いつか伝えるその日まで   作:もけぴ。

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ぼっち・ざ・ろっく!めちゃくちゃ面白いですよね……
本当は他の作者の方々が恵んでくださる小説を読んで一生ニヤニヤしてようと思ってたんですが、気づいたらなんか書いてました。
初投稿(ガチ)ですし、拙作の極みですがよろしければどうぞ……


バカとザケルと征服王

 初めて彼女にあった時のことは、今でも覚えている。

 父親に連れられてお隣さんへの挨拶にと向かった時のことだ。

 母親を亡くした悲しみを引き摺ったままの幼い僕は、こちらに優しく微笑んで接してくれている美智代さんと直樹さんにろくに挨拶を返せず、ただ俯いていた。

 そんな状態のまま叔父と彼らの会話を聞いていると、前のドアの陰から覗き込んでいる誰かの足が見えた。

 気になった僕はそこで初めて顔を上げて――――

 

 

 

 ――――体に電撃が走ったかのような感覚を覚えた(恋に落ちる音がした)

 

 

 

 

 こちらを覗いていたのは僕と年の変わらないような、一人の女の子だった。

 目を引く桃色の髪に、空色の瞳。こちらを覗く顔には少しばかりの不安が浮かんでいて、僕がじっと見つめていることに気づくとサッと身を引いてしまった。

 普段であれば、怖がらせてしまったのかな。と落ち込んでしまうような展開だったけれど、当時の僕は彼女が身を隠したドアを、馬鹿みたいに呆けて見ていた。引き摺っていた悲しみが一時的に頭の中から消えていることに気が付かない程に。

 

「……えぇ。事情は分かったわ。私たちも微力ながら手助けさせてもらうから、何かあったら言って頂戴ね」

 

 

「……ありがとう。それとごめん。迷惑をかけることになると思うから、俺も何か返せることがあったら――――」

 

 

「気にしなくていいよ空さん! 困ったときはお互い様じゃないか。それに昔、色々と相談に乗ってもらっただろう? だから少しでも恩返しさせてほしいんだ」

 

 

「……直樹さん。っ、ありがとう……!」

 

 

 父の涙ぐむ声で気を取り戻した僕は、長い間呆けていたことへの恥ずかしさと申し訳なさで、再び目線を下に落としてしまった。

 

 

「そうだわ!せっかくこれからお付き合いしていくんだもの、ぜひうちの子と仲良くしていってほしいわ~。――ひとりちゃ~ん!」

 

 

 場の雰囲気を一転させようと手を叩いて、美智代さんはその名前を呼んだ。

 

 

「あっ、えっと……」

 

 

 そうしてドアの向こうからおずおずと出てきたのは、先ほどこちらを覗いていた少女であり、

 

 

「ごっ、後藤、ひとりです……ょろしくおねがぃします……」

 

 

 ――――僕の、一目惚れした少女だった。

 

 

 これは後で知ったことだけど、子曰く、恋はいつでもハリケーンらしい。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

「……ん」

 

 

 問答無用でこちらの意識を覚醒させる目覚まし時計を止めて、目を開いた。

 時刻は朝の六時ピッタリ。

 未だ布団の温もりを求める体に鞭を打って、朝食を作りに一階へと足を進めた。

 

 

 いつも通りに目玉焼きとウィンナーを焼いて皿に盛りつけ、トーストを添える。

 手慣れた作業を終えると、後ろの扉が開く音がした。

 

 

「――おはよ~……」

 

 

「おはよう。朝ご飯出来てるから、諸々済ませてきて」

 

 

 扉を開いて出てきたのはもうすぐ四十代を控えた父親だ。だが体はいたって健康そのもので、会社でもよく二十代に見間違われるのだと、度々自慢げに話している。……自慢したいのは分かるけれど、三日に一度の頻度で夕食時にそのことを話し始めるのは勘弁してほしい。

 見た目は若々しくても、中身は着実に中年へと変質してしまうんだなと、聞くたびに思い知らされるのだ。

 でも僕にも将来子供が出来たら、似たような状況に陥るのだろうか……?

 

 

『パパはなぁ~、会社では二十代によく見間違われるんだぞ~? 今日だって新人の子に……』

 

 

『パパその話何回目?見た目は若くても中身は自慢したがりな中年じゃん! あと臭い』

 

 

 

 アッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(絶命)

 

 

 

 即死攻撃が過ぎる……! 特に最後の「臭い」のダメージ量が尋常じゃない。

 間違ってもこれは言っちゃだめだし、言われないようにしないと……

 父はいつも頑張って男手ひとつで育ててくれてるし、傷つけるようなことを言うつもりはないけども。

 

 

「……ん? どうした人の顔をじっと見て。二十代でも付いてたか?」

 

 

「付いてない。あぁいや付いてなくはないけど……。いやそもそも二十代が付いてるってどんな状態なの」

 

 

「はっはっは」

 

 

「雑な誤魔化し方だ……」

 

 

 やっぱり少しだけ釘を刺したほうがいいのかもしれない。

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

「はい。お粗末様」

 

 

「今日もありがとう、晴。……やっぱり申し訳ないな、自分の息子に毎朝毎晩ご飯を作ってもらうのは」

 

 

「何度も言ってるけど、好きでやってることだから気にしなくていいって。誰かに料理を振る舞うのは好きだし、最早趣味の一つみたいなもんだよ」

 

 

「そうは言ってもなぁ……俺だって息子には料理を振る舞ってやりたいよ」

 

 

「……そう言ってくれるのは嬉しいけど。出来る限りお父さんには厨房に立たないでほしい。もう暗黒物質を口に入れたくはない」

 

 

「うっ、その節はすいません……」

 

 

 あれは酷かった。

 偶々学校から帰るのが遅くなった日に、早くに帰宅していた父親が目玉焼きを焼いていてくれたことがあったのだ。

 エプロン姿で出迎えられたことも驚いたし、僕のために料理を作ってくれたことにも驚いた。

 それでも驚いたのはほんの一瞬で、すぐに嬉しさが湧いて来た。

 そんな面持ちと軽い足取りで向かったテーブルに置かれていたのは――――

 

 

 

 

 ――――黒く蠢く目玉焼きのようなナニカ(見せられないよ!)だった。

 

 

 

 

 あの時ほど一瞬で顔が引き攣ったことはない。

 白鳥かと思ったら白鷺だった。なんてレベルではない。

 ただ絶望だけが、そこにはあった。

 

 

 ……口にした後のことはあまりよく覚えていない。

 ただ父親が言うには、口に含んだ瞬間に白目を剥いて倒れたそうだ。

 そして大慌てで心臓マッサージを行い、息を吹き返したとか。

 もしかしなくとも召されかけていた。

 死因が目玉焼きとかあまりにも嫌すぎる。

 

 

 謝り倒す父親を尻目に、家族内(二人)の厨房ヒエラルキーが決定した瞬間だった。

 

 

 ……なんてことがあったから、厨房には基本的に僕が立つようにしている。

 僕の父親が厨房に立つことになるのは、恐らく地球外生命体が侵略してきた時ぐらいだろう。

 国を守るエキスパートの皆さん、逸材がここにいます。どうにかしてこの力を発揮させてあげられませんか。

 

 

「そういえば! 晴も今日から中学生になるのか~。早いもんだなぁ」

 

 

「そうだね。あっという間だったな……」

 

 

 強引な話題転換で思い出したが、僕は今日から中学生になる。

 こっちの家に戻ってきたのがもう四年以上前なのだから、時の流れとは速いなとしみじみ思う。

 

 

「新しい学校生活は不安?」

 

 

「別に普通かな」

 

 

「……友達出来るといいね」

 

 

「うっ」

 

 

 その話をされると耳が痛い。

 僕は幼馴染みの少女ほどではなくとも、誰かと積極的に絡みに行くような性格ではない。

 会話そのものや、目を合わせることが苦手というわけではないが、受け身な姿勢のせいで気がつくと一人になっているタイプなのだ。

 そのため学校で話せるのはいつも先生と幼馴染み一人だけだった。

 

 

「うん、まぁ、善処はします……」

 

 

「大丈夫かなぁ……」

 

 

 大丈夫大丈夫! 今回こそ誰かしら話しかけてくれるはずだから! ……多分、maybe、きっと。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「それじゃ、行ってきます」

 

 

「行ってらっしゃい。ひとりちゃんと同じクラスだといいね」

 

 

「……うん。そうだといいな」

 

 

 そんなやり取りをして外に出る。

 前までは真冬の気候で、こたつが無いと生きていけないような体に変化することを強いられていたというのに、今ではすっかり春の陽気が身を包んでいた。

 体は暖かな気候に歓喜し、すでに適応を始めていた。

 やっぱり仄かに暖かい春が一番好きだ。

 

 

「っと、行かなくちゃ」

 

 

 呆けている場合ではない。

 こうしている間にも我が幼馴染み様が待っているかもしれないのだ。

 

 

 小走りで進むこと約十秒、目的地である彼女の家の前に着いた。

 玄関前のインターホンを押して待つこと数秒、扉が開いた。

 

 

「あら~、おはようはるくん。ひとりちゃんを迎えに来てくれたのねぇ」

 

 

「はい。……あっ、今日から中学生になりますけど、これからもよろしくお願いします」

 

 

「うふふ、ご丁寧にありがとうねぇ」

 

 

 そういってこちらに微笑みかける美智代さん。

 ……毎度思うけど、この人も大概若々しいんだよね。

 うちの父親とそこまで年は離れてないはずなんだけど、どうなってるんだ……?

 

 

「ごめんね、もう少しでひとりちゃんの身支度も終わると思うんだけど……」

 

 

 内心で密かに戦慄していたが、美智代さんの声で現実に引き戻された。

 

 

「全然大丈夫です。僕も少し早く来ちゃったかなと思うので……」

 

 

 そう言っていると、何やらドタドタと音が聞こえてきた。

 

 

「あら、来たみたいね。それじゃあはるくん、あの子をお願いね」

 

 

「はい。任されました」

 

 

 といっても僕がしてあげられることなんて一緒に登校したり、勉強を教えたり、二人組を作ることになった際に、可能な限りペアになってお互いへの精神的ダメージを減らすことくらいだ。

 最後はともかく、他のことは周りでもやってる人は多いし大したことでもないんだよね……

 

 

 なんてことを考えていると、美智代さんと入れ替わって彼女が出てきた。

 

 

「あっ、ぉ、おはよぅ、はるくん」

 

 

 はい、今日も存在してくれてありがとう。

 

 

 目の前にいる制服に身を包んだ少女こそ、僕の幼馴染みにして一目惚れした少女、後藤ひとりである。

 世界で一番可愛いのはこの女~~~~~!

 生きててくれてありがとう。本当に偉い。

 いや制服っ!!!!!! あまりにも似合い過ぎている……!

 学校指定のこの制服は、今日この日のために生まれてきたのかもしれない。

 ありがとう、この制服をデザインしてくださった人。御礼に靴をお舐めします。

 

 

 あぁ、それよりどうしよう! こういう時って似合ってるねって褒めたほうがいいんだよね……?

 変に遠回しに言わずに、ストレートに……

 落ち着けば、落ち着けば大丈夫……。今はただ、少し気分が昂ってるだけだから……。

 

 

 ……よし!

 

 

「おはよう、ひとりちゃん。………………その、せ、…………せい、せいふ…………………………………………――――征服王イスカンダル」

 

 

「えっ? ぇ、えっと、いす……?」

 

 

「征服王イスカンダルって知ってる?」

 

 

「ぁ、えと、知らない、かな……」

 

 

「なんでも大昔の時代の大英雄なんだって。かっこいいね」

 

 

「そ、そうなんだ」

 

 

「うん。…………そろそろ行こっか」

 

 

「あ、う、うん」

 

 

 おい、日和るな臆病者

 この学校生活は早くも終了ですね

 

 

 

 

 

 

 




雨野晴:本作の主人公。ぼっちちゃんと出会った瞬間、恋に落ちた。所謂一目惚れ。
ぼっちちゃんが絡むと稀に情緒がバグるだけで、基本的には心優しきくせ毛。
この世界に存在する諺や名言は全て老子が生み出したと思っている。
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