緑礬の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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まるでバランスを取るような話

(注:設定が旧アニに似ている、という方。ご指摘通り、作者も確かに似てるな、って思いましたが旧アニ全く関係ないです。バリバリ失念しててそういう設定になってるだけなので、旧アニを絡めた考察などはお控えください)


第12話 悔い求む家族

 いつも通りっつーか、特に何かあるわけでもなくフツーに家で過ごしていた時のことだ。

 ちなみにヤオ家は一緒に住んでいない。一緒に住んでいないだけで多分どっかにいると思う。折角のブシュダイレンだからな、逃すとは思えない。

 

 だからまぁ、一人だったんだけど。

 

 ウチのドアベルを鳴らす音があった。

 いや、いや、これが珍しいのよ。確かに緑礬の錬金術師がここに住んでるってことは周知の事実だから一般人が不治の病を治してほしくて来る、ってことは無いことは無かったんだよ過去。一応ね。

 でも敷居が高いというか、"生体錬成の権威"だの"戦場の神医"だのの名が売れ過ぎた事、そもそも別に医院を拓いているわけじゃないことも相俟って、ウチのドアベルを鳴らす奴はひじょーに少ない。少なかった。

 

 それが、鳴って、氣で大体わかったけど一応聞きはする。

 

「どちら様?」

「私だ、ヴァルネラ」

「どんな風の吹き回し? いつもみたいにどっかからか入ってきて刀ぶっ刺して連れ去ればいーじゃん」

「今日はそうもいかんのだ。外出する準備をしてついてこい」

「おーん?」

 

 キング・ブラッドレイ。

 彼が、なんかフツーに訪ねてきたのだった。

 

 

 

 そんで今、どえらい高級レストランに俺はいる。

 

「あー、初めまして、ブラッドレイ夫人。と、セリム坊ちゃん」

「はっはっは、セリムがどうしても会ってみたいと珍しく我儘を言ったのでな。大総統権限を用いて連れてきた」

「もう、あなたは……。ごめんなさいね、ヴァルネラさん。予定などは大丈夫でしたか?」

「特にはないですよ。ただ家にいきなり大総統来るのは心臓に悪いので、今度は軍部の別の奴とか寄越してください」

「はっはっは、お前は私でも来ない限り呼び出しに応じんだろう?」

「……まぁそうだけどさ」

 

 ブラッドレイ夫人、セリム、ブラッドレイ──との、会食。

 実質人造人間(ホムンクルス)側に呼びつけられたようなモンだと思うんだけど、夫人の手前フツーの家族らしく振舞ってるこいつらに、まぁ、一応合わせてやる。

 いやね、別に金に困ってるわけじゃないんだけど、こういう高級レストラン来ないし、何より──。

 

「人の金で食べる飯が一番美味い、のだろう?」

「……わかってんじゃん、お前」

「はっはっは、一度言われたことは忘れんよ」

 

 そう耳打ちしてくるブラッドレイに、溜息も出ない。

 

 わーいタダ飯だぁ!

 

 

** + **

 

 

「と……和やかな食事を楽しんでいるようです、若」

「だが……あの女性以外の二人はホムンクルスという奴……だよな?」

「氣は確かにそうですが……ヴァルネラがそれを知らないはずもありませんし、おそらくは唯一の人間である女性の手前、話を合わせているものかと」

「……」

 

 そんな、高級レストランの屋上。

 色々負い目を感じたり色々考えることがあったりしてちょっと距離を置いていたらいきなりやって来たやべー氣を持つ、なんなら先日フーを瀕死にまで追い込んだやべー奴にヴァルネラを持ってかれて焦って追跡してきた結果もう一人のヤベー奴と無害な初老の女性となんか会食してるヴァルネラを見て色々考察している──ヤオ家の三人。

 

 負い目。

 負い目があった。

 

 フーが右腕をさする。

 

「痛むのか?」

「……全く、ですな。斬られる前と全く変わらない。右腕だけ調子が良いわけでも、違和感があるわけでもない。多少あのブシュダイレンのことを調べましたが、アメストリスにおいては戦場の神医などと呼ばれている様子。得心の行く錬丹術であると言えましょう」

「腕を……あんな子供の」

「若様、アレは恐らく500年以上を生きる化け物です。そう気に病まず……」

「だが、ランファン。此度の件でブシュダイレン……ヴァルネラから施しを受けたのは事実だ。シンの者は盟約を必ず守り、恩をそれ以上の恩で返す。此度彼に付いてきてもらう、という約定を交わし、彼は快くそれを了承してくれた。……こちらが一方的に襲い掛かっていたにもかかわらず、だ。その上で自らの身を犠牲にした治療を施され……この恩を返さないバカがどこにいる。俺はそんな、尽くされたことを歯牙にもかけないような皇帝になるつもりはないぞ」

 

 ブシュダイレン。

 シンに伝わる伝説、不老不死の小人。

 西の賢者と同一の特徴を持ち、首を切り落としても死なず、何百年と姿の変わらない不死の妖精。

 

 その、本物。

 

「……子供じゃないのはわかってる。俺達が想像してる以上の化け物なのも理解している。だが……俺は」

「若様……」

「ほほ、若。そう悩むことではありませぬ。儂は彼に命を救われた身。それを若様は恩に感じてくださっている。そして彼は儂らにとって、ヤオ家にとって大切な不老不死の法。大事な物がより大事になった──というだけでしょう」

「……そう、だな」

「どの道ここへは長期滞在する予定。そして、ブシュダイレンといえばこの伝説も有名でしょう。"美味なる馳走を振舞えば、摩訶不思議なる話を授けてくれる"──」

「それは、御伽噺じゃないのか?」

「実際のブシュダイレン……ヴァルネラも美味なるものが好きなように見えますぞ?」

 

 レストラン内部を見る三人。

 それはもう、何か新しいものを食べるたびにうんうんと深く頷きながら味わっている彼の姿。

 

「……ランファン」

「は、はい。なんでしょう若様」

「──料理は、できるか?」

 

 シン国の人間は負い目を負い目のままにはしておかない。

 恩義には恩義を。施しには報いを。

 ならば、あの熱も氣も存在しない、石や木にさえ似た存在の言う唯一の好きな物。それを返すのもまた恩義。

 

「……若様、儂はシンへと一度帰還し、料理書の類を持ってこようかと」

「おお、それは良いな。……んじゃ俺は、この国の隠れた名店探しをするかぁ」

「え、いや、あの」

「若……我々にはこの国における金銭の類がほとんどないことをお忘れですか?」

「そこはヴァルネラに借りる!」

「……恩義が積み重なりますな。ならばランファン、しっかり腕を磨き、良い料理を振舞うのだぞ」

「え、いえ、ですから、爺様? 私はヤオ家に仕える人間として戦闘技能をこそ磨いてきましたが」

「良いかランファン。若が皇帝になった時、若が口にするものに毒が混じっていてはいかん。そこでお前が常日頃料理を振舞う存在となっておけば、若を守ることができる。若が皇帝になって終わり、ではないのだ。そこからも若を常お守りするのならば──あとはわかるな?」

「……はい、爺様」

 

 フーは思う。

 交渉事などは孫には向かんな、と。

 

「そうと決まれば若、儂は一度シンに戻ります。──ホムンクルスなる劣化ブシュダイレンにはお気を付けを」

「ああ、お前も救われた命、大事にしろよ」

「承知」

 

 こうして、ヤオ家の今後の方針が決定したのだった。

 

 

** + **

 

 

 クセルクセスの遺跡。

 アメストリスとシンの間に跨る大砂漠。

 その北側中心部に位置するこの遺跡は、時間の影響によって風化が進み、柱や建造物などの全てが崩れかけている。それでも残るものがあるのは、この国の伝説──「一夜にして滅んだ」というものに関係しているのだろうか。

 

「ふぅ、やっと着いたな」

「いや全くだ。なんだったんだあの巨大なワームは……」

「あんなもの初めて見た……師匠(せんせい)、危険生物はホントにいたよ……」

 

 エドワード・エルリック、アルフォンス・エルリック。

 そして出入国コーディネーター……つまり密入出国に関するちょーっと違法な事のスペシャリスト、ハン。

 三人はようやくクセルクセス遺跡に辿り着いた。予定ならあと二日ほど早く着くはずだったのに、途中で超巨大なミミズに襲われ、戦ったり逃げたりなんだりしたせいで遅れたのだ。

 

「……すげぇ」

「うん……」

「それじゃ、私はこの建物の中で待っている。その調べ物とやらが終わったらここに集合だ。いいな?」

「はい。ありがとうございます」

 

 そうしてハンと別れた二人。

 アルフォンスの見た儀式場はクセルクセス遺跡の中心部から離れた所にあったらしいので、とりあえずは。

 

「一番高い所に行く! これで大体見えるからな!」

「兄さん、何と煙は高い所が好きなんだっけ」

「うるせっ!」

 

 一番高い場所──といっても、崩れかけているクセルクセス遺跡だ。

 それを壊さないように、あくまでしっかりしている建造物の中で一番高い所に上って。

 

 上って。

 

「……!」

「兄さん? 何か見つけた?」

「……」

 

 エドワードは、ある方向に目をやって──固まった

 それは、そこは、崩れかけた王宮の内部。

 

 何か陣の敷かれた──しかし壊れているそれらは、ほとんどが読み取れない。

 そこに。その中心に。

 

「……ホーエン、ハイム?」

 

 記憶にある通りの金髪。記憶にある通りの顔。

 ただ、膝をついて、中空を見上げて……動かない。

 

 まるで、死んでいるかのように。

 

「っ、アル! あの建物だ! あの中行くぞ、ついてこい!」

「え、ちょっと待ってよ兄さん! いきなりなんなのさ!」

 

 エドワードは飛び降り、アルフォンスはガシャガシャと音を立てて走り出す。

 砂漠、砂の上。それが次第に石段になっていって──水も増えてきて。

 

 日陰に入る。屋内だ。

 中は入り組んでいるのか、どこからあそこに向かえばいいかわからない。

 

 それでも、もうがむしゃらだ。

 がむしゃらに駆けずり回って、その遺跡のほとんどの部屋に辿り着いて。

 

 ようやく、来た。

 

 儀式場。ところどころが崩落したそこの、中心。いや、中心から少しずれた場所に──彼はいた。

 

「え……父さん?」

「ホーエンハイム……」

 

 くたびれたコート。よれた頭髪。

 金髪金眼。そうだ、その特徴は。

 

「おい、ホーエンハイム! てめっ、まさか死んでんじゃねぇだろうな!」

 

 アルフォンスはようやく思い至る。 

 自分たちの父、ヴァン・ホーエンハイム。

 そして彼と同郷を名乗るヴァルネラ。

 

 その故郷がどこなのか。

 

「おい! 返事しろ、返事しろよホーエンハイム! オイって──この、こんなとこで干からびてんじゃねぇ!」

 

 エドワードが、ホーエンハイムをぶん殴る。

 ぶっ飛ばす勢いで。機械鎧の方で。

 だからぶっ飛んだホーエンハイムは──ようやく気付いた、とでもいうかのように、間抜けた声を上げた。

 

「……エドワードに……誰だ?」

「僕だよ、父さん」

「アルフォンス……? ……大きくなったなぁ」

「大きくなったなぁ、だァ!? いきなり父親面かてめェ」

「いやだって俺お前たちの父親だし……。ああ、酷いな。殴ったのか、今」

 

 まるで幽鬼のようだった。

 まるで死んでいるようだった。

 

 ホーエンハイムは──ふらりと立ち上がり、コートの砂を落とす。

 

「……アルフォンス。今、何年だ?」

「え? 1914年だけど……」

「1914年……そうか。あれから10年も経ったのか……」

 

 その言葉が、昔を懐かしむものじゃないことくらい、二人にはわかっていた。

 

「……まさか、てめぇ……母さんが死んでから、ずっとここにいたのか……?」

「10年って……そんな」

「ああ……そうだよ。俺は結局、誰も救えない奴だったみたいだからな」

 

 ヴァン・ホーエンハイム。

 彼は力なく、そんなことを宣った。

 

 

 

 エドワードではすぐに苛立ってしまって話にならないため、アルフォンスがホーエンハイムと話す。

 今すぐにでも死んでしまいそうな彼に、彼が食いつきそうな話題を振る。

 

「そうか……10年。トリシャ、ごめんな、間に合わなかった……俺は」

「と、父さん。僕たちね、ここにヴァルネラさんの事を調べにきたんだ!」

「……ヴァルネラ?」

「うん。父さんと同郷ってあの人言ってたけど……ヴァルネラさんも父さんも、クセルクセス人……なんだよね?」

 

 あり得ないことだ。

 何故なら、クセルクセスは大昔に滅んでいる。そこ出身を名乗るということは、つまり。

 

「……凄いなぁ。もうそんなところまで辿り着いたのか」

「そういうってことは、本当に」

「ああ。俺もヴァルネラも……大昔に滅んだ国、ここ、クセルクセスの出身だよ」

「……つまり、父さんも……不老不死、なの?」

 

 その問いに、ホーエンハイムは笑う。

 

「ははは……そうだな。不老不死……いや、不老かもしれないが、不死ではない。俺も……いつかは死ぬ。それが今でなかっただけだ」

「そう、なんだ」

「不老不死なんて言っても、何ができるってわけじゃない。……母さん一人救えなかった。結局俺は、何もできない奴なんだよ」

 

 それだけ言ってまた落ち込み始めたホーエンハイム。

 

 彼の頬に膝蹴りが入る。

 エドワードだ。勿論機械鎧の方での膝蹴り。

 

「だぁ、うっせぇよさっきから! 何もできないだの救えないだの! そうだよ、アンタは何もできなかった奴だ! 母さんの傍にいなかった、いてくれなかったやつだ! よくわかってんじゃねえか!」

「さっきから……酷いな、エドワード。父親を……殴ったり、蹴ったり」

「るっせぇんだよずーっとウジウジウジウジウジウジウジウジと! 死にたいなら勝手に死ね!」

「だから勝手に死のうとしてたんじゃないか……後から来たのはおまえ達だろう……」

「んじゃ死ぬ前に情報吐いてから死ね!」

「情報?」

「ヴァルネラだよヴァルネラ! アルがヴァルネラが生まれる瞬間を見たって言うんだ。曰くクセルクセスの外側のどっかに儀式場があって、そっから堕ちてきたっ、て……な、なんだよ近いな」

 

 エドワードが話している最中に、ずんと彼に詰め寄るホーエンハイム。

 その目には、今まで無かった生気が宿っている。

 

「ヴァルネラが生まれる瞬間、というのは本当か、アルフォンス」

「あ、うん……誰の記憶かはわからないけど、見たよ」

「記憶? ……どうしたんだ、アルフォンス。その身体。それに、エドワードも……右手と左足が無い」

 

 今、ようやく気付いた、というように。

 否、本当にようやく気付いたのだろう。ホーエンハイムは──少しの間考えて、言葉に詰まっている二人が話し出すより先に、それを言う。

 

「人体錬成を行ったのか」

「っ」

「……」

「そうか……。そうか、トリシャか……」

 

 沈黙が流れる。

 ホーエンハイムはため息もつかない。ただ考えるだけ。

 

 その様子に我慢できなくなったのは、二人の方。というかエドワードの方。

 

「……失敗して、持ってかれた。そんだけだよ」

「人体錬成は成功しない。……俺が置いて行った本にも、それくらいは書いてあったはずだが」

「ああそうだよ、だから馬鹿だったんだ。オレ達は。あの頃のオレ達は、オレ達ならできるって盲目的に信じ込んで……母さんを錬成した。でも……」

「……"人体錬成は成功しない。必ず失敗する。フラスコの中にいる俺達じゃ、フラスコの外に手を伸ばすことはできない"。……お前たちがなにを錬成したのかは知らないが、トリシャの墓に入れるなよ。……他の墓を作ってやれ」

「──は? 何を……どういうことだ」

 

 確かにアレを母親だとは思えない。エドワード・エルリックの記憶にある()()は、おおよそ人間とは言えなかった。

 だけど、でも、動いていて、それで──なにを、とは。

 どういうことだ。

 

「それより、ヴァルネラだ。アルフォンス、その記憶とやらの中で、何か特徴的なものを見なかったか?」

「え……あ……、……遠くの方に、クセルクセスの王宮があったのは、見たよ」

「太陽はどこにあった?」

「太陽? 太陽は……真上、だったはず」

「風は? 砂塵はどの方向へ舞っていた? あぁ、王宮を仮に北と見て、だ」

「……西、かな」

 

 生気がどんどん戻っていく。

 その目に、その顔に。

 

「とすると……」

「おい、ホーエンハイム、だからどういうことだって、」

「お前たちが錬成したモノはトリシャじゃない。人体錬成はそもそもが行えない。アレは死者を蘇生するための錬金術じゃなく、真理の扉を開き、見るための錬金術だ。その代価がお前の手足で、アルの身体だった。──これ以上何か聞きたいことはあるか?」

「……そんな」

 

 冷たい。

 子に向ける目ではない。そして、包み隠さずに話されたその内容も、子らが到底受け入れられるものでもない。

 

「となると、あの辺か……」

 

 なんて言って歩き出すホーエンハイム。

 受け入れられずとも、いや受け入れられないからこそ、エドワードとアルフォンスも追従する。追いかける。

 

「どういうことだ、どういうことだよ、あれが……アレが母さんじゃない、って!」

「言ったとおりだ。人体錬成はそもそもができない。成功も失敗もない。できないんだ、この世界にいる限り。故に真理は違う結果──真理を見せてくる。代価は奪われるが、死者蘇生に並ぶ程の偉大なる記録をな」

「兄さん。僕の記憶が確かなら、僕はあの時……母さんだと思っていたモノの中から、兄さんを見ていた。だから、多分」

「……魂はアルのもので、肉体は……別の何かだった、とでもいうのか……?」

「そもそも……トリシャの葬儀は、共に出ただろう。彼女の遺体は、その骨は、まだあそこにある。……新しく作れるはずがない」

 

 エドワードもアルフォンスも、頭の回転は速い。

 だからわかってしまう。その通りだ、ということに。

 今すぐリゼンブールに帰ってあの時埋めたモノを確認しなければ証明こそできないが──だからこそ、どんどん次のことに気が回る。気付いてしまう。

 

「ホーエンハイム、お前、どこまで……何を知ってやがる。……いや待て、そういえばお前、ずっと"間に合わなかった"って……まさか、母さんが死ぬことを知ってたのか!?」

「……」

「そんな、未来予知なんて……」

「……未来予知じゃない。教えられたんだ」

 

 苦虫を嚙み潰したように、ホーエンハイムは。

 

「誰に、って」

「ここまで来てわからんおまえ達じゃないだろう」

「ヴァルネラさんが……母さんの死を?」

「ああ、教えられた。……トリシャが死ぬ、10年前のことだ。10年も前から教えられていて……俺は、彼女を救えなかったのゴフッ!?」

 

 兄弟の前を歩いていたホーエンハイムがさらに前にぶっ飛ぶ。

 

「次救えなかったっつったら背骨に膝蹴り入れるからな!」

「兄さん、兄さん。もう入れてるよ」

 

 そんな──再会した親子は、クセルクセスの遺跡の中心部から少しだけ離れた"儀式場"へと向かう。

 何故ホーエンハイムが生気を取り戻したのか。ヴァルネラの目的は何なのか。そこに何があるのか。

 

 彼は一体、何を考えているのか──。

 

 

** + **

 

 

「まだ、食べるのかね」

「ああそろそろ閉店? じゃあもうちょい待って。あ、あれですよ。全然帰ってもらっても。お金も全然、俺自身金結構あるんで、こっから先は俺自分で支払うんで」

「……言わなければわからないか」

「話があるんだろ? でも俺食ってっからさ」

「……」

 

 それは高級レストランでの一幕──。

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