シンクロニシティ
一見無関係に隔絶された物質や生物、果ては思想が地球規模で同時、同様の変化を起こす。
そのような現象をそう呼ぶ。
聖域より東方にある、かつてエデンの園と呼ばれた地に神殿が現れた。
それはエリス神殿、地上に災いをもたらす不和の女神エリスの居城。
黄金のリンゴに封印されていた彼女が突然復活したのだ。
彼女の復活を感じた幽霊聖闘士《ゴーストセイント》たちが玉座の間にたどり着く。
しかし、そこに彼女の姿はなかった。
エリスの封印を見張っていた兵士達がズタズタにされ血溜まりの中に倒れていた。
その兵士達が、幽霊聖闘士たちを聖闘士と見間違えたのか、復活したエリスの行方を伝える。
「邪神エリスが、聖域に向かうと・・・人間に身の程を分らせてやると言って・・」
兵士は、そこで意識を失った。
アベル神殿
かつてゼウスやアポロンに、その野望を恐れられ封印された神がいた。
その神の名は太陽神アベル。
その男が、現代において復活を果たしていた。
アベル神殿の中で、3人のコロナの聖闘士が跪いている。
彼らの前でアベルが宣言した。
「この私を差し置いて、人間如きがハーデスを下しただと!
聖域へ向かう、お前たちは留守を守れ」
「「「はっ!」」」
こうして、アベルも聖域に向かった。
アポロン神殿
アテナの兄、アポロンもまた動き出していた。
天闘士たちが気付いた時には、すでに神殿からいなくなっていた。
玉座の間にはメッセージが書かれていた。
妹は、人間に対して甘すぎる。
聖域に向かう。
人間どもに相応しい扱いを教えるために。
彼もまた、聖域へと向かったのだ。
火星の守護者、マルスの神殿
火星士《マーシアン》たちが仕える神、マルスが突然姿を消した。
その時、彼らの頭にマルスからの声が響いていた。
地球の聖域に行ってくる。
神として、序列をわきまえぬ人間どもに思い知らさなければ。
火星士たちは、神の意に疑問を持つ事などない。
かの神が必要だと言うのなら、そうなのだろう。
無事の帰還を祈り、火星にて彼の帰りを待つ事にした。
刻の神サターンの神殿
サターンは思い悩んでいた。
人間とは、どのような存在なのだろうか?
聖戦において、アテナと他の神々が激しく争ってきた。
しかし、それはあくまで聖闘士と冥闘士などの手下同士の戦いが中心だった。
今代の聖戦は、趣きを異にしていた。
多くの神が聖闘士の前に敗れていた。
あのハーデスすら人間に破れたのだ。
「見定めねばなるまい。
人間というものを」
サターン、聖域へと出陣
こうして、なんの関係もない5柱の神々が同時に聖域へと向かった。
アテナは、その神としての感覚で5柱の神の動きを感じていた。
1柱でも絶大な力を誇る神が、同時に5柱も集う。
聖域にかつてない脅威が迫ろうとしていた。
折り悪く、カシオスは冥界のハーデスの下に行っていて不在にしている。
世界各地に散っている星矢たち、神々との戦いを切り抜けてきた伝説の聖闘士に招集をかける。
(間に合わない。
星矢たちが集まるまでは、パライストラのシャイナに頼るしかないわね)
こうして、本人の知らぬ間に神々の侵攻に対する先鋒を任されたシャイナ。
彼女は、次代の聖闘士たちを育成する教育機関パライストラで教師を務めている。
シャイナが教師になる事が決まった時、周りの聖闘士は非常に憂慮していた。
「いいか、シャイナ。
パライストラの生徒達にカシオスと同じ修行をさせようとするなよ?」
(当然じゃないか。
カシオスは、ほとんど何の修行もしてないんだぞ)
「分かっている。
決められたカリキュラムに沿って授業を行うさ」
(良かった、カシオスと同じ修行なんかさせたらパライストラに死人の山が出来てしまう)
「分かっているならいい」
カシオスの伝説は、パライストラにも轟いている。
そんなカシオスを育てたシャイナが教師をしているのだ。
当然、生徒達は色めきだった。
自分もカシオスのように強くなりたい。
そんな生徒達の期待とは裏腹にシャイナの授業は、他の教師達とほとんど変わらない物だった。
落胆する生徒達を教師達が嗜める。
カシオスの修行は、黄金聖闘士すら躊躇うほど過酷なものだ。
お前達では、死人の山が出来るだけ。
それが分かっているから、シャイナも修行を課さないのだ。
そう教えられた生徒達は、自分達の不甲斐なさを嘆きつつもカシオスと伝説の師匠シャイナへの憧れを強めていった。
その日、パライストラに異変が起きる。
ガタガタガタガタガタガタガタガタ!
生徒達が、否、教師までもが身体を震わせている。
「先生、保健室に行ってもいいですか?」
「あっ、俺もいいっすか?」
「なんだ、お前もか!」
「そうなんだよ、なんか朝から震えが止まらなくて」
生徒達は、次代の聖闘士を目指して厳しい修行を積んでいる。
教師達に至っては、正規の聖闘士だ。
そんな者達の身体が震えている。
まるで怯えているかのように。
戦いを生業とする者達にとって、時に実力より重要となる能力。
相手の実力を感じ取る力。
闘技者としての本能が、細胞が見抜いた。
今日、ここにとてつもない脅威が迫っていると。
パライストラのすぐ近くに5つの雷が落ちた。
轟音と共に巻き上げられた砂煙が晴れた後には、5柱の神々がいた。
「ほう、我以外にも聖域に来る神がいたか」
「お前はアポロン!
よくも私を封印してくれたな!」
「まて、ここにいる以上、目的は同じはずだ」
「人間如きに臆したか?
思い上がった人間に裁きを下すなど、私だけで十分だと教えてやろう」
「どうでもいいけど、私の邪魔だけはしないでほしいわね」
神話の時代から争いが絶えず、何度も聖戦を繰り返してきた神々に協調性というものはなかったようだ。
出会った途端に揉め事を起こす者。
その様子を興味深く見ているだけの者。
関係ないと傍観する者。
だが、彼らは神だ。
その場にいるだけで、神としての無限とも思えるコスモが聖域を中心に地上を覆いつくす勢いで広がっていく。
この場で神同士が争いを始めれば、その余波だけで天変地異が起き、どれほどの被害が出るか分らない。
ここは地上を守る闘士達が集う聖域。
異変を感じた聖闘士たちが駆けつけてきた。
パライストラの近くだったため、生徒達も遠くから様子を伺っている。
圧倒的な力を感じさせる神々に対して先頭に立ったのは、やはり黄金聖闘士たちだった。
たとえ神であろうと、聖域を無断で侵したのだ。
その不穏な空気からも平和的な目的ではない事は明らかだった。
黄金聖闘士たちがコスモを高めて、臨戦態勢に入っていく。
「ふん、羽虫どもが群がってきた所で鬱陶しいだけだと教えてやろう」
それは、一瞬の出来事だった。
神々の世界を埋め尽くすほどのコスモが、突然荒れ狂い、黄金聖闘士たちを飲み込んでいった。
その絶大な力によって黄金聖闘士たちは吹き飛ばされ、クロスも身体もボロボロにされていた。
その光景は、周りで見ていた聖闘士やパライストラの生徒達を絶望させるには十分なものだった。
「所詮、人間などこんなものだな。
どうやらカシオスもいないようだ」
「今日、ここにいる人間はすべて死に絶える。
カシオスや星矢たちが来るまでの余興にはなるだろう」
神々が、その傲慢さで聖闘士たちの命を刈り取ろうとしていた。
しかし、ここは聖域。
その主人が黙っているはずもなかった。
「待ちなさい。
ここは私の領域。
好きにはさせません!」
アテナが神々に対して待ったをかける。
「たった1柱で何が出来る?
ここには、我らを止める事が出来る者などいない」
「いいえ、あなた達を止める事が出来る者はいます
あのカシオスを育てた者が!」
聖闘士や生徒達の視線が1人の聖闘士に集まる。
そうだ、俺たちには彼女がいた。
何を絶望する事がある?
カシオスや星矢達が不在にしていても、あの伝説の師匠シャイナがいるじゃないか!
アテナの突然の言葉と集まる視線にシャイナは、驚き固まっていた。
(アテナーーー!
無茶振りは勘弁してください。
私は、白銀ですよ!)
「ほう、この女があのカシオスを育てたと名高い伝説の師匠シャイナか」
数々の伝説を打ち建て、ハーデスすら倒したカシオスの名は、天上の神々の間にも轟いていた。
そして、そんな漢を育てた者が無名のはずもなかった。
神々がシャイナを興味深い目で見ている。
それは、羽虫のように扱っていた他の聖闘士たちとは明らかに別格の扱いだった。
そんな神々の態度が気に入らないと思う神もいた。
不和の女神エリスである。
他の神々が、この女聖闘士を特別扱いしている。
この場で、自分よりも遥かに注目を集めているシャイナと言う存在が気に入らなかった。
かつて、アテナを贄として神の肉体を取り戻し完全な復活を遂げようとした。
あの時は、復活を目前に射手座《サジタリウス》のクロスを纏った星矢によって討たれてしまった。
だが、今回は違う。
神としての肉体を持つ、完全な形で復活した。
それなのに、同じ神であるアテナではなく、人間であるシャイナに注目を持って行かれた事に嫉妬していた。
「生意気な女。
カシオスと言う逸材を、運良く弟子に持てただけだと知らしめてやるわ!」
先程、黄金聖闘士たちを倒した神の力が再び荒れ狂い、シャイナを襲った。
荒れ狂う力の奔流に飲み込まれ、吹き飛ばされる。
黄金聖闘士たちと同じように、たった一撃であのシャイナすら倒れ伏していた。
聖闘士たちや生徒たちは、今度こそ絶望してしまった。
神の力の前では、あのシャイナですら敵わないのかと。