Re:ゼロからやり直す異世界生活 作:リゼロマニア
ナツキ・スバルはエミリア様の執事で騎士
――これは本気でマズい。
固い地面の感触を顔で味わい、彼は今うつ伏せに倒れていることに気付いた。
全身に力が入らない。固く握りしめた筈の剣の感触も、もう分からない。
熱い。ただただ熱い。
体の芯を焦がすような強烈な熱さが、彼をむしばむ。
「――ッ。ごほっ」
叫び声を上げようと口を開けた瞬間、こぼれ出たのは絶叫でなく血塊だ。
せきこみ、力と一緒に命の源がどくどくあふれ出る。
――流れているのは、全部俺の血か。
朦朧とする意識の中で、彼は一番熱い腹部を触り、納得する。
腹が破れていたのだ。綺麗にばっさり裂かれて。薄皮一枚だけ胴がかろうじて繋がった状態。
いわゆる詰みって奴だ。
「スバル!? ――これは一体どういうことだ!」
遠のく音。うっすらと誰か、彼を心配する声が聞こえる。誰だっけ?
最後に思い浮かべるのは、小生意気な小娘だ。
散々、彼をコケにして、そしてあっさりと殺された少女。出来れば――。
「――っていろ」
彼を置き去りにして、戦いが始まる。
だが、彼にそれを知覚する術はもはやない。
彼に出来ることは、ただ一つ。
「待ってろ。お、おれが必ず」
――お前の鼻っ面をぶん殴ってやる!
ナツキ・スバルの意識は永遠に沈んだ。
「おーぉやおや、場が見えていないのかな? 今は君のような立場の人間が口を挟んでいい場面じゃーぁない。謝罪して、退室したまえ」
「それをそっくりそのままお返しするぜロズっち。パトロン如きがエミリアにきいて良い口じゃねえ!」
「ますます驚いた――命がいらないなんて」
ロズワール・L・メイザース。
ピエロ化粧をした長身が目を細めるだけで、大気が歪んだ。
歪んだように見えるだけだ。彼の持つマナがあまりにも膨大で、そう見えてしまう。
スバルはごくりと唾を呑み込む。分かってはいたことだ。
新参者のスバルと、何十年も魔法を研鑽してきたロズワールとでは年季が違うとは。だが、ロズワールが怒りマナを放出したことでスバルと、ロズワールの魔法使いとしての壁を、体に理解させられた。
それでも、スバルはロズワールから目を逸らさない。何故なら、スバルには惚れた女がいるから。
「何度でも言うぜロズワール! それにこの場にいるエミリア様に無礼な口をきいた野郎ども! ふざけんてんのは俺じゃなくお前らだってなあ!」
「まとまりかけたところにこの無礼だ。もう一度だけ、這いつくばって許しを乞うならば機会を与えよう。どーぅかな、ナツキ・スバル」
宮廷魔導士の全力の殺意を向けられて、スバルの膝は盛大に笑ってしまう。
冷や汗も流れ出て止まる事を知らない。もし、病み上がりでなければ。
いや、万全であっても怒れるロズワール相手に戦えたかは微妙なところ。しかし、スバルは一歩も引かない。引くわけにはいかない。スバルの眼に映るのは、エミリアだけ。
彼女の瞳が悲しみに陰るなら、スバルとしては全力でその原因を取り除く所存。同士だと思っていた変態はスバルの信頼を裏切った。エミリアの騎士を自称するスバルは、絶対に引いてはならないのだ。
「やってみやがれロズワール! 俺の意地を見せてやる!」
「いいだろう。たかだか数か月。最高の師に師事していたからって調子に乗る若造に、頂きの力を見せてあげよう。力の差を学び、来世ではそれを活かせることを願うとも」
最後通牒が告げられた瞬間、溢れ出ていた力の奔流が形となって顕現する。
生まれたのは広間全体を煌々と照らす極光をまとう火球だ。掲げたロズワールの掌の上に生まれた炎の塊は人の頭ほどの大きさだが、小規模の太陽を生じさせたようなその高熱は離れた位置に立つスバルの肌すらも軽く炙る。小さな太陽、それが3つも広場全体を照らしている。
ロズワールのこれ以上ない明確な害意に、広場は一瞬で騒然と化す。ロズワールの臨戦態勢に、比較的近くにいた賢人たちは身構え、他の王候補者たちは騎士の後ろに隠れる。
この中で唯一騎士を侍らせていないエミリアは、
ロズワールとスバルの二人を、困惑と心配で濡れる紫紺の瞳で交互に見ていた。。
「ちょっとロズワールそれじゃ話が……!」
ロズワールを見る目には困惑。スバルを見る目には心配。
「火のマナの最上位の火力を見せてあげよう。――アル・ゴーア」
端的に言い捨て、ロズワールは掌をスバルに向ける。
それだけで、3つもの太陽はスバルを焼き尽くそうと、スバルにゆっくりと迫る。
明確に近付く死を前に、スバルは盛大にビビるも根性で耐え、腰に下げる剣の柄に手をやる。
そして、
「――アル・スラッシュ!」
そう叫ぶと、剣を鋭く振り抜いた。
振り抜かれた刀身に沿って紫の斬撃が飛び出す。その数は実に10を超える。
スバルの魔法。陰属性の攻撃魔法スラッシュだ。飛ぶ斬撃を放ちたいというスバルのロマンからスバルが師の助言を得て作った魔法。
魔法を司るゲートが不調故に火力を出せない。いな、万全であったとしてもロズワールのアル・ゴーア3つを相手するのは、不可能であるが。とにかく、スバルは火力では勝てなくとも、数の暴力で打ち勝とうととにかくたくさん斬撃を出したのだ。
一つの小さな太陽を3つ以上の紫の斬撃が襲う。
スバルの数の暴力作戦は、見事成功し、ロズワールの魔法を相殺して見せる。
その声に、どよめきが上がる。
「なんだあの使用人は? あのメイザース卿の魔法を相殺するとは?」
「エミリア
「ごちゃごちゃうるせえぞ。外野ども。とっととエミリアたんに謝れ!」
剣を納刀しながら、スバルはそう叫ぶ。
ロズワールの魔法を相殺した謎の少年の凄み。場は怯む様に静まり返る中。スバルは、ばっとエミリアの方に振り返った。
眦に涙を湛え、片手を伸ばしたまま固まるエミリアの姿がスバルの眼に映る。スバルを心配し、そしてスバルの雄姿を目に映して心を奪われた、そんなところだろうか? そうであったら嬉しいなと思いつつスバルはにかっと笑った。
やってやったぜ! と、言わんばかりの笑顔。無邪気で、褒めて褒めてと笑う悪戯っ子のそれ。サムズアップまでして。エミリアは、眦の涙を拭うとぷいっと横を向き。
「――おばか」
『そこのスバルが言う通りだよロズワール。君が、君たちが国ごと凍り付かないのはひとえにエミリアが優しいからだ』
王選は進む。
「これはこれは挨拶が遅れて申し訳ございません! 賢人会の皆々様。そしてこの場に居合わせる王選候補者の皆様。神聖な場を身内争いで穢した無礼、謹んで謝罪します」
腰に手を当て、胸に手を当て深く腰を折る。
昔、執事の登場する映画を見て、執事にはまって死ぬほど練習し、屋敷のメイド姉妹に徹底的に指導された執事の所作。
ひんしゅくを買った様子はない。ファーストコンタクトは上々。
スバルは、頭を上げると腰に下げた剣を抜き、片手で胸の前に掲げる。
「ロズワール邸筆頭執事――になる予定の見習いにして、ここにおられるエミリア様をお守りする一の騎士、ナツキ・スバルと申します。どうぞよろしく!」
燕尾服を着、剣を掲げる自称騎士。
ロズワール筆頭宮廷魔導士の魔法を相殺する実力を持つ、エミリアと親し気な謎の少年。
ナツキ・スバルを審美する目は、冷ややかで厳しさを孕んでいる。
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