黄金聖闘士たちに続きシャイナまでやられてしまった。
絶望が辺りを包む中、再び雷が降り注ぐ。
新たな神が降臨した。
他の神々と同じく雷と共に降り立ったのはハーデスだった。
隣に立つのはカシオス。
神々の動きを察知し、親友たるカシオスと共に聖域に赴いたのだ。
「ようやくお出ましか。
お前の師匠は、運良くお前を弟子に出来ただけの愚図だったようね。
たった一撃で終わってしまったわ」
エリスが嘲笑を浮かべている。
カシオスが、そんなエリスの前に進み出ようとする。
己の師を侮辱されて黙っていられる漢ではない。
だが、そんなカシオスをハーデスが止めた。
「カシオスよ、不愉快なのは分かるが、師の思惑を邪魔しないのも弟子としての務めだぞ」
「思惑だと?
何を言っているハーデス。
あの女は、一撃で倒れ伏しているではないか!」
「どうやら、目が節穴の神が多いようだ。
もう十分でしょう。
そろそろ演技を止めたらどうです?
シャイナ殿」
「演技ですって!?」
「周りで未だに立ち上がれないでいる黄金聖闘士たちと違って、シャイナ殿のクロスには傷一つ付いていない。
そんな事にも気付かないから節穴と言うのだ」
「「「!!」」」
ハーデスの言葉に応えるかのようにシャイナが立ち上がる。
確かにそのクロスには傷など付いていなかった。
黄金聖衣すら砕いた力が、白銀でしかないシャイナのクロスに傷一つ付けれなかったのだ。
立ち上がる動きにもダメージは感じられない。
「シャイナ殿がやられたフリをしたのは、女一人に頼り、自らが立ち向かう気概のない腑抜けた者達に喝を入れるためだ。
シャイナ殿がやられた姿を見せた時、誰一人勇気を絞り出して立ち向かおうとする者はいなかった。
恥ずかしいとは思わないのか?」
ハーデスの言葉に、周りの聖闘士たちは自らの情けなさを自覚した。
まさにハーデスの言う通りだったのだから。
黄金聖闘士やシャイナがいれば大丈夫。
そんな心で地上の平和を守る聖闘士を名乗るなど烏滸がましい。
パライストラの生徒達も同じだった。
自分達は、シャイナに憧れていた。
だが、それだけだった。
憧れている人に守ってもらう。
そんな心で聖闘士だと認めてもらえる訳がない!
シャイナに修行をつけてもらえないのも当然じゃないか!
どれほど強大な敵を前にしても立ち向かう。
それが自分達が目指す聖闘士の姿だったはずだ。
絶大な力を振るう神々を前に、辺りを包んでいた絶望が晴れる。
聖闘士や生徒達の目に光が戻る。
いや、彼らの心は、絶望に打ちひしがれる前よりも更に熱く燃え上がっていた。
自分達の不甲斐なさに気付かせるために、神を相手にやられたフリをする。
彼らの中で、シャイナへの尊敬は限界を突破して高まっていた。
だが、彼女に頼り、縋ろうとは思わない。
肩を並べて戦えるようになりたい。
そんな熱い想いが、心を埋め尽くしていた。
一方、シャイナは仮面の下で混乱していた。
(やられたと思ったのに、なんでダメージを受けてないんだ?)
シャイナは、自分が白銀の中では上位に位置する実力があると思っていた。
実際には、カシオスを越えようとする無茶な修行で黄金聖闘士に匹敵するコスモを持つに至っているが。
真面目なシャイナは、カシオスが規格外だと気付いてからも修行のレベルを落とす事はなかった。
それでも、黄金聖闘士が軒並み倒されているのだ。
シャイナがダメージを負わないのはおかしい。
話は変わるが、神の力に対抗する方法はいくつかある。
例えば、黄金の短刀などの神殺しの神器を使う。
攻撃が当たりさえすれば、人間でも神殺しが可能な方法だ。
あるいは、神の血による祝福を受けたクロスを纏い、コスモを神に近い位にまで高める事でゴッドクロスに昇華させる。
神の加護や祝福を用いずに神の領域までコスモを高めたカシオスも分類的にはこれに当たる。
そしてもう一つ、自分自身が神になる事。
しかし、最後の方法は神話の時代ならまだしも、現代においてはほぼ不可能だとされている。
神々は、人類で初めてコスモに目覚めた者達だ。
だが、コスモに目覚めただけで神になどなれない。
それは、コスモに目覚めた聖闘士たちが神になっていない事を見れば明らかだろう。
神となるためのもう一つの条件。
それは、人々からの信仰だ。
コスモに目覚めた者達が起こす奇跡を目の当たりにした当時の人々に超常なる神として崇められた事で本物の神へと至ったのだ。
神が神話の中の存在として確立された現代において、人が神へと昇華するほどの信仰が集まることはまずないと言える。
故に、コスモに目覚め、どれほど高めても神にはなれないのだ。
お気付きだろうか?
ここに、コスモに目覚め、超常の力を持つ者達から尊敬と言う形で信仰を集めている者がいる事を。
そして、その中にはアテナやハーデスと言った神からの尊敬も含まれているのだ。
いや、それだけではない。
天上の神々にもカシオスの師匠として警戒されていた。
それは、その存在を認めていると言うことだ。
だからこそエリスも嫉妬した。
取るに足らない存在に嫉妬する者などいない。
それは敬意の裏返しであった。
シャイナは、量ではなく質によって神に対抗できるほどの信仰を集めていた。
しかし、シャイナにそんな自覚はない。
自らをただの白銀聖闘士だと見做しているため、集まった信仰をシャイナ自身は受け取っていなかった。
シャイナの代わりにオピュクスクロスが受け止めていたのだ。
その力を用いて、オピュクスクロスがシャイナを神の力から守っていた。
ちなみにカシオスが神になっていないのも、自らが日陰者であり、神として敬われるような存在ではないと思っているからだ。
師弟そろって、理由は違えど神になる事を拒絶していた。
なんだかんだで似た者師弟なのかもしれない。
そして今、コスモに目覚め聖闘士足らんとする者達からの尊敬が限界突破していた。
アテナやハーデスだけでなく、思い上がった人間に裁きを下そうと集った神々すらも、その力を確信し、認めていた。
急激に質を高め、神々からすら注がれる信仰がオピュクスクロスを満たす。
ついにオピュクスクロスの限界を超えるほど注がれた事で異変が起きた。
シャイナのクロスから突然光が放たれる。
その強烈な光によってシャイナの姿が見えなくなった。
その光が収まった時、そこには信じがたい光景があった。
シャイナが纏っているクロスが黄金の輝きを放っていた。
色だけではない。
クロスの形すら変わり、黄金聖衣と呼ぶに相応しい威厳と美しさを感じさせる外見となっていた。
かつて星矢たちが黄金聖闘士の血で蘇ったクロスを黄金に輝かせた事があった。
更に、アテナの血を受けてゴッドクロスに昇華させた事もある。
だが、目の前で起きたこの現象は、それらとは全く別物だった。
黄金聖闘士の血によって蘇ったクロスの色が変わったのは、黄金聖衣に近づいただけだ。
黄金聖衣になったわけではない。
星矢たちがゴッドクロスへとクロスの位階を上げる事が出来たのも、アテナの血を受けたからだ。
言わば、アテナの血が起こした神の奇跡と言える。
シャイナのクロスは、黄金聖闘士の血で蘇ったわけでもアテナの血を受けたわけでもない。
シャイナが独力でクロスの位階を上げた。
周りからは、そうとしか見えなかった。
それは、神話の時代から誰一人なし得なかった奇跡だ。
神の奇跡を人間が起こした。
その場の神々にすら、そう見えていた。
(え?なんだこれ?
クロスからコスモが勝手に溢れてくる!)
奇跡を目の当たりにして、更なる信仰が情け容赦なく注ぎ込まれてくる。
黄金聖衣となったオピュクスクロスの限界すら超えたコスモが、ついにシャイナに流れ込み始めた。
(ちょっ!なんだ、このコスモは?
やばい、このままだと身体が内側から弾けてしまう)
神ならぬシャイナに耐えられないほどのコスモが無理矢理流れ込んでくる。
(とにかく、このコスモを外に出さなければ!
早くしないと私が死ぬ!)
シャイナは手をかざし、とにかく思い切りコスモを放出しようとしていた。
そんなシャイナの前に飛び掛かる神が1柱。
「認めない!
人間が神の奇跡を起こすなど、あってはならない事よ!
その魂ごと消しとばしてあげるわ!」
邪神エリスが、その顔を嫉妬に歪ませて襲い掛かっていた。
あまりにも間が悪かった。
そのタイミングでシャイナから圧倒的なコスモの奔流が放たれたのだ。
「えっ!?」
まるで自分の動きを読んでいたかのように手をかざすシャイナの姿があった。
そして、その手から確実に自分を、神を害する事が出来るだろう力が放たれていた。
(そんな!
人間なんかが神である私の動きに対応できたと言うの?)
それが、エリスの最後の思考だった。
シャイナから放たれたコスモの奔流は、空のはるか彼方まで突き進んでいった。
エリスは、その光の中に姿を消した。
その光景を誰もが呆然と見ていた。
人間が、完全な状態の神をあまりにもあっさりと下した。
カシオスですら、ハーデスとの戦いは死闘だったと聞いている。
やはり、あの女はカシオスの師匠と呼ばれるに足る実力を有していた。
そう確信した神々は迷っていた。
他の神と協力して戦うか?
人間を相手に神が徒党を組んで立ち向かう。
それは、神としてあり得ない思考だった。
警戒し、動けない神々の前で、すべてのコスモを放出した事でシャイナのクロスは白銀に戻った。
(はぁ、助かった。
目の前に誰かいたような気がするけど、気のせいだよな)
シャイナは、怒涛の展開でもう一杯一杯だった。
(ハーデスやカシオスも来たし、私はもう帰るぞ!)
シャイナが神々に背を向ける。
「もう、いいだろう。(私の精神はもう限界なんだ!)
後は任せたよ」
そう言って、ゆっくりとした足取りで去っていく。
それは、まさに王者の歩みだった。
背後にいる神々を歯牙にもかけていない。
襲いかかるつもりなら、好きにすれば良い。
返り討ちにするだけだ。
そんな意志を感じさせる背中だった。
悠然とした姿で立ち去ったシャイナ。
後に残された神々は安堵していた。
エリスを消し去った力は、確かな脅威だったのだ。
そこで神々は、己の思考に気付く。
人間が立ち去った事に安堵しただと?
人間を相手にするのに他の神の助力を当てにしていたのか?
それは、神にとって羞恥と怒りを感じずにはいられない思考だった。
「おのれ!私は何をしていた!
なぜ動けなかったのだ!」
そんな神々にハーデスが声を掛ける。
「今日はもう帰った方が良いのではないか?
今のお前達の乱れた心では戦いにもならぬだろう」
「なに?」
「シャイナ殿は去ったが、ここにはアテナと余とカシオスがいる。
そして、周りの聖闘士たちも先程までとは違うぞ」
辺りを見れば、倒れていたはずの黄金聖闘士が立ち上がろうとしていた。
その目には、絶望など欠片もない。
闘志の炎が燃え上がっていた。
黄金聖闘士たちだけではない。
他の聖闘士たちも、パライストラの生徒達でさえも神に立ち向かおうと言う意志を顔に浮かべている。
絶対的な戦力差があると思っていた。
人間など物の数ではないと。
今はもう、そんな風には思えなかった。
この状況も、シャイナの掌の上で転がされているように感じる。
自分達は、この場にいる聖闘士たちを成長させるために見逃されたのではないか?
彼らの心は、シャイナへの畏怖で覆われていた。
「いいだろう。
ここは引く。
だが、引き下がったままだとは思わぬ事だ」
「この屈辱は、必ず晴らしてくれる!」
そんな神々の中で、沈黙している神もいた。
(認めよう、人間とは大したものだ。
だが、カシオスやシャイナだけが特別なのではないか?
外から見ただけでは分からぬものもあるだろう)
こうして、聖域に集った神々は心と態勢を整えるべく一旦引いて行った。
彼らの言葉通り、このまま引き下がりはしないだろう。
今度は全力で、己に仕える闘士達を引き連れて戦いを仕掛けてくる。
聖闘士たちは予感ではなく、確信していた。
不思議と恐怖など感じなかった。
神々との戦いは熾烈を極めるだろう。
だが、俺達はシャイナに後を任されたのだ。
俺達なら打ち勝てる。
シャイナがそう信じてくれた。
なら、それに応えるのが漢と言うものだ!
次は、シャイナの手を煩わせない。
俺達の手で聖域を守ってみせる!
彼らの心は、かつてない程に燃え盛っていた。
その様子を見ていたアテナは、シャイナの手腕に感嘆せざるを得ない。
(さすが、伝説の師匠と言われるだけの事はあるわね。
自身の実力だけではない。
周りの者達を成長させ、前へと進ませようとするなんて)
シャイナは正規の聖闘士だ。
つまり、アテナの加護を受けている。
普通なら神を滅ぼす事など出来ないはずなのだ。
だが、彼女はエリスを消滅させた。
ならば、考えられる可能性は一つ。
彼女は、アテナの顔を立てるために必要のない加護を敢えて受けている。
地上を守護するアテナと序列を争わないために自ら下に着いてくれているのだ。
そんな彼女がカシオスを従えていてくれるから、アテナの立場が揺らぐことはない。
(人間はまだ幼いと言っていたけど、独り立ちの時は思ったより早いのかもしれないわね)
アテナは、シャイナとカシオスに改めて尊敬と感謝を捧げた。
出会い頭の事故でエリス消滅。
ハーデス、解説キャラになる。
敵や味方が畏怖するほど強くなる、どこぞのラスボスかと思うような特性がシャイナさんに付与されました。
ただ、一度使い切るとチャージに時間がかかる模様。