喧嘩師《セイント》カシオス   作:ソロモンは燃えている

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熱き血潮の神々

 

 

 

 火星の神殿にてマルスは苛立っていた。

 

「おのれ!なぜ上手くいかん!

 パラスによる十二宮踏破での黄金聖闘士に対する被害がないだと。

 これでは意味がないではないか!」

 

 自らの策がタイタン以外のパラサイトが動かなかった事で全面戦争に至らず、不発に終わった。

 まさか、仕えるべき神であるパラスをほとんどのパラサイトが放置しているなどマルスの理解を超えていた。

 

 聖域に集った神々の攻撃で黄金聖衣の殆どは砕かれていた。

 アリエスのキキが必死に修復しているが、タイタンが攻め込んだ時点では最強の黄金聖闘士と認められていたハービンジャーのクロスを筆頭に僅かな数しか蘇っていなかった。

 もしも、ハービンジャーが抜かれていれば黄金聖闘士に壊滅的な被害が出ていた可能性もあったのだ。

 ハービンジャーが意地を見せ、聖域を守り抜いた事でマルスの思惑とは別の方向へと向かってしまった。

 

 

 その後の策略も上手くいかなかった。

 娘であるスコーピオンのソニアを通じて黄金聖闘士の一部を切り崩した。

 黄金聖衣の修復を後回しにされた事で劣等感を抱えていた水瓶座《アクエリアス》の時貞に至っては、力を与えると囁き、クロスに呪いを掛けて操り人形にする事に成功した。

 他にも弱みや欲望に付け込んで数人の黄金聖闘士を取り込み反乱を起こさせた。

 

 だが、それも上手くいったとは言えない。

 星矢や紫龍、カシオスと言った手強い者達を偽の情報で聖域から引き離した上で事を起こしたと言うのに、光牙達と言うノーマークだった若き闘士達によって阻止されてしまった。

 操られていた時貞や弱みに付け込まれて裏切った者が、資格がないと聖闘士を辞したくらいが成果であった。

 

 ソニアに至っては、完全に袂を分かちアテナ側に付いてしまった。

 それどころか、成果を上げられぬと見限り処分しようとしたアリアの抹殺にも失敗し、それがきっかけで息子のエデンにすら反逆される始末だ。

 

 何もかもが上手くいかない苛立ちで荒れていた。

 そんなマルスを妻のメディアが冷めた目で見ていた。

 

「情けない男ね。

 この程度の男だったなんてガッカリだわ」

 

「なんだと!」

 

「ふん、策略を否定なんてしないけど、今の貴方は姑息な策ばっかりに頼っているわ。

 盤石な体制の聖域に大きな効果がある訳ないじゃない」

 

 夫に黙って様々な策謀を進めてきたから分かる。

 今の聖域には、隙が極端に少ない。

 生半可な策では、すぐに食い破られて終わってしまう。

 

「策ばかりに頼る今の貴方、まるでエリスみたいよ」

 

 最後までマルスをバカにしたような態度でメディアが部屋を出ていく。

 

 残されたマルスの身体は震えていた。

 プライドを傷つけた妻への怒りで震えているのだろうか?

 

「ふふっ、ふはっはっはっはっ!

 なるほど、エリスのようか!

 感謝するぞ、メディアよ。

 私がすべき事を思い出させてくれた」

 

 マルスは戦争の神だ。

 策は戦争の一部でしかない。

 であるのに、まるで騒乱と不和の女神のように内部分裂などの聖域の戦力を落とす事ばかりに注力していた。

 いつの間にか詭道に頼り切っていた。

 本当にすべき事は、戦争の王道に立ち返る事だった。

 それは、相手より強大な戦力を用意する事。

 

 もちろん簡単な事ではない。

 聖域の戦力は大きい。

 シャイナやカシオスなど突出している者。

 彼らに影響されたのか黄金聖闘士達も隙のない実力者が揃っている。

 さらに光牙などの若手も成長著しい。

 

 聖域の戦力を冷静に分析してみると、今までの自分がいかに間違っていたのかが分かる。

 こんな相手に裏工作などしても効果が上がらないのは当然ではないか。

 彼らは、確かな信念を持って毎日成長しようとしているのだ。

 

 マルスは、すぐに行動を起こす。

 マーシアン達を集めて訓練を始めた。

 

 軍神と呼ばれた男の言葉にこんな物がある。

 

『やってみせ、言って聞かせ、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ』

 

 マルスも軍神として、この真理は当然理解している。

 マーシアン達の前で、誰よりも泥に塗れ、汗と血を流しながら厳しい訓練を行なっている。

 その姿を前に、マーシアン達も必死に訓練に喰らい付いていく。

 このままでは、我らは弱兵と誹られる。

 訓練の前にマルスが言っていた。

 今の我らではアテナ軍との戦いに勝てぬ。

 我らは弱い。

 ならば、強くなればいいのだ!

 戦争の王道、相手よりも強い軍を作る。

 戦争の神たる我と我が配下たるマーシアン達になら不可能な事ではない!

 

 マーシアン達は悔いていた。

 忠誠を捧げているマルスに、自らが弱いと思わせた自分達の不甲斐なさにだ。

 彼らは決意していた。

 次の戦場で必ず証明する。

 勇将の下に弱卒なし。

 精強なるマルス軍の姿を見せつけて、マルスの誇りを取り戻すのだと。

 

 聖域との戦いに向けて、マルス軍が心と身体を鍛え上げようとしていた。

 

 

 

 神殿に戻ったアベルの前で3人のコロナの聖闘士達が跪いている。

 そんな彼らの前でアベルは荒ぶっていた。

 

「シャイナの力に恐怖を感じてしまった!

 あの背中を前に動く事が出来なかった!

 他の神の力を当てにしてしまっていたのだ!」

 

 神としての圧倒的なコスモが、彼の心を表すかのように激しく燃え上がっている。

 コロナの聖闘士達は、長くアベルに仕えているがこのような姿は初めて見る。

 彼らも信じられなかった。

 まさか、アベル様が人間如きに恐怖を感じる日が来ようとは。

 アベル様の顔は、どれほど屈辱で歪んでいるのだろうか?

 コロナの聖闘士達は、恐る恐る顔を上げた。

 彼らが目にしたアベルの顔は、

 

 

「おもしろいじゃないか・・・」

 

 獰猛な笑みを浮かべていた。

 その顔を見て、コロナの聖闘士達は背筋に冷たい痺れを感じるほど恐怖した。

 同時に心が高揚していく。

 

(ああっ、やはりこの方は変わらない。

 それでこそ、アベル様です)

 

 人間に恐怖を感じた。

 アベルは、そこで立ち止まるような神ではない。

 かつて、太陽の位置まで上り詰めようとしたのだ。

 自らの地位が奪われる事に恐怖したアポロンが、卑怯にも父神のゼウスに頼り、2神がかりで封印された。

 その時も怯まずに進み続けていた。

 

 ならば、今回も同じだ。

 相手よりも上に登ればいい。

 目指すべき高みを見せてくれたのだ。

 アベルはシャイナに感謝すらしていた。

 かつて太陽神の地位を望んだとき以上に心が熱くなる望みを持てたのだ。

 

「我が聖闘士達よ。

 訓練に付き合ってもらうぞ!

 私は、シャイナを超える!」

 

「「「はっ!」」」

 

 神話の時代に遥か高みを目指した神が、現代においても高みを目指し始めた。

 彼は、どこまでも上り詰めていくだろう。

 それが彼の神としての在り方なのだから。

 

 

 

 神殿でアポロンは悩んでいた。

 妹であるアテナは、人間に肩入れしすぎている。

 聖戦の度に地上を守るために傷付き、配下の聖闘士達が倒れていく姿を見て涙を流す。

 そんな姿を見続けてきたのだ。

 これ以上、傷付く姿は見たくない。

 今回、聖域を訪れたのもそんな想いからだった。

 神には神の、人間には人間の生き方がある。

 そう教えたかったのだ。

 人間は脆く、守ろうとしてもすぐに壊れてしまう。

 だから、正しい距離感を学べと教えるために。

 

 だが、その想いが揺れている。

 今、アテナの下にはハーデスに打ち勝ったカシオスと、そのカシオスの師であり、完全な神すら一撃で消滅させるシャイナがいる。

 正直、なぜ彼らが大人しくアテナの下に付いているのか理解できない。

 彼らが反旗を翻せば、確実にアテナを滅ぼし、取って代われるだろう。

 かつてのサガの乱など比較にならない。

 実力による正面からの簒奪が可能なのだ。

 

 神としては、そのような存在を認める訳にはいかないだろう。

 兄としても、神を滅ぼせる存在が妹の側にいるのは不安がある。

 なのに、シャイナを前に動けなかった。

 

 分かっているのだ。

 自分が臆病者である事など。

 神としてのプライドで、そう見えないように振る舞っているが、かつてアベルに太陽神の地位を狙われた時、一人で立ち向かう事が出来なかった。

 ゼウスも、アベルの野心の大きさに警戒していたからと頼ってしまった。

 本当にアテナが大切なら、過去の聖戦でも手を差し伸べていただろう。

 だが、出来なかった。

 ハーデスやポセイドンと事を構える覚悟がなかった。

 神としての尊大な態度で誤魔化しているが、そんな情けない自分を嫌悪していた。

 

「相変わらずの顰めっ面ね。

 太陽神とは思えないわよ」

 

 そんなアポロンにもう一人の妹『アルテミス』が会いに来ていた。

 

「アルテミスか、何をしに来た?」

 

「あれだけの神々が動いたのだもの。

 見ていたわよ、聖域での騒動」

 

「なら、分かっているだろう。

 人間が分を超えた力を持とうとしている」

 

「そうね、でも、それがいけないことかしら?」

 

「なに?」

 

「彼らの存在で、あの子の周りは大きく変わったわ。

 あれ程、争ってきたハーデスやポセイドンとの関係も穏やかなものになった」

 

「それは認めよう。

 だが、あの力は危険だ!」

 

「もう、遅いわ。

 彼らの力は、すでに世界に刻まれた。

 人間はここまで至れるとね」

 

 一度、世界に示された以上、いずれ続く者が現れる。

 今、彼らを排除しても意味がない。

 神殺しが可能となる前に。

 神を超える可能性を示した時点で排除しなければならなかった。

 アルテミスは、そう言っているのだ。

 

「どうせ、兄上には、あの子のためにシャイナの前に立つ勇気はないでしょう?

 あの子が人間を愛してる限り、裏切る事はないでしょうし、彼らに任せたら?」

 

 アルテミスは、アポロンの本質を見抜いていたようだ。

 

 そんな妹の言葉に顔を赤くしてしまう。

 妹のために身体を張る勇気がない。

 情けない兄である事は自覚している。

 それでも捨てられない兄としての矜持があった。

 

 いつか、神殺しの力を持つ人間がアテナに反逆した時、妹の前に立って守れる力が欲しい。

 今までのアポロンにはなかった覚悟を宿した顔で去っていく。

 その後、彼は身体を鍛え始めた。

 今まで望んでいただけだった、大切な妹達を守るための力を本気で手に入れようと努力を始めたのだ。

 必ず、妹達を守れる力と勇気を手に入れる。

 シャイナの前に立って、それを証明してみせる!

 

 去っていくアポロンの後ろ姿を見送りながら、アルテミスは微笑む。

 

「あんな顔の兄上は、初めて見たな。

 彼らの存在が神々すらも変えていく。

 しばらく、聖域から目が離せないわね」

 

 

 

 愛の女神パラスが真のパラサイトと名乗り始めたタイタンと旅に出ていた。

 他のパラサイト達は置いていかれた。

 パラスではなく、サターンに忠誠を誓っていたことをパラスに見抜かれていたのだから当然の結果だった。

 

 パラスは、自分の世話をしてくれるタイタンだけは信じたかった。

 だから試したのだ。

 十二宮踏破と言う無茶を言い出した自分のために行動してくれるのかを。

 アテナとのお茶会から帰った後、タイタンにすべてを話し謝った。

 タイタンは、自分こそ貴女を不安にさせていたと謝り、改めて忠誠を誓った。

 

 パラスは、タイタンと言う、本当に信頼できる存在を得て、愛の女神として進むべき道を見出した。

 

 真実の愛を貫こうとする者達を応援しよう。

 

 そう思って、タイタンと二人で世界を巡る旅に出た。

 

 パラスの活動の影響で、真実の愛に気付き婚約破棄する乙女ゲームなる文化が生まれた。

 しかし、真実の愛を悪用し、利用する転生ヒロインが多数出現してしまう。

 これに激怒したパラスが、今度は悪役令嬢に加護を与える。

 こうして、ざまぁと言う文化も生まれたのだった。

 

 神々が熱い戦いをしている中で、パラスは文化に多大な影響力を持つようになっていった。

 

 

 

 置いていかれたパラサイト達に、真の主であるサターンから命令が下された。

 

 他の神々の侵攻に合わせて聖域を攻めろ。

 

 この命令だけを残し、サターンも姿を消した。

 いったい彼はどこに行ったのだろう?

 残されたパラサイト達は、困惑しつつも命令を実行するための準備を始めた。

 聖域を攻めた時に、再び主人の姿を見る事が出来るだろうと考えて。






神達が修行を開始しました。

神々から見た聖域の戦力

ネームドキャラ:黄金聖闘士達、光牙など多数

中ボス:カシオス、星矢など伝説の聖闘士達

ラスボス:シャイナ

助っ人枠:ハーデス軍、ポセイドン軍

複数の神陣営が集えば、十分な脅威になると思ってましたが、神々側が修行でもしないと無理ゲーに思えてしまいました。
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