緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
ダブリス。
アメストリス南部にある町で、カウロイ湖という観光名所が有名……というかそれで成り立ってるみたいな場所。特に栄えた商店街とか娯楽施設なんかがあるわけではなく、ホントの本気でカウロイ湖+真ん中のヨック島だけの町だけど、その美しさはアメストリス随一。
ただまぁホントにそれだけ、ってわけじゃなくて、その豊かな自然、土壌から来る畜産業も盛んだから、住民の暮らしは贅沢! って程じゃないにしても豊かだ。
そんなダブリスを歩く。
ちなみに今は1835年。原作開始の80年前くらいだね。だからエルリック兄弟は勿論イズミ・ハーネットやマスタング大佐も生まれてはいない。なんならキング・ブラッドレイも。
ちょっと前に南部国境戦があったばかりだから少しピリついた空気が流れている……とはいえ、ダブリスは結構内側の町。サウスシティほどじゃあない。
だからってワケじゃないけど、ガッツリ「異人さん」な見た目の俺でもそこまで奇異の目で見られたりはしない。
金髪金眼はクセルクセスの民の特徴なんだ、許してちょんまげ。
「──……と」
今、すれ違った小柄な男。
流石に時期的にビドーじゃないとは思うけど、明らかに人間以外の匂いがした。つまるところ──
キメラ。
まー、読んで字のごとくな存在だけど、国で合法なのは動物と動物の掛け合わせだけ。それはつまり動物実験として処理されるから良いのであって、人間使っちゃうと殺人罪とか諸々入ってくるからダメよって話ね。
裏で主導してるのが軍だからどの口がって話だけど。
今は時期的に南部国境戦が終わった後だから、死者、怪我人、そして難民と……軍にとって都合のいい「身元の判明し難い人間」が大勢いるってワケでさ。
フラスコの中の小人の主目的からは外れるだろうけど、まーまー管理のなってない実験体はわんさかいるだろうさ。
……さて。
デビルズネストの方向の所在地もわからなければ、そもそもグリードが今デビルズネストにいるかさえわからないって状況だ。
だったらばアイツを尾行していくのが手っ取り早い……んだけど。
「……」
はて、俺ここじゃあまだ何にもしてないはずなんだがね。
簡単な錬成陣を用いて壁を作り、路地を封鎖する。
この辺が袋小路になっていることはさっき確認済み。まぁダブリスって高い家々がないから頑張れば上方向へ逃亡が可能なのがネックだけど、とりあえずはこれでいいだろう。
振り向けば、特に逃げ出す気配の無いフードの人影が一つ。
誘いこまれたことに気付いていないか、それとも初めからそのつもりだったか。そうだったら悪いことしたな。途中頑張って撒こうとして無駄に時間を使ってしまった。
「そいで、アンタ。何用よ」
「……」
ここには俺とソイツの二人しかいない。
背丈的にグリードではなく、匂いも気配もキメラじゃあない。マジでただの人間だ。
「何用でもなくついてきただけってオチなら、やめてくんね? 今ピリピリしてるからさ、罪にでも問われんじゃないかってビクビクしち、」
がぅん、と。
サイレンサーもつけていない、素のままの銃が火を噴いた。
大きく仰け反り、倒れる体。
「……悪く思うなよ」
「いや悪く思うだろ」
「!」
もちろん撃たれたのは俺だし、仰け反って倒れたのも俺。
銃弾避けるとか無理だから。どんだけ生きて、どんだけ修行したってフツーに無理だから。
ただまぁ威力の高い銃でよかったよ。ちゃんと貫通してくれたから、フツーに再生できた。
銃弾って体内に残ると面倒くさいんだよね。その場合は錬金術でどーにかすんだけどさ。
「ッ……やはり化け物か!」
三発。
こいつも国境戦上がりか知らんが、正確無比な銃撃が俺の身体を穿つ。頭部、心臓、左肺。
でも来るとわかっていたら踏ん張れる。避けれはしないけど、踏ん張って倒れないくらいの頑張りは見せられる。
しっかし、やはりってなんだやはり、って。
あらかじめ俺の事知ってた? にしては最初の一撃でフツーに去ろうとしてたけど。
よくわからん。よくわからんが、そうバカスカ撃たれると……別に問題ないんだけど、飛び散ってる血液量がそれはもう海。血の海だ。
ここ結構普通に住宅地よ? これで俺もコイツも去ったら未解決猟奇殺人事件よ?
だからまー、止める。
一歩、また一歩と近づいて。
ソイツが逃げようとするのなら、ポケットから取り出した黒曜石の粒五つを投げて、行き先の地面に簡易錬丹陣を作成。分解を起こして転ばせる。
ソイツ……フードが脱げて、口ひげ豊かな男だと判明したソイツが、観念したようにこちらを真っ向に見据える。
うーん、知らん顔。
原作に出てきてない奴だ。誰だアンタ。いやまー今原作開始の80年前とかだからそら知らん顔ばっかなんだけどさ。
知らんし、知らんから聞くか。
「もう一度聞くけど、何用だったんだアンタ。誰なん?」
「……最近、ダブリスのゴロツキ共を殺す、攫うなどして減らして行っている"怪物"がいる。俺はそれを殺すために雇われた殺し屋だ」
「ほーん。で、俺がその怪物だと」
「違うのなら、俺が撃った弾丸でおとなしく倒れていろ」
ごもっとも。
まぁ、化け物さ。でも俺再生するしか能のない一般転生クセルクセスの民なんだけどな。
ゴロツキ殺したり攫ったりとか、そんな「私的な正義」みたいな行いするタイプじゃないヨー。
「……」
「……」
「……どうした。早く殺せ」
「え、なして?」
「当然だろう。俺はお前を狙ってきた殺し屋だぞ。俺が生きている限り、お前は常に命を狙われる。ならば俺を殺すのが、」
「いやでも俺死なんし。あと俺その怪物じゃないし。勘違いで殺しちゃったけどごめんね、くらい言ってくれたら悪くも思わんし」
なんか覚悟の決まりきった目のとこ悪いけれど。
俺は別に、誰も殺す気はない。相手が人間だろうがキメラだろうがホムンクルスだろうが何だろうが。
だって殺人って罪じゃん?
「アンタが俺じゃない誰かを狙ってきた殺し屋で、でもアンタじゃ俺を殺せないのだとなれば、前払いか後払いかは知らんが依頼主との契約は不履行、破棄される。それで終わりじゃん? アンタだってどんだけ撃ってもどんだけかっさばいても死なない化け物を殺し続ける趣味はないでしょ。今回の話はハイリスクローリターンだった、ってことで手打ちにしようぜ。依頼主からなんか言われるってんなら、逃げちまえばいい。追っ手を殺せる腕はあるだろう、アンタ」
「……」
ということで、作り上げた壁を戻す。
足を絡めとっていた地面を元の硬さに戻す。
目的は知れた。だから俺の目的も達成した。
これで終わり、である。
なんぞ考えているのだろう、一切動く気のない殺し屋君。まぁ考えることは良いことだ。その時間を奪うほど、俺は時間に困っていない。
なんで、腰をついている彼の横を通り過ぎ、またダブリスの町へ戻ろうとして。
銃声と、金属音と。
そして人体がぐしゃ、と潰れる音が、ほぼ同時に響き渡った。
「酷い話だ。今アンタがめちゃくちゃ良い話で終わらせようとしたってのによ、コイツ、まだアンタを撃つつもりだったみたいだぜ?」
振り返れば。まぁ振り返るまでもないんだけど。ものっそい氣の流れで誰かはわかっているんだけど。
ちゃんと振り返って……一つ頷いた。
「ちなみに殺した理由は?」
「あん? そりゃあ、コイツのターゲットが俺だったからだよ。コイツが生きている限り、俺の命が脅かされ続けるってんなら、コイツを殺すしか無ぇだろ?」
そこにいたのは、手を黒色に染めた兄ちゃん。全体的にトゲトゲしたファッションと髪型の──つまりまぁ、グリードその人だ。グリリンじゃない方ね。最初のグリード。
硬化。体内の炭素を集めて行うそれは、「最強の盾」と呼ばれる硬さを誇り、その上で最強の矛に成り得る……まぁシンプル強い能力を持った
「俺はグリードってモンだ。アンタ、名は?」
「緑礬の錬金術師、とそう呼ばれているかな」
「なんだ国家錬金術師かよ。つか、二つ名なんざ聞いちゃいねぇよ。名前だ名前。あるだろ?」
名前。
名前はまぁ、あるけど。
長いからなぁ……適当に、そうだな。
「ヴァルネラ。呼ばれることは滅多に無いけどね」
「そうかよ、じゃあアンタ──ちょいと話をしようぜ。命と身体についての、有意義な話をよ」
「いいけど場所変えない?」
血だまりだし、殺し屋君が銃声鳴らしまくったからそろそろ憲兵くるよ。
連れていかれたのは──デビルズネストだった。
わぁ、80年前からちゃんとあるんだ。
「酒は?」
「呂律が回らなくなるタイプ」
「じゃあ話し合いにゃ向かねえな」
地下室へは向かわず、普通にテーブルについて、いくらかを注文する。
フツーに酒場。ただ立地が悪いからね、客は俺達しかいない。人払いした可能性はあるけど。
「単刀直入に聞くぜ。アンタだろ、ヴァルネラ。"お父様"が言ってた真人……永遠の命を持つ者ってのは」
「え、フラスコの中の小人が俺の話なんかしたの?」
「お、その反応は当たりってことでいいんだな?」
「いやいーけど、……そんな、珍しいというか……つか覚えてたんだ。いや覚えてるか。邪魔には思ってるだろうし」
「ハハハ! まさにそうだ、その話で出たんだよ。"計画"を邪魔する者、邪魔になりかねない者。人柱探すために国家錬金術師制度を作ったってのに、それに真っ先に申請してきたこの国にいてほしくない奴代表……みたいに言ってたぜ、お父様は」
おお、めっちゃ嫌われてる。
でもまぁそうだろうな。クセルクセスにさえいてほしくなかったんだ。それの大きい版をやろうとしてるアメストリスにだっていてほしくないだろうさ。
国家錬金術師も、人柱にならないとわかっている上で金払わなきゃいけなくなるんだもん、要らないよな。まぁ金払うのフラスコの中の小人じゃないけど。
「ん、一応質問の答えは返すけど、そうだよ。俺が不老不死の一般市民さ」
「どこで手に入れた。どうやって手に入れた?」
「やだなぁ、クセルクセス王にもフラスコの中の小人にも答えなかったことを、アンタに答えるわけないじゃないか」
「何と交換なら答える。対価が必要なんだろ? アンタも錬金術師……等価交換って奴だ」
まだ若いからかな。
ちょっとがっつき気味のグリード。うん、新鮮。
彼の欲す……彼の強欲が欲すのは、全て。
その中でも、何を積んだって何を集めたって手に入らないもの──永遠の命。
実現例が目の前にいたら、そりゃあ気も逸る。
「じゃあ聞き返すけどさ、グリード。アンタなら、永遠の命を手に入れる、手に入れられる情報を前に、アンタは何を差し出す? 等価交換だ。グリード。お前にとって、永遠の命と等価である対価とは何だろうか」
「……ホムンクルスの製造方法は」
「勿論、知っている」
「だよなぁ。お父様と旧知な時点で……つーことは、賢者の石の作成方法も」
「知ってる。というか、ホムンクルスの製造方法も賢者の石の作成方法も、永遠の命の対価にならないと思うけど? どっちも劣化品じゃん」
「ああ、俺も言いながらそう思ってた」
力では来ない。
千日手になるのが目に見えているというのもあるだろうけど、グリードは結構クレバーに行きたい派だからだろう。一番上の兄ちゃんであるプライドとかが割とこう……力イズパワーなところあるからな。邪魔なら殺せばいい、お腹が空いたら食べればいい。グラトニー食べる前からそうだったんだから、筋金入りだ。
グリードは考える。考えている。
自身の欲す永遠の命。それと等価であり、自身が差し出せるもの。
そんなものは。
「──無ぇな」
「あったらそれで満足してるんじゃね?」
「違いねえ。……が、保留だ」
「おお」
「思いついたら提示する。それまでこの取引は保留にさせてくれ。どんだけ思いつかなくとも、永遠の命の手法を永遠に取り逃すってのは惜しいからよ」
たしかし。もとい確かに。
保留。いい言葉だ。
「そいじゃま、俺はこれで。また……80年後くらいにダブリス寄るからさ、そん時までに答え出てるとありがたいかな」
「えらく具体的だな……」
「これでも計画的に行動してるからネー」
おーし。
お父様から離反したグリードに会う、達成!
流石に、だ。
流石にキング・ブラッドレイ誕生の瞬間に立ち会う……とかは無理。セントラルの研究所に侵入しないといけなくなるし、国家錬金術師といえどそんな権力は無い。
だからまたフラフラする。
次に起きることは、リゼンブール……エルリック兄弟の出身地でのあれこれだけど、あそこ田舎も田舎だからなーんもなさ過ぎて飽きるんだよな。
あと俺ホーエンハイムより若い見た目で且つ年取らないからさ、老人が何年たっても老人ならまだ言い訳はできるけれど、少年が何年経っても少年は無理がある。
なんで行く場所は──そう、イシュヴァールの地である。
原作開始時点で軍部が封鎖していて行けなくっている場所である他、内乱が起これば当然行けなくなる……というかワンチャン俺も呼び出されて殲滅しなきゃいけなくなる手前、観光するなら今しかない。
何故ワンチャンなのかって、俺の二つ名にある「緑礬」からわかる通り、あんまし戦闘には向かない錬金術を使うからだ。え、わかんない? はは。
そんなこんなでやってきましたイシュヴァールの地。
いやもー、それはもう向けられる奇異の目線。アメストリス人より更に特異な見た目だからね、金髪金眼って。
そうでなくともイシュヴァール人とアメストリス人……というかアメストリス軍部は水面下での敵対関係にあるんだ、良く思われていなくとも仕方がない。
が、そんなことは俺に関係ない。
流石にイシュヴァラの聖地へズンズカ進もうとしたら止められたけれど、それ以外の場所は自由に見て良いらしく、奇異の視線に晒されながらも十分に観光した。
……短いって、いや、だってマジでなんもないんだよイシュヴァールの地。
そりゃ修行僧ばっかになるわけだ。荒野と荒れ地と枯れ木と枯草しかない。
クセルクセスも砂しかない場所だったけど、あそこはオアシスあったからなぁ。錬金術も教えに背くから使ってないとなると、ホントの本気でなんもない場所なんだろう。
イシュヴァラ神もさぁ、レト神くらいの施し上げなよ。あっち偽物だけど。
「時に、旅人殿」
「あ、うん。はい?」
前を歩いていたイシュヴァール人の女性が声をかけてくる。
……うーん、この声どっかで……。
「どんな目的でこの地に来られたのですか?」
「観光……かなぁ」
「観光。……それで、楽しめましたか?」
「あー、いや。楽しめはしたけど、もう帰ろっかなって思ってるよ」
「ふふふ、でしょうな。この地へ観光など……奇特にも程がある」
……あー!
わかった、あれだ!
シャンだ! クセルクセス遺跡にいた婆さん! 思い出してみれば面影も……ある、よう、な。
今は年若い女性だけど、コレが、アレに。80年もたてば当たり前とはいえ。
え、ってことはあの時点で100歳超えてね? ヒュウ、長寿長寿。
「それにしても……お若い見た目ですが、随分と鍛えているようで」
「いやここの武僧には到底及ばないけど」
「それは当然ですが、その年の時分でそこまで鍛え上げているのは誇ってよいことですよ」
俺の見た目。
ホーエンハイムも動揺していたように、俺の見た目はかなり年若い少年だ。エドと同じくらい、というかもう少し幼いくらい。
だからこの年で国家錬金術師ってのも驚かれたし、あ、やべ、とか思ったけどエドの最年少国家錬金術師の称号奪っちゃったし、今言われたように格闘技や投擲技術の練度が褒められたりもする。
ホントはもっともーっと生きてますよ、って言ったら多分失望に変わることだろう。つまり、「そんだけ生きててそれだけしかできないのかよ」と。
……ほぼほぼシンの技術だからなぁ俺の戦闘技能って。
「ありがとう、とは言っておこうかな」
「ふふ……あとはそう、年上を敬う心を身に着けたのなら、あなたはあるいは、イシュヴァラの懐に抱かれることも夢ではないでしょう」
ああうん。
宗教勧誘だったのね。気付かなかったわ。