喧嘩師《セイント》カシオス   作:ソロモンは燃えている

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タナトスについてオリジナル設定が出てきます。
星矢の2流の神発言から浮かびました。


VS死神

 

 

 

 聖戦においてハーデスがカシオスに敗れてからしばらく後のこと。

 グレートエクリプスが解除された事で人の世は変わらずに存続している。

 街を行き交う人々は、今日も日常を謳歌していた。

 聖闘士達が命懸けで戦い守り抜いた事も知らず、この世界がこれからも変わらず続くと信じている。

 人々が世界の危機を知る事はこれからもないだろう。

 聖闘士は、これからも人知れず戦っていく。

 人々から感謝されるために戦っているのではないのだから。

 

 

 そんな日常の風景に明らかに異質な存在が入り込んでいる。

 道を行き交う人々の中をぼろぼろのローブを纏う者が歩いていた。

 顔も体格もローブの奥に隠されて男か女かも判別できない。

 何よりその人物を異質足らしめているのは、巨大な鎌を肩に担いでいることだった。

 そんな不審な人物が堂々と道を歩いているのに周りの人々は何の反応も示していない。

 まるでその人物が存在していないかのようだった。

 そんなローブ姿の人物が信号待ちをしている中年男性の後ろで立ち止まる。

 男と同じように信号待ちをしているのではない。

 ローブ姿の人物は、その手の大鎌を目の前の男性の首に当てがう。

 街中で人の首に刃物が当てがわれているのに周囲の人々は相変わらず反応を示さない。

 そして、その大鎌は何の抵抗もなく引かれた。

 その男の頭が切り落とされて地面に転がることはなかった。

 男に外傷はない。

 にも関わらず、突然倒れて動かなくなってしまった。

 周囲の人々も、ようやく異変に気付く。

 

「なんだ!急に倒れたぞ!」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「おい!この人、息してない!」

 

「なんだって、急いで救急車を呼ぶんだ」

 

 そんな騒ぎを見下ろすローブ姿の人物の手には大鎌で刈り取られた男の魂が握られていた。

 その姿、所業、そして誰にも認識されない異常性が、その存在が命を刈り取る死神であると示していた。

 

「罪で穢れた魂が増えてきている。

 ハーデスが人間を滅ぼそうとしたのも無理はない」

 

 死神が魂を冥界へと送り、ローブの下から手帳を取り出し、その中に書かれていた名前に横線を入れて消す。

 どうやら先ほど命を刈り取った男の名前が書いてあったようだ。

 

「さて、次の仕事は・・・」

 

 そこで死神の動きが止まる。

 手帳に書かれていた次のターゲットの名前は、カシオスであった。

 

「ほう、これはまた大物だな。

 どうやら天上の神々は、人間が神を下した事がそうとうご立腹と見える」

 

 死神は、その場を後にした。

 次のターゲットの下へ向かうために。

 

 

 

 聖域から程近い場所にカシオスはいた。

 その首には既に死神の鎌が掛かっていた。

 今まさに命が刈り取られようとしているのだ。

 

「悪いな、これも仕事でね。

 恨むなら、神々の不興を買った自分の愚かさにしてくれ」

 

 カシオスに、自分の背後に立ち、その首に刃を当てている存在に気付いている様子はない。

 あのカシオスですら、死神の前ではなす術なく命を刈り取られてしまうのだろうか?

 そして、死神が大鎌を引いた。

 

 

 

 パライストラ新聞部が行うカシオスの取材は聖域の外にまで及んでいた。

 今日はカシオスが産まれたギリシャのある村に訪れていた。

 なんと、あのカシオスの父親に話を聞かせてもらえる事になった。

 

「初めまして、今日はよろしくお願いします」

 

「はい、なんでもカシオスの事を聞きたいって事ですよね?」

 

「そうです、カシオスさんが幼い頃はどんな感じだったんですか?」

 

 そうやって取材を進めていった我々は、ある興味深い話を聞く事に成功した。

 

「産まれたばかりの赤子に指を握らせて、その握る強さでその子の生命力を測るって風習があるんだよ」

 

 それは、今よりもっと子供が大人になるまで成長するのが難しかった時代に生まれた風習なのだろう。

 

「カシオスさんにも握らせたんですか?」

 

「ああ、もちろん」

 

「それで、どうだったんですか?」

 

 新聞部員の問いかけにカシオスの父親は、ドヤ顔で答えた。

 

「あの時、俺は確信した。

 あの子の前じゃ、死神だって裸足で逃げ出すってな」

 

 

 

 それは死神には理解できない状況だった。

 自分は確かに大鎌を引くために力を込めた。

 しかし、大鎌は動かなかった。

 刃は確かにカシオスの首に食い込んでいる。

 だが、そこから先に進むことはなかった。

 

「なっ、馬鹿な!

 なぜ刈り取れない!?」

 

 死神が如何に力を込めようと一向にカシオスの魂を刈り取れないでいた。

 それは、本来ならあり得ない事だった。

 死神の鎌は物理的な刃ではない。

 刃物の形をしているが、その刃に意味などないのだ。

 武器ですらない。

 人の命を刈り取ると言う権能を備えた神器。

 抵抗など感じるはずもないのだ。

 

 カシオスも自分の命を脅かそうとしている存在を感じ取った。

 前世がヤクザであり、今世でも多くの強敵達と拳を交えてきた。

 死の気配など常に感じてきた。

 その感覚が死神の存在を捉えた。

 振り返りざまにその気配に拳を叩きつける。

 ハーデスにすら土を付けた拳が死神を貫く。

 死神は殴り飛ばされ、後方に転がっていった。

 その権能ゆえに存在を感知されなかったのであって、無敵と言うわけではない。

 存在を感知された以上、カシオスの拳が通じない道理はなかった。

 

 

 死神が立ち上がった。

 殴り飛ばされた衝撃で大鎌は飛ばされ、手元から離れている。

 それを死神が気にする事はない。

 元より大鎌は武器ではない。

 その権能が通じない以上、もはや役には立たないのだから。

 

「何とも凄まじい生命力だ。

 まさか死神の鎌で刈り取れない程とは」

 

 殴られた衝撃でローブがずれて顔が見えた。

 その顔は、死神の伝承にあるようなドクロだった。

 いや、ドクロではなく、ドクロを模した仮面だった。

 ローブの下には神衣を纏った姿が隠されていた。

 カシオスに殴られた衝撃によってか、ドクロの仮面がひび割れ砕け散った。

 その下から現れた顔は、ハーデスに仕え、星矢によって討たれた神、タナトスのものだった。

 

「あんたは・・・たしかハーデスのとこで見たな」

 

 その顔はカシオスにも見覚えがあった。

 ハーデスの下へ向かう途中で星矢によって倒された遺体を目にしていたのだ。

 

「ふっ、ハーデスの下にいたタナトスの姿も見ていたか。

 だが、あれは仕事の都合で冥界の神であるハーデスとのパイプを繋げるために派遣していた分霊に過ぎん。

 死を司るだけの2流の神でしかない。

 本来の霊格は、ハーデスにも劣るものではないぞ」

 

「なら、あんたの本当の名は?」

 

「命を刈り取り、冥界へと送る死神『デス』

 人間に対する絶対殺害権を持つ者だ」

 

 タナトス、いや、デスの顔にはカシオス暗殺に失敗した事に対する焦りはない。

 大鎌など所詮は道具に過ぎない。

 カシオスが人間である限り、自らの優位は動かない。

 

「そうかい、あんたは俺に喧嘩を売りにきた。

 そう言う事だな」

 

「やはり、不遜だな。

 天上の神々が許容できぬわけだ」

 

 カシオスが足元から服を掴み、破り脱ぐ。

 本気の姿になり、デスと向かい合う。

 カシオスにもデスが人間を殺す事に特化した神だということは、彼が纏う死の気配から感じ取っている。

 それでも怯むような漢ではない。

 二人の間に空間すら歪んで感じるほど濃密な殺気が渦巻く。

 

 唐突にデスの殺気が消える。

 まるで最初から戦う意思がなかったかのように穏やかな顔をしている。

 そんなデスの様子にカシオスが訝しげな視線を向ける。

 

「止めておこう。

 こんな事に意味などないのだからな」

 

 いっそ優しいとすら言える口調で話す。

 そして世間話でもするかのような調子で続けられた言葉は・・・

 

「さあ、死ぬがいい。

 魂の拘束《コフィンフォビア》!」

 

 死の宣告であった。

 言葉と共にデスのコスモがカシオスを包み込み、その魂を肉体から引き剥がし、閉じ込めてしまう。

 一見すると積尸気冥界波のような技に見える。

 だが、聖闘士の技とは決定的に違う事がある。

 それは、デスが持つ神としての権能だ。

 普通なら相手よりコスモを高めれば耐える事が出来る。

 しかし、デスの技は違う。

 その権能により、どれほどコスモを高めようと強制的に魂を捕らえられてしまうのだ。

 

 カシオスの身体が倒れる。

 肉体から魂が引き摺り出され、デスの作り出した牢獄に入れられてしまった。

 後は、その魂を冥界に送られればカシオスの死が確定してしまう。

 ハーデスにすら打ち克ったカシオスも、デスの前にあっさりと殺されてしまった。

 それも仕方のない事だ。

 カシオスが人間である以上、相性が悪かったとしか言いようがない。

 

「どんな人間も魂の姿になってしまえばかわいいものだな。

 たとえ神を超えるコスモを持とうと私の前では意味がない。

 人間である以上、死からは逃れられないのだから」

 

 普通ならこれで終わりだ。

 だが、カシオスは普通ではなかった。

 かつての世界において、ある科学者が不死の鍵を探るために花山薫の血を求めた。

 それ程に花山薫の不死身性は際立っていたのだ。

 その特性だけなら、あるいは範馬勇次郎を凌駕するかもしれないほどに。

 

 デスがその異常に気付いて驚愕の表情を浮かべる。

 本来、抵抗の術など持たないはずの剥き出しの魂が牢獄の中で暴れているのだ。

 その動きは激しくなるばかりだ。

 この世界の根幹となる力、コスモ。

 そのコスモは、魂の力だ。

 神の権能によって身体から引き摺り出される事には抵抗できない。

 なら、出された後は?

 当然、普通の人間なら抵抗できない。

 だが、カシオスは違っていた。

 その溢れんばかりの命の力が、そして漢としての矜持が諦めることを許さない。

 人間離れした生命力と特異な精神性が何度でも奇跡を起こす。

 魂の牢獄を破壊して肉体への帰還を果たしていた。

 そして立ち上がるカシオス。

 デスの前に立ち、構える。

 まるで喧嘩はこれからだと言うかのように。

 

 

 その姿にデスも構えを取ることで応える。

 カシオスに同じ手は通用しない。

 一度乗り越えた以上、カシオスに死神の権能は働かないのだ。

 ならば、取るべき手段は一つ。

 死の力を込めた拳を直接叩き込み、抗えなくなるまで生命力を弱らせる事だ。

 権能は使えなくなったが死神としての特性がある。

 人間に対する優位性が消える事はない。

 その上でデスの神格はハーデスとほぼ同等。

 人間であるカシオスにとって、デスはハーデス以上に手強い存在なのだ。

 

 

 カシオスが踏み込み、拳を振るう。

 デスが躱し、カウンターを叩き込む。

 カシオスが繰り出す拳が悉く空を切る。

 デスの本質は闘技者ではなく暗殺者に近い。

 カシオスに勝つことではなく、その命を奪うことが目的なのだ。

 正面からの殴り合いに応じるような真似はしない。

 この辺りがハーデスとの一番の違いなのかもしれない。

 

「ふっふっふっ、感じるだろう?

 私の攻撃を受けるたびに命が削られていくのを。

 その恐怖にいつまで平静としていられるかな?」

 

 自分の命が少しずつ削られていく。

 その恐怖は確実に精神を蝕む。

 それは冷静さを奪い、技を荒くする。

 そうなれば回避は容易になり、勝利の天秤を更に傾けていく。

 カシオスの攻撃も荒く大振りになってきている。

 確実に追い詰めている。

 人間は死の恐怖に負けた時、その本質を露わにする。

 この漢はどんな反応を示すのだろうか?

 泣き叫び、赦しをこうだろうか?

 それとも、無様に逃走を試みる?

 諦めて静かに死を受け入れる?

 最後まで死を拒もうと抵抗し続けるだろうか?

 デスの顔に愉悦が浮かぶ。

 

 そんなデスが違和感に気付く。

 確かに攻撃が荒々しく大振りになっている。

 いや、今も荒々しくなり続けている!

 まるで濁流のように全てを飲み込まんと勢いを増しているのだ。

 カシオスは、聖闘士のように技で戦うタイプではない。

 言わば最強の素人だ。

 攻撃が当たらないなら、当たるまで拳をぶん回す。

 死への恐怖も焦りも存在しない。

 カシオスの拳がデスを捉えた時、ようやくデスは理解した。

 これがカシオスと言う漢なのだと。

 

 

「ぐぅ、なるほど、ハーデスが変わるのも無理はない。

 だが、俺はプロフェッショナル。

 これは勝負じゃない」

 

「命のやり取りだろう?

 何も変わらねえ。

 喧嘩も殺し合いもな」

 

 カシオスの言葉にデスは思い違いをしていたと認めざるを得なかった。

 この漢は、単なる喧嘩自慢ではない。

 あるいは自分以上に命のやり取りをドライな目で見ている。

 死を特別なものだと思ってないのだ。

 

「そうだな。

 確かに変わらない。

 俺のすべき事もな!」

 

 そして、再び闘いが始まる。

 デスの行動は変わらない。

 カシオスの攻撃を躱して、死の力を叩き込む。

 時折り、躱しきれない攻撃を受ける事はあれど冷静に感情の篭らない作業のように死の力を積み上げる。

 一つ積み上げるたびに確実に死へと近づいているのだから。

 だが、そんなデスの精神も限界に近づいて来ていた。

 

(おかしい!

 この漢の生命力はどうなっているんだ?)

 

 どれほど死の力を積み上げても、一向に弱る気配を見せないカシオスにデスの精神にもヒビが入り始める。

 死神だからこそ感じ取ってしまったカシオスの生命力の大きさ。

 それはあまりに大きすぎて最初は感じ取れていなかったのだ。

 

 カシオスの拳で何度目かのダウンを喫した。

 

(立ち上がり、死の力を積み上げる。

 あの命の大きさを埋め尽くすまで?

 遠いな、余りにも遠い)

 

 死神であるが故に死までの道のりが見えてしまう。

 その余りの道の長さに心が折れてしまった。

 

「ギ・・ップ・・・ギブアップだ」

 

 カシオスの父親が話していた通り、カシオスの生命力は死神が裸足で逃げ出すほど強かった。

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