女神様のウッカリで滅びた世界に転生したら、いろいろ勘違いされてめちゃくちゃ甘やかされてるんだが 作:名無しのメカ好き
パチパチ…
「…なあ、ハルマのおっさん。俺も整備手伝おうか?」
空はすっかり星空に変わり、焚火の音だけがするトラックの近く…ハルマのおっさんは俺のマッドドッグに燃料を補給してくれるどころか整備までしてくれている。
手持無沙汰な俺はハルマのおっさんにそう言うが
「いや、君には返しきれない恩があるからね。今はゆっくり休んでてくれないか?」
「……あいよ。」
「ぁぅ~?」
やはり断られて、赤ちゃん用の籠に大人しく入っているルチアに手を掴まれる。
俺が介入したことで悲惨な運命をたどらずに済んだ…主人公。作者の性癖のせいで低評価の嵐と言えども、アレは公式が出したれっきとした…ゲームではたどらない本当の世界線。
こんな小さな子でさえ、強奪され…奴隷に育てられて挙句には下の世話もさせられる世界。
ハルマのおっさんとルチアがいるおかげか…ようやく俺も、今の世界を現実であると受け止めることができている。
でもそれよりも、今俺を悩ませているのはもっと別のモノだった。
(ヒャッハーとはいえ、仕方がなかったとはいえ……俺は、初めて人を殺したのか。)
何と言うか、呆気がなかった。殺した感触なんてせず、ただ”やった”という結果だけが残っている。
燃料をくすねる為に近づいたりもしたが…本当に自分が”やった”という実感がわかない。
(…でも、この体だと何ともないんだよなぁ。)
確かに、俺はマッドドッグで人を殺した。しかし、なんの情もわいてこない。
元々この体はただギャルゲーの世界で馴染むような体なだけである。そのギャルゲーの世界は日本とそんなに変わらず…平和で人殺しなど(シナリオ中では)起きない世界だ。それでも…自分は人を殺した。と自分を問い詰めても、それがどうした?としか考える事しかできないのだ。
(この世界だからこその、倫理観の欠如…か。)
滅びて荒れ荒んだこの世界に転生して…あの女神のウッカリかどうかは分からないが、変に悩むよりかはいいことか。
「だぁ!」
「ん、お前のおやじならそこに居るだろ?」
「キャッキャッ!」
「仕方ねぇ奴だなぁ。」
ウリウリと頬をつつくと、また嬉しそうに喜ぶルチア。
こんな純粋な赤ん坊が、成長するとアケーロスの英雄となるのだ…なんというか、末恐ろしいものだ。自分のことを棚に上げるつもりこそないが…それこそ、ゲーム本編の主人公はアバターが自分がカスタムしたキャラクターとはいえ”一騎当千の英雄”ということは覚えている。それに、ルチアはゲーム本編の主人公ではなく、マンガ版の主人公だ。低評価の嵐で連載こそ途絶えたものの、しっかりとした戦闘が描かれたことはなかった。そうなる前に連載停止になったのだから。
(なあ、ルチア・ギアメーカー。お前は、一体どんなエースになるんだ?)
「ぅ~?」
「…ルチアと遊んでくれていたのかい?」
「っ、あ…ああ。暇だったからな。」
どうやら、ルチアをからかっているところをハルマのおっさんに見られていたようだ。
頬にオイルをつけたハルマのおっさんが作業着のまま焚火の近くに座った。
「かわいい子でしょ、僕の自慢の娘さ。」
「…アンタには似てないけどな。」
「あはは、僕も最初見たときはそう思ったよ…妻に似てるなって。」
ルチアの母親…それはゲームでもマンガでも一切語られていない人物だ。容姿、性格…出身やどんなことをしたのかさえ語られていない謎の多いキャラクター。俺は、そんな人物が気になりハルマのおっさんに聞いてみることにした。
「…アンタの奥さん。どんな人だったんだ?」
「そう、だね。僕にはもったいないような人だったよ。ルチアのように黒髪で…アメジストみたいにきれいな瞳で…性格こそちょっと天然だったけれど、それでも…優しくて陽だまりのような温かい人だったよ。」
ハルマのおっさんは焚火を見ながら、大切な思い出を一つ一つ話す。
出会いはハルマのおっさんが住むコロニーの商業区。休日の買い物に出たハルマのおっさんとハルマのおっさんの奥さん…”ヤヒロ”さんが出合い頭に抱き着いたことだった。
ハルマのおっさんからしてみれば知らない美人な女性がいきなり抱き着いてきたのだから、それは驚いたのだろう。俺でも驚く自信はある。そこから、話が偶然合い…連絡先を交換して、長い付き合いの果てにハルマのおっさんが告白して…そのまま結婚したらしい。
「…そのあと、アローケスからの仕事のお誘いを受けてね。それで…それで、僕だけ先にアローケスに行って……彼女は、ルチアを産んで…亡くなってたんだ。」
「…どうして死んだんだ?」
「ルチアを産むとき、血を流しすぎたらしいんだ。ヤヒロは…血が固まりにくい病気だったからね。」
それを聞いて、俺は…何とも言えなくなる。
確かにこの世界だと殺されるは当たり前、子供だって…何なら赤ん坊が殺される事だって当たり前の世界だ。だけど、病気で死ぬ。寿命で死ぬということは、珍しいことだ。
「…おっさんも、苦労してんだな。」
「僕より苦労している人はしているよ。悲しい思いも、悔しい思いもね……君は、どうなんだい?」
ハルマのおっさんは、優しい目で俺に語り掛けてくる。
「…さあ、な。俺は、物心がついたころにはマッドドッグに乗ってた。」
ハルマのおっさんを騙すことは心苦しいが…俺には、こんな言い訳しかできない。ハルマのおっさんは俺の言葉を真に受けたのだろう。また目を丸くして驚いている。
「両親なんて顔も知らねぇし、親戚なんているかも分からねぇ。だから、マッドドッグだけが俺の家族だった。その日を生きるために野盗団を襲撃したり、傭兵として戦うことしか知らないからな。」
俺の手は、間違いなく人殺しをした。おっさんを助けた時が初めての殺人とはいえ、マッドドッグはデータ上とはいえもっと多くの命を奪っている。中二的な言い方を借りれば、俺の手は血に汚れているのだ。べったりと余すことなく転生したこの小さな手のひらにこびり付いた、殺した他人の命の跡。
俺の隣で嬉しそうに俺に手を伸ばすルチア…きっと、ルチアも俺と同じように戦闘用ロボットに登場して…俺より多くの命を奪うことになるのだろう。だが、それとこれとは別問題だ。
「でも、君はその血に濡れた手であの機体で僕たちを助けた…違うかい?」
「……それは」
「偶然でも、報酬目的でも、結果的に僕とルチアは生きている。あ、どっちにしても報酬はきちんと払うから安心して大丈夫だよ。」
頬についたオイルをふき取りながらニコニコとしているハルマのおっさん。
「…それに、君がもしよければ僕の娘にならないかい?」
「は?」
「あぁ、えーっと養子だよ!変な意味じゃないからね!?」
「いや、そんなことは考えてないが…」
一瞬、ハルマのおっさんが言ったことを理解できなかったが…ハルマのおっさんがボケてくれたおかげで言われたことを理解できた。養子…養子か……確かに、ハルマのおっさんの養子になればアローケスにも行けるだろうし、この世界で安泰を手に入れることはできるだろう。むしろ、俺が最初に願い、望んだことだ。
だけど、俺は…ハルマのおっさんを助ける時スカベンジャーにショットガンをぶっ放した時、別の願いを持ってしまった。”ただ戦い続けたい”、鋼鉄機神の英雄としては一般的な思考を…だけど、子供として…人間としてどこかズレてしまった願いを。
「お、俺は…家族との接し方なんて知らないし…そ、それにどうやって生きればさえ分からないし…」
「…うん。」
前世では、俺の両親はロクでもない両親だった。愛はあったのだろう…たとえそれが義務的な愛だったとしても、仕事が最優先の前世の親父も……子供の事よりも自分の世間体を優先した前世のおふくろも……俺を愛して、くれていたはずだ。それに俺は、この世界の…鋼鉄機神の英雄の世界の本当の生き方を知らない。ゲームでは、描かれなかったところなど…どうすればいいんだろう。
「戦うことしか能のないし、人殺しや強盗もいっぱいしたし……」
「……うん。」
実際、俺にとって鋼鉄機神の英雄は…ゲームの中とは言え生きやすい世界だった。
気の許せる親友たちが居て、バカやっても笑いあえる仲間がいて…架空のこととはいえ、人殺しや強奪も何回もやっている。
でも…
「血もつながってないし……それに、俺は………おれは…っ。」
ハルマのおっさんに言われた、養子という言葉が…うれしくて、怖いのだ。
ハルマのおっさんが…静かに俺の隣に座り、俺を抱きしめる。
ハルマのおっさんの……いや、
俺は…
ソニア・サンダー
前世とは違い、本物の父性に完堕ちしたTS転生者。
肉体年齢に精神年齢が引っ張られたというのもあるが、それ以上に人に愛されたかった。
マッドドッグ
勘違いのせいで、ソニアを悪の魔の手から守った機体と思われている。
それとは別に変な装置とかシステムが組み込まれてないか調べられたが何も出てこなかった。
ハルマ・ギアメーカー
ソニア過激派その1になった義理のパパ。
ソニアのことを、どこかの非人道的な研究所で製造された戦うことしか知らない幼い女の子と勘違いしており、ルチアと一緒に守らないとと躍起になってるパパ。
ルチア・ギアメーカー
血はつながってないけれど、お姉ちゃんがでできた。その内ハルマ以上の過激派になる。