喧嘩師《セイント》カシオス   作:ソロモンは燃えている

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銀河戦争 星矢編

 

 

 

 聖闘士として認められクロスを得た星矢は、日本に帰ってきた。

 城戸光政との約束を果たした以上、これで姉さんに会えると思っていた。

 しかし、星矢がギリシャに行っている間に星矢の姉は行方不明になっていた。

 グラード財団総帥、城戸沙織が再び星矢に取り引きを持ち掛けてきた。

 自らが主催する聖闘士たちによる銀河戦争《ギャラクシアン・ウォーズ》に参加し、優勝することが出来れば、グラード財団の力で星矢の姉を探し出してやろうと。

 星矢が過酷な修行に耐えて聖闘士になったのは、もう一度姉に会うためだ。

 ここで諦めるわけにはいかない。

 星矢の銀河戦争参戦が決まった。

 

 

 銀河戦争トーナメント一回戦

 

 大勢の観客たちの前で、聖闘士たちがその闘技を競っていた。

 そして、星矢がリングに上がる。

 

 星矢VS檄

 

「ふっ、星矢よ、お前も運がないな。

 一回戦の相手がこの俺になってしまったのだからな」

 

 身体のサイズならカシオスとも釣り合うだろう巨漢の檄が自信に漲った態度を取っている。

 これほど恵まれた体格を有しているのだ。

 大きく重いと言う事は強さに直結する。

 それはボクシングが17階級に分かれている事からも分かるだろう。

 観客も檄の言葉に納得している。

 それほど、星矢との体格差は圧倒的だった。

 誰もが檄の勝利を疑っていなかった。

 

 檄がデモンストレーションとして、その握力でレンガを握りつぶした。

 観客たちはその握力に驚き、ますます檄の勝利を確信し、対戦相手の星矢に同情していた。

 

「俺は、カナダのロッキー山脈の森林で修行していた時に大熊を何万頭も締め殺して来た!」

 

 義務教育も受けずに、幼い頃から聖闘士になるための修行に明け暮れていたからか、檄が少し頭の悪い威嚇をしていた。

 

「檄、あまり強い言葉を使うなよ。

 弱く見えるぞ」

 

 星矢には、檄が強いとは思えなかった。

 星矢の基準はカシオスなのだ。

 星矢の目からは、檄にカシオスに挑む資格があるようには見えなかった。

 

「生意気な態度を取れるのも今のうちだ!」

 

 試合開始と同時に檄が飛び掛かってきた。

 星矢は、落ち着いてジャブを一閃。

 檄の顔を捉え、仰け反らせた。

 檄が視線を戻した時には、すでに星矢が目の前にいた。

 そして、檄の両手を自らの両手で掴んでいた。

 プロレスで言うところのフィンガーロックの状態だった。

 

「どうした、握力が自慢なんだろ?

 力比べだぜ」

 

「この体格差で、俺と力比べだと!

 舐めるな!」

 

 星矢の挑発に、檄が怒りを顕に力を込める。

 会場に表示されている、攻撃の威力を表す数値が上がり続ける。

 1000、2000、3000を超えてもまだ上がり続けている。

 その凄まじい握力に、観客たちも檄の前に星矢が屈すると思っていた。

 

 勝負とは何を持って勝ち負けを決めるのか?

 その一つに、頭の位置がある。

 最終的に頭の位置がより高い場所にある者の勝利となるのだ。

 勝者が敗者を見上げることはないのだから。

 

 膝をつき、この力比べに屈して相手より頭の位置が低くなったのは檄だった。

 

「大熊を締め殺せても、これじゃあカシオスの相手にはならないな」

 

 いつの間にかモニターに表示されている数値は星矢のものになっていたのだ。

 

「勝負あり!」

 

 一回戦の勝者、星矢!

 

 

 一回戦を終えた星矢の顔には不満があった。

 聖闘士のレベルは、これほど低かったのだろうか?

 カシオスとクロスを賭けて戦った星矢から見れば、檄が聖闘士になれたのが不思議だった。

 

「星矢よ、不満そうだな。

 あの程度の相手を倒したくらいで失望するのは早計だぞ。

 二回戦の相手は、この紫龍だからな」

 

「へぇ、確かに檄とは持ってる雰囲気が違うな」

 

 一回戦において、圧倒的な実力を見せつけて勝ち上がった聖闘士が何人かいた。

 紫龍もその内の一人だった。

 実力の足りない者が淘汰された二回戦からが本番だ。

 だが、星矢に負けるつもりは微塵もなかった。

 次にカシオスと戦う時まで、誰にも負けないと誓っていたのだから。

 

 

 二回戦、星矢VS紫龍

 

 リングに立つ二人が静かに闘志を高めている。

 共に一回戦で相手が高い実力を持つと分かっている。

 自らの実力に自信を持ち、勝利を確信しているが、そこに油断はない。

 

 そして、試合が始まった。

 星矢は紫龍を強敵と認めていた。

 だから、カシオスの時のような真似はしない。

 最初から技を出していく。

 

「ペガサス流星拳!」

 

 秒間100発を超える連打が紫龍に襲いかかる。

 観客には、その攻撃の全貌を把握することは出来なかった。

 モニターのスロー映像で、ようやくその攻撃の凄まじさを知るのだ。

 流星拳を受けた紫龍は、無傷だった。

 すべて躱したのか?

 そうではない。

 すべての拳を盾で受け止めていたのだ。

 

「この紫龍が纏うドラゴンクロスは、他のクロスにはない二つの最強を持っている。

 その一つが、この最強の盾だ」

 

 星矢の流星拳を受け止めても傷一つ付いてない盾を掲げる。

 確かにその強度は、驚異的なものだった。

 

「そして、もう一つの最強は、この右腕に宿る最強の矛だ!

 廬山昇龍覇!」

 

 紫龍もまた、技を放ってきた。

 凄まじい速さで繰り出される必殺の一撃。

 その破壊力に星矢が吹き飛ばされる。

 

 紫龍は、勝負は決まったと確信していた。

 それほど、自らの技とドラゴンクロスに自信を持っていたのだ。

 この一撃を受けて、立てる者などいない。

 そう思っていた。

 

 だが、星矢はゆっくりと立ち上がってきた。

 大きなダメージを受けたはずなのに、星矢の身体から更に高まっていくコスモを感じる。

 

「なっ、なんだと!

 昇龍覇をまともに食らっておいて、立つだと!」

 

 確かに紫龍の昇龍覇は強力だった。

 だが、カシオスの拳のほうが痛かった。

 カシオスの拳は、全身が痺れるほどの衝撃を受けたのだ。

 それに耐えて立ち上がったんだ。

 

「この程度で、俺の心は折れないぜ」

 

 紫龍は、最強の盾や矛とやらでいい気になっている。

 そんな紫龍の盾に傷一つ付けられなかったのは、自分の中の覚悟が足りなかったからだ。

 こんな情けない姿、カシオスには見せられないな。

 

「俺は、あいつに恥ずかしくない戦いをしなきゃいけない。

 根性、見せなきゃな!」

 

 そう言って、星矢が紫龍に殴り掛かる。

 再び紫龍の盾に阻まれる。

 盾には傷一つ付いていない。

 逆に星矢の拳を守るアームパーツにひびが入っていた。

 

「ふっ、お前にこの盾を貫くことは出来ない」

 

 星矢は、紫龍の言葉にも反応を返さず再び殴る。

 また、盾に止められた。

 もう一度殴る、さらに殴る、それでも殴る、そして・・・殴る、殴る、殴る。

 殴るたびに星矢のアームパーツはひび割れ、砕け散っていく。

 それでも、星矢は殴るのをやめない!

 

 愚直に、ただひたすらに殴る。

 小細工なんかしない。

 真正面から突破してやる。

 その意思に紫龍も思わず怯んでしまう。

 

 そしてついに、大きな破壊音と共に紫龍の盾が砕かれた。

 リングの上で、盾を砕かれて呆然としている紫龍とヘッドパーツが壊れ、額から血を流す星矢の姿があった。

 

 モニターに何が起こったのか映し出される。

 星矢が殴り続けているうちに紫龍の盾についにヒビが入っていた。

 そして最後に星矢が頭を思い切り叩きつけた事で、盾は完全に砕かれていた。

 星矢のヘッドパーツも砕けて、額から大量に出血している。

 それでも星矢は満足気であった。

 

「へへっ、最強の盾とやらを砕いてやったぜ」

 

 紫龍は、驚愕していた。

 まさか、本当に砕くまで殴り続けるとは。

 頭がいいとは言えない。

 もっとスマートな戦い方はいくらでもあっただろう。

 だが、星矢は正面からぶつかり続けることを選んだのだ。

 

「虚仮の一念、岩をも通すか」

 

 紫龍も星矢の強さを認めた。

 聖闘士同士の戦いは、どれほどコスモを高めることが出来るかで決まる。

 それなのに俺は、最強の盾だ、最強の矛だとクロスの自慢ばかりしていた。

 そんな心で、これほどの意地を通した星矢のコスモには対抗できない。

 

「誇るがいい、星矢。

 この紫龍をここまで追い詰めたのだ」

 

 そう言って紫龍は、クロスを脱いだ。

 クロスを脱ぎ、守りを捨てたことで自分を追い詰める。

 背水の陣で自らのコスモを高めるつもりなのだ。

 

 星矢は紫龍の行動に驚愕していた。

 この銀河戦争で、まさかクロスを脱ぎ捨てるとは。

 カシオスとの戦いで星矢は理解している。

 クロスは確かに強力な守りになる。

 だが、その安心感が極限までコスモを高めようとした時には枷になってしまうのだ。

 

 

 紫龍は、驚愕している星矢の様子に無理もないと思っていた。

 クロスと言う守りを捨てて、自ら不利な立場に立ったのだ。

 実際、周りで観戦していた他の聖闘士たちは、勝利を捨てるような紫龍の行動を愚かだと思っていた。

 そんな中で、星矢の心の中だけは違った。

 それは、カシオスの存在を知っているかどうかの違いだった。

 星矢は紫龍が不利になったとは、微塵も思ってなかった。

 いや、むしろ有利を取られたと思っていたのだ。

 なぜ、紫龍にはこんな事が出来るのだ!

 星矢の心に憤りが生まれていた。

 

「紫龍、卑怯だぞ!

 この銀河戦争は、クロスを纏った聖闘士たちの戦いだからって、俺はあの性悪お嬢様にクロスを脱ぐのを禁止されてるんだぞ!

 なんで、お前は脱げるんだ!」

 

 星矢が大声で叫ぶ。

 

 ピシッ!

 その試合をVIP席で観戦している城戸沙織が持っていたグラスにヒビが入った。

 きっと不良品だったのだろう。

 城戸邸に納品される備品は最高級品だが、どうしても不良品が混じってしまうこともある。

 執事の辰巳徳丸が、静かにグラスを取り替える。

 

 

 紫龍も、星矢の反応に驚いている。

 まさか、自分の狙いを見抜き、精神的な優位を取られたことに気付くとは。

 だが、星矢が迂闊に口を滑らせた事で、紫龍は自らの優位を更に確信できた。

 

「やはり愚かだな、星矢。

 確かにあのお嬢様は、性格が最悪だ。

 あんな歪んでいる女も珍しいだろう。

 だが、所詮は甘やかされた子供だ。

 どうとでも誤魔化せる。

 現に、俺はクロスを脱ぐなとは言われていない!」

 

 

 バキン!

 城戸沙織のグラスが砕け散った。

 また、不良品だったようだ。

 だが、城戸沙織は心が広い。

 グラスが不良品でも、表情は優雅な微笑みを浮かべたままだった。

 辰巳が再び新しいグラスに取り替え、濡れたテーブルを雑巾で拭き取る。

 その動きは、まさに熟練の執事のものだった。

 

 

 紫龍の言葉に、星矢も覚悟を決めた。

 星矢もクロスを脱いだのだ。

 周りの聖闘士たちは、この展開に頭が着いていかなかった。

 クロスを脱いだ方が有利だと?

 何を言ってるんだ。

 唯一同意できるのは、お嬢様が性悪で性格が最悪だと言う所だけだった。

 だが、リングの上に立つ二人のコスモが異常な高まりを見せているのには気付いた。

 

 星矢と紫龍は、リングの中央で再び激突する。

 精神的な優位を与えないために、相手の攻撃から逃げるような真似はしない。

 むしろ、相手の拳を自分の急所で破壊する。

 そんな勢いで向かっていく。

 その激しい戦いは、会場のボルテージを一気に跳ね上げていった。

 今までの戦いは、クロスだ技だと言ったよく分からない物で、モニターに表示される数値もどれだけ凄いのかも正直、いまいち理解できていなかった。

 今、星矢たちが行なっている、男と男の意地をかけた殴り合いの方がよっぽど興奮できるのだ。

 

 リング上の二人のボルテージも上がりっぱなしだ。

 まさか、この戦いでこれほど熱い喧嘩が出来るとは!

 昨今の聖闘士がクロスに頼りきって、本当にコスモを高めるのに必要な物を忘れがちな中で、自分と同じ価値観の男に会えるとは。

 星矢も紫龍も、笑顔を浮かべていた。

 この喧嘩が楽しくて仕方がないのだ。

 

 二人のテンションがマックスに到達しようとした時に、その喧嘩は終わった。

 突然、乱入者が現れたのだ。

 星矢たちは、横槍を入れてきた乱入者の攻撃を避けて、その方角を見上げる。

 そこには、青銅聖闘士と黒いクロスを着た謎の聖闘士たちがいた。

 青銅聖闘士の男、一輝に景品である黄金聖衣《ゴールドクロス》を奪われて逃走を許してしまう。

 城戸沙織は、すぐに星矢たちに追撃してゴールドクロスを奪還するよう命じてきた。

 

「お嬢様、命令なんかなくても追いかけるさ。

 あいつは俺たちの喧嘩に泥を塗った!」

 

「ふっ、そうだな。

 男の勝負に横槍を入れるような不届き者には、お灸を据えてやらねばなるまい」

 

 星矢たちにはゴールドクロスなど目に入っていなかった。

 舐めた真似をしてくれた一輝に落とし前を付けさせる。

 そのために二人は並んで会場を後にした。

 

「えっと、兄さんと戦うのに、僕もこのテンションに着いていかなきゃ駄目なのかな?」

 

 アンドロメダの瞬だけは、二人のノリに着いていけずに戸惑っていたが。

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