緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
第1話 降り立つ真人
ウチは一応、新聞というものを取るようにしている。
でないと情報が入ってこないからな。フラスコの中の小人のように各地を見て回ってる"目"がいるわけでもなし、ラジオだけじゃあ不足しがちな遠方の地の情報集めに新聞はもってこいなのだ。
そして、だから知っていた。
マース・ヒューズの家に呼ばれた時くらいかなー。リオールでレト教というものが流行り始めていたことを。
まぁ特に何もしなかったんだけど。
恋人を喪って神に縋るのも、神に縋って金を払って安堵を得るのも、別段何の違法性もない等価交換だ。神の御業とやらで死者が蘇る、なんてのは絶対にあり得ない話だし、それが不可能だとしても何かに縋らなければ生きていけない人間なんてごまんといる。
教祖が金儲けや自尊心を高めるためのシステムにしか思っていないとしても、自分の足で立てない弱い奴には必要な添え木であると言えるだろう。
で、その次。
エドワード・エルリックとロイ・マスタングの対決。
これねー。見に行きたかったんだけどねー。
バスク・グランの一件から頻繁に、とは言わないまでも連続して起こり続けている「国家錬金術師殺し」が起きちゃって、生体錬成に呼ばれて行けなかったんだよね。
ちなみに被害者はジョリオ・コマンチ。原作じゃ独楽みたいになって戦ってた人だけど、当イシュヴァール内乱では足を失わなかった──俺が治しちゃったから普通に五体満足。五体満足のまま「国家錬金術師殺し」に負けてぐちゃぼろになって運ばれて、また俺が治したって感じ。
1911年から1914年──つまり今年に至るまで、ずーっとその「国家錬金術師殺し」の後始末に追われている。馬鹿正直に分解の錬金術でしか殺さないモンだから治しやすくていいけど、どうせならまとめてやってくれないかね。
おかげでブリッグズ山踏破再チャレンジとか計画してたのが全部パァになった。原作開始前までにオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将に会っておきたかったんだけどなぁ。
さて、この「国家錬金術師殺し」。
バスク・グランやジョリオ・コマンチ、他イシュヴァール殲滅戦に出張ってきて生き残った国家錬金術師らの談によると、どうにも複数人いるらしい。
筋骨隆々な男だとか細身マッチョメンだとか、背丈は低かっただの高かっただの様々。ただし全員共通して言うのが「褐色の肌、赤い眼をしていた」と、「両腕に入れ墨があった」である。
こーれ武僧全員
さしもの俺もっべーとは思ったねっべーっぱねーとは。
正直な話、イシュヴァールの武僧は錬金術無しで完全武装のアメストリス人の30倍くらい強い。刃物相手の立ち回り方、銃を持つ相手への間合いの取り方、複数人と戦い生き残る術……とか。挙げたらキリがないほど戦闘に特化した存在だ。
そこに
ただ民間人に被害を齎す気は一切無いようで、今のところ国家錬金術師以外被害に遭っていない。それも殲滅戦に出た国家錬金術師だけだ。その後なった奴とかなってたけど出てきてない奴とかは狙われてすらいない。
ブレインがいる、と思わせるに十分な行動。そしてそのブレインとは、やはり。
「……ウチにゃ来ないのはなんでかね。来たら一発解決なんだが」
戦闘になったって話し合いで済んだって、なんで今それやってんのかとやりたいことは何なのかを聞きだせりゃ一気に進むと思うんだけど、なーんでかウチには来ないんだよね彼ら。俺がフツーに夜の街ほっつき歩いてても寄ってこない。
たまに監視するように尾行されることはあるんだけど、アクションはしてこない。
なんつーか、踏ん切りがつかないでいる……みたいに感じなくもないんだけど。
「イーストシティ、ねぇ」
原作を観光する、という意味合いではエドワード・エルリックの旅についていくのが正解だろう。
だけど人間関係ってそう上手くいかなくて。何も開示せずについていったらルート変更するのは目に見えてて。
今多分、リオールでレト教の真実を暴いている真っ最中とかだろうけど……ユースウェルに先回りするのは流石にかぁ?
どの道エドワード・エルリック達はウチに来る、とは思うんだよな。
一応調べちゃいるけど、やっぱりセントラルにもイーストシティにもショウ・タッカーなる国家錬金術師は登録されていない。なんなら民間の錬金術師でも聞いたことが無いレベルだ。
多分マジに一般人として生きているんだと思われる。
……となれば、やはり"生体錬成の権威"ことこのヴァルネラのもとを訪ねてくる……とは思うんだけど、如何せん現状が原作と違い過ぎるのがネック。
ふむ。
となると……万が一ロイ・マスタングが大怪我をした時、ちょうど俺がいたらラッキーだよな。盛大に怪しまれるだろうことは置いといて。
いいじゃん、理由付けできたじゃん。
申請は……申請はなぁ、しなくちゃいけないんだけど、まぁ「申請すればいい」だけだからな。
受理されなきゃいけないとは言われていない。今までは受理されてから行っていたけれど、そこの契約は「申請をすること」だけだ。今まで待っていたからっていつまでも待つと思うなよって話。
よし。
それじゃあイーストシティへ!
列車に乗ってやってきたイーストシティは大雨に見舞われていた。
おお、やっぱり、という感想を抱きながら、彼らがいるだろう場所に急ぐ。ショウ・タッカーの事件が無くともソレは起きるって可能性は高いからな。
あんまり使わないので忘れられがちだけど、俺ってばシンの武術も修めている。悪路を素早く走る走法とか雨でも滑らずに走る足の付け方とか、色々知っているんだこれでも。
……まぁランファンとかフー爺さんに類する「刺客」って感じの速さは出ないんだけど。あ、森とか夜とか、隠れられる場所、時間なら話は別ね。
イーストシティの時計塔。懐かしいね、観光スポットだからって一度行った場所だ。だから覚えている。
そこに、ゴム毬のような挙動を取りながら屋根と屋根の上を飛び跳ねて──雨に打たれ、俯いている二人の前に降り立つ。フードの先を指でつまみ、同じくコートの先も手繰り寄せて、ヒーロー着地だ。膝に多大なる負担がかかるので一般人はやめような!
俯き、自嘲するように笑っていた金髪金眼の少年が驚いたように顔を上げる。
……ん? あれ? こいつらなんで落ち込んでるんだ? ショウ・タッカーの事件が無かったんなら、錬金術を疑う理由もないだろうに。リオールとユースウェルでなんかあった?
「な……」
「何!?」
おお、アルフォンス・エルリックの声初めて聴いたけど、やっぱ変な感じだな。
錬成陣からどーやって声出してんだろうな。俺その辺詳しくないから後でじっくり調べたさはある。いや、意識だけの状態、魂だけの状態でも声は出せるんだよ。だけどそれをするためには大気を振動させるための媒介となるものが必要でさ。あ、だから鎧が媒介になってるのか。なるほど、それで反響するみたいな声に──。
「子供!? 兄さんより小さい……」
「ナニモンだ、てめェ」
エドワード・エルリックが機械鎧の表面を刃に作り替える。
それ、いいのかね。原作見てた時から思ってたけど、精密機械の表面引き延ばすってフツーにヤベーことやってるけど。そこだけ余分に厚み持たせてるとしてもヤベー応力かかって神経がっべーわっぱねーわになりそうだけど。
……その辺込みで、ウィンリィ・ロックベルの腕が良いのかね?
「ロイ・マスタングがどこにいるか知らないか?」
「……大佐に何の用だ。っつか名を名乗れ名を!」
「ふむ。そういやお前ら狙われないんだからここにきても意味無かったな。すまん、邪魔した」
「はぁ!? って、待て! 狙われるってどういう……大佐が誰かに狙われてんのか!?」
そうじゃんそうじゃん。
新聞読みながら考え事してたからすっかり失念してたけど、別にコイツら狙われないんだからこいつらの目の前に降り立つこと無かったじゃん。
で、狙われるとしたらロイ・マスタングで、彼は東方司令部にいて……うーん、流石にイシュヴァールの武僧たちも東方司令部に突っ込むことは無いと思うんだけど。
「待て、オイ待てこのチビ! 豆粒ドチビ! こら、待てっつってんだろ!!」
「兄さん、その挑発で待つのは兄さんだけだと思うよ!」
ついてこられる速度で走っているとはいえ、良くついてこられるな。
今の今まで落ち込んでたんじゃないのか? テンション乱高下しすぎだろ。血糖値スパイク大丈夫か?
しかし……さっきのさっきまで考えていたことを失念してた、ってのは、俺にしちゃあり得んレベルのミスだな。
脳裏メモに入れておこう。
東方司令部。
その門に辿り着く。
いた。そこに、いた。
……全然、フツーに車に乗ろうとしている怪我なんか欠片もしていないロイ・マスタングが。
「え……ヴァルネラ医師? 何故ここに……」
「ありゃ、まだ無事か。つくづくタイミングの悪い」
「それはどういう──まさか、ヴァルネラ医師は"国家錬金術師殺し"について何か知っているのですか?」
「知らんワケないだろ。誰が治療してると思ってんだ」
「そういう話では──」
バヂッという音ともに光が走る。
一瞬雷かと錯覚したけれど、違う。
青い錬金光。
これは分解の錬金術だ。
「俺は武闘派じゃないんだがね」
一息で車に乗りかけている姿勢のロイ・マスタングへと近づき、その肩に足を乗せる。
それはもう軍服にべったりとついた泥。これにロイ・マスタングが抗議の声を上げようとして、ようやく気付いたのだろう。
高く──向かいの建物の屋上から降ってくる褐色肌の男に。
その手が纏う分解の錬金術に、真正面からぶつかる。
治す。分解と同じ速度で生体錬成を使う。原作でフラスコの中の小人がエネルギーの相殺をやっていたけれど、まぁ似たようなものではあると言えるだろう。
激しい光。相反する錬金術がぶつかった時の反発は衝撃波を生み、俺と、そして武僧を互いに弾き飛ばした。
武僧、だ。
けれどその両腕には入れ墨──分解と再構築の陣が彫られている。
「……緑礬の錬金術師。私達はお前に向ける敵意を持たない。どうか退いてはくれないだろうか」
「コイツに向ける敵意は?」
「数多の同胞を殺し尽くした者に、殺意を向けない我らではない」
「そうかい。じゃあ良いことを教えてやるよ。──お前らが頑張って殺して回った国家錬金術師な。全部俺が治療しちまった。今も生きてるぜ、奴らは」
「!」
ま、知らないのも無理はない。
未だ入院している奴も少なくはないし、死んだ、あるいは再起不能になった、ということにして細々と生きている奴らばかりだ。バスク・グランとかも錬金術師の養成に身を傾けたからな。
少しずつ、少しずつ。
遅々としてでも進んでいると思っていた復讐が──全て水泡に帰していたと知れば。
「……私たちはお前を殺したくはない!」
「んじゃ今回の襲撃は諦めな。ロイ・マスタング殺しは俺のいないところでやれ」
「ちょ、何言って」
「それは、できない。焔の錬金術師がその焔を使えない状況にある──またとない機会だ。今ここで殺さない限り、この先此奴を殺す機会は訪れないだろう!」
そういう意味で言ってるのであって他意はない。
「──だぁまって聞いてりゃ、何言ってんだてめぇら!!」
地面が隆起する。それらは棘となり、あるいは拳の形をした石となり、武僧と俺を攻撃する。
え、なんで俺まで。
避けるけど。あ、あっちはあっちで分解した。
「大佐! ケガない!?」
「鋼のに、アルフォンス……何故ここに? いや、そんなことはどうでもいい。逃げろ、君らの勝てる相手ではない」
「だったら大佐も一緒に!」
アルフォンス・エルリックの言葉に、しかしロイ・マスタングは首を振る。
そして、目線だけをチラりと……すぐ近くの鐘楼へと向けた。
狙撃。リザ・ホークアイか。
まぁ確かに武僧とて人間だ。スナイパーライフルの弾速にゃ反応できないだろうし、リザ・ホークアイの腕なら外すこともないだろう。
ここに俺がいなければ──かね?
「……わかった。ここは退く」
「おん? なんだ、物分かりの良い……いや」
あれは……インカム? おいおい、いつの間にそんな技術取り入れるようになったんだよ。
つか、アレしてるってことは、どっかに
「動くな! 貴様は完全に包囲されている!」
突然ロイ・マスタングが声を荒げる。
その声と共に、周囲からわらわらと出てくる軍人。手には銃。
地面を壊して地下水道に逃げるか。
それとも何か別の──。
「え……?」
音は背後から聞こえた。
ガシャン、ガラガラと崩れる音だ。伴い、エドワード・エルリックの息を呑む音。
「何……?」
そしてそれを為した下手人も困惑の声を零す。
まぁ、そうだろう。
鎧壊して中身も、と思ったら中が空っぽだったんだから、そういう声にもなる。
崩れたのはアルフォンス・エルリック。
定着の錬成陣には影響ないだろうけど、結構な範囲持ってかれたな。
「すまん、助かった!」
当然のようにそっちへ注目が行くんだ。
武僧への警戒はおろそかになる。その隙をついて武僧が建物を駆け登り離脱。そしてアルフォンス・エルリックをぶっ壊したやつも──その顔に傷こそなけれど、あの顔は紛う方なき
ふむ。
被害はアルフォンス・エルリックの鎧のみ、か。
……上々だけど、俺出張ってくる必要なかった上に、こーれ。
「──ヴァルネラ医師。詳しいお話を聞かせていただけますよね?」
まぁ、そーなる。
さて、東方司令部。
ロイ・マスタングの部下の面々と、エルリック兄弟。さらにはアレックス・ルイ・アームストロングがいて、そんで俺。
構図はまー、尋問だわな。
「あなたは言いました。"なんだ、まだ無事か"と。ヴァルネラ医師、あなたは私が襲撃されるのを知っていましたね?」
「次に狙われるとしたらお前だろうな、とは思ってたよ」
「それはどのようにして推測を? 彼らと面識があるようでしたが──彼らはテロリストです。そういった者たちと繋がりがあるとするのならば、私はあなたを中央へ告発しなければならない。詳しいお話をお聞かせください」
ロイ・マスタングの口調は硬い。
概ね今彼が語った通りだ。「国家錬金術師殺し」……というか「国家錬金術師殺し集団」はテロリスト。連続殺人未遂犯でもある。その被害者を救い続けてきた医者が、犯人たちと繋がりがあった……なんてスキャンダルなんてレベルじゃない。内通だ。マッチポンプだ。
そうであるとは思いたくない、という意思が伝わってくるのがロイ・マスタングの善性を物語っているんだが。
「面識があるのは当然だろう。俺が逃がした奴らだ。が、仲間じゃない。というか殲滅戦以来だよ、再会したのは」
「……あの戦いであなたが故意に逃がしたというイシュヴァール人、ですか」
「言い方が甘いな。アメストリス軍に敵対してまで逃がしたイシュヴァール人、だ」
「戦場の神医ヴァルネラ……やはりその噂は本当でしたか」
なんぞ尾鰭がつきまくっている「戦場の神医」における汚点とされる部分。
その心が優しすぎたあまり、敵を守り、治癒し、逃がしてしまった……とか言われてる噂。
優しすぎたあまりで毎回噴く。
「なー、大佐。少佐も。話がよくわかんねーんだけどさ、このチビそんな有名なの?」
「……戦場の神医ヴァルネラ。あるいは緑礬の錬金術師ヴァルネラ医師。"生体錬成の権威"とも呼ばれている方だ。ほら、君が国家資格を取った時、"次セントラルに来たら紹介する"と約束しただろう」
「ヴァルネラって……あの?」
「恐らくはその"あの"だ」
エドワード・エルリックは中空に目線を向けて、それを下ろして俺を見て。
もっかい中空に視線を向けて。
「まだガキじゃねーか。ヴァルネラっつったら80年前とかから国家錬金術師やってる爺さんだろ」
「ゆえに"生体錬成の権威"だ、鋼の。御年が幾歳であるかは知らんがな、少なくとも80年、いや100年以上を生きて、今なおこの姿である、ということがどういうことかわからん君でもないだろう」
「……いや、ありえねーだろ……」
ところで俺はまだフードを取っていない。
すごく今更な話なんだけど、俺ってクセルクセス人なんだよね。だから金髪金眼なんだよね。
顔立ちこそ全然であるとはいえ、その特徴持ってるアメストリス人ってホーエンハイムの子供であるエルリック兄弟かフラスコの中の小人しかいないんだよね。
俺ェ!
「話を戻します、ヴァルネラ医師」
「戻すも何も、終わっただろ。アイツらは俺が逃がしたイシュヴァール人、内通はしてない。これで終わりだ」
それで終われないから、みーんな硬い顔してんだろうけど。
一番の問題がまだ解決してないんだ。
「……では、聞きますが、ヴァルネラ医師」
「
「っ……そうです。あなたの居住地はセントラルだ。元は旅好きであったとは聞いていますが、セントラルに居を構えてからはそのほとんどをセントラル市内で過ごしている。そんなあなたが何故、今日、このピンポイントな時間にイーストシティに……私の近くにいたのか。ご説明願いたい」
「ん、大佐。ソイツ最初に俺達の方に来て"ロイ・マスタングがどこにいるか知らないか"って聞いてきたぜ?」
「君に? ……どうしてですか、ヴァルネラ医師。何故彼が私の居場所を知っていると思ったんですか」
ふむ。
まぁ怪しまれるのも疑われるのも告発されるのもどうでもいいんだがな。
ホーエンハイム関連とイシュヴァール関連は俺が掻き乱したようなもんだ。その辺が気にならないと言ったらウソになる。
特にイシュヴァールの武僧は……俺が国家錬金術師を治していると知ったら、どう行動してくるかわからん。
「何故って、鋼の錬金術師を国家錬金術師に推薦したのはお前だろう、ロイ・マスタング。そこの仲が良いと考察するのにそれほど不思議があるか?」
「彼の前に現れた理由は?」
「イーストシティの特徴的な建造物は駅かあのスチーム時計くらいだからな。そこから全体を見渡して騒動が起こっていそうな場所を見つけようとした」
「……まだ最初の質問に答えてもらっていませんよ。何故あなたがイーストシティに来ていたのか──」
うん。
今俺も一生懸命考えてたんだよ。言い訳を。
他の行動の怪しさは今みたいに打ち消す理由付けが見つかったんだけど、俺がイーストシティに来た理由だけどーやっても思いつかない。
だって来る理由ねーもん。
……ブラッドレイに言われて、とか言うか? ワンチャン有りだな。俺とブラッドレイがマブなのはある程度の階級の軍人には知れ渡っている話だし。なんでって、頻繁にアイツが俺を呼びだしてくるから。七割くらい蹴ってるけど。
よし。
良い理由思いついた。
「別件だ」
「……詳しく、と言いました」
「告発してくれてもかまわない。どうせブラッドレイで止まるからな」
「それは」
つまり、ブラッドレイ直々の別件で動いている、と言外に言っているようなもの。
言ってないけどねそんなこと!
……ただ、実は別件があるのは本当だったりする。
というのも、あのイシュヴァール殲滅戦の最中、あんなに早く終わったにもかかわらず、ティム・マルコーが原作通り失踪しているというのだ。その捜索を、「医者の横のつながりで情報が入ってきたら知らせてくれ」みたいに言われている。
あの殲滅戦で賢者の石作る実験なんてほとんどできなかったと思うんだけどね。それくらい早く終わらせた自信あるし。
「……わかりました。これ以上はもう聞きません」
「え、いいのかよ大」
「ですが」
ロイ・マスタングが、いつにない──今まで一度も俺に見せたことのない冷たい眼で、俺を見下ろす。
「あなたがアメストリスの敵になるというのなら、なっていたというのなら──私はあなたを容赦なく灼きます」
「いーよ。お前さんの火力じゃ俺を殺し切ることはできないから」
「──はぁ、そういう意味で言ったのではないのですが」
「なんならアームストロング少佐も加わるか? 鋼の錬金術師も。あぁ、部下の奴らもいいぞ。全員でかかりゃ足止めくらいはできるだろうし」
「い、いえ吾輩は……それに、あなたとはマトモにやりあうな、と姉上から……」
「え、アームストロング少将が? ……おかしいな、俺面識無いんだけど」
「ヴァルネラ医師。大佐たちはこう言ってますけど、さっき大佐を救ってくれたこと、俺達は感謝してんですよ。アンタがあのイシュヴァール人を止めてくれてなかったら、大佐は車ごとお陀仏だったかもしれないんで」
「あーっと、確かハイマンス・ブレダ少尉だったか?」
「とと、すんません、名乗りもせずに。というか、なんで俺の名を?」
「アメストリス軍肥満者・肥満予備軍リストに載ってたからなぁ。あと覚えてないかもしれないけど実は一度会ってる」
「え……そりゃ失礼を」
流れるように弛緩した空気についていけていない様子のエルリック兄弟。
東方司令部の面々とは一瞬だけ顔を合わせているんだよな。最初にロイ・マスタングと問答した時に。
顔を合わせている、っていうか一瞬チラ見しただけだけど。
「マース・ヒューズ中佐は娘さんの誕生パーティぶり。んでヴァトー・ファルマン、ケイン・フュリー、ジャン・ハボック……であってるよな? すまん、階級までは覚えてねえや。ああんで、リザ・ホークアイ中尉、ね」
「……なんで中尉の階級だけ覚えてんですか。もしかして狙って……」
「彼女はほら、俺にトラウマ持ってるから」
「え、何したんスか。ホークアイ中尉がトラウマ持つほどって……相当スよ?」
「ちょっと目の前でパァンしたらビビられちゃって」
「パァン?」
警戒が解けたわけでも、疑いが晴れたわけでもない。
ただこれ以上ギスギスしてても仕方がないと互いに判断しただけだ。んで部下はそれに乗っかっただけ。
そんで、じゃあ、まぁ。
「それで? この"生体錬成の権威"に紹介するって、何の話で、だったんだ、ロイ・マスタング」
「ああ、それは──」
これで、あまりにも自然な流れで合流成功ってワケ。