緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
「おい、待て! 待てってば、おいホーエンハイム!」
砂漠を行く。
ズカズカ行く。正直な話、生身のないアルフォンスと違ってエドワードに普通の砂漠はキツい。機械鎧が熱を持つから接合部が火傷しそうになるし、単純に汗もかく。熱も籠る。専用の外套で身を覆っていても、暑いものは暑い。
けれどホーエンハイムがズカズカ歩いていくから見失うわけにもいかない。
「兄さん、砂でせめてトンネルとか……」
「砂岩は……崩れるかもしれねえから怖いんだが、四の五の言ってらんねえか!」
手合わせ錬成。
兄弟で行うそれは、なんだかアンバランスなデザインになりながらも、全く同一の錬成速度で砂岩の廊下を生成する。
「うっし!」
「兄さん、父さんあっち!」
「おう! 追っかけるぞ!」
「あと悪いニュースがあるよ兄さん!!」
「なんだアル!!」
「後ろの方からどんどん崩れて行ってる!」
「──走れ!」
とかなんとかやって、結局結構な時間がかかって。
でも、見失わずに辿り着けた。
そこは。
「アルフォンス。ここだな?」
「あ……うん、ここだ。ここから見える遺跡の角度も……一緒だ」
儀式場──には、見えない。
「何にもない……?」
「いや、砂で埋まっているだけだ。このあたりの砂は流動が激しい。手分けして吹き飛ばすぞ」
「……吹き飛ばしたら、儀式場も吹っ飛ぶんじゃねえのかよ」
「吹き飛ばされた程度で壊れるものを錬成陣に使うわけがないだろう。アルフォンスが見たというインクは恐らく砂を固めるためのもの。この砂塵に沈んだどこかに、固まった砂でできた錬成陣が埋まっているはずだ」
兄弟は目を合わせる。
そして同時に手を合わせ──。
「んじゃ──砂嵐でいいな!」
「砂を巻き上げるのはいいけど、ちゃんと落とすところ考えなきゃだよ兄さん」
「……アルフォンス、血印に砂が付着しないように守っておけよ」
「あ、そうだった。ありがとう父さん!」
父。兄弟。
今はまだ何も噛み合っていない三人だけど、全員が全員凄腕の錬金術師である。
だから、なんとかなった、という話で。
──ソレが露出するのに、あまり時間はかからなかった。
「なん……だこれ。人骨に……」
「この死体自体は陣には関係ないな。いや、魂だけ抜き取られて死んだ肉体と言ったところか。賢者の石生成に使われた人間が、そのまま放置されただけだろう」
「だけって……」
「それよりも、これだ」
「……これ、何?」
「黒い……液体?」
ホーエンハイムが発掘したのは、骨のような皿に入れられた鉄の板と、小瓶。
その小瓶には真っ黒な液体が入っていて。
「……昔話だ。昔、クセルクセスでとある錬金術が使用された。術師が自身に付加する形で作らんとしたものは"大いなる叡智"。……結果から言えば、失敗だった。不老不死、永遠の命、死者蘇生の法。──あらゆる叡智を己に植え付けようとした錬金術師は、その思い上がりから"頭を持っていかれて"死亡した」
「……持っていかれた、か。それはやっぱり、真理に……か?」
「そうだ。お前の左足。アルフォンスの肉体。真理が代価として持っていくものはランダムに思われがちだが、その実"ソイツの未来において、願いにおいて、もっとも重大なもの"が代価となる」
「僕にとって……」
「大いなる叡智を求めた術師は頭部を代価に持っていかれた。だが、劣化品とはいえ"大いなる叡智の欠片"とでもいうべきものがこの地に取り出された」
それが
「ホムンクルス……」
「なんだ、まだ会ったことないのか。……別に会っても会わなくても変わらん奴だが」
「……」
"大いなる叡智の欠片"。即ち"真理"のごくごく一部は、奴隷の血を取り込んだことで自我を得た。否、自我を得たというよりは、誕生した、というべきだろう。
何故なら彼だけは生命としての"扉"を持っているのだから。
「だが──同じような実験を行っていた術者がその前にもいたんだ。こちらは"不老不死"。不老不死を呼び出し、己に付加し、己を作り直そうとした。そんな大バカ者がな」
「自分を作り直す、なんて……成功するの?」
「何も付け加えずにやるなら成功する。人体を同じ人体として錬成し直すのなら、特に問題なくな。無論通行料は必要だが。……わかっていると思うが、その儀式場がここで、呼び寄せられた不老不死がヴァルネラだ」
「……でも、僕の見た記録では」
「ああ、ぐちゃぐちゃになっていたんだろう? さっき言った通り、付加する人体錬成は基本成功しないんだよ。唯一同じもの……賢者の石を自らに錬成する場合のみいけるがな。あれは魂の凝縮エネルギーだ。魂を持つモノに魂をぶち込んでも、他の余計な要素よりかは拒絶反応は起きない。そいつが自我を保てるかどうかは別の話だが」
鉄板についた砂を落とすホーエンハイム。
刻まれた文字列は、名前だろうもの。
「術者に"不老不死"を付加することはできなかった。代わりに
「……じゃあ、なんだ。アイツはクセルクセスの錬金術師を犠牲にしてこの世界に来て……で、何しようとしてるんだよ」
「別に故意に犠牲にしたわけじゃないだろう。特に理由もなく呼び出されて……アレは特にすることもないんじゃないか? 俺にトリシャの死を教えたのだって、フラスコの中の小人への意趣返しだろうし」
「何をすることもない、って……」
「じゃあ何を急いでお前はここに来たんだよ、ホーエンハイム。ヴァルネラのなんかが必要で、そうじゃなくてもヴァルネラのしようとしてること防ぐために調べたかった、とかじゃねえのか」
エドワードがムスっとした表情で問う。
エドワードとしてはこの錬成陣を調べ、アルフォンスの精神や魂に関する情報を得たかった。……が、これはそういう類のものではないと一目でわかった。
人体錬成の陣のアレンジ。そういうものでしかない。無論時代考証をするなら、エドワード達が描いたものの方がアレンジなのだろうが。
「俺が知りたかったのは、その術師が不老不死を呼び出すために使った記号の方だ。──この十年、ずっと調べていた。あの頃の俺が調べなかった、手を出そうともしなかったクセルクセスの深奥──この国で何故ああまで錬金術が発達したのか。あれほど聡明だった王は何故不老不死を欲したのか。生きること、死ぬことにどれほどの価値があるのか」
ぽい、と投げられた鉄板。
そこに書かれた文字は。
「クロード=ルイ・アントワーヌ・デクレスト・ド・サン=ジェルマン……?」
「なんだこの長ぇ名前は。どこのお貴族様だっての」
「それがヴァルネラの本名だ。が、そっちは俺たちにはあまり関係がない」
「これが……? って関係ねえのかよ!」
ホーエンハイムは──スラりと立ち上がる。
その目、その出で立ちに、先ほど王の間で呆けていた誰かの影は見つからない。
「父さん、聞いてもいい?」
「なんだ、アルフォンス」
「さっきはなんであんなぽけーっとしてたの?」
「……はじめの三年で、大体のことは調べ尽くした。その後の三年で、机上の空論やアイツ……
「いーや、呆けてたね。間に合わなかっただの救えなかっただのずっと言ってたじゃねえか」
嫌味を含んだエドワードの言葉に──目的を達したらしいホーエンハイムは、ようやく彼に向き直る。
「……仕方がないだろう。トリシャを……彼女が罹る病さえわかっていれば、あるいは俺が生体錬成の権威と呼ばれる程に凄腕の錬金術師なら、彼女を救えたかもしれないんだ。何かを考え、何かを為すために行動している間はそれに集中できるが、ああいう時間が生まれると……どうしても思い出してしまう」
その、悲しそうな顔に。
何故かエドワードの口から、罵倒の言葉が出てこない。
代わりに。
「……知ってた、んだよな」
「トリシャの死、か?」
「ああ。……母さんが死ぬって。病にかかる、って」
「知っていた。教えられていた。何の病かは……アイツ、代価を払われてないとか言って、教えてくれなかったが」
「……ホーエンハイム。アンタが……母さんの大変な時、ずっとずっと書斎にいたのは、なんでだ」
わかっている。
答えがわかっている問いをする。エドワードは、もう。
ただ意固地になっているだけなのだ。ずっと嫌っていたものを、真実を知っただけで好きになれ、なんて。人間の感情はそう単純なものじゃない。嫌いという感情は残り続けるし、憎いという感情も染みつき続ける。
何年恨んだことだろう。幾年悔やんだことだろう。
エドワード・エルリックを構成する要素の一つに、既にホーエンハイムへの怨み、というものが刻まれてしまっている。
「……トリシャの病を治す術を見つけるため、だよ」
「やっぱり……そう、なんだね」
「ああ。だが、ダメだった。その死を教えられて、10年もあって……今知った通り、俺は何百年も生きていて、錬金術の凡そを知っていて。それでも──変えられなかった」
「なんでオレ達に相談しなかったんだよ」
「はは、できると思うか? あの時のお前たちは4歳と5歳。それにまだ錬金術も知らなかった。そんな子供に──まだトリシャが元気な時期に、"もうすぐ母さんは必ず死ぬ病気に罹るんだよ"、なんて──言えると、思うか?」
言えない。
言えるわけがない。たとえ未来を知っていても、死を告げる運命など誰に話せるものでもない。家族以外なら必ず気を遣う。遣わせてしまう。家族に話せば──どれほどのショックだろう。そして、トリシャ本人にも。
ならば秘して、治す術を見つけて、誰も知られぬ内に治療してしまうのが一番だ。それができてこその錬金術だ。
その苦痛くらい、覚悟くらい、悔恨くらい。
──理解できないエルリック兄弟じゃあ、ない。
ああ、そうだ。
簡単だ。簡単な事だったのだ。
「弱い……んだな、アンタ」
「……弱い、か」
「それに、脆い……。ここにいた時、アンタに家族はいなかったのか? 両親とか、兄弟とか」
「いなかったなぁ。師匠や主人はいたけど……家族はいなかった」
外套の下。
ポケットに手を突っ込んで、寂しい背中で。
「いなかったよ」
誰も。
だから欲したのだ。
弱い。脆い。
同じく家族のいないのだろう彼より、あまりにも。
不老不死を得るには、あまりにも向いてなさすぎる精神。
「……ホーエンハイム。ちょっとこっち来い」
「いいけど、また背中蹴るんじゃないだろうな」
「蹴らねえよ。蹴るとしても機械鎧じゃない方にしてやる」
「それでも痛いんだけど……」
言いながら、でもホーエンハイムは従う。
エドワードの方へ寄って。
「アル。アルもこっち来い。こっち来て、ちょっとしゃがめ。ホーエンハイム、アンタもだよ」
「えー。兄さんがジャンプすればいいじゃん」
「そうだな、エドワード。円陣か何かを組むつもりなんだろうが、お前がジャンプすればいい」
「い・い・か・ら・か・が・め・!」
背の高い二人に、声を荒げるエドワード。
そして別に、円陣なんか組むつもりは一切ない。
屈んだアルフォンス、ホーエンハイムの──後頭部をガッとつかんで。
ガン! と。
頭突きをかました。
「~~~~っ!」
「……何やってるの兄さん」
「……何やってるんだエドワード」
当然、一番ダメージを受けるのはエドワードである。
生身の無い鎧であるアルフォンスは言わずもがな、ホーエンハイムも再生する程のダメージではない。
もんどりうって、ひっくり返って、額を抑えて砂の上をゴロッゴロ転がるエドワード。
「っ、てぇえ!」
「そりゃ痛いだろう……。どれ、診せてみろ。小さい傷くらいなら治せる……」
「うるせっ! 治すんじゃねえ」
「だが、傷になるぞ。この鎧硬いんだよ」
「いいんだよ傷になって」
「ウィンリィがまた心配するよ兄さん」
「ぅ……い、いいんだよ! これは……なんつーか、オレなりのケジメだから」
アルフォンスの頭の上にも、ホーエンハイムの頭の上にもクエスチョンマークが浮かんでいる。
それを見て、エドワードは口を尖らせて……目を逸らして。
「この痛みを思い出すたびに、ホーエンハイム。アンタのその、なんつうか、寂しそう……つか、悲しそう、つか、……そのキモい面を思い出す! これで……こうすれば、蹴ったり殴ったりの衝動も抑えられる!」
「そこまでしないと抑えられないんだ……」
「抑えられるかよ! だってコイツは、違う、だから、だって──だって、母さんは、コイツに、本当はコイツに、ホーエンハイムに!」
フラッシュバックする、母親の顔。
いつも笑顔だった。つらそうな時でも、エドワード達に見せる顔は笑顔だった。
「……オレ達じゃない。ホーエンハイムに、ホントは、ずっと一緒に……いて欲しかった、って……それくらい、なんでわかって……クソ……」
「……そうだね。そこに関しては、僕も同じ気持ち。父さんがさっき言ったこと、わかる。僕だって兄さんがもうすぐ死んじゃうって聞かされたら焦る。それが病気で、治せるかもしれないものって言われたら……錬金術とか、自分の身体を取り戻すとか全部放り投げて、医学の勉強をするよ。生体錬成でなんとかなるなら、ヴァルネラさんにだって師事する。なんとしてでもね。だけど」
だけど。
だけど、だ。
「母さんと一緒にいる時間。もう少し、本当にもう少しだけでいいから……分けてあげて欲しかった。もう言っても仕方のないことだって僕も兄さんもわかってるけど、それでも言いたい。母さんと、一緒にいてあげてほしかった」
エドワードの歪曲し、屈折し、捻じれに捻じれた想い。
アルフォンスのまっすぐでまっすぐで、どこまでもまっすぐな言葉。
「……ああ。俺が後悔するべきは、間に合わなかった事でも、救えなかったことでもなく……そっちだよな」
深く、頷いたのだった。
で、である。
「全く……いきなり遺跡から爆走して出てったと思ったら、一人増えてるって……はい、イシュヴァールの皆さんに感謝すること。いいね? ああ、ごめんなさいね、次一頭余分に持ってくるから」
「ああ、良い、良い。ホーエンハイムさんには随分と世話になったからの。彼のために馬を譲るのは、イシュヴァラの教義にある恩返しのようなものじゃ」
「ホーエンハイム、お前何してたんだ?」
「何って……この遺跡の同居人として、砂漠の生き物を狩って分けたり、綺麗な水を精製したり……それくらいだ」
「へぇ」
三人がクセルクセス遺跡に帰るなり、そこそこの人数のイシュヴァール人に取り囲まれた。
エルリック兄弟が構えを取るのも束の間、ホーエンハイムがへにょへにょ歩いて行って、どうやら代表らしい老婆と会話。
何か驚かれたのも束の間に、ぽんぽんと肩を叩かれ、その背中を他のイシュヴァール人からバシバシと叩かれ。
どうやらここを出ることを告げたらしかった。
イシュヴァール戦役でこのクセルクセス遺跡に逃げ延びた人々も驚いただろう。まさか人がいるなんて。ホーエンハイムもそれなりに驚いただろう。まさか人が来るなんて。
そんな微妙な関係から始まった同居生活は、けれど特に衝突が起きることもなく、そしてひとたび会話という交流が始まれば──なんと彼らの恩人、ロックベル夫妻の隣人だというではないか。
さらに言えばイシュヴァール人の多くを逃がしたヴァルネラ医師の知り合いでもあり、と。
仲良くならないはずもなく。
「ホーエンハイム殿の息子らよ。彼を頼むぞ!」
「え、シャンさん何を」
「彼は……やることが無い時、突然ぶつぶつと誰かと喋りはじめ、かと思えばトリシャトリシャと呟き始め、今度は頭を床や壁に打ち付けはじめと、手に負えん! 常日頃から目的を与え続けること! 良いな!」
「……兄さん、これってもしかして、"父さんの飼い方"かな」
「だな。同居人っつーか飼われてただけなんじゃねぇかコイツ」
「酷いな……」
それでも。
「また、会おう、ホーエンハイム殿──くれぐれも、玉砕覚悟などというものを持つでないぞ!」
「……ええ。シャンさんも、お元気で」
兄弟は顔を見合わせる。
どうやらこの父親、クセルクセスでの十年間──何もしていなかったわけじゃなかったらしい。
「出発するぞ──次あのワームの類が現れたら、頼むよ!」
「任せろ! 今度こそぎったんぎったんのねったんねったんにしてやるぜ!」
出入国コーディネーターのハンに連れられて。
兄弟は、父親と共にアメストリスへ帰る──。
「寒いな」
「寒い」
「……さすがは武僧、とは思うけど、そこまで肌を晒して大丈夫なものなのか?」
「む? だから寒いと言っているぞ、兄者」
ところ変わって──ブリッグズ山。
その巨壁と呼ばれるブリッグズ要塞に、その見張り台に三人はいた。
左から、両腕刺青の褐色赤目の筋骨隆々男、がっつり寒冷地装備を着込んだ褐色赤目のひょろひょろ男、寒冷地装備を着込んだ褐色赤目のしっかりと鍛えてある男。
「本当に来るのか?」
「あぁ、来るよ。今朝、軌道上で観測を行った仲間が微弱な振動を感知している。円は確実に掘られている」
「……
ブリッグズ要塞へとやってきた
当然だろう。セントラル、イーストシティで騒がれている国家錬金術師殺しと特徴が同じ過ぎた。だからブリッグズ兵と戦闘を行い──しかし、誰も殺さず。
これも当然だ。ここに国家錬金術師はおらず、そもそもが協力を求めるために来た。
殺してしまっては意味が無い。怪我も本当はさせたくなかったが、ブリッグズ兵も強かった。だからやむを得ず、ということが何度かあった。
既に
ブリッグズ側の将、アームストロング少将が出てきたのだ。
そこから──紆余曲折はあったものの、すべてを話し、話を付けることができた。
ブリッグズ-
今日。
いろいろな準備をした後の、今日だ。
来るとされている化け物を、殺す。
あのガスホルダーでヴァルネラから提示された可能性において、脅威となるのは二つの
一つは
最速の
もう一つは
明るい所にはあまり出てこない、掘られているトンネルに入らない限り手を出してこない──とはいえ、もし戦闘になった場合、どうしようもないから逃げろ、とまで言われている
その横にいる彼の弟は兄の護衛で、マイルズはブリッグズ側との通信役。
「──来た!」
目の前。
三人の視線の先で、大爆発が起こる。
それは地下、トンネルの行き先に仕込んだ爆薬。周辺に住民がいないことは確認済みで、今日この辺りで演習をするから近づかないように、とも言ってある場所。
そこで起きた爆発は、一撃だけなら紅蓮の錬金術師のそれにも勝る威力。
「今だ、引き摺り出せ」
マイルズが指示を飛ばす。
ごぅん、なんて音が響いて首を振るのは──クレーン車だ。爆発の起きた場所に先端を伸ばし、フォークグラップルでソレを確実につかむ。
急がなければ
「……成程、巨体だ」
「兄者」
「ああ。第一班行ってくれ。東側のブリッグズ兵の射線上には入らないようにな!」
雪の中、ブリッグズ山岳兵の使う真白の装備を纏っていた
それらは恐るべき速度で雪上を走り、今しがた吊り上げられた化け物に手を当て──分解する。一気に体の二分の一を持っていかれた化け物、
「一班は離脱しろ。二班、槍による腹部の集中攻撃だ。硬い皮膚に穴を。開けたらすぐに崩してくれ。ブリッグズ兵の砲弾が来る」
通信は続く。
分解の右腕と再構築の左腕。
それらを自在に使いこなし、且つ目で追うこともできない程の俊敏さとタフネスを併せ持つ武僧。
あのオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将をして「正面切ってぶつかり合うのはもう避けたい」と言わせた程だ。
石槍がスロウスの腹に突き刺さる。刺さった瞬間には槍は崩れていて──穴の穿たれたそこに。
「ってぇー!!」
轟音。
ブリッグズが誇る戦車部隊。その砲塔から放たれた砲弾は、回転しながらスロウスの肉を破り貫いていく。
「鉤縄放て!」
「一班はもう一度接近、三班はブリッグズ兵が襲われないよう見守っておいてくれ!」
「──地下観測班から入電だ。何か影のようなものが来ている!」
「早いな。全班一度撤退しろ! トンネルの上からできるだけ離れるんだ!」
影だ。未だ爆炎立ち昇るそこから、目のついた影の化け物が這い出てきたではないか。
それは素早く周囲を見渡し、
「今だ、射出しろ!」
ブリッグズの巨壁。
その上に並んだブリッグズ兵──その全員が持っているのは、グレネードランチャー。合図とともに全員が射撃し、特徴的な形のグレネードが射出される。
気持ち上めの放物線を描いて打ち出されたソレは──スロウスを巻き取った影の周囲で爆発する。
光に。
蒸発するようにして消える影。
雪という天然の鏡は光をさらに増幅し、単なるフラッシュグレネードでも効果的なところを、更なる効力を以て対抗策とする。
が、これは本体へダメージが行くわけではない、とヴァルネラから聞かされている。だから時間稼ぎだ。
「影が復活する前に、また先ほどの工程を繰り返すんだ! 撤退の指示はする!」
「地下観測班、見逃すなよ! こちら全員の命はお前らにかかっている! ひいてはアメストリス全土の民の命がかかっていると思え!」
「砲弾、装填完了! ってぇー!!」
連携は完璧だ。
少将と
だから、巨壁にほど近い所に住んでいる住民は「今日の演習は気合入っとるの~」とか思っているかもしれない。
「削れ削れ! 再生せども、奴は必ず尽きる、死に果てる怪物に過ぎん!」
「ならば殺せ! この世は人間のもの──
「行け、押せ! そして油断するなよ、仲間の死こそ最大の損失と知れ!」
これで殺せない生物などいないだろう。あの不老不死以外。
押して、押して、押して押して。
果てに──。
「──全く。死地から蘇っての初仕事が要塞の爆破とは──良いものを用意してくれる」