武装神姫 とあるマスターと神姫の出会いの日   作:矢代大介

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第4話

 

 

「じゃ、改めてルール確認するよー」

 

 宣戦布告の少し後、ショッピングモールのゲームセンターで首尾よく空いている筐体を確保した二人は、バトルの準備を整えるかたわら、筐体端で観戦の構えをとる灯里とアリサから、ルールの説明を受けていた。

 

「試合形式は〈ライドバトル〉の1vs1。ルールは基本通り、相手のVPを削り切った方の勝ちだよ」

「使用可能な武器は、遠距離と近距離がそれぞれ一つずつと、リアユニットだけに限定。あと、ダメージ蓄積による武器や装備の強制除装(パージ)もアリに設定してあるわ」

「パージさせられたら、普通に攻撃食らうよりもVPがゴリっと削れちゃうから注意してねー」

 

 じゃあ準備どうぞ! と灯里に促された慧と悠一は、互いを見合ってから二手に分かれ、それぞれに筐体の座席へ滑り込んだ。

 

 神姫バトルを行うための筐体――〈神姫アリーナ〉の形を一言で説明するなら、「やや規模の大きなエアホッケー台」という表現が適切だろう。

 神姫たちが実際にバトルを行うフィールドを中心として、外周には四基のプレイヤー用の座席。シート周辺には、バトル開始までの手順を示すサブモニタと、神姫をフィールドへ送り込むためのリフト、そしてプレイヤーの頭部に装着するヘッドセット型のデバイスと、操縦桿にも似た二本のスティック型コントローラが備えられていた。

 

 座席の一つに座った慧は、肩に乗せていたイオンを下ろし、フィールド入場用のリフトへ立たせる。

 ついで、慧は先ほど神姫センターで発行してもらった専用のパスカードを筐体に挿入。ログインを済ませた後、サブモニタに映し出された手順の通りに、ヘッドセットを手に取った。

 

 目元を覆う半透明のバイザーと、ボイスチャット用のマイクを備えたそれを指示通りに装着すると、バイザー越しの視界上に、無数のインターフェースが目まぐるしく表示されては消えていく。数秒ほど文字列の洪水が続いたのち、バイザー内に「connect complete」の文言が浮かび上がったのを確認した慧は、サブモニタの指示に従い、二本のスティックをしかと握りしめた。

 

「準備完了。イオン、そっちは大丈夫か?」

「はい、問題ありません。ではマスター、また後ほど」

 

 イオンが淡いバイオレットの長髪を翻し、慧に背を向けたと同時に、彼女が乗るリフトが、かすかなモーター音を鳴らして沈み込んでいく。

 空洞となったリフトの入り口がシャッターで閉鎖されると、バイザー内に再びインターフェースが出現。イオンと、彼女が纏う武装に関するあれこれを羅列した文字列が流れていくのを目で追っていると、ほどなくして出撃準備が完了したことを示す「RIDE ON ready.」の文字が、慧の視界を埋め尽くした。

 

「よし。……ちょっと緊張するな」

 

 人知れず口元に笑みを浮かべ、誰に向けるでもなくそう呟いた慧は、すぅと一呼吸。

 

「行くぞ――〈ライド・オン〉!」

 

 明瞭な声で宣言すると、バイザー内の表示が「Ride ON」へと変化。

 そこからほどなくして、慧の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 慧が視界を取り戻すと、そこは先ほどまで自分の座っていた筐体の座席ではなく、苔むした石造りの遺跡地帯だった。

 

 周囲を確認するために目線を動かすと、やや視界の上方が狭いことに気づく。

 視界を遮るものの正体を確かめようと、半ば無意識のうちに片手を持ち上げようとしたところで、慧は強烈な違和感に襲われた。

 

 コントロール用のスティックを握っていたはずの自分の手が、自分のそれとは明らかに違う、細くしなやかなものに変わっている。

 腕を覆っているのは、青紫の差し色が施された黒い装甲。バックラーを備えたその腕は、先刻イオンと共に選び、イオンに着せたあの武装腕であり、それを纏う手と腕は、間違いなくイオンのそれだ。

 

 とっさに、自分の全身を視界に収めるが、そこにある自分の姿はやはり、慧がよく知る自分のそれではなくなっている。

 足元を見下ろす視界は、やや控えめながらも、しっかりと谷間の存在を主張する「胸」に遮られて、慧は思いがけず心臓の鼓動が強くなるのを感じた。

 

《マスター、リンク完了です。そちらはどうですか?》

 

 とそこに、脳内で直接響くかのようなイオンの声が聞こえてくる。

 

「お、おう。こっちも大丈夫、なはず」

 

 やや慌てながら返事をするが、自分の口から紡がれ、耳朶を叩く声は凛と澄んでいて、やはり聞き慣れた自分のものではなくなっている。

 言いようのない強烈な違和感に、慧の中では、興奮よりも困惑のほうが勝っていた。

 

「けど、これは……慣れるのに時間がいりそうだ。何もかも自分のものと違うって、こんなに気持ち悪いもんなんだな」

《でしたら、同調率を下げましょう。マスター、音声入力で、ライドレベルを50まで落としてください》

 

 イオンの言葉に従い、イオンの声で音声入力を行う。

 80をややオーバーしていた同調率の数値が下がるのを見ていると、途端に自分の身体が、座席に腰を下ろしたような姿勢になるのを感じとる。

 慌てて視線を巡らせるが、イオンの身体は先ほどと同じ直立体勢のまま動いていない。それを見て、慧はようやく「本来の自分の体の感覚が戻ってきている」ということに気がついた。

 

「同調率を50に設定しました。マスター、どうですか?」

 

 同調率を落とした影響か、脳内でじかに響いてくるかのようだったイオンの声が、自分自身(イオン本来)の口元から聞こえてくる。

 彼女本来の優しげな声音が、そばで触れ合っている時よりも格段に近く、明瞭に響くのを感じて、慧は少し落ち着かない気分にさせられた。

 

《あぁ、自分の身体に帰ってきた感じがするよ》

 

 そう呟く声も、本来の自分のそれだ。声質に少し違和感を覚えるが、程なくしてその原因が「神姫側の(聴覚)で自分の声を聞いているから」だということがわかった。

 

《……なるほど。この状態だと、視界と聴覚だけを同期させてるんだな》

「正確には、視聴覚と同時に、マスターの〈体を動かそうとする意思〉も反映されるようになっています。試しに、私の腕を動かすことをイメージしてみてください」

 

 イオンの言葉通り、左腕を動かしてみると、視界に映るイオンの左腕が持ち上がる。続けて手を握ろうとすれば、目の前で滑らかに掌を開閉する光景が目に入った。

 対して、慧本来の身体の感覚はあるものの、そちらは椅子に座したまま動く気配がない。幽体離脱とでも形容できそうな奇妙な感覚は、先ほどの五感まで同期した状態とはまた違った違和感を覚えるものだった。

 

同調率50%(ハーフライド)の際の基本的な操作は〈マスターの思考を読み取って神姫が自分の身体を動かす〉という形になります。ここから同調率をもう少し落とせば、マスターが手にしているコントローラを使ったアナログ入力による操作が可能になりますが、どうしますか?」

《いや、そこまでするとせっかくのライドバトルの強みが無くなるからなぁ。……ただ、コレだとなんか別の違和感があるな。自分の身体だって思って動ける分、さっきの方が良さそうな気もするよ》

「では、もう少しだけ同調率を上げるのをお勧めします。先ほどが80%だったので、今度は60%前後を目安に」

 

 オーケイ、と返事してから、再び音声操作で同調率を弄る。

 

 イオンの示した数値を基準に、慧の好みで細かく調整を加えていった末、最終的な同調率は65%で落ち着いた。

 五感の同期状態は最初のものに近づけつつ、声帯の同期は切ることで、「自分」の存在を最低限だけ残した調整だ。

 

《よし、こんなもんかな。悪いな、長々付き合って貰って》

「いいえ、むしろありがたいです。マスターが戦いやすいように調整して貰えれば、私も快適に戦えますので」

 

 

 そんなイオンの返事を聞くのとほぼ同時に、フィールドの奥の方から、地を這うようにたなびく青白いブーストの光が近づいてくる。

 慧とイオンが立つ場所から少し離れた地点で、砂煙を上げて静止したのは、腕を組んで不敵な笑みを浮かべるストラーフMk.2 ラヴィーナ――ユキだった。

 

《よう慧! こっちはウォーミングアップできたぜ》

 

 そう話しかけてきたのは悠一の声だったが、腕組みの仕草は実に滑らかなものだ。どうやら向こうも、同調率はそれなりに高く設定しているらしい。

 

《正直、慣れる気がしないよ。……こっちは同調率65にしたんだけど、そっちはどのくらいにした?》

《マジか、そんなに高くしてるのか。オレは今のところ50だ。流石に皮膚感覚? までユキになるのはちょっとこう……解釈違いっつーかなんつーか》

《あぁ、わかる。まぁ俺の場合、半端な同調率で変に元の感覚が残ってるとそのぶん動きにくそうって思っての設定だから、その辺の許容量は人それぞれなんだろうな》

《だな》

 

 マスター同士でやり取りをする中、イオンとユキもそれぞれに会話を交わす。

 

 

「長短二刀の双剣と、マニュピレータ搭載型のサブアーム……ユキは、格闘戦が得意なんですね」

「そうだよ。そういうそっちは空戦型か……腕が鳴るね」

 

 イオンの武装構成を推察していたユキは、不意にニヤリと口角を釣り上げ、不敵に笑んでみせた。

 

「イオンたちには悪いけど、マスターもあたしも、このバトルに手は抜きたくないんだ。圧勝するつもりで行かせてもらうよ」

《そゆこと。覚悟しろよ、二人とも》

 

 そんなセリフと共に、複腕で作った拳をガツンと打ち鳴らしたユキと悠一は、自身の両手で長短二本の刀(コート&コーシカ)を構える。

 相対するイオンと慧も、負けじとリアユニットに吊り下げていた両手大剣(LS9レーザーソード)を抜刀。両者抜刀状態で睨み合う構図が出来上がった。

 

《最初の一撃は譲ってやるよ。どこからでもかかってきな!》

《そうか。なら、お言葉に甘えさせてもらうよ。――行くぞ、イオン!!》

「はい!」

 

 試合開始を宣言すると同時に、リアユニットから青白い炎を吹かして、イオン()が高く跳躍する。

 

『はあああぁぁぁッ!!!』

 

 敵目掛けて一直線に振り下ろす、大上段からの縦一文字斬り。

 対するユキ(悠一)は、回避ではなく防御を選択。リアユニットの複腕を交差させた即席の盾が、イオンのレーザーソードを真っ向から受け止めた。

 

 眩いオレンジの火花が、お互いの視界を焼く。

 数秒ほど拮抗した末に、突破は困難と悟ったイオンは、剣を引いて距離を取った。

 

《っしゃ、こっちのターンだぜ!!》

「覚悟しなよ、二人とも!」

 

 防御を解いたユキが、逃すものかと突っ込んでくる。

 ひときわ目を引く複腕は構えを取らなかったが、その代わりに長短二本の双剣――コートとコーシカを振りかぶるのが見えた。

 

 手にしたレーザーソードの刀身を盾がわりにして、イオンは振るわれた双剣による斬撃を凌ぐ。

 しかし、防御された事実は気にもとめていないのか、ユキはお構いなしに双剣を振い続ける。鋭い風切り音が断続的に鳴り響き、その度にオレンジの火花と、甲高い金属音が舞い散った。

 

《オラオラオラァ!!》

「守ってるだけじゃ、キミ達の剣は保たないよ!!」

 

 縦横無尽に乱舞する嵐のような斬撃と共に、悠一とユキが吼える。

 言葉通り、視界の端に表示されているレーザーソードの耐久値は、じりじりと減少し続けていた。このまま受け続ければ、いずれはダメージ蓄積で破壊判定が下され、強制除装(パージ)の仕様でLPを大きく失うことになるだろう。

 

「マスター。相手は近接攻撃手段が多いため、接近戦は不利になると予想します。距離をとって、アルヴォで銃撃戦を仕掛けましょう」

《了、解だッ!》

 

 イオンのサポートに従い、慧はやや強引に、ユキを振り払うように、レーザーソードを一閃する。

 

「っと!」

 

 質量ゆえの火力を警戒してか、ユキと悠一が飛び退いたその瞬間。イオンと慧はリアユニットを吹かし、大きく距離を取る。

 

《悪いな! そっちの得意分野に付き合ってやれるほど、こっちはタフじゃないんだ!》

 

 低空を滑るように飛行しつつ、いくらかLPを損失したレーザーソードを納刀。

 代わりに、リアユニットにマウントしてあったもう一つの武器――二丁の〈アルヴォPDW11〉を抜き、ユキ目掛けて弾丸の雨を見舞った。

 

 飛来する弾丸の嵐に見舞われ、ユキは思わずといった様子のまま、複腕で防御の構えを作る。

 飛行能力で背後を取るようにして、旋回と共に断続的にアルヴォによる射撃を浴びせかけていると――

 

《ッ……だったらァ!!》

 

 痺れを切らしたように悠一が吼え、ユキが複腕を地面に叩きつけた。

 

 膂力に任せた一撃が、盛大な土煙を巻き上げたことで、一瞬だがユキの姿を見失う。

 マズい、と口に出すよりも早く耳に届く、「上です!」というイオンの声。つられて顔を上げれば、イオンの頭上に躍り出ていたユキが、両の複腕に備わったマニュピレータを大きく開いたまま、こちら目掛けて急降下してきていた。

 

《っ、ぐ――!?》

 

 回避しそびれたイオンの身体が、ユキの複腕に捕えられる。

 膂力に劣るイオンに、強靭な複腕を振り解けるほどの力はない。嫌な悲鳴すら聞こえてきそうなほどの力で締め付けられたイオンは、そのまま落下の勢いを乗せて地面へと叩きつけられた。

 

《がッ……!!》

 

 同期の影響か、自分の身体が攻撃に晒されたような強烈な感覚を味わって、慧が痛みに喘ぐ。

 そこへすかさず、再び振り上げられた複腕の拳が降り注ぐ――その寸前、スラスターを最大出力で吹かし、地面に体を擦り付けながら離脱。数瞬遅れて、無骨な鉄拳がひび割れた石畳を粉微塵に破砕した。

 

「――やるね!」

 

 イオンを仕留め損なったユキは、しかしその口元に獰猛な笑みを浮かべる。

 対するイオンは、手痛いダメージと不利な趨勢に、唇を固く引き結んでいた。

 

「……すみません、マスター。私の判断ミスです」

《気に病まなくて良いよ。あの奇襲に反応できなかった俺も悪いからさ。……とはいえ、アルヴォの射程だと引き打ちしようにも射程が足りないな》

「はい。現状の装備を考えると、むしろインファイトでの銃撃が最適かと」

《だな。……よし、懐に飛び込むぞ。まずはリアユニットを強制除装(パージ)させて、相手の手数を封じよう》

「はい!」

 

 戦術の方針を固めて、慧とイオンは再びリアユニットのスラスターを点火。

 今度は、ユキめがけてぶつからんばかりの勢いで突撃をかけた。

 

《オレたちにあえて接近戦かまして来るか!》

「その意気や良し!!」

 

 真っ向からぶつかり合えるのが嬉しいのか、ユキが鬼気迫る笑顔でコート&コーシカを構える。

 

 数泊を置いて、ガヅン!! という重い衝突音がこだまする。

 懐まで肉薄したイオンを、リアユニットの翼を複腕で鷲掴みする形で、ユキが受け止めていた。

 

「つっかまーえた!」

「こちらも、捉えましたよ」

 

 コート&コーシカを振るおうとしたユキが、イオンの言葉に怪訝な顔をした直後、断続的に走った衝撃に身体を揺らす。

 掴まれたのは背中の翼だったため、イオンの両腕はフリーだった。その隙をついて、ユキが双剣を振るうより早く、両手のアルヴォを至近距離で斉射したのだ。

 狙い撃ったのは勿論、ユキの背から伸びる複腕を支えるアーム部分。部品同士の結合部という、攻撃を受ければ致命的な部分にダメージを負ったせいか、一際強くスパークが起きる。直後、強制除装(パージ)の判定を受けたアーム部分が一人でにばらけ、支えを失ったユキの複腕の片一方が、重い音と共にひび割れた石畳の上に転がった。

 

《マジかッ……?!》

 

 驚愕した様子の悠一の声を尻目に、もう片方の複腕も落とすために銃口を向ける。

 が、流石にそのまましてやられる悠一とユキではない。突きつけたアルヴォの横合いから飛来した複腕の鉄拳が、アルヴォの銃身を盛大にひん曲げたかと思うと、イオンの手元から吹き飛んで行った。

 

《だったら!》

 

 負けじともう一丁のアルヴォで銃弾を叩き込むが、放たれた弾丸は複腕の厚い装甲に阻まれる。

 

「おりゃああぁぁ!!」

 

 吼えるユキの声と共に、再び鉄拳が飛来。

 呻く間も無く、状態をひねることで回避するが、イオンの胸ぐらを逸れた鉄拳は背中の翼に突き刺さる。強制除装判定により片翼が吹き飛び、相当数のLPが削りとられた。

 

『まだッ!!』

 

 負けじと叫ぶ慧とイオンの声が、重なり合って響く。

 アルヴォの片割れを失って空いた手が、リアユニットに吊るされていたもう一つの武器――LS9レーザーソードを抜刀。抜き放った勢いのまま振り下ろせば、残光を中空に刻む紅い刃が、ユキが手に持っていた双剣の片方を、刀身半ばから切り飛ばした。

 

《んなろォ!!》

 

 使い物にならなくなった双剣の片割れを投げ捨てたユキが、その細腕を突き出し、イオンの胸元で掌底を炸裂させる。

 

『ぐッ……!』

「はああぁぁッ!!」

 

 呻く慧たちに向けて、残った双剣の片割れが振るわれる。

 ザンッ! という快音を響かせた斬撃は、咄嗟に構えたアルヴォを両断した。

 

《貰ったァ!!》

 

 続けて飛来する、拳を使った複腕による、鋭いアッパーカット。

 

《っ、が……!》

 

 鳩尾にあたる部分に突き刺さる一撃は、イオンのみならず、同調する慧の意識すら揺らす。その場にがくりとくずおれるイオンに向け、複腕を振りかぶったユキは、獣じみた獰猛な笑みを浮かべていた。

 

《コイツで――終わりだ!!》

「良い勝負だったよ、二人とも!」

 

 そうして、イオンめがけて叩き込まれれようとする複腕。

 先ほどまでとは違う、鈍い金属光沢が煌めくのを見た慧は――

 

 

 

《う、お、おおぉぉぉ!!!》

 

 渾身の力を以て、ダメージののしかかる身体を動かす。

 

 

 

 

 

 ――直後。

 レーザーソードの刀身でかちあげられた、イオンから逸れた複腕の先。

 

 そこから飛び出した一条の「弾丸」が、虚空を音高く切り裂いていった。

 

 

《――な、にィ!!?》

 

 驚愕の顔を見せるユキの背から伸びる複腕、その手の内に、いつの間にか巨大な拳銃(ジーラウルズイフ)が握られている。

 傍目に見ても破壊力のありそうな大型拳銃の砲口からは、射撃を行った証である白煙がたなびいていた。

 

《射撃、兵装……!》

「どうやら、奥の手として隠していたようですね。――ですが!」

 

 イオンの言葉に同調するかのように振るわれたレーザーソードが、跳ね上がったユキの複腕を、手首から切り飛ばす。そこに握られていた大型拳銃もまた、斬撃の勢いで吹き飛んでいた。

 

『くっ……!!』

 

 悠一とユキの、歯噛みするような声が、重なり合って響く。

 しかしその直後、ユキはリアユニットのスラスターを吹かす。複腕の膂力を失ったユキだったが、その突進はイオンの身体を強かに吹き飛ばした。

 

『まだ、だああぁぁぁ!!!』

 

 咆哮の二重奏がこだまさせるユキが、掌中に残された刀の切先を眼前に向け、イオンめがけて突撃してくる。

 

 強烈な推力による、必殺の刺突。まともに受ければ、致命打は免れない、が――

 

『はああぁぁぁッ!!!』

 

 その刃が届くよりも早く、イオンのレーザーソードが、ユキの刀の切先を音高く叩き切る。

 身の丈を超える大剣のリーチを活かしての、武装破壊。ユキの手札は、これで全て失われた。

 

「――マスター!」

《あぁ!!》

 

 相棒の呼びかけに短く答え、慧はイオンと共に、上空へと跳躍し――

 

 

 

 

 大上段からの縦一文字斬りが、仮想の戦場を揺るがした。

 

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