喧嘩師《セイント》カシオス   作:ソロモンは燃えている

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山の日企画です。


神々の祝日

 

 

 

 その日、オリンポス山の頂上に位置する天界に激震が走る。

 カシオスがオリンポス山に足を踏み入れ、ゆっくりと登り始めたのだ。

 

 ついにカシオスが天界にカチコミをかけてきたのか!?

 

 オリンポス十二神達はざわついていた。

 彼らには、心当たりがあったからだ。

 カシオスがハーデスを下した時、神を傷つけた人間を許すことが出来ず、死神をけしかけた。

 まさか、死神にすら殺せない人間がいるなんて考えてもいなかった。

 だが、カシオスは死神を退け、今もゆっくりと天界に近づいて来ている。

 

 どうする?

 下手な戦力を送っても返り討ちに合うのは必定。

 

 いや、そもそもカシオスだけなのか?

 他の聖闘士達も動いているのではないか?

 ましてや骨抜きにされたハーデスやポセイドンも協力しているかもしれない。

 迂闊に動くのは危険だった。

 

 オリンポスの神々が必死に情報を集め、状況を理解しようとしている。

 それでも他の聖闘士や神の動きは確認できずに時間だけが流れていく。

 

 もう、カシオスが天界に足を踏み入れるのも目前になろうとしていた。

 ここに至って、神々も覚悟を決めた。

 どうやら、カシオスは本当に一人で来たようだ。

 

 人間がたった一人で神々の領域に足を踏み入れようとしている。

 

 舐められている!

 

 神々の心に怒りが生まれる。

 たった一人で我らを相手に出来ると思い上がっているのか!

 カシオスの行動に散々振り回されてしまった事がまるでそれを肯定しているかのようではないか!

 

 天界に残っている神々の総力をもってもてなしてやろう。

 そう意気込んでカシオスを待つ。

 

 

 

 そして、その時が訪れた。

 カシオスがオリンポス神殿に到達したのだ。

 現れたカシオスの姿に神々は度肝を抜かれた。

 彼が担いでいたもの、それは巨大な猪だった。

 

 オリンポス山の頂上付近、天界に最も近いその場所は、神々のコスモの影響を受けて神秘が色濃く残っている。

 それは当然、その地に住む動物達にも影響を及ぼしている。

 ここでは、神話の時代において英雄が対峙するような強大な動物達が生息していた。

 その猪も、そんな動物の一つだった。

 

 彼はその地において頂点に立っていた。

 その日も、彼の縄張りに入ってきた侵入者を蹴散らすだけのはずだった。

 

 山の中でカシオスの前に姿を見せた猪、それは体高5メートルにも及ぼうかという規格外の大きさだった。

 いや、大きさだけではない。

 その巨大から放たれる獣の生命力は、太古の時代に生息していた恐竜にすら匹敵するかもしれないほどだ。

 

 カシオスが背負ってきたリュックサックを地面に置き、大猪と対峙する。

 かつての世界でほんの少しだけ触れ合ったピクル。

 彼が戦ってきたのはこう言う奴らだったのだろう。

 そんな存在と戦う機会などないと思っていた。

 だからこそ、この奇跡のような出会いに感謝した。

 もちろん、コスモなど使わない。

 かつてピクルがしていたように、己の身体一つで向き合うのだ。

 大猪とカシオスがぶつかる轟音が辺りに響いた。

 

 

 その神話の戦いの結果が目の前にある。

 背負っていた大猪をカシオスが地面に下ろした。

 そして、背負っていたリュックも下ろし、中に手を入れる。

 

 その姿に神々の緊張が高まる。

 何を出すつもりだ?

 武器か?

 

 そんな神々の視線が集まる中で、リュックから取り出されたのは・・・酒だった。

 

 次々と取り出され、並べられる酒瓶。

 リュックの中身は全て酒だった。

 

 そして、おもむろに木の枝を集めて火を付け、焚き火を始める。

 次いでカシオスは、その握力で大猪の肉を引きちぎり、木の枝に突き刺して焚き火にかけ始めた。

 酒を並べ、肉を焼いている。

 その姿からオリンポスの神々は、カシオスが戦いに来たのではないとようやく理解した。

 

 だが、やはりカシオスの行動が理解できない。

 この男の目的はなんだ?

 

 周りがカシオスの真意を図りかねている中、動いたのは、やはりあの神だった。

 オリンポス十二神の頂点に立つ男。

 アテナの父でもある大神ゼウスだった。

 

「のう、カシオスよ。

 いったい何をしとるんじゃ?」

 

「・・・肉を焼いている」

 

「それは見れば分かる。

 何故、こんな所でやっとるのかが分からんのだ」

 

「ここがこの辺で一番高い山だからだ」

 

「ふぁっ、高い山だからじゃと?」

 

「ああ、そうだ」

 

「いったい何故、そんな事を?」

 

「山を楽しむ、今日はそんな日だ」

 

「ふむ」

 

 今日は、カシオスの前世の日本において山の日と呼ばれる国民の祝日だった。

 如何にゼウスとて、そんなカシオスの考えを全て察する事は出来なかったが、今日と言う日がカシオスにとって山を楽しむ日だという事だけは理解した。

 

 今日のカシオスの行動を思い返してみる。

 大量の酒を担いで山に入り、そこで猪を仕留める。

 そして、山の頂上で焚き火をして肉と酒を楽しもうとしている。

 確かにとても平和的な行動だ。

 カチコミだ、なんだと騒いでいたのは自分達の取り越し苦労だったわけか。

 ゼウスの身体から力が抜ける。

 緊張で張り詰めていた身体をようやくリラックスさせる事が出来たのだ。

 

 ゼウスから敵対の意思が消えたのを感じたのか、カシオスが焼けた肉を差し出す。

 

「ほっ、くれるのか?」

 

「言っただろう?

 今日は山を楽しむ日だ。

 焚き火は、大勢で囲んだ方が楽しいもんだ」

 

 そう言って、酒も渡してきた。

 カシオスも自分の分の酒を開け、口に流し込んでいる。

 その様子にゼウスも完全に毒気を抜かれてしまった。

 

「では、遠慮なく頂くかの」

 

 こうして、二人の宴会は始まった。

 突然酒盛りを始めたゼウスに他の神々が恐る恐る声を掛ける。

 

「あの、ゼウス様、よろしいのですか?」

 

「なんじゃ、お前らも聞いていたじゃろ。

 ただ山を登って、肉と酒を楽しんでるだけの人間にいつまで殺気立っているつもりじゃ?」

 

 お前らも参加せんかい!

 わしの秘蔵の酒も出すぞ!

 

 自分達のトップに立つゼウスがこの調子では、話が物騒な展開に向かうわけもなく、各々の神が酒や食材を持ち寄り、宴会は大いに盛り上がった。

 

 その宴会の中で神々は不思議な感覚を覚えていた。

 あの男は、焚き火は大勢で囲んだ方が楽しいと言った。

 確かに楽しいのだ。

 ただ、焚き火を囲んで酒宴をしているだけだと言うのに。

 思えば、こんな単純な宴会もオリンポスでは行われた事などなかった。

 それぞれの神殿に籠り、地上の覇権だなんだと争いばかりしていた。

 それなのに、今、こうしているとそんな事で争っていたのが馬鹿に思える。

 神々の序列だとか、地位と言った事を気にせず、酒を飲む。

 たまにはこういうのも悪くない。

 そう感じていた。

 

 存分に酒と肉を楽しんだ後、カシオスは帰っていった。

 神々の中にも、この日は楽しい日と記憶された。

 

 これを切っ掛けに天界で新たに山の日と言うものが定められた。

 その日だけは、普段の諍いや対立を忘れ、焚き火を囲んで酒を飲み交わす。

 神話の時代から争ってばかりいた神々が、少しだけ穏やかに過ごせるようになったのだった。






なんとも野生的なハイキングとバーベキューの回でした。
花山の時も山に入って巨大猪を仕留めて食べていたし、カシオスにとってはレジャーみたいなものですね。
ちなみに大猪は、G級ドスファ◯ゴをイメージしています。
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