夏油先生と真依のパーフェクトトリオン授業 作:かりん2022
『初めての任務でこういう事を依頼するのは非常に心苦しいが……これは二人で行ってもらう』
夜蛾先生は本当に心苦しそうに告げた。
『んだよ。別にどんな呪霊でも一人で祓ってやるよ』
『せんせー。学生で初めての任務でいきなり高難易度依頼ですか? 留守番してちゃだめ?』
『任務の内容は……テロ組織の制圧だ』
『『なんて?』』
「おい、初っ端からテロ組織って呼ばれてっぞ」
「全く酷いよね」
「可愛く怒っても騙されねーぞ、っていうかてめーの年でぶりっ子してもきしょいんだよ」
資料が渡される。
分厚い資料だった。
人を攫って洗脳する巨大オカルト組織と書かれていて、目を疑った。
創作の世界かよ。
トリガーと呼ばれるオカルト的超科学技術を持っていて、呪術師呪詛師犯罪者を返り討ちにしているらしい。
既に国家とも繋がりができ始めており、上層部が危険視しているとのことである。
囚われている要救助者の中でも、特に夏油傑は絶対に確保しなければならない。
生きて確保、それが無理でも絶対に死体は確保。それが上の命令だった。
『装置を使って洗脳ってなんだよ。なんで人攫いやってて国の公認がもらえんだよ。オカルト的超科学技術ってなんだよ。禪院家から要救助者二人ってガチでヤバいやつじゃん』
ツッコミが追いつかない。
そして、救う対象の者達はことごとくショッカーのごとく洗脳されてて敵に回っているという。
「……初めて五条さんに同情しました。これが初任務……」
「五条先生の初任務はなんでした?」
「僕の時は顔合わせも兼ねて3人で3級複数体の討伐任務。硝子もいたしね。もちろん楽勝だったよ」
「当然だろう。私にも常識はある。いくら強いからってどんな圧力を掛けられれば新入生にそんな任務を振るんだ……」
『せんせー。私無理だと思います』
『俺も無理だと思う。ていうかさ、こういうのって警察か自衛隊の役目じゃね?』
だってテロ組織である。いくら呪術師と言ったって、呪術師でも無理だ。
『オカルト的超科学技術が使われているからということで、話がこちらに来たんだ。俺も心苦しい。また、奴らは子供を狙っている。高校生はギリギリ対象だから潜入も選べる』
『でも機械で洗脳されるんだろ? 組織に入りたいって言っても真っ先にそれ使わされね? 直哉いるならバレバレだし』
『解決できるとしたら、五条悟。お前しかいないんだ』
そう言われて、ぐっと黙った。
『ただでさえきつい任務なんだから、足手纏いはいらない。術式もねーし、えーと』
『家入硝子』
『硝子は留守番してろ。一般出だろ?』
女の子で雑魚だ。
心配なのもちょっとはあったし、マジで足手纏いになる予感しかしなかった。
そして、僕はひとまず、早速おばけ研究所へと向かう事とした。
チープで子供向けな感じが、まさに子供番組の悪役臭がしてすごい。
僕はそんな研究所の前で途方に暮れざるを得なかった。
「新入生でそれはきついな」
「せめて段取りはしてやれよ」
『おや、また襲撃に来たのかい。おや、君はもしや五条悟くんかな』
そう言ったのは子どもを纏わりつかせ、買い物袋を持った白衣の男とラフな格好の救助対象(甚爾)だった。博士は平凡そうな、背の高い、凡庸そうな男というのが正直な感想だった。あと、雰囲気がなんかこう……フワッとしてた。傑みたいに。
甚爾は全然洗脳とかされた感じに思えなくて、とにかく普通だった。なんでさっさと家に帰んねーんだって思ったくらい。
『あんた、ここの博士? テロ組織なの?』
『まさか! 違うよ。ただ、私の作ったおばけを倒す君が兵器転用できるから、それが気に入らないんだと思うよ。正しくは、兵器をお化けを倒す君に転用したのだけど。まあ、どちらも同じだよね。あとは隊員を集めて訓練しているのとかが面白くなかったのかな?』
『国でもないのに兵器を作って兵を集めるのはテロ組織って言わねーの?』
『そうとも言うかもしれないね。そのうち、国の公認は得るつもりだけど』
『そいつが隊員?』
俺は一行を観察した。
一箇所を除いて呪力がなかった。甚爾に至っては完全に呪力がなかった。気味が悪かった。
この六眼は優秀でね。呪力ではないけれど、じっと見れば人間とも微妙に違うと教えてくれた。とてもよく似た別の『物体』。そう判断せざるを得なかった。
甚爾について訊いたつもりだったが、まとわりついていた小学生程の子供達が返事をした。
『そうだよ! 強いんだよ! がおー!』
『がおー!』
『博士、殺すか?』
『君じゃオーバーキルだよ。おーい。華原くーん』
『はーい』
出てきた子は、女の子だった。高校2年生だと後で知った。
その子はガチで頭にツノが生えていた。もちろん呪力は一般人ぐらい。呪霊じゃなかった。
『!?』
『遊んであげてくれ』
ノーモーションで一閃。孤月で迷いもせずに振り抜いてきたよ。
それを避けると同時、子供達も笑いながら立方体を飛ばしたりナイフで一閃したりしてきた。
完全にじゃれついて遊ぶ子猫達だった。武器は本物だけどね。
立方体を術式を使って止めたけど、感覚が気持ち悪いのなんの。
呪力と呪力がぶつかるんじゃない。呪力とトリオンっていう、よくわからない力が干渉しあうわけだからね。僕は術式に頼らず、できるだけ避けることにした。
正直、僕は彼らに触りたくなかった。
だって、呪力を攻撃するでも呪霊を攻撃するでも人間を攻撃するでもない、よくわからない物質に見えるものに触るのはちょっとした勇気がいる。何が起こるかわからないしね。
必然的に、僕が武器を狙うのは当然の事だった。
呪力の籠った武器を破壊すれば、大人しくなるだろう。そう思った僕を誰が責められただろう。
だって、僕は前情報もそんなに与えられてなくて、まだ子供だった。
でも、僕は愚かさの代償を支払う事になった。
武器を破壊したら、バラバラになった子供の死体が転がったよ。
彼らボーダーは、トリガーの中に本体を格納するからね。
『あーあ。殺しちまいやがった。お前、容赦ねーな』
『やはり弱点は見破られるか。凄いね六眼? それとも偶然かな』
いくら御三家だって言っても、これが初めての殺しだった。
小学生の子供。
僕が呆然とした一瞬の間に。華原達にボッコボコにやられた。
立方体が当たると、全身を痛みと痺れで苛まれて、それをいくつも打ち込まれた。
『よっわーい!』
『勝ったー♪ 勝ったー♪』
踊り出す子供達。
淡々と片付けられる死体。
そして、研究所から、傑が出てきたんだよね。
『さて、五条悟か。記憶を抹消した後でも最強でいられるのか。それが問題だ』
「おいおいおいおい」
「ヤベェな」
「でも、生還したんだろ?」
『博士、帰ったのかい? ああ、新しいお友達かな? 私は夏油傑。よろしく』
傑は優しそうに微笑みかけて、僕に装置を近づけた。
『そうだね。記憶の抹消装置は用意できてるかな』
『ええ? 私、新しい実験をする所だったのですが』
『そうかい? うーん。なら、いいか。皆、今日はプリンがあるよ』
『『『やったあ!!』』』
そうして、最後尾の傑は、僕に向かってにっこり笑って人差し指を立てたんだ。
テレビの悪役のような、余裕たっぷりの綺麗な笑みだった。