Re:ゼロからやり直す異世界生活   作:リゼロマニア

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調子に乗るな、と神はあざ笑う。

 これは、いよいよマズいことになった。

 

 天下無敵の一文なし。

 財布の中になけなしの札束と小銭があるから、正確には一文無しではない。

 しかし、スバルは現状、一文無しと言って過言ではなかった。

 

「やっぱ10円玉は使えないか」

 

 スバルは、指先で10円玉を持て遊びながらそう言った。

 凡庸な見た目。平々凡々が相応しい少年だ。短い髪に、高くも低くもない普通な身長。

 体格は、鍛えていることが実を結び筋肉質でがっちりしている。親父に憧れて、筋トレに励んだ成果である。安物のグレーのジャージと相まってスポーツマン風ではある。

 三白眼の鋭い目だけが特徴的だが、今はその目尻も力なく落ちていて覇気がない。まるで、しおれたドーベルマンだ。

 

 そんなありふれた格好のスバルを見る、周囲の面は厳しい。

 

 それもその筈。何故なならば。

 

「来ちまったな、異世界」

 

 少年を眺める彼らの中に、誰として『黒髪』も、『ジャージ姿』もいない。

 

 彼らの頭髪は金髪や白髪、茶髪を始めとして緑髪から青髪まで色のバーゲンセール状態で、さらに格好までも、鎧やら踊子風の衣装やら黒一色のローブやらで『ファンタジー』すぎる。

 

 それだけならまだしも、猫耳に、トカゲ人間までいるのだから、スバルのいるここが異世界なのだと納得するしかなかった。

 

 と――。

 

「おっと、失礼した。ぶつかってしまい申し訳ない」

 

 誰かとぶつかり倒れてしまう。

 燃える赤い髪。

 勇猛としか言いようのない青い双眸を輝かせ、異常に整った顔立ちを歪ませるも凛々しさを後押ししている。すらりと細い長身を、仕立てのいい黒い服に包み、その腰にシンプルな装飾――ただし、尋常でない威圧感を放つ騎士剣を下げている。

 ただぶつかってしまっただけ。

 倒れるスバルに手を差し伸べているだけなのに、スバルは背筋が泡くり立つ威圧感を感じた。首筋がちりちり焼ける。

 全身を衝撃が突き抜けて、スバルは呼吸がままならくなる。

 

「――いや。ッこっちもよそ見してた。悪い」

 

 スバルはただぶつかっただけ。勇気を振り絞って、燃える赤髪の手を取る。

 剣だこのある手。得物はやはり剣だ。それに所作、かなりの使い手である。相対するだけで分かっていたことだが、赤髪は只者じゃない。

 

「鍛えられている手だね。強いみたいだ」

 

「アンタほどじゃねえよ」

 

「そうかな? ともかく、僕の名前はラインハルト・ヴァン・アストレア。不注意でぶつかってしまい本当にすまなかった」

 

「いやこっちも悪かった。スバルだ。ナツキ・スバル。互いの不注意ってことで、手打ちにしようぜ?」

 

「お詫びと言っては何だけど、困ったことがあれば僕の名前を呼んで欲しい。何処にいようと即座に駆け付ける」

 

「勝手にしろ。じゃあな」

 

 スバルはそう言って、掌をひらひら振って歩き出す。

 ちぽっけなプライドが揺らいだことを隠したくて、スバルはラインハルトから離れることにした。

 

 

※※※※※

 

 

「観光気分でぶらついてたけど、流石にこんな展開は予想してなかったな」

 

 目的も原因も何もかも不明なスバルの現状。

 持ち物は、ケータイ電話(電池切れ寸前)、財布(なけなしのお札と小銭のみ)、コンビニで買ったカップラーメン(とんこつ醤油味)、同じくスナック菓子(コーンポタージュ味)、愛着しているグレーのジャージ(未洗濯)、使い古したスニーカー(二年もの)。どれもこれもが、使えそうにない。

 土地勘もなし。

 異世界召喚など想定していない。

 

 太陽系第三惑星、地球に生を受けた平々凡々な男子高校生がナツキ・スバルだ。

 受験を間近に『自分を見つめ直したい』とかふざけたことを抜かし、引き籠りになった高校三年生。日がな日がなネットの海に沈み、怠惰な日々を貪って来たスバルに出来ることなんて大してない。

 

 訳も分からず、どこにいるのかも、どんな世界なのかもわからず。八方塞がりなスバルは、現実逃避も兼ねて観光することにした。

 

 観光気分で、街道を歩いていたら突然腕を掴まれて路地裏に引き込まれた。

 で、今に至る訳だが。

 

「見るからに悪そうなチンピラに囲われる俺。異世界物のテンプレパターンだ」

 

 異世界もののお約束。

 強制イベント発生にスバルは興奮する。

 盗賊を、盗賊なのか? とにかく、そいつらをボコして無双する王道。

 

「なーんか、ぶつぶつ言ってるよ、アイツ」

 

「状況がわかってないんだろ。教えてやればいいんじゃないか」

 

 一人興奮するスバルを見る、男3人の目は冷ややかだ。

 

「うし、親父に付き合って筋トレしまくった引きこもりを舐めんじゃねえ! かかって来やがれチンピラども。俺の糧になれ!」

 

「馬鹿にしてんのは分かった! ぶち殺してやる!」

 

 と、言って殴りかかって来る男の腕をぱっと掴み捻り上げる。

 

「いてて! いてえ! いてえよ! 離しやがれ!」

 

 捻り上げられミシミシ軋む腕に、たまらず呻き声を上げる。

 

「親父直伝、男の一本背負い投げ!」

 

 と、スバルは決め台詞と共に、男を1人投げ飛ばした。

 スバル自身よりもガタイの大きい男をぶん投げた己を手を眺めながら、スバルは叫ぶ。

 

「根本から揺らぎかけたけど、俺の努力は無駄じゃねえみたいだな。うし、来るなら来い! まとめてのしてやらァ!」

 

 高揚した気分のまま、スバルに驚き呆ける男に襲い掛かる。

 

「喰らえ! 風呂上がりの柔軟が可能とする、スバル流ハイキック!」

 

 弓なりにしなった足が弧を描いて男の側頭部を打ち抜き、壁に叩きつけて二人目を悶絶させる。

 

「ぐおふっ……」

 

 頭がぐらんぐらん揺れて、男はそのまま倒れる。

 スバルが倒したチンピラ二人目。

 『スバル無双』にスバルはさらに気分を良くする。

 

「なんだあ? ガタイの良い男が小僧1人に。なさけねえぜ」

 

 

「やろう、ぶち殺す!」

 

 と、スバルの安い挑発に、最後の一人が激高してナイフを取り出す。

 きらりと輝くナイフを見て、――直ぐ様土下座なんてことはせず。

 

 スバルはとっさに、ナイフを持ったまま突っ込んでくる男の腕を掴み上げた。ぎゅっと捻って、握力を緩めさせると握った拳で、男のナイフを持つ手を叩いて、ナイフを叩き落とし、

 腕を掴んだまま頭突きを食わせた。

 

「あっぶねー。ビビったじゃねえか畜生め」

 

 鼻血が吹き出てふらつく男の足元を払って転ばせると、どんとその上に座る。

 落ちたナイフを拾うと、そのままスバルはナイフをくるくると回し弄ぶ。その手さばきには危うさがない。

 引きこもってあり余る時間を割いて習得したナイフ捌きである。

 

「さてと。勢いでノしたけど。こちらどうしよう?」

 

「ラインハルトでも呼んで押し付けるかなあ――あ」

 

「あ」

 

 セミロングの金髪を揺らす、小柄な少女。

 

 意思の強そうな瞳に、イタズラっぽく覗く八重歯。小生意気そうな顔立ちだが、年相応として見れば可愛げもあるかもしれない。

 

 着古した古着をまとった小生意気の少女と、路地裏を好みそうな暴漢を椅子にして天を仰ぐスバルは目が合った。

 記念すべき、異世界初の女性とのファーストコンタクト。

 

 女性経験がまったくないスバルは、定まらない視線と気持ち悪い笑みを浮かべて声を掛ける。

 

「よ、よお!」

 

 上擦った声で、年若い少女に声を掛ける、暴漢に腰掛ける見慣れない奴。

 これ以上ない不審者に、少女は迷わず踵を返して逃げ去った。

 

「うおお! 変態だぁ!」

 

「ちょっ。待て、俺は不審者じゃねえぇー!!」

 

 とんでもない冤罪を、声高らかに叫びながら走り去る少女を、スバルは血相を変えて追いかけるのであった。

 ナイフは迷惑料として、こっそり拝借して。

 

 

「くそっ、あのガキ。どこ行ったんだ! このスバル様が逃げ足で負けるんて意地でも見つけたくなった!」

 

 とてつもなく素早い逃げ足。

 まるで魔法みたいで、あっという間に引き離されてしまったのだ。

 それに刺激されて、スバルの負けん気がこれ以上なく発揮された。つまり、何が何でも掴まえてやるとスバルは意気込む。

 

「おら! 今に見とけよ金髪娘! ぜったいにふん捕まえてやるかならなぁ!」

 

「あら、そんなに気になるのかしら? その娘が」

 

「ああ。俺を出し抜いたからな! やられたことはやられた以上にやり返すのが俺流だ。ところで、オタクだ――」

 

 

「そう、それなら生かしておけないわね」

 

 振り返ろうとしたスバルが感じたのは、腹部への衝撃だった。

 

 続いて、身を焦がすような熱がスバルの体を支配する。

 

 

 ――これは本気でマズい。

 

 固い地面の感触を顔で味わい、スバルは今うつ伏せに倒れていることに気付いた。

 全身に力が入らない。固く握りしめた筈の剣の感触も、もう分からない。

 

 熱い。ただただ熱い。

 体の芯を焦がすような強烈な熱さが、彼をむしばむ。

 

「――ッ。ごほっ」

 

 叫び声を上げようと口を開けた瞬間、こぼれ出たのは絶叫でなく血塊だ。

 せきこみ、力と一緒に命の源がどくどくあふれ出る。

 

――流れているのは、全部俺の血か。

 

 朦朧とする意識の中で、スバルは一番熱い腹部を触り、納得する。

 

 腹が破れていたのだ。綺麗にばっさり裂かれて。薄皮一枚だけ胴がかろうじて繋がった状態。

 いわゆる詰みって奴だ。

 

「スバル!? ――これは一体どういうことだ!」

 

 遠のく音。うっすらと誰か、スバルを心配する声が聞こえる。誰だっけ?

 

 最後に思い浮かべるのは、小生意気な小娘だ。

 散々、彼をコケにして、そしてあっさりと殺された少女。出来れば――。

 

「――っていろ」

 

 スバルを置き去りにして、戦いが始まる。

 だが、スバルにそれを知覚する術はもはやない。

 

 スバルに出来ることは、ただ一つ。

 

「待ってろ。お、おれが必ず」

 

――お前の鼻っ面をぶん殴ってやる!

 

 ナツキ・スバルの意識は永遠に沈んだ。

 

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