喧嘩師《セイント》カシオス   作:ソロモンは燃えている

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バレンタインデー企画です。
例によって頭を空っぽにして見てください。



VSエリス

 

 

 

 聖域の外れ。

 パライストラから遠く離れた場所に神が落ちてきた。

 シャイナの力の奔流に吹き飛ばされ、大きなダメージを負いながらもなんとか一命を取り留めたエリスだった。

 

「おのれ、シャイナめ!

 一度神殿に戻って傷を癒したら、必ず復讐してやる」

 

 シャイナへの復讐を誓いながら聖域を後にしようとするエリスの前に立ちはだかる者が一人。

 カシオスであった。

 己の師を侮辱されて、ただで帰す事を許すわけがない。

 落とし前を着けさせようと追ってきていた。

 

 立ち塞がるカシオスを見て、エリスも不味い状況である事は理解している。

 自分は今、シャイナによって大きなダメージを負っている。

 このコンディションで、ハーデスにすら勝ったカシオスを相手にするのは絶望的だ。

 逃げることすら難しいだろう。

 

 師を侮辱した者は許さない。

 きっとそう思って追ってきたのだろうカシオスの姿は、シャイナとの間にある確かな絆を感じさせた。

 女神である自分に命の危機を感じさせた力に加えて、カシオス程の漢にここまで想われている。

 そんなシャイナへの嫉妬が募る。

 

 

 その時、エリスの頭に天啓のような考えが浮かぶ。

 それは、考えれば考えるほど素晴らしいものに思えた。

 エリスが妖しく微笑む。

 そうだ、私は不和の女神。

 シャイナとカシオスの間にある絆を断ち切ってしまえばいい。

 信頼する弟子が私の虜になり、意のままに従う姿を見せれば、シャイナはどれほど悔しがるだろう?

 

「ねぇカシオス、お前も傷付いて弱ってる女を殴るのは気が進まないだろう?

 見逃してくれないかしら?

 もちろん、ただでとは言わないわ」

 

 そう言って、エリスは妖艶に微笑み、カシオスにしなだれ掛かる。

 神の美貌と肉体が醸し出す強烈な色気。

 並の男であれば、すぐに魅了され愛の奴隷にされてしまうだろう。

 エリスは、神話の時代から想い合う男女の姿を見て不愉快に思い、数多の男達を誘惑して破滅《わかれ》させてきた。

 日本の弁財天は、カップルで参拝すると嫉妬して別れさせてしまうと言われている。

 エリスも、そう言った迷惑な女神達の1柱だった。

 故にエリスは、こう呼ばれる。

 地上(のカップル)に災いをもたらす不和の女神と。

 

「チョコよりも甘い、私のキスを受けなさい」

 

 エリスがカシオスの肩に手を回し、口付ける。

 それは、優しいとすら言えるキスだった。

 緩やかなれど確実に相手の心を奪わんとする動き。

 数多の男を狂わせた手練手管がカシオスを襲っていた。

 

(ふふふっ

 私のキスで、お前を私のものにしてやろう)

 

 エリスは、勝ちを確信していた。

 カシオスのような荒々しい漢も、男女の睦言に持ち込めば可愛いものだと。

 これは、力や勢いでどうにかなるものではない。

 私の技巧の前に、すぐに陥落する。

 そう思っていた。

 

 たしかにカシオスは、小手先の技に頼るような男ではない。

 だが、それは不器用だということを意味しない。

 かつての世界で、花山薫は木の枝を口の中で幾重にも複雑に結ぶことが出来た。

 堅気の女に手を出す気はなかったため、あまり知られてはいなかったが、花山薫は技巧者《テクニシャン》でもあったのだ。

 その器用さは、カシオスにも受け継がれていた。

 

(エリスよ、俺は上手いんだぜ)

 

 今まで無防備にエリスの舌撃を受けていたカシオスが反撃を開始する。

 エリスもカシオスが抵抗してくる事は分かっていた。

 だが、それは力任せの勢いだけの舌撃だと思い込んでいた。

 

(えっ?ちがう!

 こいつの反撃は力任せなんかじゃない!)

 

 思わぬ技巧を見せるカシオスにエリスは不意を突かれたかのように押し返されてしまう。

 だが、エリスも百戦錬磨の女。

 すぐに気持ちを立て直し、迎え撃つ。

 それは、形は違えど意地と意地をぶつけ合う戦いだった。

 

 かつての世界の最強の少年が悟った真理。

 S◯Xは、戦いと似ている。

 互いに弱点を探り合い、見つけた弱点を責め立てる事で快感《ダメージ》を与えていく。

 快感《ダメージ》を積み重ね、どちらが先に頂点まで追い詰めるか。

 

 今、カシオスとエリスはそういう戦いをしているのだ。

 口の中で、互いの舌が相手を責め立てる。

 主導権を握ろうと激しく位置を変えていく。

 より快感《ダメージ》を与えられる位置を探り、より快感《ダメージ》を与えられる角度を見つけるために。

 快感《ダメージ》で頭がぼんやりしている中で、それでも本能に従って舌を動かす。

 

(ああ、私は上手く出来てるだろうか?)

 

 あるべき位置で、最適の角度でカシオスに快感《ダメージ》を叩き込んでいく。

 かつての男達は、簡単に虜になった。

 これほど激しい戦いを経験した事はなかった。

 やがて、互角だった戦いの天秤は傾いていく。

 エリスが責められる割合が多くなってきたのだ。

 

(なんて事なの!

 私が、女神が追い詰められつつある!)

 

 エリスが防戦一方になっていた。

 

(否!追い詰められつつあるのではない。

 私は今、完全に追い詰められている)

 

 押し込まれていた戦況が、ついに押し切られた。

 長かったのか短かったのかも分からない攻防に終わりの時がきたのだ。

 エリスは、腰が砕けて座り込んでしまう。

 そして、紅く染まった顔でカシオスを見上げた。

 

「カシオス・・・・しゅき・・」

 

 完全に堕ちていた。

 人間に身の程を分らせようとしていたエリスが、カシオスによって分からされた瞬間である。

 カシオスの戦いにおいて、初めての技《テクニック》による勝利だった。

 

 邪神エリス、墜つ!

 

 

 

 

 カシオスのお陰で破局するカップルの数が減ったと言われている。

 恋人達の幸せな時間をカシオスが守っているのだ。

 信じるか信じないかは、あなた次第です!

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