緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
「兄者」
静かなコンテナに声が沈む。
大きな声でもないのに、彼の声は、月明かりのみで作業をしていた男の耳朶を強く打った。
「寝ないのか。……体に障るぞ」
「少し、な。先日彼に貰った情報を私なりに裏打ち、精査してみたんだ。
「そうか。それで、どうだった」
「残念ながら」
男は幾枚かの紙を見せる。
陣と記号、数字、いくつもの矢印といくつものチェックマークの描かれたソレは、残念ながら男の弟が見ても理解できるものではない。
「──全て、正しかった」
「……そうか」
「こうなってくると、少し哀れでさえある。国家錬金術師は私とて憎い。だが、その制度も、この国の成り立ちも……すべてが利用されるためだけに生み出されたものだ。錬金術師が地に陣を描くように、意のままに生み出され、設置され、回されてきた。アメストリス人も国家錬金術師も……そして、私達でさえも」
「そうか」
イシュヴァラの
地の神イシュヴァラさえも利用せしめんとしたこの巨大な錬成陣は、今なお構築が進められている最中だ。
「このままいけば、多くが犠牲になる。この地にいるアメストリス人だけじゃない。この地にいるイシュヴァールの民も、血の薄まった者も、私たちのために動こうとしてくれた人も、動いてくれた……あの夫妻のような人たちも、皆」
「ならば、壊す必要があるな」
「ああ。果てを作る者があるのなら、それを壊し、続かせる。これは私たちにしかできないことだ」
揺れる。コンテナが揺れる。
ガタンゴトンと、線路と線路の継ぎ目を乗り越えるたびに揺れる。
「ならばなおの事休め兄者。──ブリッグズの寒さは、俺達には堪える」
「ははは、武僧としてあらゆる悪環境にも耐えたお前がそういうのなら、納得するとしよう。……明日は必ず戦いになる。──殺さず壊す。その勇気はあるかな?」
「無論だ、兄者。ただ壊し、ただ殺す者では国家錬金術師と変わらぬ畜生だ。……罪なき者に手をかけ、その命を奪うには……俺は生かされ過ぎたからな」
「おい、お前らうるさいぞ。早く眠れ」
「……らしいから、寝ようか」
「むぅ……そもそも俺は兄者に寝ろと言いに来た側なのだが」
「いいから寝ろ! 寝れないだろう!」
揺れる。揺れる。
復讐の炎は分火した。延焼した。
国家錬金術師に復讐するという心は変わっていない。だが──それを統御し、けしかけた者の企みを壊し、その者をも殺すという炎が彼らの中に芽生えていた。
たとえそれが、"緑礬"の注いだ油によるものであるとわかっていても──。
厳寒たる自然の要塞、ブリッグズの雪山へと向かう。
ダブリスで降りて、カーティス夫妻とは別れた。というかあっちが離れてった。
しかし嫌われたもんだ。まぁ押し売りも良い所だったからなぁ。
さて、しかしどうしたもんか。
これ多分というか確実にエルリック兄弟追い抜いてるんだよね。いや先回りする、ってのがそもそもの目的だったから良い……とは、いえ。
「お、らァ!」
「ふん!」
「セャア!」
うーむ。ま、来る頃だろうとは思っていたけれど、そう来るか。
しかも知ってる顔ばかり。どうすっかなー。毎回毎回思うことだけど、衣服切られるのダルいんだよな。妙に紳士的というか下半身はほぼ狙わないでいてくれてるのはありがたいけど、フードがさー。
ぐじゅり。
「うぉっ!?」
「ム……まだだ。ふんっ」
「チ、速すぎだろ……グリードさんでもこんな速くは」
「いや、グリードはアレ演出で遅くしてるだけだろ。その方が恐怖掻き立てるから」
「喋ッ……いやいや、口どころか顔ぶっ飛んでんだぞ!?」
ドルチェット。ロア。
人語を喋る合成獣──どころか、動物の能力を手に入れた人間。
俺原作の時から思ってたけど、この技術別に良いと思うんだよな。成功率が低い、って部分だけがいただけないけど、もっと確実なものにしたら、んでこいつらの寿命が人間相当であれば、普通に「進化」じゃん。
水音を立てて顔が再生する。
「よう、キメラ諸君。グリードの遣いだろ? なんだよアイツ、待ちきれなくなったのか」
80年も待ったんだもんな。
答えが出ているなら、待ち遠しいさな、そりゃ。
「おー、ホントに不老不死! 親父殿の言うことを信じてなかったわけじゃねぇが、ホントのホントに見た目が変わってねえ。その上で聞いてるぜ。爆発四散したり、爆散したり、ぐちゃぐちゃにされたりほぼ消滅したり! がっはっは、だってのに今こうして五体満足で……いやぁ、マジモンだなお前」
「そういうお前さんは、人とつるむようになったか。友達か?」
「いや、仲間だ」
そうなんだよな。
グリリンになる前、つまり初期グリードってもう"答え"を手に入れているんだよな。まぁ早々と手に入れちゃったから他のものも欲しくなった、ってだけなんだろうけど。
「で、だ。取引は忘れてねぇよな、不老不死」
「勿論。というか楽しみにしてたんだ。永遠の命の等価。どんな結論を出したよ、
「──勿論だ。……が!」
が?
「お前ら上行ってろ! 宴だ!」
「へーい」
「っしゃー!」
……おん?
「がっはっは、何が何だか、って顔だな。おいおい、80年ぶりの再会だぜ? ──再会を祝って宴すんのは当たり前だろ」
「おー……俺と? 別に俺とお前友達でもなんでもないじゃん」
「再会には! 祝宴がつきもの! 覚えておきなぁ、不老不死」
「まぁ付き合うけどさ」
「……ところでお前食ったり飲んだりはできるんだよな? 不老不死なんだ、生命活動止まってるとかは」
「ああ、できるよ。排泄もしなけりゃ細胞も変わんないけど、俺が美味いモン好きだから胃に食ったモン分解する錬成陣刻んでる。どんだけ食ってもどんだけ飲んでも腹いっぱいにゃならん」
「良いじゃねえか! んじゃ夜まで、いや朝まで飲み明かそうぜ! んでアレだ。俺もこの80年あったこと話すからよ、お前の80年も聞かせてくれよ。さぞかし色々あったんだろ? どんなのでもいい、聞きてえ」
ふむ。
なんかちょっと珍しいな。フラスコの中の小人以来じゃないか?
向こうから等価交換持ちかけられたのって。
「デビルズネストの食糧庫空にしちまうが、いいのか?」
「今さっき食材の業者に発注いれたんだ。追加はどんどん来るぜ」
「いいねぇ、南部の食事は胃もたれしないから好きなんだ。──上、行くか」
「がっはっは、やっぱノリ良いなアンタ!」
いやだって、こんなノリ良い集団に囲まれたらそりゃ良くもなる。
もう聞こえてくるもんな。上から。
どんちゃん騒ぎっつーか、喧嘩とか喧騒に近い大騒ぎが。
「ああ、グリード。一個だけ」
「あン? あぁ嫌いなモンでもあんのか?」
「不老不死の欠点だよ。俺酔えないからさ、──素面で暴れさせてもらう」
「がっはっは! 奇遇だな、俺も一瞬しか酔えねえんだ。親父殿も、そういうとこ融通利かせてくれりゃいいのにな」
グリードは、ちょっとだけ寂しそうに言う。
仲間と盛り上がりたい。ほうほう。ならばよかろう──。
「……お前さ、硬化できる以外は人間と一緒だよな?」
「ん? あぁ、そうだが」
「これやるよ。こないだエンヴィーに薬盛った時の研究副産物。
「名前からしてやべぇドラッグにしか聞こえねえが」
「やべぇドラッグに決まってんだろ。大丈夫大丈夫、
酔い止めならぬ酔い進め薬だ。俺には効かん。あと危ないから人間にも効かない。
……
「ま、試しに
「……研究者がよ」
「あっはっは、錬金術師も医者も研究者なら、俺は二乗ってな」
グリードは──ソレを一気に吞み込んで。
「……あ?」
「おお、起きたかグリード。すまんな、俺造形する錬金術苦手でさ。とりあえず怪我だのなんだのは全部治癒したけど、酒場はボロボロだわ。修繕費は俺の預金から出してやるから、そんな落ち込まなくていいぜ」
「いや……あ? ん? 俺は……」
「あ、何? お前酒飲むと記憶無くすタイプ? おいおい先に言えよ。──じゃあお前の痴態は俺と
昼、である。
カーティス夫妻と別れて、グリードに出会って、宴をして、朝になって誰も起きなくて夜になっての、朝を過ぎて──昼。
ほぼ、丸々二日経ってる。
いやー、やっぱ酔えないのだけは不老不死のよくない所だわ。俺素面がチャラいから酔ってる奴にも付き合えるんだけど、酔っぱらって気持ちよく眠る、ができねーのがなー。
「つつ……う、あったま痛ってぇ……」
「飲みすぎたし……寝すぎた……」
「あぁ、グリードの旦那ァ……アンタその一発芸面白すぎるって……ふぁぁ」
他の奴らも死屍累々。
動物混じってるからかな、酒が妙に効きやすい。いや動物の全てがアルコールに弱いわけじゃないけど、なんかあんだろ。知らん。俺
「……で、なんでお前さんはまだ食ってんだ?」
「馬鹿お前、途中からみんな酒しか飲まなくなったから勿体ねえんで料理は全部頂いてんだよ。いやマジで、サワークリームが良いわ。あとこの……なに? ヒラメ? いやヒラメなわけねーよなどーみても淡水魚だし。……よくわからんけどこの魚うめぇ。なに? これ」
「ん-? あぁ、そりゃカウロイレインズチャアだな。釣りやってるとよく釣れるぜ」
「ほー。こっちは?」
「いや俺別に魚博士じゃないんだが……おいマーテル! お前料理ある程度できるだろ、これなんだかわかるか?」
「ドルチェット……二日酔いの頭にアンタの声響きすぎ……」
「これは、シンカルプだな」
「外来種か。へぇ、誰かが持ち込んだのかな」
わいわいがやがや。
みんな起きてきて、また思い思いに料理を食べたり、なんなら再度飲み始める奴まで出てきた。
……いや今回は俺が出すっつったけど、こいつら普段の収入とかどーしてんだろ。
「あー、盛り上がってるトコ悪ィがよ。ヴァルネラ。ちょいと一旦下行こうぜ。取引の件だ」
「待てよ。これ食い終わってからだ。ち、タルタルソースかけたのは失敗か。味が強すぎる……全部タルタルの味になるからなタルタルソースって」
なおこの世界にタタール人はいないのでタルタルソースなんて名前じゃないのはあんまり関係ないことである。
口をへの字に曲げたグリードのためにも、少しだけ急ぎ目に食べて。
よーやくの──答え合わせの時間である。
「まず、だ。ヴァルネラ」
「おん」
「俺は永遠の命と等価たるモンを見つけてねぇ!」
「……おん?」
開口一番、そんなことを告げられた。
え、それだとこの話終わりだけど。
「が!」
「が?」
「……まー、無い頭で80年間色々考えてみたんだ。ちぃと聞いてくれや」
「おお、いいぞ。違ったら違うって言うし、合ってたら合ってるっていうから」
突然始まった問答というか講義。
グリードは後頭部をポリポリ掻きながら、首をかしげながら、目を瞑りながら……少し言いづらそうに、一つ目を言う。
「まず……アンタを乗っ取る、だ」
「へえ」
「俺達の生まれはアンタも知っている通り、親父殿から抽出された感情と賢者の石が核となり、肉体を形作った。……が、やり方は他にもあってな。生きた人間に俺達を流し込む、でも
「あぁ、知っている」
「知ってんのかよ。……で! だから、今の俺をアンタに流し込めば、不老不死が手に入る……と、最初に考えた」
「おお」
「が、無理だな。あくまで俺は俺が不老不死を手に入れることを望んでいる。俺が不老不死に手に入れられることは望んじゃいねぇ。そんで、その程度のことでアンタの自我が消えんならそれは不老不死じゃねぇ、ただの頑丈なだけの身体だ」
「正解だ、
もし、フラスコの中の小人が俺の中に入ってこようとしているのなら、そうするつもりだった。昔ホーエンハイムに相談しに行った時の仮説の奴な。
あの時ホーエンハイムは俺の魂を一度追い出す、みたいなことを言っていたけれど、それは無理だ。
俺は魂と精神の方が結びつきが強い。肉体はなんならおまけみたいなもんだ。そこを切り離すことは不可能。
「んで次。永遠の命になれる情報の対価が何なのかを頭まっさらにして考えた時、そりゃ永遠の命になれる情報が対価だろう、と思いついた」
「ほう」
「──が、それが何かはわからなかった」
「……」
「時間か、空間か。とかく形あるものは必ず風化する。俺達
「んなこたないよ。アイツは魂を補充できるだけで、賢者の石を修復できるわけじゃない。この辺専門な話だから簡単な例を挙げるけど、賢者の石ってのは謂わばコップなのさ。その中に魂というエネルギーが入ってる。中身を使い切ったらコップは割れるし、使い切らなくてもコップが割れたらおしまい。何故ならコップはフラスコだから。フラスコの外に出てしまったら、フラスコの中のものは存在を保てなくなる」
「結局専門的な話になってるぜ、爺さん」
「……いいね、ジジイ呼ばわりは面白い」
中々いないからなあ。
「話を戻すぜ。だからまぁ、この世全てのものには寿命があるんだと気付いた。それを超越しているのが、時間と空間だ。時間は永遠に流れ続け、空間は永遠に存在し続ける。このどちらかなら永遠の命と等価なんじゃないかと思った」
「それは間違いだ、グリード。時間は永遠に流れ続けるわけじゃないし、空間は永遠に存在し続けるわけじゃない。どちらにも終わりが来る」
「……俺は"ンなもん俺の持ってるものじゃねえし、差し出せねえからボツにした"って言おうとしたんだけどな。そうか、そもそもが間違いか」
宇宙は永遠には続かない。時空には限りがある。
俺はそれを知っている。
「となると、最後に残った可能性はたった一つだった。
「お前の命か?」
「いいや。俺は強欲だ。永遠に永遠に欲し続ける。俺が俺である限り、俺はあらゆるものを欲し続ける。親父殿から切り離された
「成程。確かに感情に限りはない。源がある限りどろどろと溢れ出てくるものだ」
「が!」
「が?」
グリードは、自分の胸に親指を突き立てて、言う。
「ソイツは無しだ。永遠の命を得る代わりに俺が俺でなくなるのなら意味はない。俺は強欲あってこその俺であり、強欲を明け渡した俺は俺じゃなくなる。つまり」
胸、じゃないか。
突き立てているのは、心だろう。
「永遠の命と等価であるモンは俺にとって一番大切なモンだから、この取引はナシだ、不老不死。対価は大事なモンじゃねぇといけねぇだろうが、一番大事なモンを渡しちまったら意味がねぇ。その上で考えた」
「ほう。まだあるのか」
「そうさ。俺にとって"永遠の命"は一番欲しいものかどうか、を考えたのさ」
グリードは。
ニタり、と笑って。
「そんなことはなかった。欲しい欲しい、欲しい欲しい。俺様はあらゆるモンが欲しい。そこに優劣は無いと思っていたが──たとえば、永遠の命とアイツらを天秤にかけた時、どっちも欲しいと思うはずの俺の心は、アイツらに傾いた。その程度の欲しさでしかないってことだ。永遠の命は勿論欲しいが、一番じゃねえ。だから、一番大事なモンと交換するには釣り合わねえ。
今俺の心の中では真理君が「正解だ錬金術師!」って言ってる。
不老不死。
錬金術師なら、いいや人間なら一度は夢見る"富"。
強欲の名を持つこの男は、不老不死には「そこまで価値がない」と言い切ったのだ。
「グリード」
「なんだよ」
「遥か未来。あるいは別の世界。少なくともこの年代には生まれ出でない者が提唱する論理に、人間の人格というものは九つの種別に分類される、という考え方がある」
「あー。だぁから、メンドクセー話は無しで」
「強欲、グリード。お前は今、その分類において美徳とされる"価値観の克服"を成し遂げた。そうだ、それこそが──」
俺の胸から、二振りの刀が突き出る。
「な、んだ!?」
「オイオイ、お早い到着が過ぎるだろ。俺宴してるからもうちょい待ってって手紙出したよな?」
「二日待つのは十分"もうちょい"だろう」
その刀がサラサラと結晶化していっても、また次の刀が突き刺さる。
何本持ってきたんだよ。
「悪いグリード時間切れだ。コイツあれ、キング・ブラッドレイ。もとい
「出来の悪い兄を持つと弟は苦労するものだ。私はお前を回収しに来たのだよ、
「……はぁ。とうとう親父殿からの差し金が来たってことかよ。で? なんでアンタはソイツぶっ刺してんだ? 狙いは俺じゃねえのかよ」
「別に故意に刺したわけではない。お前を狙って投げた刀がたまたま射線上にいた障害物に突き刺さった。それだけだ」
「やっぱお前老眼だろ。もう5m先も見えないんじゃね?」
突き刺さるモノ全てを結晶化し、壊していく。
が……時間の問題だな。
緑礬の錬金術師の弱点その1は前述べた通り、結晶化の速度が一定以上上げられないことにある。
んでその2は。
「グリード。上の奴ら連れて逃げな、軍が雪崩れ込んでくるぞ」
「……そうさせてもらうつもりではあったがよ。アンタはどうする気だ」
「俺は死なねえからどーとでもなる。等価交換だ、グリード。祝宴感謝する。再会を祝う宴に感謝されても、って思うだろうけど、俺に取っちゃいい思い出の一つになった。──良い思い出の等価は良い思い出でなけりゃな」
俺が普段使う生体錬成と違って、体内に仕込んである緑礬の錬金術は全部手書きだ。
つまり、その部位を傷つけられてしまえば、あるいは一度発動して組織が組み変わってしまえば発動しなくなる。
在庫切れになっちゃうんだコレが。俺の再生は無限だけど、緑礬は無限じゃないのサー。
「……俺が、自分の手にした"
「不老不死だ。またどっかで会える」
「俺は強欲だぞ。わかってんのかアンタ」
「強欲ならもっと仲間を大事にしろ。もっと生を大事にしろ。お前パフォーマンスで殺されてみる奴やってるけど、あんなのしてたらすぐに賢者の石尽きるぞ」
胸から一本、刀が突き出る。
──そしてそれは、結晶化しない。
「逃げろよ
「あぁ、わーったよ! だが不老不死、宴の対価が救命だぁ? 等価交換を謳うならもっと裁量はっきりしな! 俺はこれが等価だなんて思ってねえぞ! また今度会ったらもっかい宴だ!」
グリードが上への階段を昇っていく。そしてすぐにドタドタと大人数が走り回る音が聞こえた。
「つーわけだブラッドレイ」
思いっきり軸足に力を込めて回れ右。
体の中心に刀がぶっ刺さってんだから、当然輪切りになる。
肩から下、腕の残っている方で上半身を掴んで。
「食らえ! 即席命名、テケテケ砲!」
ぶん、投げる!
投げられた胸から上の身体は血液と肉片を周囲にまき散らしながら飛んでいき──当然、その全てから"緑礬"の侵食を開始させる。
「また……迷惑な」
「えー、天気予報天気予報。南部はダブリス、西の工場地帯! 晴れ時々……」
結晶は瞬く間に広がり、周辺に巨大な穴を作り上げる。
侵食はまだまだ止まらず、ゆえに、だから、つまり。
「──地面に大穴が開くでしょう」
シンクホールだ。
上の連中が逃げたことは氣で確認済み。
その範囲はデビルズネストをぽっかり飲み込む程度。ごめんな店主。
「……天気予報を名乗るなら、せめて空の情報にしてほしいものだな」
その眼で侵食されない部分を見切ったのだろう、穴の側面にぶら下がったブラッドレイが言う。
うるせ。鹿注意報みたいなモンだよ!