緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
ロイ・マスタングがセントラルに来た。
東方司令部の面々を連れて、だ。そしてそこには。
「あのなぁロイ。軍法会議所の人間を中に入れるってことは、お前さんがいつもやってる口八丁手八丁ができなくなるってことだぞ?」
「なぁに、そこは君と私の仲だろう」
「俺に不正を見逃せってか? こちとら妻子がいるんだ、首切られるようなことはやんねぇからな!」
「ははは、そもそも何故私が不正に手を染める前提なんだヒューズ。私は至って品行方正な模範的アメストリス軍人だとも」
「……」
「中尉、なんだその目は」
「いえ。大佐が模範的アメストリス軍人だというのなら、軍の七割は聖人君子か何かなのだろうな、と思ったまでです」
──みたいな会話を、盗聴する。
俺がロイ・マスタングに電話でしたお願い。ちゃんと聞き届けてくれたらしい。まぁ認可したのがどこの部署かは知らんが、どっかしらの息がかかっているのはまず間違いないだろう。本来ならば絶対にあり得ない異動だからな。
「それはともかく、だ。マース・ヒューズ中佐」
「あ? なんだよ畏まって」
「早速だが命令だ──仮眠室で寝て来い。隈、隠せていないぞ」
「……断る」
「上官命令だ。幸いにして
「……お前まさか、俺を休ませるためだけに俺を隊に入れたんじゃねえだろうな」
「そんな私欲で、しかも私にとって一センズも利益にならないことで権力を使うと本当に思っているのかねマース・ヒューズ中佐」
「……ち、わーったよ。ご厚意感謝します、つってな」
よーし。
マース・ヒューズに言うこと聞かせるにはロイ・マスタングが一番! その逆も然りだけど。ああどうだろう、ロイ・マスタングへの一番はリザ・ホークアイかもしれない。甲乙はつけ難いな。
ばたん、とマース・ヒューズが部屋を出た音。氣もしっかり離れて行っている。
そこにホムンクルス等々が近づく様子もなし。
「で? 大佐、なんでヒューズ中佐を? いやあの人俺も好きだから良いッスけど、結構無理を通したんじゃ?」
「要否だ、ブレダ少尉」
「要否?」
「必要だったからこうした。それだけだ」
「……なるほど。俺らにも話せないくらいのお偉いさんからの、ってことですかい。んじゃもう聞きませんよ」
「ああ。私は何も言っていないがな」
先日、ロイ・マスタングに電話をした。
ただ一言──"マース・ヒューズが上に狙われている"と。
それだけ言って切った。当然ロイ・マスタングくんからのお問い合わせがジリジリとかかりまくってきたけど、ガン無視。まーた近づいてきてるフー爺さんの氣を察知して逃げ回って、今ここにいる。
詳細は話していない。
何故なら、恐ろしいことに気付いてしまったからだ。
そう──現状、ロイ・マスタングもエルリック兄弟も、
第五研究所に行っていないのでラスト、エンヴィーに会っていない、デビルズネストに行っていないのでグリードに会っていない、まぁ多分グラトニーにも会っていない。
いやラースことブラッドレイには会ってるっちゃ会ってるけど
多分というかほぼ確実にウロボロスの入れ墨も知らない。
ただ、賢者の石が人の魂を原料にしている、ということだけを知っている状態。
エルリック兄弟が知らないだけならまだいいんだけど、軍人側もほぼ誰も真相に辿り着いていない……足をかけてすらいないのがヤバすぎる。
ので、マース・ヒューズだ。
彼は記憶を思い出しつつある。多分なんらかのきっかけで思い出せてしまう。
そうなったとき、ホムンクルス達はマース・ヒューズを狙い直すだろう。もし現段階でロイ・マスタング組に国土錬成陣に気付かれてしまえば、焔の錬金術師の最大火力でスロウスが作ってる円を薙ぎ払ってぶっ壊す、とかもできそうだし。
しかしそこに、彼を囲うようにロイ・マスタング達がいれば、十分な盾になる。
マース・ヒューズが夜遅くまで調べものをするのなら、必ず誰かが連れ添ってくれるはずだ。あの面々面倒見良いから。そして何かに気付き、隠している素振りを見せようものならロイ・マスタングが必ず暴く。暴いて共有してしまえばマース・ヒューズのみを狙う理由もなくなる。
どうだろう、俺は軍略とか戦略とか一切習ってこなかったけど、結構良い線行ってるんじゃないだろうか。
窓が開く。
「で、皆出て行きましたが……どういうことか説明してくれるんですか?」
「え、しないよ? 経過観察に来ただけだし。ただ、そうだな。アドバイスだ。セントラルの軍人は誰も信用するな。基本的に怪しいと思え」
「……貴方は昔から上層部と仲が悪かったと記憶していますが、それ関係ですか」
「それ関係でもあり、それはあんまり関係なかったり。ただ──お前には借りがある。ロイ・マスタング。等価交換はまだ済んでいない。うまく使えよ、俺を」
「どういう……はぁ、行ったか。全く、毎度毎度嵐かあの人は……」
確かに行った。離れた。
けど盗聴器はまだ機能して……おや。
「こっちには機械関係のスペシャリストがいるんですから、気が付かないわけないでしょう。プライバシー保護の観点から潰させてもらいま」
ぐしゃ。
……。
これで等価交換な。お前にマース・ヒューズを押し付けたことと、俺が買った盗聴器踏みつぶしたこと。
造形の錬金術が苦手な俺にとって、壊れた機械に対する苦手意識がどんだけあるかお前わかってないだろう。つかもう買わねえ。設置も設定も大分時間かかったし。へん、俺は不老不死だからナチュラルを生きるんだよネイチャーをな!
「──見つけタ! ブシュダイレン!」
「若、単純な物理攻撃は効きまセン、切り刻んだ後に鉄網などデ……」
「やってもいいけど別んとこから再生するから関係ないよ」
街中を、ではなく屋根の上から上を伝っていたら、リン・ヤオとフー爺さんと遭遇した。
氣は……三つ。屋内に一人潜んでいる。
なんで街中を行かなかったって、こいつら所構わず襲ってくるから周囲にものっそい迷惑がかかるのだ。前も述べたけど、目の前で少女の首が飛ぼうが赤子が弾けようが何とも思わない俺だけど、「あー今俺超迷惑だなー」くらいは思う。
それを避けての屋根上だ。
ついでに言うと屋根上って案外遮蔽物少ないから戦いやすい、というのもある。
「ヤオ家近代当主か」
「そうダ。そういうお前はブシュダイレンだナ? 遥か昔のシンにおいて、皇帝に不老不死の法を授けることなく消えた不老不死の精。──俺達は別にお前を殺そうとしているわけじゃない。ただ近代の皇帝に会ってほしいだけダ」
「そこの爺さん殺そうとしてきたけど」
「フン! 殺しても死なんだろウ」
そうなんだけどさ。
ふむ。氣が真下にまで来たな。これはあれか。
「突然一歩進んでみる」
「!」
突然一歩進んでみれば、今まで俺の足があったところから突き出た腕が空を切ってくれた。
「何!?」
「……ランファンの隠形を見破るか。やはリ、一筋縄ではいかなそうだナ」
「ですナ」
臨戦態勢になった二人。
いやー。
シン組、本当にどうしようかなぁって。悩みの種過ぎる。
「……つかさ、ちょっといいか?」
「なんダ、ブシュダイレン」
「俺年明けて少しくらいまで予定入ってるからアレだけど、それ終わったら全然いいよ、シンについて行っても」
「……」
「……」
「行ったことあるし。あれ、ロン家ってまだある? あの時の騒動で潰れちった?」
「……前々前代の皇帝がロン家の者ダ」
「へえ! じゃあ結構続いたんだ。今は?」
「普通に……そこそこの力はあるガ、安泰とは程遠いナ」
「ん-、まぁあの頃の奴らは誰も生きてないだろうけど、どういう風に景色が変わったのかとかもみたいし。いいよ、こっちでやること終わったらついてってやる。だから殺すのナシにしてくんね? ダルい」
沈黙である。
この中で一番付き合いの長い──といってもトマトゼリーしただけの間柄だが──フー爺さん以外の二人は呆気に取られているようだ。ランファンなんかまだ腕だけしか見えてないし。
不老不死の法。
教えるかどうかは代価次第だけど、持ち帰るというかついてきてほしいってんなら全然行くよな。こっちでのアレコレ終わったらまたやることなくなるから観光タイムに入るわけだし。
「本当ニ……いいのカ?」
「おん。おめでとう当代ヤオ家当主。次の皇帝はお前だ」
「……」
まだ信じられないのか。
ポカンと呆けたままのリン・ヤオ。まー口約束だと信じられんか。だけどなー、俺ってば不老不死だから担保になるものないんだよね。大事な物とかもないし。
「そうと決まれバ、その"こっちでやること"とやらヲ早めに終わらせてしまいたいものだナ」
「あー、月日が関係するから早めに終わらせるとかないのよ。季節行事っつーか」
「成程。シンにも季節に関する行事は沢山あル。それらを動かすことはできない……若、ここはひとまず」
「あ……あぁ。そ、そうカ。俺は……皇帝ニ」
流石の俺も日食の時期をズラす、とか無理だから。それができるのはもうカミサマだから。
なんで来年の「来るべき日」まで待ってもらわないと。そんで、それが終わってからだな、シン旅行は。シン旅行終わったらアエルゴとかドラクマも行ってみたいなー。なんか昔ドラクマ行ったら密入国者の取り締まり強すぎて一瞬でバレて追っかけまわされて終わったからなぁ。
あとはクレタか。クレタは実は一回も行ったこと無いんだよな。何があるのかもよく知らん。楽しみではある。
それに、原作では触れられなかった、アメストリスからかなり離れたところにある国々も。錬金術の発達はほとんどしていないクセに、建設技術だけで103メートルとかまで高さ出してる建造物とかあるらしい。あ、そういやブレダ少尉がシンのさらに向こうに島国があるとかも言ってたなぁ。
うん。
当然だけど、この1914年、1915年で世界が終わるでもないんだ。
こういう展望は心をワクワクさせるよね。今度こそ汽車も航空機も船も使わない完全徒歩&泳ぎでの観光をするとしよう。
「決まりダ」
「あ、うん? 何が?」
「我々はお前についていク。お前に何があっても事だガ、他のシンの者がアメストリス入りしているとの情報もあル。それらの手に渡る可能性も否定できなイ」
「ってわけだ、ブシュダイレン! 世話になル!」
「そして、いつまでそうしているつもりだランファン。出てきて挨拶をしろ」
「あ……」
えーと。
つまり?
「改めて! リン・ヤオだ。当代ヤオ家当主、シン国皇帝第十二子になル」
「リン様に仕えるフーだ。好きに呼べ、ブシュダイレン。リン様が最優先なのハ当然だガ、何かあれバお前も守ろウ」
「同じくリン様に仕えるランファンだ。よろしく頼ム、ブシュダイレン」
おーん。
「とりあえず、ブシュダイレンはシン国でのあだ名だからやめようぜ。本名じゃないけど、この国じゃヴァルネラって名乗ってんだ。そっちで呼んでくれ」
「おう! ……なんで本名名乗ってないんダ?」
「長いからだよ」
そういう次第で。
ヤオ家一行がパーティに加入した! テーテレテッテッテッテー!
砂漠だ。
ここは……どこだろう。砂漠に……錬成陣が描かれている。吹けば飛んじゃうような砂の上に、壺からインクみたいなのを垂らして。
遠くにあるのは、王宮? どこの?
「おい、準備は良いか錬金術師!」
「へぇへぇちょいと待ってくだせぇ。今結構複雑な作業してんですか、ら!」
「早くしろ──王に見つかれば、ただじゃ済まされんぞ!」
兄さんや僕と同じ、金髪金眼の人たちがたくさんいる。いいや、たくさんどころじゃない。全員がそうだ。男の人も女の人も、お爺さんも……みんな金髪金眼。
じゃあここは、父さんと……そしてヴァルネラさんの故郷?
「お、お、お! 来た来た来た! こりゃ──アタリですよ旦那たち!」
「ほう、そうか! ──では、やれ!」
「よしきた!」
錬成陣の上に、誰かが縛られて寝かされている。
白い服。金髪金眼は一緒だけど、誰も彼もが……怪我をしている。
五角形の陣。まさか、これは。
錬金術師だろう男が、丸く結び目を作って結った自分の髪と──ケースのようなものに入れられた、誰かの目をそこに置く。
円を結った髪。錬金術においては「復活」、「通行証」、「生命」などの意味を持つ記号。
眼球。錬金術においては「全知」、「存在」、「予言」などの意味を持つ記号。
本当に直前まで錬金術師の男はそれを隠し持っていて、こっそり置いたんだ。
「お? お、おお……おおおお!」
「こ──れは、本当に大丈夫なんだろうな、錬金術師!」
「そりゃもう! 死者の蘇生がダメで、人体の再錬成に意味が無くて、だったら──ソイツを別人に作り替える錬成こそがアタリ!」
激しい錬成反応。錬成陣からは黒い腕みたいなものが出てきて、そして中心に、巨大な目が開く。
アレが錬金術?
……いいや、僕は……僕も、これを見たことがある。似たもの、という方が正しいけれど、そうだ、僕は真理で、あそこでこれを。
「ほ──本当にだ、大丈夫なんだろうな錬金術師!!」
「大丈夫ですよォ──あっしはね」
「何!?」
「げっへっへ、知りゃせんか、錬金術の原料は円の中心になけりゃならない。原料こそが構築式を経てエネルギーを消費して形を変える。材質を変える。変質する! それが錬金術だ。──アンタらみてぇな馬鹿がいる場所ってのは、エネルギーを保持するための転換点でしかねぇんだわ」
砂塵が巻き上がる。
それでも錬成陣は消えないし。
──中心の錬金術師以外、周囲全員が分解されていくのも終わらない。
「お──おおお、おおおお!?」
「これで、あっしが不老不死だ! これで、これで、これで──!」
空。太陽。
太陽は直上にある。錬金術師がその手を太陽に伸ばし、その目を焼かれてもなお求め続けた先に──
「なんっ……いや、あれが、あれこそがあっしを不老不死にしてくれるもの!」
もう、周囲の人間に力はない。
息絶えている。それがわかる。
生きているのは男と。
「──あのさ、呼び寄せるならもう少しマトモな扉潜らせてくんない?」
べちゃべちゃと。
ぐちゃぐちゃと。
扉から、黒い手のようなものがウネウネと動く扉から降ってきたのは──肉片と骨片と、大量の血液。
それが錬金術師の男に降り注いで。
「は、……え?」
「等価交換だよ、錬金術師。呼び出したモンとあんまりにも釣り合ってないけど、俺が扉を通ったんだ。お前も扉を通らなきゃな?」
「──ひ、ひぃぃいっ!?」
空の扉が伸びる。
その奥にある太陽はまだギラギラと輝いていて──だというのに、扉から伸びた手が、手は、無数の手は光を通さない。漆黒を超えて真黒。何もかもを吸い込む黒に、錬金術師の男は引きずり込まれていく。嫌だ嫌だと叫んでも、苦しい苦しいと叫んでも──誰も助けてくれはしない。
だって彼の周囲にいた命は、全て彼が呑んでしまったのだから。
そうして──扉は彼を収容して、しずかに、けれど荘厳にしまっていく。
太陽は燦燦と輝き。
しまり切った扉は、次第にスゥと消えて行った。
砂に撒き散らされた血肉は、ぐじゅる、ぐじゅるりと音を立てて──。
「うわ暑ッ! 暑っていうか熱っ! おいおいどこだよここ……ワーオ、クセルクセスじゃん。マジけ?」
少年となる。
ああ──太陽が不老不死を指す記号となったのは、いつからだったのか。
太陽の門。太陽の扉。
そこから放り出された、ちょーっと特異な少年。
彼が、こっちを……僕を見て。
「いや、いや全くさぁ、不老不死だからって雑に扱っていいわけじゃないんだよ。
「──!!」
「アル! アル! アルフォンス!!」
「……兄、さん?」
「よかった……良かった、起きたか。クッソ、あのヴァルネラの野郎! やっぱし今度会ったらホントにタダじゃおかねぇ……!」
そこは。
ダブリスの、
みんながみんな、心配そうに僕のことを見ている。
「ふぅ、起きたかい。良かったよかった」
「良くないです! つかアル! お前なぁ、なんちゅー危ないことしてんだ! あのヴァルネラって野郎は得体が知れないんだぞ!? それに、その血印はお前の魂を繋ぎ止めるための楔! もしそれに何かあったら……」
「兄さん」
「まだ話は終わってねぇ! いいかアル、オレは」
「真理を見た時の記憶、思い出したよ」
「!」
手を合わせて。
自分の腕、血印のある部位に干渉しない鎧に対し、力を使う。
伸びてくるのは──兄さんのと同じ、薄いブレード。
「……思い出したか。まぁ、じゃあ、結果オーライ……とでも言うと思ったか! ぜってーもっと安全な方法があった! 焦る気持ちはわかるっつか、わかってやれなかったオレが悪い! 九悪い! けど相談もせずにあんな奴を頼ったお前も一悪い! だから──」
「それで、クセルクセスも見たんだ」
「おま……は? クセルクセス?」
「クセルクセスって……あのクセルクセスかい? かつて栄華を誇ったものの、一夜にして滅んだっておとぎ話の」
「はい、
アレが誰の視点だったのかはわからない。
少なくとも彼の視点ではないだろう。でも、その場にいた誰の視点でもないように思う。
あるいは──世界の。
「一部始終? 何の一部始終だ?」
「多分、ですけど……人が生まれる瞬間」
「出産ってことか?」
「ううん、違う。……錬金術によって、人が生まれる瞬間」
──それは。
だから、変に説明しないで、あの時聞いた言葉をそのまま繰り返す。
「死者の蘇生でもなく、人間を人間に作り直すのでもなく──その人間を、別の人間に錬成する錬金術」
「ソイツは……でも、どうやって」
「どうやってかは、わからない。アレがクセルクセスのどこだったのかも……ああ、でも、少しはわかる、かも」
「そんで? その錬金術は成功したのか?」
「……うん。多分」
「多分ってなんだよ」
「だからわかんないんだよ。多分、普通の人間を普通の人間に作り替えても成功はしないんだと思う。ああもぐちゃぐちゃになって生きてられる人間はいないだろうから。でも」
思い出されるは水音。
ぐじゅり、ぐじゅるり。
生体錬成の反応ではない、確実に何か──チガウモノの発する音。
「まさか、錬成されたのはヴァルネラ……なのかい?」
「はい、多分、そうです。……さっき見た一部始終が正しいなら、ヴァルネラ医師は」
扉を潜ってこの世界に来た──扉の向こうの住民、だと思います。
また、沈黙。
……そうだよね。こんな荒唐無稽な話……。
「っし、じゃあ行ってみっか!」
「い……行く? 行くってどこに……」
「はぁ? だから、クセルクセス遺跡だよ! 国が滅んだって建物はまだ残ってる。そんなら、アルが見たっていう儀式場もどっかに残ってるかもしれねえ。儀式場に錬成陣があったら最高だ。そっから解読もできる。人を別人に作り替えるってのは眉唾だが、アルの記憶を引き戻したヴァルネラを呼びよせた、ってのは気になるからな!」
「……ぼ、僕も行く!」
「いや当たり前だろ。なんでオレがアルを置いていくんだよ。手合わせ錬成できるようになったんだろ? ほら、砂漠で死ぬほど暑かったら二人ででけェ城でも作ろうぜ。そんで休み休み行けば砂漠越えも難しい話じゃねぇだろ?」
その顔は、いつか……本当に昔。
母さんが生きてた頃に、初めて錬金術を使った……使って、母さんを驚かせようって言った時の幼い兄さんとそっくりで。
「砂漠越えか。なら、馬を一頭持っていけ。乗るにしろ荷物を載せるにしろ、役に立つ」
「イズミ、俺の伝手に馬を安く買えるところがある」
「私も……気休め程度だけど、砂漠にいる動植物の図鑑を貸してあげるよ。砂漠ってのは案外危険生物もいるからね、植物なんかは身を護るために毒を持ってることも多いんだ」
「ありがとうございます、
「それと、メイスン!」
「へい!」
「ハンの連絡先まだ持ってるかい? 出入国コーディネーターの」
「あぁありますよ! 連絡しときますね!」
「頼んだよ」
「うす!」
──こうして。
僕と兄さんは、ハン、という人に連れられ──クセルクセス遺跡に行くことになった。