Re:ゼロからやり直す異世界生活   作:リゼロマニア

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もっともドキドキする時間稼ぎ。

 腸狩りと遭遇しないように、寄り道せずに盗品蔵を目指したというのに、どうして既に腸狩りがいるんだ。

 初手から計画が崩れたことにスバルは動揺する。そして、サテラ(仮)が突撃する気満々だったことを思い出して慌てて制止しようと試みたが。

 

「はっ!? サテラたん、ス――

「そこまでよ悪党! 私の徽章を返して」

テイ」  

 

 スバルの静止間に合わず、乱入するサテラ。気のせいで無ければ、心なしかノリノリな気がする。

 で、サテラをばっちし目に映した腸狩りは、にいぃと笑って。

 

「なんでアンタがここに――」

 

「パック!!」

 

 サテラ(仮)を見て声を荒げるフェルトの声を遮って、スバルはパックの名を叫ぶ。

 

「良い判断だね、スバル」

 

 サテラ(仮)の首めがけて凶刃が走る。銀のきらめきが、白いうなじをなぞり首を刎ね飛ばす。

 ーーなんてことにならず、魔法陣が腸狩りの凶刃を見事に防いだのだ。

 サテラ(仮)の頭の近くをふわふわ飛ぶ灰色の猫が、眠そうに目を擦りながら、腸狩りをじっと見ている。

 

「中々どうして、良いタイミングだったぜお義父さん」

 

「まだ君のことを認めたわけじゃないんだけど、ここは置いといて。いくよ、リア」

 

「うん、パック!」

 

 パックと、サテラ(仮)は仲睦まじく、襲撃者を睨む。

 奇襲を防がれた襲撃者は、

 

「――精霊ね。うふふ、素敵。精霊のお腹ってどんな風になってるのかしら?」

 

 凶刃を顔の前に持ち上げて、恍惚の表情をする。

 そんな腸狩りに対して、金髪の少女は懐から出した光る石を掲げて指を突きつける。

 

「おい! どーいうことだよ! こいつを買い取るのがアンタの仕事のはずだろ!」

 

「フェルト!」

 

 大柄の老人が言葉少なくに叱責する。前回の世界で、片腕を斬り落とされた老人だ。

 

「ロム爺! けどよ、コイツ」

 

「そう。徽章を買い取るのが私のお仕事。けれど、持ち主まで来たんじゃ商談なんてとてもとても。だから予定を変えることにしたの」

 

 怒りに身を任せた金髪の小娘、フェルトが、腸狩りの殺意と憎悪にまみれた瞳に見つめられ息を呑む。

 が、

 

「この場にいる全員を皆殺し。そこのお爺さんも、役立だずな貴方もみんなみんな」

 

「……テメェ!」

 

「……ちょっとこっちに来い。チビ」

 

 蛮勇を頼りに啖呵を切ろうとしたフェルトの首根っこを引っ掴みスバルは壁際にフェルトを引きずり寄せる。

 

「テンッメエ! 何しやが――」

 

 声を荒げるフェルトを、鋭い眼光で黙らせる。

 

「フェルトって言ったか? 死にたくないなら、大通りに走って逃げろ。で、ナツキ・スバルがラインハルトを呼んでるって叫ぶんだ。良いな?」

 

 スバルは、フェルトにラインハルトを呼ぶように頼んだ。

 『プランS』を、実行するハメになるとは思わなかった。このプランの要は、如何に早くラインハルトを呼べるかに掛かっている。

 実際に強さ目で見た訳じゃないから、強さは未知数だが佇いからかなりの腕前であることは見て取れた。

 だから、脚の早いフェルトに託す。

 

「アタシにケツ巻いて逃げろって言うのか! 見ず知らずのあんたに!」

 

「良いから! ジジイを死なせたくないって思うなら、とっとと行け」

 

 フェルトの胸ぐらを掴むと顔の近くまで引き寄せる。

 フェルトの屈辱に歪んだ顔を見て、幾分か前々回の恨みを晴らしつつ、スバルは真剣な顔のままフェルトに頼む。

 

「行ってラインハルトを呼んてこい! ほら、いけ!」

 

「……くそ!」

 

 バンと背中を押されたフェルトは、悪態をつきつつ駆け出す。風となった疾速。

 

「行かせると思う?」

 

 そんな一陣の風を阻まんと、腸狩りが懐から投げ放ったナイフが翔ぶ。シンプルな装飾のナイフは、まっすぐフェルトの背中を狙う――が。

 

「君の相手はボクだよニンゲン」

 

 フェルトの背中を、空中にいきなり現れた氷が守る。ナイフは弾かれて地面に落ちた。

 

「これが……魔法」

 

 その光景を見て、スバルは染み染みと息を吐く。

 異世界召喚を果たしてから、初めて見る魔法の戦いにスバルは場違いだとわかっていながら興奮せずにはいられない。

 

 スバルの感動を余所に、サテラ(仮)とパックのコンビは、腸狩りと激戦を繰り広げていた。

 

 無数の氷塊が突然出現して室内を縦横無尽に乱舞する。

 致死の攻撃を、腸狩りが、時に地に伏して時に壁を蹴り上がって、時に天井を走って――人智を超えた身のこなしで弾幕網を切り抜けるだ。

 

 パックが氷の刃を射出する間に、サテラ(仮)の多重展開した氷の盾が攻撃を防ぐ。一進一退の大攻防。

 

 現実離れした、ファンタジーちっくな戦闘風景である。

 

「あれが精霊術士の戦い。精霊と契約者が別々に戦える……そりゃあのチンピラたちが尻尾巻いて逃げるわけだ。異世界ものに脳を毒された俺的に、片っぽが時間稼いでる間に片っぽが大魔法を唱えて大技をぶっ放せると見た。てなわけで、どうよ? 俺の見立て合ってる? ロム爺さん」

 

「初対面なくせにいきなり馴れ馴れしい小僧じゃのう。ああ、そうじゃ。ああやって役割分担するから戦場じゃ『精霊使いに会ったら武器と財布を投げて逃げろ』なんて約束がある。にしても、ちとまずいのう」

 

「ああ、めちゃくちゃ可愛い。可愛すぎて、俺の心臓ずっとドキドキしっぱなしだ」

 

「何を言うとるんじゃ、こんな時に」

 

「冗談だよ冗談。もうそろそろ日没。パックがお眠に入っちまう」

 

 パックが活動限界まで残り時間僅か。

 どう足掻いても、ラインハルトスタートなので、『死に戻り』をしようが今回以上に時間は作れない。

 残りの時間でどれだけ善戦できるかで、ラインハルトが辿り着くまでにサテラ(仮)が生きてられるかが変わる。

 どうしようかと考えを巡らせていると、スバルは隣でロム爺が棍棒を握り締めていることに気が付いた。

 

「おいおい、爺さん。何する気だ?」

 

「機を見て助太刀をま。まだエルフっ娘の方が話が分かりそうじゃ」

 

「止めとけ爺。アンタが現役離れて何年か知らないけど、片腕切り落とされるのが関の山だから。足手まといになるだけだぜ?」

 

「不吉なことを言い出すでないわ! まるでほんとにやられた気がするわい」

 

 ロム爺とやらが、只者でないことは生きている姿を見てよくわかった。しかし、それでも腸狩りを相手するのには実力不足だ。

 しかし、サテラ(仮)たちがジリ貧なのも事実。日没前に、有効打は与えておきたい。

 

「ジジイ、この剣借りるぜ?」

 

 スバルは、壁に掛けられた剣を無作為に選んで手に取る。

 そして感触を確かめるように何度か握り直して、

 

「何をする気じゃ小僧?」

 

「決まってんだろ! 助太刀だよ。うらあ!」

 

 狙いはサテラ(仮)の頭部。

 引きこもり時代。無駄に筋トレして仕上げた肉体と、父親とのコミュニケーションの一環として剛速球キャッチボールに付き合って培ったフォームを駆使し、剣をぶん投げる。

 唸る肩。しなる上腕二頭筋。

 体重も、力も乗りに乗った一投。柄に回転を加えるのも忘れない。

 剣は回転しライフリングの要領で真っ直ぐ翔んで往く。

 

 死角から放たれた剣は、腸狩りの頭部に吸い込まれるように飛翔し――寸でにククリナイフを掲げ防御する。

 それは明確な隙であり、サテラ(仮)とパックは隙を逃すほど甘くない。

 サテラ(仮)の放った氷の槍が腸狩りを吹き飛ばし、腸狩りの足を凍らせる。

 

「ほんとうにナイスアシストだよ、スバル。……オヤスミ」

 

 パックはそう言うと、両手を突き出した。突き出した両手に、莫大なマナが渦巻き――照射。

 スバルは、一魔法使いを目指す者として、魔法の極致を見た気分だった。前回見たシャマクじゃ比にならない量のマナが、氷結にならず純粋なエネルギーの奔流として放出される。

 白い極光。エネルギーの奔流は、盗品蔵を白く染め上げて、壁をぶち抜き放射線上にあるすべてを薙ぎ払う。

 白い光のあとには、氷結した結晶のみが舞い散り、急激な温度差によって冷やされた空気が靄となって濃霧の様に盗品蔵内を覆う。

 

「やった……か」

 

 とは空気の読めないロム爺が呟き。

 

「なぜそこでフラグ発言ーーー!!!!」

 

 スバルの見事な剣投げ以降沈黙を保っていたこの爺は、よりにもよって何故今フラグを立てるのか。

 スバルの心の叫びに応じるように、

 

「女の子なんだからそういうのはあんまり感心しないなぁ」

 

 そのパックの言葉に、大技を切る抜けられたことによる不満はない。単純に、その切り抜け方に不満を抱いているのだ。

 

「あら、そう? 痛いけど生きてるって実感できて良いものよ?」

 

 腸狩りは嗤って立っていた。

 凍り付いた右足、その踵を無理やり削いで腸狩りはパックのとっておきを躱したのだ。

 

 腸狩りの足から滴り落ちる血が、凍った床に落ちて湯気が登る。

 

「うふふ……」

 

 腸狩りはそんな足を躊躇なく地面に押し付ける。血で氷が弾ける音に、腸狩りの艶めかしい吐息が重なり、直後にナイフを振るう――それだけで乱暴な止血は完了だ。傷口を氷が塞いで血が流れることはもうない。

 腸狩りは、より一層楽し気に嗤う。

 

「これでまだまだ戦えるわ」

 

 自傷すら厭わない腸狩りの戦闘狂っぷりには、さしものスバルも言葉が出ない。

 だが、よりピンチなのはサテラ(仮)たちの方で。

 

「パック、もう無理そう?」

 

「すごい眠い。ごめん、舐めてた。もう日が暮れちゃう」

 

 定刻を迎えたパックの姿は、見たことがないくらい儚げで、今にも消えてしまいそうなほどうつろいでいる。

 

「ううん、大丈夫。あとは私たちで時間を稼ぐから」

 

「もしなにかあればボクは契約に従う――いざとなったらオドを使ってボクを呼ぶんだよ」

 

 淡く明滅するパックは、最後にマナを振り絞り魔法を使う。

 スバルの目の前が白く光り、

 

「娘のことを頼んだよスバル」

 

「ああ。マジで任された」

 

 氷結が集まって、一振りの白い剣と化す。

 スバルが、託された剣を握ったことを見届けて、今度こそマナが無くなったパックの体が霧散する。

 パックが最後のマナで造った剣は、驚くほどスバルの手に馴染み、驚くほどの切れ味を秘めている。鋭利な輝きを放つ剣を手に取り、スバルは構える。

 

「精霊がいなくなって残念と思ったけど……まだまだ楽しめるのね」

 

 腸狩りは姿勢を低くして、直ぐにでも駆け出せる体勢を取る。

 

「お義父さんの代わりは務まらないと思うけど、頑張ってあわせるよサテラたん!」

 

「まだ色々と納得いかないけど、とりあえず頑張るわよスバル」

 

「おうともさ!」

 

 弾かれたようにスバルは走り出した。

 腸狩りも合わせて走り出して、スバルの剣と腸狩りのナイフが交差する。

 

「爺!」

 

「――ッ、爺使いが荒い!」

 

 スバルの短い声で、察したロム爺は棍棒を腸狩り目掛けてぶん投げた。

 ぶん投げられた棍棒は、スバルと鍔迫り合いをしている方の手とは反対の、スバルの脇腹を刺してやろうとナイフを振るう腕に当たってスバルへの奇襲を防ぐ。

 

「スバル――!」

 

 サテラ(仮)の呼ぶ声がする。

 スバルは、直ぐさまバク転をして腸狩りから離れる。その直後に、氷塊が腸狩りを襲った。

 

「三対一というわけね。流石に分が悪いわ」

 

 あえなく氷塊を迎撃した腸狩りは、冷静に戦況を分析する。

 銀髪のエルフは手強い。魔法の頻度こそ多少衰えたものの戦い方が上手い。

 黒髪の少年も手強い。さっきの投擲術にしろ、胆力にしろ、剣の腕にしろ、戦いの素人だろうけど、それを補ってあまる技量だ。剣筋は素直で読みやすい。けれど、重いし鋭いのだ。となりに立つ女のために、限界を超えている――本当に腹が立つ。

 ならば、狙うとすれば。

 

「うし。即席のコンビネーションだったけど、何とかなりそうだ!」

 

「しぃい!」

 

「ふぐおっ」

 

 油断していたロム爺の腹にナイフが深々と突き刺さる。

 一線を離れたブランクは、やはりデカかった。ロートルはすげなく退場だ。

 

「うっそお」

 

「スバル!」

 

「うお!? ナイスアシスト、サテラたん!」

 

 放心するスバルの顎を切り落とそうと迫る凶刃を、ぱっと顎を引くことで紙一重で回避するスバル。完全に躱しきれず、薄皮一枚が切り裂かれてつーっと赤い線が走る。

 初めての痛みに、スバルは怯みそうになるが気合いで怯みを吹き飛ばす。

 

「うらあ! こいやあ殺人鬼!」 

 

 スバルが攻めて、サテラ(仮)がスバルのフォローをする。危ないときに氷の盾でスバルを守るが、それ以外はスバルの気合いの猛攻で僅かに鈍った腸狩りに氷塊を飛ばす。サテラ(仮)が氷塊を飛ばす時間を、スバルは十全に稼いでみせた。

 

 初めてとは思えないコンビネーションで、腹狩りと何とか渡り合うスバルであったが、所詮スバルは実戦経験のない素人。サテラ(仮)にカッコ悪いところは見せられない、とそんな見栄と気合いで目に留まらない腸狩りの攻撃を弾いたり受け流して反撃したりしてるが、そんな奇蹟はそう何度も続かない。

 徐々に傷は増えて、また緊張して無駄な動きが多いスバルは疲弊し動きが鈍くなる。

 

「スバル、大丈夫?」

 

「まだまだあッーー!」

 

 心配させまいと、空元気で回し蹴りを放つのだが。

 慣れない戦闘で疲れているスバルの蹴りは、トンチンカン達相手に無双した時の冴えも勢いもなく。

 

「はい、掴んだ」

 

「あ、やべ」

 

 いとも簡単に蹴り足を掴まれてしまった。

 腸狩りはナイフを振り上げる。

 狙いは、スバルの足の付け根。勢いは、スバルの足を切り落として余るある鋭さと速度を持つ。

 剣じゃガードは間に合わない。

 

 そこでスバルはぎゅっと目を閉じた。

 恐怖からの逃避行動でない。

 

 トクン、心臓の鼓動が感じた途端。体の中を流れるマナに意識を向ける。

 血流に沿って、全身を隈なく流れるマナの流れ。

 

 走馬灯のように引き延ばされた意識の中、スバルは必死にイメージする。

 

 

 パックは言った。空間に作用する大魔法がある、と。

 

 パックは言った。相手の能力を阻害する、と。

 

 スバルのお腹と、ナイフの距離は僅か20cm。その距離が、その空いた空間を引き伸ばすのだ。

 距離を稼いで、少しでもナイフが届くまでの距離を引き伸ばす。空間を拡張する。

 

 術式なんて高度なものはない。あるのは、見栄と気合い。それから根性。

 

――(サテラたん)(天使)フィールド!

 

 スバルの即席の魔法は、しっかりと発現。

 ごっそりと、スバルの中からマナが持っていき、

 

 

 

――どういうことかしら?

 

 腸狩りは違和感を感じた。

 振るったナイフは、もうとっくにスバルの足を切り落として良い筈なのに、切り落とせない。ナイフを振り抜く勢いで振っているのに、何故腹部に刃が届かない? 

 

 腹狩りの凶刃は、スバルに届くことなく。

 

「そこまでだ――」

 

 屋根を貫き君臨した、赤い炎によって防がれた。

 

 もうもうと煙をまとった炎は、盗品蔵の惨状を見て、足を前へ前へと踏み出す。 

 

「スバル……あとは任せてくれるかな?」

 

 サテラ(仮)も、そして腸狩りもが表情を凍り付かせる存在感。

 そんな彼は、真っ直ぐにスバルの目を見ていた。

 

 燃える赤髪。『正義』を宿した空色の瞳に見つめらるスバルは、

 ふっと短く笑い、

 

「ああ、あとは頼んだ」

 

 どっと後ろに倒れた。

 

 

「スバルがお膳立てしたこの舞台――幕を引くとしようか」

 

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