物騒な東京にフィジカルモンスター(35歳)をぶっこんでみた話 作:ココロ踊りたい
たきな過去話パートになります。
あからさまにキャラ崩壊していますが、申し訳ありません。
何とか懐かせたかったんです。
仕方ねえなと思って見てくださる皆さん、ありがとうございます。
「なあ、ちょっと聞いて良いか?」
座敷で座布団の準備をしていた私に押入れから顔を出したクルミが声をかける。
クルミ・・・その正体はネット黎明期から世界中に名を馳せるウィザード級ハッカー、ウォールナットだ。
彼女はとある組織に接近するために依頼を介してDAの高性能AI『ラジアータ』をハッキングした。
当時銃取引の現場を抑えようとしていた私と当時の仲間はハッキングによる通信障害で本部との連絡が途絶。孤立状態に陥った。
更にチームメイトでセカンドリコリスの蛇の目エリカが人質に捕られており、危機的状況だった。
エリカを救出するために私は置いてあった機関銃で敵を殲滅した。
エリカに当てない自信はあったし合理的な判断に基づいた行動であったのだが・・・
結果私は現場リーダーでファーストリコリスの春川フキさんから鉄拳制裁を受け、命令違反と重要な情報源を潰し作戦を失敗させたとしてリコリコに左遷された。
その後ウォールナット(クルミ)からの護衛依頼(知らされていなかったが、本当の目的は偽装死)で彼女を保護。現在リコリコで匿っているのだ。
先日クルミからハッキングの件で謝罪を受けたが、私は笑って許した。
今となってはDAに戻る気などサラサラない。無茶ばかりするが得難い相棒の千束はいるし、店長もクルミもミズキさんもいい人だ。
それにあの人もいるし。
とにかくリコリコは今や私にとって唯一の居場所になったのだ。
まあ、左遷当時はかなり荒れていたので、その時にクルミの話を聞いていたら躊躇いなく鉛弾ををブチ込んでいたことだろう・・・
「どうしました?クルミ?」
クルミに向き直り続きを促す。
「孝典のことなんだが。千束は分かるが何でお前までそんなに懐いているんだ?」
「・・・そんな事聞いてどうするんです?」
「単なる知的好奇心だ。いや、頼もしいのは間違いないんだ。あの身体能力の高さは驚愕を通り越して、最早楽しみですらある。ただなぁ、あの体格であの人相だろ?正直モンスターか人間か分からな「あ”?」ひゃっ!?」
言うに事欠いてこの似非ロリ何言ってやがりますか!?ブッパしますよ?ゴム弾の痛さを体験しますか?
・・・は!いけない。頭に血がのぼってしまった。
咳払いを一つして努めて笑顔でクルミに話しかけた。
「もう、クルミは仕方ないですね?孝典さんの魅力がわからないとは。わかりました!私がしっかりと教えてあげますね?」
「い、いやボクは端的に聞きたかっただけで」
「あれは私が左遷してきたちょっと後になります・・・」
「語り出しちゃったよ・・・」
数ヶ月前
私は現状に憤りを感じていた。
合理的だと判断して行動した結果。何故か殴られ、本部から追い出された。
転属などと言っているが事実上の左遷だ。
おまけに配属された支部は支部とも言えないような喫茶店、しかも店員のマネごとをやれというのだ。
何がリコリコだ、カモフラージュするならもっと名前を捻れ。
まあ、それはこの際どうでもいい。
目下最大の懸念は相棒になった錦木千束さんだ。
DAに居た頃から彼女の名前は聞いていた。旧電波塔事件をたった1人で解決した英雄。歴代最強のリコリス。
左遷された私だが、そんな英傑から学べるものがあると内心期待していた。
しかし、現在彼女がやっていることと言えばコーヒーの配達に幼稚園の子どもの相手、外国人学校の臨時講師にいなくなったペット探しなど。とてもリコリスの仕事ではないことばかりやっている。
人の役に立つ事をしたい。彼女の言葉だ。なるほど確かにそれは尊いことだ、共感できるところもある。
だが、それは民間レベルでもやれることだ。国家のエージェントである私達が優先することではない。私達がなすべきことは平和を脅かす凶悪犯罪者やテロリストを秘密裏に始末すること。存在していたことすら許さず徹底的に消すことだ。
それが人々の平和を守ることであり、人の役に立つということだ。私はそう信じている。
その時点で反りが合わないのだが、更に彼女は可能な限り不殺を貫くと言うのだ。
一応、生かしておくと甚大な被害を持たらす危険のある犯罪者や凶悪なテロリスト、身近な人に危害を加えようとするものは容赦なく殺すらしいのだが。
彼女の判断基準はいまいち分かりづらい。私から言わせれば犯罪者は綺麗サッパリ撫で斬りにした方が良いと思うのだが。
ちなみに身近な人の区分を聞いてみたところ。まずはリコリコのメンバー、常連の客、それからあの人、らしい。
『あの人』の時の彼女がトロ顔でにへらぁとしながらガミさんと言っていたのが最高に気持ち悪かった。
ガミさんって誰よ?
だが、その件の人物と私はすぐに邂逅することとなった。
いつものように開店準備前の店内で店長や千束と軽い雑談をしていた時のことだ。
「そういえばそろそろガミさん帰ってくるね」
最近彼女の口から聞いたガミさんと言う人物のことだった。
「そうか、たしか出張中だったな?」
「そうそう、鹿児島に行ってるって!夜ぐらいには帰って来るってメール来てた!早く私に会いたいって!えへへ・・・」
幸せそうにトロ顔を晒す千束さん。
「千束さん、そのガミさんというのはどういった人なんですか?」
この前聞けなかった事を聞いてみる。
「ガミさんはね!メチャクチャ強くて、カッコよくて、優しい、私の運命の人だよ!」
「・・・」
なるほど、分からん。
詳細を求めて店長を見る。
「うちの常連客でな、まあ、色々と常識破りなんだ。5年前からの付き合いでな。千束がすっかり懐いてしまったわけだ」
肩をすくめてみせる。
詳細にはならなかった。
「すごいんだよ?銃弾避けるし、金属握りつぶすし、足速いし、高い所から落ちても平気だし。何と言っても私に超優しいの!」
うっとりしながら話す千束さんは恋する少女のそれだが、何とも眉唾な話だ。どこの世界にそんな超人がいるのか?
「強化人間ですか?サイボーグですか?それとも生物兵器ですか?」
「何ていうこと言うの!?ガミさんは一般人だよ?メチャクチャ強いけど会社員だよ?」
そんな一般人がいてたまるか!!
「今日って4月1日でしたっけ?」
「嘘じゃないよ!?たきなも会えば分かるって!」
まあ、疑問は残るがいずれ会うのならその時に確かめればいいか。
「おしゃべりはその辺にして、そろそろ開店の準備をするぞ」
店長の一言で一旦お開きになった。
「ありがとうございましたー」
最後のお客さんが帰っていった。
今日はこれで店じまいだ、私たちはレジ締め、掃除、明日の仕込みをして着物から制服に着替えた。
「ガミさんまだ来ないなー」
千束さんが寂しそうに言う。件のガミさんはまだ現れなかった。
「たきなー、ドアプレート裏返しといてー」
「分かりました」
千束さんに言われてドアの方へ行く。その時丁度ドアが外から開かれた。
お客さん?もう今日は閉店なんだけど・・・腕時計を見ながら思う。
もしかしてガミさんとやらが来たのかとドアの方へ視線を向けた瞬間
「ひっ!」
思わず口から悲鳴が漏れた。
見上げて首が痛くなるような身長、スーツの上からでも分かる図太い筋肉、鬼のような凶悪な顔。
それら全てが統合され圧倒的存在感を醸し出していた。
「あ!ガミさ・・・ってちょいちょいちょい!!」
無意識のうちにサッチェルバックから抜いた銃を構えようとして千束さんに阻止される。
「ちょっとなにしてんの!?」
小声で非難してくる。
「あれはマズい!危険です!先制しないと殺られます!!」
「落ち着け!とりあえず銃しまえ!」
「・・・千束?」
「ご、ごめんねガミさん!ちょっと立て込んでて!座っててね!先生にコーヒー出してもらうから!」
「お、おう」
私は千束さんに引きずられ、裏に連れて行かれた。
「ちょっと本当に何してんの!?」
裏で千束さんにガチギレされた。
あれが例のガミさんだった。色々ブッ壊れスペックだが一般人。あくまで一般人なのだ。そんな相手に銃を抜いたことをすごい剣幕で怒られた。
「す、すみません!あまりに怖くてつい・・・」
冷静になってみればあの巨人は敵対行動を取ってはいなかった。ただただ普通にドアを開けて入ってきただけだ。
「すみません・・・」
改めて自分のやらかしに気づき悲しくなる。
しゅんとした私を見た千束さんは小さくため息をついて優しげな口調で話しだした。
「怒鳴ってごめんね。私も最初にあった時は銃抜こうとしたから、たきなにだけ強く言えないよね」
「・・・千束さんも銃向けたんですか?」
「未遂だよ、未遂。和服だったから持ってなかったの」
「そうですか・・・あの人がガミさんですか?」
「そう、江ノ上孝典さん。怖い見た目してるけど一般人だし、優しいんだよ?さっきのも全然気にしてないと思うよ?仮に撃ってても多分当たらなかったと思うし」
「そうですか?・・・」
銃弾が当たらない一般人ってなんだろうと思ったけど、あえて言わない。
「さあ、戻ろう?ガミさん待たせてるし」
「・・・はい」
2人でホールに戻ると酔っ払ったミズキさんが江ノ上さんに絡んでいた。今までどこにいたのだろうか・・・
「巨人さー!アンタは顔面凶器なんだからさー気をつけなきゃだめでしょーが!」
「うう・・・すまん・・・」
怒られて身を縮める巨人はちょっと面白い。でもミズキさん、おおよそお客さんに対する態度じゃないと思いますよ?
「ガミさんは顔が怖いの気にしてて、女の人や子どもに泣かれると落ち込んじゃうの」
千束さんがこっそり教えてくれる。
本当に悪いことをしてしまった。
「あ、あの・・・」
ショボーンとした顔を向けてくる。なんだろう、さっきとギャップがあってちょっと可愛いかも。
「先程はすみませんでした。あの、ちょっと驚いてしまっただけなんです。本当にごめんなさい」
「こっちこそすまんかった・・・こんな顔やけん、怖がらせてしもうて」
「いえ、こちらこそ本当にすみません」
このまま謝罪合戦になりそうだと思った時に千束さんが救いの手を差し伸べる。
「はいはーい!もうそこまでー!仲直りした所で自己紹介と握手しよー!」
喧嘩はしてないんですけど?
「井上たきなです。最近ここで働き始めました。よろしくおねがいします」
私が手を差し出して。
「江ノ上孝典ち言います。たきなさん?よろしゅうお願いします」
江ノ上さんが手を握って。
私たちは仲直り?の握手をして笑い合った。彼の手は大きくて、包み込んでくれるような暖かさがあった。
あと千束さん?目のハイライト消さないでくれません?あなたが握手しろって言ったんですよ?
「・・・孝典って初めて会うたびに撃たれそうになってんだな?不憫だ。ボクはもう少し優しくしてやろう」
「む、昔の話しですから!数ヶ月前ですけど昔の話ですからね!?」
「最近じゃないか・・・」
クルミが余計な茶々を入れるから脱線してしまいました。
「改めておかえりなさいガミさん!貴方の千束は帰りをずっと待ってましたよ?」
花の咲くような笑顔を向ける千束さん。私は貴方の変わり身の速さにドン引きです。
「ただいま千束!ごめんな、急に出張になって、遊びに連れて行く約束守れんやった」
申し訳無さそうに謝っている。
「仕方ないよぉ、お仕事だもん。でも今度どこかに連れて行ってほしーなぁ」
甘えたように言う千束さん。横にピッタリとくっついて肩に頭を預けている。何だこいつ。
「分かった!今度は連れて行く。出張断ってでん連れていくけんね」
「やった!約束だよ?楽しみにしてるね!その時はたきなも一緒に行こうよ?」
「い、いえ、私は・・・」
「たきなさんもおいで。千束も喜ぶし。怖がらせてしもうたし、仲良うしようばい」
行っても良いのだろうか?店長に目をやると微笑んでいる。
「行っておいで。仕事ばかりでは息が詰まってしまうよ」
「・・・わかりました。ご一緒させてください。あとたきなで良いです。さんは要らないです」
「わかった。たきな!一緒に遊び行こうな」
「はい!」
この時私はどんな顔をしていたのだろう。きっと少し笑っていたに違いない。DAに戻りたい気持ちは強いし、こんな事してる場合じゃないって思っているけど。私だって年頃の娘だ、知らないこと、楽しいことをしてみたい。
それに千束さんや店長の言う常識破りのこの人がどういった人物なのか俄然興味が湧いた。
初めてのお出かけに私は柄にもなく心踊らせるのだった。
毎度拙い文章ですみません。
今後ともよろしくお願いします。