いつか伝えるその日まで   作:もけぴ。

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続きました。インスピレーションとモチベがあるうちに出来る限り書いていきたいなと思います。ほほほ……
あと、中学生時代をメインに書いていくので原作開始前のタグを付けました。
髪が短い時のぼっちちゃんも最高ですよね!


奴は四天王の中でも最弱……

 僕が突然征服王について口走ったこと以外は特に何事もなく、これから通う事となる「横浜市立西凛中学校」へとたどり着いた。

 目前には既に人だかりが出来ている。

 十中八九クラス分けの確認だろう。入学式や新学期の時にのみ起こる一大イベントなのだから、盛り上がるのもやむなし。

 周りからは「またお前と同じクラスかよー」「うわー! 私だけクラス違うんだけど!」などといった活気に満ちた声が聞こえてくる。

 恐らくこの場にいる大半が、中学校生活の幕開けに心が浮き立っているのだろう。

 

 

 ここまで考えて、ふと隣に居るはずの少女が何の反応も示していないことに気づいた。

 

 

「ひとりちゃ――――」

 

 

 

 

 ――――横に顔を向けると、そこには溶けて頭身が物理的に低くなった幼馴染みの姿があった。

 

 

 

 

 

 まずい……! 四方八方に充満している活力のせいで、いつもの姿が維持できなくなっている……!

 日陰地帯が生息地である彼女にとってこの状況は、四面楚歌以外のなにものでもないだろう。

 このままでは入学式前に学校のシミになって終わりという、ノベルゲームのBAD ENDみたいな最期を迎えてしまう。

 なんとかして安全地帯に向かわなければ……!

 

 

「ひとりちゃん! あっち! あっちに行こう! 安全地帯だから! だから目閉じないで! ちょ……持ちこたえてくださいお願いします!!」

 

 

 僕は溶けかけの幼馴染みを抱えて、人気のない場所まで走った。

 傍から見るとピンク色のクソデカスライム(一目惚れした女の子)を両手いっぱいに抱えて走っているという非常に奇抜な様だが、なりふり構っていられるものか。

 今はただこの子を助けないと――――!

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「どう? 落ち着いた?」

 

 

「あっ、う、うん。……ごめん、はるくん」

 

 

「大丈夫だよ。僕ももう少し遅い時間に登校するなり配慮すればよかった」

 

 

 彼女がこうなることは想像がついたはずなのに、早く制服姿が見たいという僕のエゴのせいでこの事態を招いてしまった。

 ……次はこういったことを起こさないよう、気をつけないと。

 

 

「……だいぶ人が少なくなってきたね。僕たちも見に行こっか、クラス分け」

 

 

「あっ、うん」

 

 

 二人並んで、クラス分けの張り紙がされている場所へ向かう。

 先ほどまでの喧騒は鳴りを潜め、残ったか、あるいは後から来た少数の同級生が自分の所属するクラスを確認して教室に向かっていた。

 

 

 雨野、雨野……あった! 一年B組か。そして出席番号は……一番。

 まぁ、あいうえお順だから番号は必然的に早くなるよね。

 でも一番になるのは久しぶりかも。微妙に二番だったり三番だったりしたから、なんだかちょっとだけ嬉しい。

 僕もまだまだ子供だなぁ。

 

 

 ……さて、一番大事なことを聞かないと。

 

 

「僕はB組だっただけど、ひとりちゃんのクラスはどこだった?」

 

 

「び、B組だった……! よかった……は、はるくんがいなかったら私、どうしようかと……」

 

 

「えっ!? 同じクラス!? やった!!」

 

 

 えっ!? 同じクラス!? やった!!

 

 

 

 

 ……あ

 

 

 

 

 

「ごめん、急に大きな声だしちゃって……」

 

 

「あっ、ううん、大丈夫……」

 

 

 ……朝っぱらから僕の心を乱す出来事が多いせいか、つい心が体を追い越してしまった。

 ふぅー……、冷静に、冷静にいこう。

 子曰く、「幼馴染みの前では常に冷静で、かつ知的であるべし」らしい。

 

 

 よし、落ち着いた。

 困ったときにはやっぱり老子の名言を思い出すに限る。

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「はい、皆さんこんにちは。今日から一年間あなた達の担任として過ごさせていただく、佐々木尚文(ささきなおふみ)です。よろしくお願いしますね」

 

 

 あれから入学式は恒例行事である校長先生の長いお話や新入生の担任発表などを以って終了した。

 中年が近づくと年を気にしだすように、校長になると話が長くなるように出来ているのかもしれない。

 もしかして年齢や職種毎に固定デバフが存在している……?

 

 

 そして僕たち1ーBの担任の先生だけど、なんだかちょっと、目が死んでる。

 黒縁メガネが知的な感じを助長しているし、スーツもこれでもかってほど着こなしている。

 ……けれどどうしてだろう。暗い瞳も相まって全体的に疲労感が漂っている。

 

 

「入学初日ということもあり、今すぐにでも自己紹介がしたいという方もいらっしゃるでしょうが、各々の自己紹介はまた後日行います。ですので今日は……そうですね、何か私に質問がある方はいますか」

 

 

「はいはい! 先生彼女いますか~?」

 

 

 でた……! 新しい担任の先生に初手彼女、あるいは彼氏の有無を聞きに行く恐れ知らずの切り込み隊長……!

 いつまで経っても消えることはないんだろうなぁ……。消えては現れ消えては現れ……

 こうして歴史は繰り返してきたんだろう。

 その勇気は賞賛に値するけど、今回は相手が相手なだけに蛮勇でしかないだろう。

 あと初対面でいきなりそんなことを聞くのは普通に失礼だと思うんだ。

 

 

「いますよ、アメリカに金髪でスタイル抜群の彼女が。来年には婚約する予定です。子供は二人ほしいですね」

 

 

「絶対嘘だ……」

 

 

 絶対嘘だ……

 まさか生真面目な苦労人感のある先生の口から、金髪でスタイル抜群なんて言葉が飛び出てくるとは思わなかった。

 もしやこの先生、ノリがいいタイプの先生では……?

 

 

「他に質問はありますか? ……ないようですね。ではこの話はここまでにして、明日以降の予定について話していきます。まず明日の予定ですが、配布されたプリントにも記載されているように――――」

 

 

 その後は先生から予定の説明を受けて終わった。

 初日ということもあって、なんだか時間が進むのが早く感じた気がする。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「お疲れ様。あっという間だったね……、先生も良さそうな人でよかった」

 

 

「う、うん。……でも、誰とも話せなかった……」

 

 

「それは僕も同じだよ……。ま、まぁ? 学校生活はまだ始まったばかりだしね? 自己紹介を済ませたら興味を持たれて話しかけられるかもしれないから……そうすれば自然と友達が増えるはず」

 

 

「そ、そうだよね! まだ始まったばかり……まだ始まったばかり……」

 

 

 呪詛のように呟くひとりちゃんを尻目に、帰り道を歩く。

 そうだよ、まだ戦いは始まったばかりなんだ。

 大切なのは入学式当日を含めた始まりの四日間。

 この間にコミュニティを形成できなければ、灰色の学校生活に身を置くこととなる可能性が高い。

 だがしかし、言い換えればこの間に大小問わずコミュニティを形成することができれば、薔薇色の学校生活を送れる可能性が高いということ。

 

 

 そして僕たちにはまだ三日間も猶予が残されている。

 入学式など言ってしまえば前座のようなもの。

 フフフ、奴は四天王の中でも最弱……

 

 

 僕たちの戦いは、始まったばかりだ!!

 

 

 ★ ★ ★

 

 

「はい、連絡事項は以上です。今日も一日お疲れ様でした。それでは皆さん、さようなら」

 

 

「「「「さようなら~」」」」

 

 

 おかしい。

 スタンド攻撃でも受けていたのか……?

 気が付くと始まりの四日間が終わりを迎えていた。

 どこだ……どこで間違えた……?

 話しかけてもらえるように『漫画で分かる老子』を読みながら一人ソワソワしていたのは悪手だった……?

 

 

 こ、このままでは灰色の学校生活に……!

 

 

 いや、

 

 

 待てよ?

 

 

 ひとりちゃんと同じクラスな時点で灰色も何も、桃色確定では?

 

 

 ……ふっ、どうやら僕は戦わずして勝利したらしい。

 なんで負けたか、明日まで考えといてください。

 

 

「お疲れ様。そろそろ帰ろっか」

 

 

「……うん」

 

 

 机に突っ伏していた一人ちゃんを起こして、帰路に就く。

 ……様子から察するに、彼女は敗北してしまったらしい。

 大丈夫だろうか……?

 

 

「もう四日も経ったなんて、早いね」

 

 

「うん」

 

 

「先生はやっぱりいい人だったし、クラスの雰囲気も悪くなさそうだよね」

 

 

「うん」

 

 

「そろそろ部活動とかも決めることになるだろうし、どんな部活があるのかチェックしておかないとなぁ」

 

 

「うん」

 

 

「……ひとりちゃん?」

 

 

「うん」

 

 

「……マリルリに強いポケモンは?」

 

 

「さざんどら」

 

 

「ひとりちゃん……!」

 

 

 全然大丈夫じゃなかった! はらだいこ後のじゃれつくを喰らったような顔になってる……!

 

 

「だ、大丈夫だって! 僕が言えたことじゃないかもしれないけど、友達なんてふとしたことが理由で出来るものだから!」

 

 

「……でも」

 

 

「なにかきっかけがあればいいのかも……。あっそれ私も興味あるよ~ってなるようなきっかけが」

 

 

「きっかけ……」

 

 

「うん。……といっても僕にはあまり思いつかないけど」

 

 

 僕の『漫画で分かる老子』で興味を持たれようとする作戦が成功していれば、彼女にも同じものを渡して友達を作ることもできたかもしれないけど、残念ながらこの作戦は意味をなさなかった。

 ……いけると思ったんだけどなぁ。

 

 

「……あっ」

 

 

「家に着いちゃったね……」

 

 

 そんなこんなでいるうちに家の前にまで来てしまった。

 結局僕は少しでも彼女の助けになれたんだろうか。

 

 

「あっ、は、はるくん」

 

 

「ん?」

 

 

「私、なにかないか、探してみるね……!」

 

 

「……! うん。見つかるといいね」

 

 

 そういうと彼女は、少しだけ微笑んで自宅へと入っていった。

 ……僕も帰らなくちゃ。

 

 

 そうして僕はすぐ隣にある我が家へと足を進めた。

 一人の少女にきっかけが見つかることを祈って。

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 翌日、土曜日ということもあり家にある溜まっていた小説を消化していたら父に呼ばれた。

 なにかあったのかと思い向かうと、そこには受話器を片手にこちらを手招きする父の姿が。

 なんでもひとりちゃんが僕に用があるとのことだった。

 どうかしたのかと思いながら電話を替わり、話に耳を傾けた。

 

 

「……それでギターを始めたと」

 

 

『う、うん』

 

 

 どうやらあの後、テレビであるバンドマンが自分も昔は暗かったが、バンドを始めてから変わったという話をしているのを見てビビっと来るものがあったようで、直樹さんからギターを借りて練習し始めたらしい。

 意外な選択だったけど、彼女がギターを持っている様を想像するとなんだか妙にしっくりきて、あぁ、確かにいいかも。なんて思った。

 

 

「いいんじゃないかな! ギターが弾けるなんてカッコいいし、興味がある人は絶対に話しかけてくれるようなものだと思う」

 

 

『だ、だよね!……ふへっ、い、いつかは文化祭で披露して皆からチヤホヤされて……』

 

 

 だいぶ話が飛躍しているが、やる気があるのはいいことだ。

 彼女は勉強や運動が得意というわけではないが、しっかりと努力して諦めることはなかった。

 そんな努力家な彼女のことだから、きっとギターも三日坊主になることはないだろう。

 もしかしたらとんでもないギターの才能が眠っている、なんてこともあるかもしれない。

 だが……

 

 

「でも、学校ではどうするの? 文化祭の時ならまだしも、普段からギターを学校に持っていくことは難しいよね」

 

 

 そう、問題はそこだ。

 いい案が浮かんだのはよかったが、それを活かすことが出来る機会が少なすぎる。

 

 

『あっ、そっ、それなら考えがあるから大丈夫……』

 

 

「そうなの?」

 

 

『う、うん。……えっとね、ギターを持っていくのは難しいし、もし持って行けてもまだ全然弾けないから、バンドグッズを持っていったり、CDを机の上に置いてアピールしようかなって……。ど、どうかな……?』

 

 

「それは……」

 

 

 だいぶ攻めてるような……

 いやでも、興味を持たれるにはこれくらい攻めた方がいいのか……?

 僕が誰にも話しかけられなかったのは老子のグッズを持って行ったり、老子のCDを机の上に置いてアピールしなかったからだった……?

 考えていたらなんだかそんな気がしてきた。

 

 

「……いいと思う! それだけ熱烈なら興味を持って話しかけてくれる人も出てくるかもしれない!」

 

 

『……! よ、よし……! なんだかいける気がしてきた……!』

 

 

 ……でもやっぱり、かなりの博打な気がする。

 とはいえ猶予期間を過ぎた僕たちは賭けるしかない。

 失敗したら……それは背中を押した僕の責任だ。

 もしもの時は責任を取って、彼女に友達が出来るように全力でサポートしよう。

 僕の友達など二の次だ。

 

 

『あ、ありがとう、はるくん。話聞いてくれて』

 

 

「これくらいいいって。そもそもきっかけ云々を言い出したのは僕なんだから、話を聞くのは当然だよ」

 

 

『ふへっ、あ、ありがとう』

 

 

 言い出しっぺが何もしないのは良くない。

 それに僕の提案が少しでも彼女のためになってくれるのなら、そんなに嬉しいことはない。

 

 

 ……それにしてもギター、か。

 

 

「――――ひとりちゃん」

 

 

『あ、な、なに?』

 

 

「もしギターの練習を続けて上手くなったらさ、聴かせてもらうことってできるかな? ………………出来れば、その、一番最初に」

 

 

『……! う、うん。頑張って練習して、上手くなるから、その…………待ってて』

 

 

「――――うん、待ってる」

 

 

 あぁ、今から楽しみでならない。

 彼女がギターを掻き鳴らしている姿が。

 

 

 きっと僕はその姿を見て――――

 

 

 

 

 

 ――――また、一目惚れするんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 




自分から話しかけるという選択肢が初めから消滅している二人。

そして最後は日和らずに言えてよかったね、晴君。

じゃ、背中を押した責任を取ろうか
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