光牙は、旅の中で様々な試練を乗り越えてきた。
傷付き倒れる事もあった。
その度に立ち上がれたのは仲間達のお陰だ。
この旅の中で、仲間達にも背負っているものがあると知った。
仔獅子座《ライオネット》の蒼摩
南十字座《サザンクロス》の白銀聖闘士であった父、一摩に憧れて聖闘士を目指してパライストラに入った。
しかし、幼少期に父を殺されたため十分な指導を受けておらず技なども不安定だった。
そんなハンデに腐らず、訓練を続けた事で上達して行った。
普段は飄々としているのに父の仇であるソニアに対しては激しい敵意を抱いていた。
しかし、彼女は父親がマルスとして覚醒する前の幸せな家族を取り戻したかっただけだった。
彼女が一摩の殺害に苦しんでいたのだと知り、家族を取り戻したいと足掻いていたのだと理解した時。
蒼摩は、戦いの中で思わず叫んでいた。
「そんなに家族が欲しいなら、俺が家族になってやる!」
一摩の優しさによって穴が穿たれていたソニアの心は、蒼摩の真摯な想いによって決壊した。
ただひたすらに家族の温もりを求めていたソニアの一途さを蠍座《スコーピオン》のクロスが認めていた。
ソニアは、蒼摩と共に生きる事を決めた。
マルスが聖域に来た時、他の黄金聖闘士ごと殺されかけた。
そこに家族の情など一切感じられなかった。
蒼摩によって、マルス覚醒で家族の絆が壊れて以来、初めて安らぎを得たのだ。
血の繋がりがなくとも家族になれるのだと心で理解できた。
もう、自分は蒼摩を手放す事は出来ないだろう。
そんな自分でも良いのかと聞くソニアに
家族なんだ、ずっと側にいろ!
そう答えた蒼摩の顔は、漢だった。
伝説の聖闘士の一人を父に持つ龍峰
父、紫龍からドラゴンクロスを受け継ぎ、指導も受けていたため光牙と同様にパライストラで一目置かれる存在だった。
自分と同じく、父と因縁のあった星矢のペガサスクロスを受け継いだ光牙を激しく意識していた。
だが、パライストラで切磋琢磨し、旅の中でシャイナに師事し、カシオスの弟弟子と言う自分以上の重圧を受け止めて成長していく光牙をいつの間にか認めていた。
自らも伝説の聖闘士の息子として恥じないように成長していき、病弱で一度の戦闘で一回しか昇龍覇を撃てないと言う弱点も克服した。
そして、父と同様に背中に竜の姿が浮かび上がる。
なお、星矢と紫龍はマルス襲来の際に魔傷を負ったが、この時空ではコスモを高めて傷の呪いを吹き飛ばすと言う荒技によって克服している。
彼ら曰く、カシオスと対等になろうと思ったらこれくらいは出来なきゃ話にならない。
かつてなら起こり得ない奇跡だった。
だが、カシオスが多くの奇跡を魅せてきた。
だから、彼らは知っているのだ。
人と神は対等になれると。
そんな父の背中を見て育った龍峰にとって、彼らの伝説は重圧であると同時に眩しく輝く憧れでもあった。
ライバルと認めている光牙が伝説の重圧に打ち勝とうとしている姿を見て、何も感じない訳がない。
龍峰もまた、伝説を背負う覚悟を示したのだ。
背中の竜がその証だった。
光牙にとって、龍峰の存在はライバルであると同時に同士でもあった。
互いに因縁のある伝説の聖闘士のクロスを継承した。
伝説の重圧に苦しむ光牙にとって、同じ悩みを共有できる龍峰が成長していく姿は、自分も負けられないと奮い立たせてくれるものだった。
鷲座《アクィラ》のユナ
彼女は、戦災孤児出身で困窮した生活から盗みを働いていた。
孔雀座の女聖闘士パブリーンと出会い、彼女に師事する事で更生した。
パライストラでは優等生で通っていたが女聖闘士の仮面の掟に内心反発していた。
掟が変わって真っ先に仮面を外した聖闘士の一人だった。
ただ、掟が変わった事を残念に思っている女聖闘士も実はいた。
女聖闘士は、女である事を捨て聖闘士になるための修行にすべてを捧げてきた者達だ。
恋愛については、学ぶ機会などなかった。
そんな女聖闘士にとって仮面を外して素顔を見せるのは確実に好意を伝える伝家の宝刀でもあったのだ。
恋愛弱者にとっては、ある意味都合の良い掟だったのだ。
だが、ユナはそんな風には思わなかった。
掟を利用しなければ想いを伝えられないなど聖闘士にふさわしくない。
勇気を持ってガンガン攻めていく。
恋も戦いも同じだ。
旅の途中、アリアを巡って争う光牙とエデンを呆れた目で見ていた。
マルスの攻撃がアリアを襲った時には、誰よりも早く動いて攻撃範囲からアリアを救い出した。
その後、アリアの気持ちそっちのけで争う男二人に説教をかました。
説教を受けた事で、エデンの執着が何故かアリアからユナに変わっていた。
エデンは、自分の正体がマルスの息子だと告白。
ユナのために父マルスへの反逆を宣言した。
マルスの息子であると判明したオリオン座のエデンを加えた5人で闇の神殿を訪れていた。
ここで光牙は、自分の中の闇と対峙して克服するつもりなのだ。
今まで、光牙は自分のコスモの属性は光と闇だと思っていた。
だが、光のコスモはアリアのものだった。
守ろうと思っていたアリアに守られていた。
思えば、自分はずっと守られていた。
沙織にも、星矢にも、シャイナにだって守られてきた。
これからは守る側になると誓ったのだ。
自分の属性である闇のコスモと向き合い、制御する。
それが、俺の聖闘士としての最初の一歩だ!
闇の神殿の祭壇に立った事で光牙の中の闇のコスモが増幅される。
光牙の身体が闇のコスモで満たされ、肌の色が黒くなり瞳も赤黒くなる。
それでも、光牙の身体は動かない。
闇の神アプスが支配できていないのだ。
光牙は、自分の精神世界でアプスと対峙していた。
ここから先は、心の強さが試される。
自分を貫く事が出来るか?
闇の神アプスに屈し、支配されるか?
光牙に悲観はない。
神を相手に己が意志を貫く。
それはもう、奇跡でも何でもない。
今まで、カシオスが何度だって示してきたものだ。
なら、俺にだって出来る。
そう信じる事が出来た。
強い意志を込めた瞳をアプスに向ける。
その視線を受ける闇の神アプスは歓喜の表情を浮かべていた。
ようやく、ようやくこの時が来た。
この少年は、最高の依代となる。
13年かけて、少しずつ闇に染めてきたのだ。
光のコスモに邪魔をされて遅々として進まなかった。
シャイナによって消されかけた事もある。
その時に目覚めた光牙のコスモの属性が闇だったため、そのコスモに紛れる事でシャイナの目を誤魔化した。
そこまでして、ようやくたどり着いたのだ。
決してこの少年は逃がさない。
必ず自分の物にして見せる。
ここまで来て、光牙のコスモであると擬態する必要はない。
神としてのコスモを解放していく。
人間の精神世界などすぐに染め上げ、支配してやる。
光牙からもコスモが立ち昇る。
それは、アプスと同じ闇のコスモだった。
自分の生来のコスモの属性が闇である事を受け入れていた。
今まで自分を守ってくれていた光のコスモはアリアのもの。
だからこそ、もう光のコスモには頼らない。
自分の力で勝たなければならない。
「うおおおお!」
光牙がアプスに襲い掛かる。
拳にすべてのコスモを込めて殴る!
何度も、何度も!
光牙に一方的に殴られながら、アプスは確信していた。
有利だ!
虚勢でも何でもない。
ただの事実として、ここでは俺が有利だ!
精神世界ではクロスを使えない。
アプスもまた神衣を使うことは出来ない。
互いの剥き出しのコスモをぶつけ合う。
ここでは、そんな戦いしか出来ない。
強大なコスモを持つアプスに有利な場所だった。
人間が神との差を埋めるための神器を此処では使う事が出来ないのだから。
次の瞬間、アプスのコスモが爆発した。
光牙が圧倒的な力で殴り飛ばされていた。
「残念だったな、少年。
お前は神のコスモを侮った。
誰もがカシオスの様にはなれない」
光牙は、甚大なダメージを負いながらも立ち上がろうとしている。
(なんて強大なコスモだ。
カシオスさんは、こんな奴らを相手に自分を貫いてきたのか)
兄弟子の偉大さを改めて感じていた。
たった一撃で立ち上がる事すら難しいダメージを負ってしまった。
いや、違う!
ここは精神世界だ。
肉体的なダメージはない。
なら、これは精神が負ったダメージ。
神のコスモをぶつけられた衝撃で精神が負けを認めようとしているのだと気付いた。
(ああっ、情けないな。
でも、俺はシャイナさんの弟子だ!
カシオスの弟弟子なんだ!)
心を奮い立たせる。
神の力が強大である事くらい知っていた。
聖域に侵攻した5柱の神の力をその目で見たのだ。
「俺は、アテナを守る聖闘士。
伝説のクロスを受け継いだ男、ペガサスの光牙だ!」
光牙の叫びと共にコスモが激しく荒れ狂う。
精神世界を覆い尽くそうとしているアプスのコスモを切り裂いていく。
再び光牙とアプスが激突する。
光牙の攻撃を受け、アプスも反撃を返していく。
もう光牙は、吹き飛ばされたりしていない。
神を相手に互角の戦いを演じている。
だが、アプスには動揺も焦りもなかった。
(少年よ、お前は大した奴だ。
だが、お前は俺には勝てない。
何故なら、お前のコスモが闇属性だからだ)
闇のコスモで闇の神は倒せない。
コスモを高める事でダメージは通っているが、その属性では闇の神を滅ぼすことは不可能なのだ。
やがて、両者の均衡は崩れ、再び光牙が劣勢へと立たされてしまう。
「ふははははっ!
少年よ、恨むなら自らの属性を恨むのだな。
闇のコスモでは俺には勝てない。
闇に打ち勝つのは光か、より強大な闇のみ!
人間如きの闇で、俺は滅ぼせない」
そんなアプスの言葉を聞きながら、光牙はカシオスの伝説の一つを思い出していた。
カシオスは、自らを日陰者だと言う。
決して正義などとは名乗らない。
それでも、カシオスの姿は輝いて見えた。
(そうだよな。
正義や光じゃなくたって構わない。
悪や闇だって輝けるんだ!)
光牙の拳が疾る!
「うおおおおおおおお!?」
アプスの闇のコスモを切り裂き、仰け反らせる。
次は腹部に叩き込む。
アプスの身体がくの字に折れる。
何故だ?
この攻撃は、今までとは明らかに違う!
俺が、この攻撃に危険を感じている。
光牙の属性が闇である以上、あり得ない事のはずだった。
そして光牙のコスモを目にした事で驚愕に染め上げられた。
光牙のコスモが輝いていた。
だが、光属性のコスモではない。
属性が変わった訳ではなかった。
だが、辺りを埋め尽くすアプスの闇のコスモの中で光牙の周りだけが輝いていた。
それは、言うなれば漆黒の輝き。
闇が輝くと言う矛盾が目の前にあった。
「な、何なのだ、それは!」
「闇が暗く、邪悪な物だと誰が決めた?
例え神が決めたのだとしても、それなら俺が否定する!
闇にだって輝きを放つ事が出来るんだ!」
そう言って光牙は、アプスを殴る。
輝く漆黒のコスモを纏う光牙の攻撃は、一撃毎にアプスを怯ませる。
「消えろぉぉぉ!アプス!
俺は、闇でも大切なものを守ってみせる!」
光牙の輝く漆黒のコスモが辺りを侵食し、アプスを包み込む。
その輝きの中でアプスは、消滅していった。
光牙の身体が闇に染まってから、仲間達は光牙を信じて見守っていた。
そして、突然光牙の身体からコスモが溢れる。
それは、輝く漆黒のコスモだった。
そのコスモが収まった時、そこにはいつもの光牙がいた。
仲間達は、すぐに理解した。
光牙が闇の神に打ち勝ったのだと。
「やったな!光牙!」
「信じてたわよ!」
「ふっ、それでこそ光牙だ!」
「輝く漆黒か、大したものだ」
仲間達の祝福を受けて、光牙も嬉しそうにしている。
だが、浮かれてばかりもいられない。
まだ、始まりに過ぎないのだから。
マルスとの因縁に決着を着けなければいけないのだから。
黄金聖闘士やカシオスを信じてない訳ではない。
自分達もマルスと因縁がある。
当事者として、他人任せには出来ない。
だから、立ち向かうのだ。
新たなペガサス伝説は、始まったばかり。
伝説は、これからも紡がれていく。