喧嘩師《セイント》カシオス   作:ソロモンは燃えている

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やはり、シャイナさんには勘違いがよく似合う。


シャイナの修行

 

 

 

 聖域の訓練場でシャイナがシミュレーションをしている。

 シミュレーションとは何か?

 マリンがカシオスとの試合前日に星矢にさせようとしていた修行の一つだ。

 対戦相手をイメージし、その幻影を相手に戦う。

 ボクシングで言うシャドーと同じようなものだ。

 ただ、聖闘士が行うシミュレーションは、実際にダメージを受けるほど実戦に近いものであるが。

 

 シャイナは、極限までコスモを高めて訓練場を高速で動き回る。

 対戦相手のイメージは、巨漢の戦士であった。

 激しく、苛烈に攻め立てるシャイナ。

 しかし、幻影の戦士は揺らぎもしない。

 

「毒蛇の牙、サンダークロウ!」

 

 全力の技を繰り出す。

 それすらも幻影は受け止めてしまう。

 

 幻影が動き出す。

 

 ぐぐぐぐ・・・

 

 拳を握り、背中を見せるほど身体をしならせる。

 

(来る!)

 

 幻影の戦士から拳が放たれる。

 それは、シャイナの反応速度を超える速度で迫る。

 回避は不可能。

 そう判断し、両腕をクロスしてガードする。

 

 拳が当たった瞬間、ガードした腕ごと破壊されそうな衝撃が身体中を走り抜ける。

 耐える事もできずに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。

 

「くっ!」

 

 シャイナは、しばらく立ち上がれない程のダメージを受けていた。

 幻影の戦士も消えていた。

 

「やはり、カシオスに勝てない」

 

 そう、シャイナがイメージした対戦相手はカシオスだった。

 

 

 シャイナは、カシオスと星矢の試合が終わってからずっとこの修行を行っていた。

 カシオスが修行をしなくなってから、シャイナはあの手この手で修行させようとしてきた。

 最終的には、身の程を知らせようと全力の技さえぶつけた。

 それでも、カシオスは揺らがなかった。

 無意識に手加減してしまった。

 当初は、そう思っていた。

 だが、本当にそうだろうか?

 カシオスと星矢の試合を見て、シャイナにはある疑念が生じていた。

 それから、シャイナはカシオスを観察した。

 カシオスの性格、出来る事、出来ない事。

 カシオスと言う男を研究したのだ。

 それをイメージに反映させて、シミュレーションを繰り返してきた。

 結果は全敗。

 シャイナは、カシオスに勝てない。

 それが真実だった。

 

「やはり、あの時、手加減なんかしていなかった。

 全力で技を出し、それでもカシオスに届かなかったんだ」

 

 シャイナが仮面の下で唇を噛み締める。

 弟子がいつの間にか自分を超えていた事が悔しいのだろう。

 

「情けない。

 カシオスに修行をさせようとするあまり、自分の修行を疎かにした結果がこれか・・・」

 

 シャイナは、女である事を捨て聖闘士になったのだ。

 やはり、闘技者として弟子に負けるのは悔しいと感じてしまうのだろう。

 弟子の成長を喜ぶほど達観できる歳でもなかったようだ。

 

「まさか、聖闘士候補生のカシオスや星矢ごときを強いと感じてしまうほど、腕やコスモが錆びついていたとは」

 

 ・・・訂正しよう。

 彼女は、自分が弱くなったと思っているようだ。

 

「こんなんじゃ、聖闘士なんて恥ずかしくて名乗れない。

 早く白銀聖闘士として相応しい実力を取り戻さなければ!」

 

 こうして、シャイナはカシオスの幻影を相手に修行を重ねていく。

 まずは、雑兵のカシオスに勝てるようにならなければ。

 他の聖闘士に目を向けるのはそれからだ。

 

「待ってろよ、マリン!

 お前のライバルとして恥ずかしくない実力を取り戻してやる!」

 

 こうしてシャイナは、修行に明け暮れていった。

 ライバルだと認めているマリンと再び対等になるために錆びついた腕とコスモを磨き上げていく。

 

 

 その頃、マリンは聖闘士としての直感で何かまずい事が起きていると感じていた。

 

「えっ!ちょっと、こう言うのはシャイナのポジションだったじゃないか!?」

 

 

 

 時は過ぎ、銀河戦争などと言う私闘を行った青銅聖闘士たちを粛清するために白銀聖闘士たちが派遣された。

 シャイナは、自分の修行に集中したかったが教皇からの命令に逆らうわけにもいかない。

 他の白銀聖闘士たちと共に日本へ向かった。

 

(やはり、私は弱くなっている。

 他の白銀たちが隠している実力を感じることが出来なくなっている。

 こいつらが、弱いとしか感じられない)

 

 

 そして、久しぶりに星矢と会う事になった。

 星矢は、気を失った城戸沙織を抱えている。

 星矢達の後ろは崖になっていた。

 落ちたら、ただでは済まないだろう。

 前にはそれ以上の脅威があった。

 鳥星座《クロウ》のジャミアンと蛇遣い座《オピュクス》のシャイナがいるのだ。

 星矢にとって状況は絶望的だった。

 ジャミアンだけなら、どうとでもなる。

 こいつは大した事ないと感じていた。

 だが、シャイナがいる。

 彼女は、カシオスの師匠だ。

 当然、カシオス以上の実力を持つと言う事だ。

 星矢は、カシオスにすら勝てなかったのだ。

 彼女に勝てるビジョンが浮かばない。

 

「ううっ」

 

 星矢の腕の中で沙織が目を覚ました。

 

「目が覚めたかい、お嬢様」

 

「星矢!」

 

「悪いけど、状況は最悪だぜ」

 

 沙織は、星矢の言葉で前を見た。

 確かに白銀聖闘士が二人。

 厳しい状況だろう。

 しかし、今の星矢なら白銀二人くらい、なんとか出来そうだと感じていた。

 そんな沙織の考えを察した星矢が苦笑を浮かべる。

 

「一人は大した事ないけど、もう一人が問題だ。

 彼女は、とんでもない実力を持っている」

 

 沙織は、改めてシャイナを見る。

 確かにただの白銀とは思えない実力があるようだ。

 

「何をコソコソ言っている!

 白銀二人を相手にどうにか出来ると思ってるのか!

 それとも、後ろの崖から飛び降りて自殺でもするか?」

 

 ジャミアンが星矢を追い詰めようとしていた。

 

「おい、ジャミアン。

 私を当てにするなよ。

 弟子にかまけて、自分の修行を疎かにしてしまった事で腕とコスモが錆びついているんだ」

 

「かぁ〜、情けねぇ奴だな。

 まあいい、青銅ごとき俺一人でも余裕だ」

 

 シャイナの言葉を聞いて、星矢達は驚愕していた。

 

(シャイナさんから感じるコスモは、明らかにジャミアンなんかより巨大だ。

 これで錆びついてる?

 さすが、カシオスの師匠だ)

 

(彼女のコスモは、白銀を超えている。

 むしろ黄金に近いと言っても良いほどだわ。

 これで錆びついてると言うのなら、本来の実力は黄金並みと言う事ね。

 そう言えば、黄金に匹敵する白銀がいると聞いた事がある。

 彼女のことだったのね)

 

「お嬢様、この窮地を脱するには飛ぶしかない。

 俺を信じてくれるか?」

 

「もちろんです。

 星矢、あなたを信じます」

 

「なら、しっかり掴まっていてくれよ」

 

 沙織は、星矢の肩に手を回し、しっかりと抱きつく。

 星矢は沙織を抱えたまま崖に近づくと、そのまま飛び降りていった。

 

「なに!本当に飛び降りやがった!」

 

 シャイナには、飛び降りた星矢の姿が流星のように見えていた。

 その高まるコスモは、直後に感じた女神アテナの雄大なコスモの中にあっても、はっきりと分かるほど雄々しく感じていた。

 

「おい、シャイナ。

 奴らの遺体を確認しに行くぞ」

 

「一人で余裕なんだろ?

 私は帰って、修行に戻るよ」

 

「なっ、もう行きやがった。

 なんて、かってな奴だ」

 

 ジャミアンは、シャイナの態度に呆れながら崖下へと向かった。

 

 

(青銅の星矢ごときのコスモを雄々しく感じるなんて、重症だな。

 弟子のカシオスに負けた事で自信を失っているのか?

 こんな弱々しいコスモじゃダメだ!

 一から鍛え直さなきゃな)

 

 シャイナは、聖域に戻って再びカシオスの幻影との修行に明け暮れる。

 シャイナは、真面目だった。

 とりあえずの目標を雑兵のカシオスに勝つ事に定めた。

 カシオスの規格外さに気付いていないシャイナにとって、カシオスに勝てない以上、他の聖闘士を相手にする資格などないと思っていた。

 

 シャイナは気付かない。

 周りからカシオスの師匠という事で、どんな評価をされているのかを。

 

 シャイナは気付かない。

 とりあえずカシオスを超えると言う目標が、どれほど非常識なものなのかを。

 

 シャイナは気付かない。

 そんな無茶な修行を行っている事で、自分の実力がどれほど高まっているのかを。

 

 

 今日もシャイナは修行する。

 雑兵に勝つと言う、聖闘士として最低限の実力を取り戻すために。

 

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