Re:ゼロからやり直す異世界生活 作:リゼロマニア
「――っと。ここが例の盗品蔵ってことで間違いなさそうだな?」
裏通りを東奔西走したり、スバルとどっこいどっこいの凶悪ナ面構えしたリンガ売り相手に聞き込みをしたり、迷子を助けたり。
紆余曲折、非常に多くの困難を乗り越えてスバルたちは、例の小娘がいるであろう盗品蔵に辿り着いたのであった。辿り着いたのであったのだが……。
「盗人猛々しいにも程があんだろう。何やってんだよ衛兵さんたちは」
清々しいまでに堂々と居を構えた建物を見て、スバルは呆れとか畏れを抱いてしまう。
ちょっとした集合住宅並みの坪数に、貧民街に似つかわしくない大層立派な外観。
これほど、盗品蔵という卑称が似合わない盗品蔵はこれだけに違いない。
「おーけい。作戦内容を確認するね。俺が盾役兼交渉役ね。で、サテラたんとパックが話が拗れる場合もしくは緊急事態に備えての後方役ね」
「そうだね。『腸狩り』が近くにいるらしいし、用心するに越したことはないよ」
「あぁ。赤い髪の騎士が言ってたから間違いないぜ」
「私は納得してないんだけど、スバルが盾になるの」
「好きな女の前で格好つけたいって男ならではの意地だよサテラたん。大丈夫大丈夫、チンピラ基準だけども俺それなりにやれるから」
「スバルが傷付いても治療すれば良いだけだし、言っちゃなんだけどリアにもしものことがあったら取り返しがつかないよ?」
「……わかりました。私の言う事聞いてくれないことがよーくわかりました」
「え、なになに? 俺が盾役すんのに渋ってるけど、サテラたんてば俺のこと好きになっちゃった?」
「ぜんぜんこれっぽちもまったく」
「粉微塵にしちゃうよニンゲン」
「場を和ませる冗句だったのに、まさかの俺が攻められる流れ!?」
サテラに身を心配されていることが嬉しくて、軽口を叩いのだが、まさかの責められる流れにスバルはたじたじだ。
だが、良い感じに緊張が解れた気がする。
「うし、じゃ。行ってくるねサテラたん。素手なのが心配だけど、ま、何とか」
「……スバル。これ」
「――綺麗で冷たそうな剣だね? どしたの?」
「さっき魔法で作ったの。スバルって剣を使うみたいだねってパックが言うから」
「ありがとサテラたん。これがあれば百人力だよ!」
好いた女からプレゼントだ。喜ばない訳がない。
出来れば氷で造られた剣ではなく、もっとロマンチックなものが良かったけど、スバルはサテラからの贈り物に心を弾ませる。
手のひらで転がしたり、適当に素振りをして手に馴染ませるスバル。
氷で造られた剣は驚くことに凄く振りやすい。
「あと、これも」
懐をごそごそ漁っていたサテラは、何を思ったのか白い結晶を取り出し壁に投げ付けたではないか。
サテラの乱心かとドキマギするスバルであったが、白い結晶が光を放ったのを見て、理由を察する。
「あー、なるほど。ファンタジーお約束の魔法の込められた石ってやつか」
「ラグマイト鉱石も知らないなんて、ほんとにスバルってものすごーく物知らずよね」
「たぶん、サテラたんの想像する5倍か6倍は物知らずだよ俺ってば」
「……っ」
「どったの?」
流れるようにサテラたんと愛称呼びするスバル。サテラたんと呼ぶ度に、何故かサテラはバツの悪そうな顔をするのだ。
「ううん、……なんでもないの。徽章を取り返してみんな無事だったならちゃんと謝るから」
「そこはごめんなさいよりありがとう、の方が俺的に嬉しいね。おまけに笑顔付きなら文句なし。ついでにいうと、『私のために頑張って』って言われるとスバル張り切っちゃう」
「おばか。……頑張って」
「心機一転、ウルトラやる気まんまんナツキ・スバル。サテラたんのために一肌脱がさせていただきまーす!」
「……スバル。ボクはもう限界だから寝る」
「例の就業時間か」
元気いっぱいのまま盗品蔵に向かうスバルを、パックが呼び止める。
ただ、そこ居るだけでもマナを消費するのらしく、夜の間は依代の結晶に戻って昼間に備えるのだとはパックの言葉。
定時をとっくに超えてるが、愛娘を心配するあまり限界を超えたパックはとても凄く眠そう。
「リアを頼んだよ」
「マジで任された。安心して眠れ、お義父さん」
「うーし、娘をお義父さんに任された俺に恐るるものなど何もない! 世界よ、俺の強さに恐れ慄くがいい!」
威勢のいい掛け声とは裏腹に、ドアノブにかける手付きはえらく慎重だ。
何となく嫌な感じがする。
スバルの本能がチリチリと、警鐘をかきならす。
ちらり。サテラの方を向き、サテラが頷くのを確認すると、スバルは短く息を吸い込む。
「頼もーう!!」
がっとドアを引いて、中に入ると目に飛び込んだのは凄惨な光景だった。
「――ッ」
床を濡らす赤い粘着質の液体。
その時点で、スバルの脳裏に最悪な想像が過ぎった。確か、例の殺人鬼は金髪の小娘の関係者的なことを匂わせていた。
ラグマイト鉱石で前を照らす。
ラグマイト鉱石が照らしたもの。それは腕だった。
だらしなく転がるそれは指先が何かを求めるように開いているが、肘から先が存在しない。
腕だけピンポイントにバッサリ斬り落とされたのだ。
他の部位はどこにある? スバルは込み上げてくる物を飲み込み、光を動かす。腕の奥に足があった。足はちゃんと胴体に繋がっていて、胴体もぱっと見欠損はない。
ーー首を刈り取られ片腕を斬り落とされた巨漢の死体が目の前に転がっていた。
視界の端にちらっと見える金髪は、あの小娘の『死体』だろう。
「……っ」
最悪な想像通りの光景に、スバルは思わず唾を呑む。
何が、あったのか一目瞭然な光景。2人は殺されたのだ。そして、殺人鬼はまだ盗品蔵の中に。
「……あらら? おかしいわねぇ。不意をついたはずなのに防がれるなんて」
スバルがそれを防げたのは奇跡に等しい。
呆然自失となったスバルの視界の端に、キラリと輝く何かが映った瞬間に、反射的にスバルの体が動いたのだ。サテラから渡された謹製の剣を瞬時に構え、迫り来る凶刃を防ぐことに成功したのである。
「腸狩り、か!」
しっとりと濡れた黒髪の女を抹消面から睨みつけスバルは吐き捨てる。
病的なまでに白い肌。前を開けてぴったりと肌に吸い付く装束の上に、黒い外套を羽織っている。
彼女は、スバルの敵愾心溢れた目を見てふふっと笑う。
「あら、私も有名になったものね」
「スバル?」
「来ちゃ駄目だ! ーーちぃッ」
待ち切れず顔を出してくるサテラに、腸狩りの凶刃が放たれる。
が、完全にサテラに向かう前に、スバルが剣を降ったことで腸狩りの凶行は台無しになる。
ククリナイフと、氷製の剣。材質の異なる両者は、金属同士がぶつかったみたいな音を響かせて鍔迫りをする。
「来ちゃダメだろ? まだ呼んでないのにッ」
ぐぐっと力を振り絞り剣を押し込むスバル。
腸狩りはというと、楽しそうに笑みを浮かべていた。
「あなた強いのね? 腸を覗いてみたくなるわ」
ふっ飛ばされたスバルは勢いよく壁に叩き付けられる。
肺から息が押し出されるも、気合で地に伏すことだけは耐えたスバルは、そっとひび割れた剣をサテラの視界から隠す。
そんなスバルのもとにサテラは案の定、駆け寄ってきた。
「なんで来たんだよサテラたん」
「だって、スバルが心配でっ」
「サテラたんにお願いがある」
「なに?」
「ラインハルトの野郎を呼んでくれ」
「やだ!」
「ラインハルトの野郎をーーッ」
サテラとスバルをまとめて両断せんと放たれた凶刃を、またもやスバルは気合と見栄で防いでみせる。
「私と殺し合ってる最中なのに、他の女にかまけるなんて感心しないわね」
「こちとら、一途なんでお前みたいな殺人鬼はお呼びじゃねえんだよ! サテラたん、早くラインハルトを!」
腸狩りの攻撃を防いだり、はたまた攻撃に転じたり。
スバルが初めて実践するのも相まって、剣を労ることなく酷使した結果。氷造の剣は、砕けてしまった。
「しまッ――かふっ」
そしてそのまま、地に伏すナツキ・スバル。
腸狩りは、容赦なくスバルの腹を切り裂いたのである。
「え、うそ?! いやぁ、スバル!!!」
ラインハルトを呼びに行けとあれほど頼んだのに、スバルから離れなかったサテラも。
「……アル――」
「魔法を使わせると思って?」
スバルの仇を取ろうとしたサテラも、腸狩りの凶刃によって斬り伏せられた。
「……さ、さてら」
どくどく血がこぼれる。血と一緒に、意識もどんどん溢れていく。
スバルは最期の、力を振り絞って手を伸ばす。
「す……ば……る。ごめん、なさい」
サテラはスバルを見ることなく目を見開いて天井を見ていた。スバルと同じく切り裂かれた腹から血と腸を流している。
謝るサテラの眦からつーっと一滴の涙が伝う。
「な、んでサテラが」
――任されたのに……!
スバルの脳裏を過るのはサテラの笑顔だ。
血とともに『熱』が奪われる。手足の感覚が喪失し、視界がどんどん暗く遠のく。
ーー俺が必ず、お前を救って見せる。
※※※※ ※※※※
「おっと、失礼した。ぶつかってしまい申し訳ない」
「いよいよ以てどうなってんだ?」
木の床から一転、固い石の感覚が尻から感じるかと思えば。またもや、見覚えのある光景が眼前に繰り広げられる。
差し伸べられた手も見覚えあるし、端正な顔を失意に歪ませる表情も、燃えるような赤い髪も何もかもがスバルにとって見覚えのあるものだ。
赤い髪。赤――赤――鮮血。
どうしてスバルは今生きている?
急に腹部が疼き出す。そうだ。あの時スバルは間違いなく腹が裂かれて死んだ。
一回目のあれは正夢かと思った。正直、不意を付かれてのことだし、何が何がなんだか分からないうちに死んだので、死んだという実感があまり湧かない。
けれど、さっきまでのあれは否応無くスバルに死を実感させるものだった。
「ーーうおっとっと」
死を認識してスバルの足元が揺らぐ。
力が抜けて、まともに立っていられなくなったのだ。
崩れ落ちるスバルを、ラインハルトが血相を変えて支える。
「大丈夫かい!?」
「あぁ。大丈夫たぜ、ラインハルト。俺の置かれた現状をよく理解できた」
『加護』かどうかは不明だ。けれど、スバルの能力が『死に戻り』だとすれば不可解な現象に説明がつく。
死をトリガーにした時間遡行。ゲーム的に言えば、オートセーブポイントまでのやり直しだ。
1回目は偶発的な腸狩りとの遭遇によるミラクル死亡。
2回目は、何かがあって武力行使に出た腸狩りと出くわして、口封じのために殺された。ムカつく金髪の小娘も、――仮称サテラも。
死んでしまった。死なせてしまった。託されたのに、サテラを死なせてしまったのだ。
「おええええ」
スバルはたまらず吐き出す。
何をやっているのだ、スバルは。
『死に戻り』によりリセットされるのは、都合2人のラインハルトが行動で示した。
2度目の世界での、サテラ(仮)とスバルのやり取りはなかったことになる。そして、うまいことあの娘が盗品蔵に辿り着いても、腹狩りがいれば死を意味する。
――そんなこと、ナツキ・スバルは認めない。
「大丈夫かい? どこかに異変が?!」
「単なる立ち眩みだよ。それよか頼みたいことがいくつかあんだけど、おーけい?」
「……僕に出来ることなら何なりと」
「俺と友達になってくれ」
「へ?」
ナツキ・スバル。
3度目の異世界が始まる。