい)! 待たせたなー!」

 

 自身の名を呼ぶ声を耳にして、スマホに目を落としていた一人の少年が顔を上げる。

 駅前のロータリーの向こう側から歩いてくる人影を見とめると、(けい)と呼ばれた少年は、返事の代わりに軽く手を上げて見せた。

 

「おはよ、悠一(ゆういち)。珍しく早かったな?」

「まーな。せっかく慧が〈買いに行く〉日に合わせたんだ。オレにとっても記念日になるんだから、遅れるわけにゃいかねーさ」

「それもそうか。わざわざ日を遅らせちゃってごめんな」

「馬鹿言うなよ、オレが好きで合わせたんだっつの」

 

 最寄り駅の駅前で合流した二人の少年が談笑をしていると、悠一と呼ばれた少年が、不意にあたりを見回す。

 そのそぶりは誰かを探すようなものであり、彼と目的を同じくしていた慧には、すぐにその意図を察することができた。

 

「我らが大先輩なら、まだ来てないぞ。大方、遅くまでカタログ漁ったりなんなりで寝坊してるんじゃないか?」

「あー、ありえそー。アイツわき目も振らず没頭するタイプの奴だからなぁ」

 

 そんなことを話して呆れた調子を作る二人の耳に、遠くから誰かの走ってくる音が聞こえてくる。

 振り向けば、そこにあったのは話題の主役になっていた、一人の少女の姿。艶やかな長髪を振り乱し、慌てた様子で駆け寄ってくるのが見えたので、二人は「やっぱり」と顔を見合わせて笑いを漏らした。

 

「ごっめーん!! バリバリ遅刻しかけた!」

「だと思ったぜ。オレと慧の推理は大当たりだ」

「だな。まぁともかく、おはよう、灯里(あかり)

「うん、おはよ二人とも……ふぅ」

 

 灯里と呼ばれた少女は、息を整えながら慧たちに向けて挨拶する。

 

 

 

「――もぅ、だから言ったでしょ? 夜更かししたらこうなるわよって、何回も注意してるじゃない」

 

 とその時、三人のものとは違う、凛とした涼やかな声が聞こえてくる。

 同時に、灯里が身に着けていた肩掛けのポーチの口がひとりでに開き――

 

 

 そこから、少女の姿をした小さな「人形」が、ひょこりと姿を現した。

 

 おおよそ15cmほどの大きさの人形は、灯里の鞄の中で、まるで生きた人間のように呆れたようなそぶりを見せる。

 二房に結わえられた白に近いブロンドの髪と、頭に載せた王冠のような装飾。そして透き通った宝石のような金の瞳が一際目を引く動く人形は、慧たちの存在を感知すると、鞄の中で微笑み、2人に向けて小さく手を振って見せた。

 

「あら、慧さんに悠一さん、ごきげんよう。今日も、うちの〈マスター〉をよろしくお願いするわ」

 

「生きたように動く人形に挨拶される」という、()()()()()異常とも言えただろう光景を見て、しかし慧たちは当たり前のように挨拶を返す。

 

「おはよう、〈アリサ〉。やっぱり灯里は夜更かしだったんだな」

「えぇ、それはもう遅くまで起きてネットやらカタログやらを読みふけってたわよ。『二人に〈神姫〉のイロハをテッテーテキに叩き込んでやるんだから!』なんて言ってたけど、それで二人に迷惑かけることになるのは、さすがに本末転倒だと思わない?」

「本末転倒だな。3年前からのいつも通りだから、もう慣れたけど」

「おう、アリサに完全同意だわ。ちゃんとアリサの言うこと聞かねーと、そのうち大寝坊かますことになるぜ、灯里?」

「う、うっさいなぁ。仕方ないじゃない、熱が入っちゃったんだもん」

 

 全方位から責められ、ふんとそっぽを向く灯里だったが、「それよりも!」と強引に話題転換を図る。

 

「準備できてるなら、さっそく行くよ、〈神姫センター〉! 二人の初めてのパートナーが、お店で二人を待ってるよ!」

「そうね、行きましょう二人とも。わたしも、友達が増えるのが楽しみだわ」

「おぉ、だな。善は急げだ、行こうぜ慧!」

「待て、電車がまだだぞ!?」

 

 灯里とアリサ、そして二人に同調した悠一が、勇み足で駅の構内へ突入していくのを見て、慧も慌てて後を追っていった。

 

 

 

 

 今より少しだけ未来。今よりも少しだけ科学技術が発達した世界。

 

 宇宙人の来訪もなく、世界規模の戦争も起きなかった平和な世の中。そこでは、とある「ロボット」が広く普及していた。

 

 全高、およそ15cm。

 小さなボディに備わっているのは、人間のそれと遜色ない「心」と「感情」。

 多様な道具と機構を有し、それらを駆使する力をことで(マスター)を補佐し、日常から仕事まで、様々な分野で活躍する。

 

 人々が営む日常に寄り添い、生活を共にし、時にその身に〈武装〉を纏って小さな戦場を駆け抜ける、少女の姿のフィギュア型ロボット。

 

神姫(しんき)」と呼ばれる機械仕掛けの少女たちは、人々の生活を豊かにするデバイスとして、この世界の世の中にとって、今や当たり前の存在となっていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、二人は誰をお迎えするのかもう決まってる?」

 

 電車に揺られながら目的地へと向かう最中、灯里が二人にそう切り出す。

 問われた少年二人は、お互いの顔をちらりと見やってから、揃って首を横に振った。

 

「オレはまだ決まってないなー。ラインナップ一覧でビビッと来たモデルはあったけど、やっぱこの目で見ないと決められないなって」

「あー、確かに。あたしも最初は誰をお迎えするか決めてなくって、お店でアリサを見かけた時に、こう……これだ! ってなったからなぁ。慧も同じ理由?」

「まぁ、おおむね同じかな。……ぶっちゃけ、俺の場合はそもそも『欲しいって思ったから買う』ってわけじゃなくて、『必要に迫られて買う』って感じだから、余計にさ」

 

 慧の言葉に、悠一と灯里は揃って「あー」と納得したそぶりを見せる。

 

「たしか、慧の親父さんが買えって言ってたんだっけ?」

「そうそう。父さんが転勤で遠くに行くから一人暮らしすることになって、生活のサポートをしてもらうために買うことになったって感じかな」

「いいなー、高校入学と同時に一人暮らし。あたしも人目をはばからずアリサと一緒に暮らしたいなぁ」

 

 そしたらあんなことやこんなことできるのにー、と、冗談なのか本気なのかわからない独り言を呟く灯里を尻目に、灯里のポーチの中から顔を出した神姫――アリサが慧を見やる。

 

「なら、私たち〈エーデルワイス〉か、基本モデルの〈アーンヴァル〉タイプをおススメするわ。家事のサポートくらいならお手のものだし、プリセットの性格設定も素直だから扱いやすいと思うわよ」

「ちょっとアリサ! それあたしが言いたかったセリフなんだけど?!」

「そんなこと言われても、灯里がどうでも良い自分語りにのめり込むのが悪いのよ。……で、慧さん。どうかしら?」

 

 アリサの提案に、しかし慧は即答しない。

 

「うーん、それも良いかもだけど……エーデルワイスはアリサが身近にいるから間に合ってるような気がするんだよなぁ」

「あーわかる。身近な人と神姫ダブらせたくないよな」

「そうそう。同じ理由で、アーンヴァルも父さんの神姫で、俺が子供の頃から世話してくれてた神姫ってイメージが強いから、なんかこう……同じ顔の家族ってのも複雑な気分になるし」

「うわ、生々しー。……でもそっか、確かにそう考えるとやだね」

 

 だろう、と返してから、慧はふと悠一に視線を向ける。

 

「ちなみに、悠一はいくつか候補があるって言ってたけど、誰にする予定なんだ?」

 

 話題を振られた悠一は、いじっていたスマホの画面を二人と一体に向ける。

 画面には、神姫に関する情報をまとめたWikiサイトと、そこに掲載されている宣材写真が表示されている。写真には、黒いツインテールと白のボディペイントの神姫が、巨大な複腕(サブアーム)と赤い刀を構えている姿が写っていた。

 

「オレの一番候補はコイツだな。〈ストラーフMk.2(マークツー)ラヴィーナ〉! 前にオフィシャルサイトを覗いた時にこう、ガツンッ!! って来たんだよな~」

「へぇ……Mk.2って、初代と何が違うんだ?」

 

 首を傾げる慧に、灯里がドヤ顔で説明を始める。

 

「見た目もそうだけど、一番の違いとしては、武装のコンセプトとデフォルトの性格かな。初代ストラーフのバトルスタイルは受けて殴る、って感じだったんだけど、Mk.2は避けて殴るが基本スタイルなんだってさ」

「ふぅん。……じゃあ、性格面はどう違うんだ?」

「おおざっぱに言うなら、初代は『僕っ子』で、Mk.2は『クール』って感じだったかな。……あでも、悠一が言ってるのってラヴィーナだよね?」

「おう。こっちも性格違う感じなのか?」

「らしいよー。あたしは実際に会ったことはないんだけど、お迎えした知り合いが言うには『すごくニチアサな感じ』って聞いたことはあるかな」

 

 解説を受けて、悠一はなるほどと唸る。

 何を考えてるのかと気になり、顔を覗き込んでみた慧は――

 

「イイ……」

 

 という一言と、だらしなく緩んだ口元で全てを察し、それ以上の追求は控えることにした。

 

「ま、実際に今日ラヴィーナちゃんに出会えるかどうかはわからないけどねー。入荷してないなら、神姫センターの方で取り寄せてもらって、後日引き渡しって形にしてもらわないといけないし」

「そ、そうか……いや、それでも構わないぜオレは。今の灯里の解説でオレの心はもう決まったようなもんだ」

「ならよかった。ま、そういうことだから、慧もまずはお店で実物を見てからにしなよ。ここでアレコレ議論するより、見て決めた方が絶対に良いって」

「そう、だな。そうするよ」

 

 慧が頷くと同時に、車内アナウンスが鳴り響く。

 何年経っても変わらない、しかしどこか耳心地の良い独特な抑揚の声は、慧たちが目的とする駅への到着を知らせていた。

 

 そこそこの数の乗客に混じって電車を降りた慧たちは、その足で目的地――神姫センターと呼ばれる店に向かっていった。

 

 

 

 

 神姫に関する様々な商品を取り扱うオフィシャルショップ、こと神姫センターは、慧と悠一の予想に反し、存外規模の大きな店だった。

 二人の想定では、地方に設置されている小さな携帯電話のキャリアショップと同じくらいの規模だろうと踏んでいたのだが、いざやって来てみれば、中規模なビルのワンフロアを丸々使った大がかりな店舗が、彼らを出迎える。

 さらに中へ入ってみれば、そこにあったのは所狭しと並ぶ神姫とその関連商品の山。店の中央には、ゲームセンターに置かれているような大きな筐体が設置されており、筐体の中では武装を身にまとった神姫たちが、思い思いに動き回っているのがうかがえた。

 

「すっげ……アキバに来たみたいだな」

「いやいや、本場秋葉原はこんなもんじゃないよ? 一度行ったことあるけど、あっちには潰れたゲーセンの建物全部を再利用した超大規模なショップがあって……まぁ、そこは今は置いとこうかな」

 

 気圧される悠一に灯里が自慢話をしていると、三人の目の前に一体の神姫がやってくる。

 純白の躯体に、同じく白を基調とした、飛行能力に長けた背面武装(リアユニット)。毛先に向けて淡い桃色のグラデーションがかかった金の長髪を靡かせるその神姫は、飛行しながら慧たちの前で一礼した。

 

「いらっしゃいませ、神姫センターへようこそ! 〈アーンヴァルMk.2〉のマシロがご対応させていただきます。本日のご用件はなんでしょうか?」

 

 この店の店員らしい神姫に向け、驚く二人に代わって灯里が説明を挟む。

 

「この人たちが神姫の購入目的で、あたしは付き添い。こっちの慧は誰をお迎えするか迷ってるらしいから、よければ店員目線でいろいろ教えてあげてくれない?」

「かしこまりました! ではお客様、僭越(せんえつ)ながらご案内させていただきます!」

 

 屈託(くったく)のない笑顔で促す神姫に、慧は思わず小さく会釈を挟む。

 

「あたしと悠一は、ラヴィーナちゃんが居ないか探してくるね」

「お互い決まったら、セットアップは一緒にやろうぜ」

「ああ、んじゃまた後で」

 

 友人たちと別れて行動することになった慧は、店員神姫の案内にしたがって、神姫本体が陳列されているコーナーを見て回り始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。