Re:ゼロからやり直す異世界生活 作:リゼロマニア
「美しい。君の名前を教えてくれないか?」
ナツキ・スバルは、人生初の公開告白を終えて、何事もなかったかのように銀髪の少女の名前を聞いた。
いや、微かに頬が赤く染まっている。告白の熱はまだ冷めていなかった。
銀髪の少女はというと、少女も頬を赤く染めてあたふたしていた。
「へ? えっと美しいて私のことで、いいのよね? 好きだって私に? ふぇ?」
容姿ゆえの悪意に晒されることはあっても、スバルのように純粋な好意を向けられたことは殆どなかったのだ。ましてや、異性から好きだと言われたこともなくて、少女はただただ狼狽える。
「勿論だとも。俺は君が好きだ。っとごめんな。俺はナツキ・スバル。弱い者虐めするべきかしないべきか迷ってる天下無敵の一文無し。そんな感じの善良な市民さ」
「あうー。私のことを好きって。――は!? とにかく、貴方たちに聞きたいことがあるの?」
スバルのペースにかき乱されっぱなしだった少女は、はっとして目的を思い出してスバルたちに問いかける。その目は赤く、スバルをきっと睨みつけている。
「俺に答えれることなら何でもどうぞ。美しいお嬢さん。好きなタイプなら、君だぜ?」
「……///。え、えっと。徽章、そう徽章を盗んだ人がいるなら返して! あれはとても大切なものなの」
「徽章がなんなのか知らないけど、すごい勢いで逃げてってた小娘ならあっちの方だよ。俺もその子に用があるし、何なら一緒においかける? 顔覚えてるよ。ちょっとでも君にお近づきになりたいんだ」
「うぅ。どうしようパック」
スバルのぶれない純粋な好意に、少女は遂に耐え切れずに助けを呼んだ。
次の瞬間、光が弾けて一匹の猫が現れた。
何を言っているんだと馬鹿にされるかももしれないが、何もなかった虚空に、猫が唐突に出現したのをスバルは目の前で見た。
灰色の毛並み。耳は垂れてて愛嬌がある。スバルの知る品種だとアメリカンショートヘアというの猫が近い。
ピンクの鼻と、体調をも超える長い尻尾を除けば――だが。
灰色の猫は、ふっと柔らかく少女に笑いかける。
「見た感じ悪意が感じられないし、驚くくらい純粋な好意だね。信じられないけど。リアに任せるよ」
そして驚くことに喋ったのだ。中性的だが、心地の良い声。
猫が喋べるという異常事態に、スバルもうろたえる、なんてことは、さらさらなく。
絶世の今世紀最大の少女(スバル視点)に初対面告白して、ハイになったテンションのまま猫に誰何する次第。
「そうそう。俺は君に驚くくらいに純粋に惚れて――ってオタク何者?」
「ちょっ、おい嘘だろ精霊術師かよ!」
「やってらんねえ、逃げるぞ!」
「そこの黒髪のクソガキ! 面覚えたかんな次あった時覚悟しろよ!」
と、ここまで怒涛の展開について行けず背景と化していたチンピラ三人組(女性相手に尻尾巻いて逃げる時点で暴漢から格下げ)のことは、努めてスバルは無視する。
銀髪少女も、そして宙に浮かんでくるくる回る猫もチンピラ三人組は心底どうでも良いらしい。
「ボクは大精霊パック。そこにいる銀髪のハーフエルフの父親だよ!」
胸を張って少女の父親だと言い張る猫。
そんな猫の態度に疑問を浮かべることなく、また銀髪のハーフエルフと強調したことにも疑問を浮かべることなく。
スバルは日本に伝わる古き良き伝統芸能を披露する。
「お義父さん、娘さんを俺にくださいいぃ!!!!」
見事なまでに洗練された、相手に謝罪の意や懇願を示す最高にして最低の和の心。土下座。
スライディングして、額までも地面に擦り付ける、俊足のスライディング土下座を繰り広げ、スバルはただ少女の父親を名乗る猫に、娘さんをくださいと土下座するのであった。
※※※※ ※※※※
「改めまして、俺の名前はナツキ・スバル。美しいハーフエルフの君に惚れた一人の一文無しさ。君たちは何者なの?」
何者なのと、スバルはさらっと口説いて少女たちに問う。
銀髪のハーフエルフの少女は、頬を赤らめたまま横を向いて、ぼそっと。
「……私はサテラ。で、こっちは私の精霊のパック」
「紹介に預かったパックだよ。初対面の君には娘をやれないかな」
「サテラ、か。いい名前だね! ってどしたん?」
ジト目でスバルを見たかと思うと、またサテラはそっぽを向いたのだ。
これにはたまらずスバルは首を傾げるも、そんなスバルにサテラとパックの反応は冷ややかだ。
「いいえ、別に」
「目付きだけじゃかくて趣味悪いって言われない? キミ」
「目付きは良く言われるけど趣味について言われたことないぜお義父さん!」
「キミにお義父さんって呼ばれる筋合いはないって怒った方が良いのかな? それよりも、驚いた。キミは本心からリアに好きって言ってんるだね」
「俺でも驚きの初恋だよ。フォーリンラブって感じだな」
「だって、その私はハーフエルフなのよ? なにも思わないの? 怖いとか、その……」
「可愛い目と鼻がついてて怖いって話? ハーフでなんちゃらがあるなら、俺ってば結構遠い国から来たから常識も何もかもが分からないって宣言するぜ?」
ハーフ、つまりエルフと何かの混血ということだろうか。混血が忌み嫌われるのは、ある意味でファンタジーのお約束である。
人種問題は、スバルのいた地球でも根深いものだったが、そういうものと無縁だったスバルに、それに関する機微はさっぱり分からない。
にかっと笑って、サテラが綺麗と笑うスバルにサテラは、短くそうと言ってそっぽを向くのであった。唯一、サテラの表情を見ていたパックは、少し不満げになり。
「痛い、痛い! 痛いって! なんで髪を毟ろうとすんの! やめろお義父さん!」
「ボクの複雑な父親心が溢れ出た結果だよ! このっこの!」
髪の毛を毟られて本気デ痛がるスバルと、そんなスバルの頭の上で一心不乱に髪の毛を毟るパックの姿があった。
「パック止めて! 大事な、そう大事な協力者なの。いじめたりしたらダメ」
「そこは大事なヒトって言ってもらえると男心が燃えるよサテラたん」
手癖の悪い未来の父親から解放され、ぼさぼさに荒れ果てた黒髪を手櫛で整えながらスバルはサテラに願望を告げる。
好きな女の子の前で格好つけたいという思春期らしい男の行動である。たとえ、どんなに目つきが悪かろうと髪の毛の一つくらい整えたいのだ。
「サテラ、たん?」
「そっサテラたん。俺なりの親愛の証。あだ名だよ。俺のこともハニーとか、ダーリンとか」
ここに来てまたもや話を脱線させようとするスバルに、サテラは真剣な表情を浮かべて話を止めた。
「――スバル。無駄話はよして。徽章を盗んだ娘に心当たりはある?」
スバル、とサテラの口から呼び捨ててで呼ばれて舞い上がりそうになるも、鋼の精神でスバルは自制する。
あのガキんちょに心当たりがあるか、そんなもの答えは一つに決まってる。
「サテラたん。実はな――」
スバルは、今世紀最大の決め顔を決めると。
「心当たりはまったくない!」
と声高らかに宣言する。
だって、ほぼ初対面だから知るはずがないのだ。
「「へ?」」
「いやぁ、目には自信あったんだけど早すぎて目で追えなかったんだよ」
恥ずかしげに頭を掻くスバルの様子に嘘はない。つまり、スバルは本当のことを言っていて、それが意味することはつまり。
「なに!? どーいうこと、今までの時間が丸っきり無駄だったってこと? スバルのアンポンタン」
「アンポンタンってきょうび聞かねえなっと。けど、場所ならわかるぜ! きっとスラム街、貧民街とかそんな場所だ!」
「アイツは小汚い格好していた! この国の普通がどんなんなのか全然これっぽちも知らないけど表通りの連中の格好と比べるとボロボロだった。つまり貧しいって訳だ」
あのにっくき少女の容姿を思い浮かべながら、スバルは推理ショーを披露する。
「王都、でっかい都市であんなガキがスリで暮らしてるって仮定するなら多分そういったゴロツキが住んでる場所があると思う。たぶん、そいつはそこにいるぜ」
ここは中性ヨーロッパ風のファンタジー世界。
そんな世界の大都市ならば、ゴロツキが巣食うスラムも、きっとあるはず。ならば、あの小娘はそこにいるに違いない。
あとは、そのスラムを見つけ少女をとっ捕まえ、ステラに徽章を返してあげれば……。
「てなわけでそんな感じの場所を探せば――どうしたの? 俺の顔をじっとみて。童貞舐めてもらっちゃ困るぜ、惚れ直すぞ?」
サテラとパックがこそこそ顔を突き合わせて、時折スバルを見つつ密談しているではないか。
パックは、憎き者を見る目で。
サテラは、頬を赤らめてスバルをちらっと見る。
「私をからかってる訳じゃないのよね?」
「うん。ボクもちょっと信じられないけど、驚くことに本心だよ」
「どゆこと?」
疑問符を浮かべて首を傾げるスバルに、サテラはあたふたする。
「あの、別に何でもないの! ただすこーしスバルが怪しい、というか。信用できなくて、じゃなくて! 家族会議! そう家族会議してたの!」
「フォローしてるようでまったくフォロー出来ていないフォローを、ありがとう」
「あぅ。え、えっと。とにかく! スバルって頭が回るのね! その、見た目によらず!」
「うし、ちょっと俺に関するアルコレから離れようぜ? お二人さん。さしもの俺も心がポッキリ折れちゃう」
「と、とにかく! えっと、貧民街! 貧民街に向かいましょう!」
スバル、サテラ、パックは貧民街に向かうのである。
「ところで、サテラたん。貧民街の場所知ってるの?」
「知らないわ。スバルは?」
「自分が、どこにいるかも分からないやつに分かるわけないじゃん。お義父さんは?」
「うんー。ボクも知らないかなー。あはっダメダメだねこの集まり!」
「うし、まずは聞き込みだな!」
――前途多難にすぎる。
ドストレートに告白するスバルくん。その頬に垂れるは感動の涙