神々の侵攻を受けた時、パライストラの生徒達はその様子を遠巻きに見守っていた。
そこで見たシャイナの実力と想いを知って、彼らは恥じていた。
神々のコスモに恐れを抱きながら危機感はなかった。
正規の聖闘士たちがなんとかしてくれる。
カシオスやシャイナがいるから大丈夫だ。
まるで他人事のように思っていた。
まだ生徒である自分達には関係ない。
そんな風に思っていた過去の自分を殴り飛ばしたい。
自分達は聖闘士を目指していたはずなのに、生徒と言う立場に甘えていた。
世界を守ると言う覚悟が圧倒的に足りなかった。
そんな生徒達の中に光牙もいた。
彼は、その生い立ちからパライストラでも注目されていた。
光牙は、アテナである城戸沙織に育てられていた。
まだ幼かった頃にマルスの襲来があり、駆けつけた星矢によって救われた。
その戦いで星矢はマルスを退けたものの大きな怪我を負ってしまう。
そんな星矢を沙織が献身的に看護した事がきっかけで二人は恋人関係になっていた。
光牙は、星矢に命を助けられた縁からペガサスクロスを継ぐことになる。
短い間であったがシャイナから修行もつけさせられていた。
大した説明もないまま聖闘士にしようとしてくる周りに反発して、聖闘士になりたくないと思っていた。
シャイナが教師となったパライストラに入学した後も、その心は晴れなかった。
伝説のペガサスクロスを継承した事。
あのシャイナに短期間とは言え、修行をつけてもらっていた事は、周りから特別な目で見られるには十分なものだった。
光牙には、特別な修行を受けた覚えはない。
たしかにパライストラでの修行よりは厳しかったが、シャイナがパライストラの教師となるまでの短期間でしかなかった。
そう伝えても周りからの評価が落ちることはなかった。
パライストラの修行も十分に厳しいものだ。
それ以上の修行を遥かに幼い時に受けていた。
シャイナが光牙を特別に評価している。
そう受け止められたのだ。
ここでも伝説の付属品にしか見られないのか。
誰もが伝説の幻影を見ている。
光牙自身を見てくれない。
そんな鬱屈した想いが募る。
それが自分の中の闇を増大させている事には気付いていた。
それでもその想いを止めることは出来なかった。
襲来した神々の中にマルスの姿を見た時、かつての記憶が蘇った。
あの時、自分を慈しんでくれる憧れを抱いていた沙織さんを守ったのは星矢だった。
なんで、僕には沙織さんを守る力がないのだろう。
そんな風に自分の無力さを嘆いていた。
今も同じだった。
あの時のように絶大な神の力の前に動けないでいる。
そんな光牙の前にシャイナが力を示す。
伝説とは、こう言うものだ!
そう教えるかのように。
神の1柱がシャイナの光の中に消えた。
シャイナに救われた。
命ではなく心を救われたのだ。
後は任せる。
そう言ってくれた。
もちろん、自分に言った訳ではないだろう。
だけど、自分の本当の望みを思い出させてくれた。
それで十分だった。
ああ、忘れていた。
周りに言われたから聖闘士を目指した訳じゃなかった。
大切な誰かを守れるようになりたかった。
神々の力を前に怯え、竦んでいた。
そんな情けない自分を変えてやる!
今日、ペガサスクロスと言う伝説を受け継ぐ覚悟がようやく出来たのだ。
神々が引いた後、光牙は母として慕う沙織を守れる男になるために行動を開始する。
光牙のコスモの属性は光と闇。
闇のコスモが光牙自身の負の感情を糧として成長し、自分を乗っ取ろうとしている。
まずは、自らが抱える闇を克服しなければならない。
そのためにパライストラを離れ、旅に出た。
その旅に同行するは、同期の仲間達。
パライストラで友情を育んできた信頼できる仲間達だ。
危険な旅になると一度は同行を断った。
逆に怒られてしまった。
見損なうな!
自分達も聖闘士を目指す者だ!
危険だから仲間を見捨てるような者だと思ったのかと責められては、光牙もそれ以上は何も言えなかった。
この旅の果てに、光牙は闇の神アプスを倒し『神殺し』の称号を得る事になる。
アテナの加護を受けずに、己の拳一つで神を倒すと言うカシオスに続く偉業を達成したのだ。
光牙が新たなるペガサス伝説を紡ぎ始めた。
おまけ1
星矢と沙織から頼まれた事で光牙の修行を見る事になったシャイナ。
まだ幼い光牙への修行だ。
とりあえず軽めの修行から始めて様子を見ようと思っていた。
普通の子供である光牙は、あっさりと死に掛けた。
いや、一度心臓が止まっていた。
蘇生が成功したため、なんとか事なきを得たがΩ編が始まる前に終わるところだった。
シャイナの弟子はカシオスと言う規格外だった。
自分自身の修行も無茶なものであったため、普通の修行の加減が分からなくなっていたのだ。
まずい、このままでは光牙を殺してしまう。
沙織達に頼まれているのに、自分の手で死なせる訳には行かない。
シャイナがパライストラの教師に志願した理由は、普通の修行がどんなものかを思い出すためだった。
パライストラ側が用意したカリキュラムで、ようやく修行の加減が分かってきたため光牙をパライストラに入学させたのだった。
おまけ2
沙織は、星矢と恋人関係になる事が出来た。
しかし、その道のりは平坦なものではなかった。
城戸沙織は、幼い頃に星矢への恋心を抱いた。
しかし、幼い心ではどうしていいかわからなかったのだ。
自分の感情を持て余す沙織に内なるアテナが声をかける。
安心しなさい沙織。
戦いの女神たる私が付いています。
恋も戦いです。
大船に乗ったつもりで任せなさい。
どうすればいいの?
幼い沙織の問いにアテナは自信満々で答える。
スタンド&ファイト《立って戦え》
一切の勝算が立たなくても、まずは叩け。
恋の戦いに勝つために、まずは行動しなさい。
自ら動かぬ者に勝利の女神は微笑まないのだから。
幼い沙織は純粋だった。
アテナの助言を聞き入れ、行動した。
星矢の所に行って、思いっきり叩いた。
ここに、暴力系ツンデレヒロインが誕生したのだ。
あまりにも時代を先取りし過ぎたため、世界《読者》にも受け入れられなかった。
後に間違いを自覚して、アテナとしての覚醒をきっかけにして自己犠牲系クーデレヒロインにイメチェンして挑むも星矢の鈍感さの前に撃沈。
献身的な看護をする沙織を前に星矢は手を煩わして申し訳ない、看護師の資格を取った美穂ちゃんに頼むよと言うくらいには鈍感だった。
もちろん、戦いの女神たるアテナだ。
ライバルに譲るなどあり得ない。
「私は、星矢が好きです。
一人の男性として愛してます。
だから、私に看護させてほしいのです」
一切の誤解が生まれないストレートな告白。
最終手段《正面からの告白》によって、ようやく星矢に想いが届いた。
何度も挫折し、それでも立ち向かい続けた沙織にようやく女神が微笑んだのだった。