緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
食べた。
あー食べた。
そんでもって今、暗がりに連行されてるナウである。
「何用? 飯奢ってくれたからある程度聞き分け良いぜ今の俺」
「用は二つです、不老不死。それと、質問が一つ」
「おん」
「まず一つ目。これ以上地形を壊すのはやめていただきたい。埋める側の身にもなれと一部から不満の声が上がっています」
「ちなみにそれ何ンヴィー?」
「二つ目です。貴方が最初に我々に告げた言葉、"激動の時代"。そしてラストに与えた死の宣告。その他、国家錬金術師に早期になったこと、イシュヴァール戦役で大総統令を無視できる位置に初めからいたこと、突然外出申請を出してイーストシティに向かったことなどから──貴方は未来を知っているのではないか、という疑惑……いえ、確信が持たれています」
「おん」
「その上で言います。
「……その要求は受けられんなぁ」
「秘匿する、と?」
「代価を払えよ、
「……」
風に舞う木の葉に対して「その場に留まっていろ!」って言ってるようなものだ。
留まっているには労力がいる。代価がいる。ましてやどこか、決められた場所に行け、なんて。
「要求するだけか、
「お前を利用しようとはするやもしれんが、お前の行動を制限するなど無理だ。何故ならお前には大切なものがない。お前という存在には起点が無い。何者も、何物でさえもお前を縛ることはできず、故にお前の気紛れを利用する他利用価値が無い」
「おー、流石。付き合い長いだけあるな」
「……本当に、仲が良いですねあなた達は。
「はっはっは、セリムは友達が少ないからな!」
「食べますよ?」
……おお。
力関係も年齢も真逆だけど、親子っつーか。
弄れるだけのアレソレはあんのな。
「で、質問っていうのは?」
「……個人的な事なので、
「ほほう? なんだ、好きな女の子でもできたかセリム」
「あまり調子に乗らないことです。貴方の身体はただの人間でしかないことをお忘れなく」
「はっはっは、照れるでない。わかったわかった、私は先に行っているとしよう」
楽しんでんなぁアイツ。
で。
なんだろうか、俺に聞きたいことって。
ブラッドレイに聞かれたくないことって。
「質問はただ一つです。──貴方はこの身体を治すことはできますか?」
「できるよ。容れ物でもどんだけ頑丈でも一応生体だろ、それ。ああ金属でできてんなら逆に無理だけど」
「はい、生体です。……そうですか、できるのですね」
「何、そろそろ耐久限界? 5年とかだっけ、お前が容れ物変えてんの」
「貴方からの質問は受け付けていません。代価を払えとも言われなかったので用件及び質問はこれで終わりです。あとから請求するのは無しですよ」
「ん? 立場の話はいいのか?」
「
「そうかい。そんじゃま、ブリッグズとの戦い頑張れよ~」
「なっ!?」
飛び降りる。
どこからって、高級レストランの窓から。
いや俺氣わかるからさ。食事中から影伸ばしてブリッグズ方面に行かせてたのもわかるよ。
さて、はて。
いやー食べた食べた。
「……で、なんでお前いるわけ?」
「妻からな。自分たちのことは護衛に任せて、お友達との語らいをしてきなさい、などと言われ、送り出された」
「おお尻に敷かれとる」
首が斬られる。
すぐにくっつく。
「夜とはいえ往来だぞここ」
「どうせ見えんよ。私が刀を抜いたことも、鞘に収めたことも、お前の首が斬れてくっついたことも」
「まーそうだけど、血とか……おおすげぇ、飛んでねぇ」
「刀身に血液を付着させずに斬る術も心得ておる」
何その無駄技術。
ああでもちょっと裏路地入って斬ってきて帰ってきても証拠が無い、みたいにできるのか? 流石にルミノール反応は出るだろ。
「……何話すよ。なんかある?」
「私からは何もないな」
「俺も。……夫人とは仲良いの?」
「わからん。他と比較したことが無いのでな」
「そりゃそうか。俺も……誰と誰が仲良いかとか、よくわかんねーわな」
「それにしては多くの人間と絡んでいるように見えるがな」
「群れの中にいるだけだよ。この前もなんかよーわからんことでドン引きされた。未だに理由がわかってないあたり、俺はやっぱり空気読めないんだと思うわ。KYKY」
私服のブラッドレイだから、軍服の時よりは騒ぎにはならない……んだけど、やっぱり、流石に特徴的な眼帯と顔でざわつきは纏わりついてきている。
「私が目立っているのではなくお前が目立っているのだぞ、ヴァルネラ」
「まぁこんなチビがこの時間にいたら目立つか」
「それも……あるが。……お前は、自身がそこそこ慕われている、という自覚さえもないか」
「おん? 慕われている? ……なして? つかどういう経緯で?」
セントラルの夜は明るい。
自動車が結構走っているし、電気つけっぱの家や店が数多くある。
東京とかそういうヤバい明かりには届かずとも、航空写真で見たらセントラルは輝いていることだろう。
「イシュヴァール戦役に参加した兵士の多くはセントラルに住んでいる。何かしらで功績を為し、階級の上がった者が多いからな」
「逃げた奴は地方に左遷されるから、って言った方がよくないか」
「それもある。……そして、セントラルで軍人を続けるような兵士は──中々どうして勇猛でな。イシュヴァール戦役含め、どこかしらでお前の世話になったことがあるそうだ。私の聞いた兵士は、だがな」
「へぇ。そりゃ確率偏ってるだけだろ。俺の事なんか知らない奴も多いだろうさ、この国の人口5000万だぜ?」
「奇跡の生還を果たした兵士はその家族に話すのだよ。戦場の神医の話をな」
「無視かよ」
……それで、慕われてると。
まぁ別にいいよ慕ってても慕ってなくても。家に突撃してくるとかなら話は別だけど、あんまし関係ないし。
横断歩道を渡る。
渡れば、もうすぐ俺の家だ。
「ブラッドレイ」
「なんだ」
「定められた寿命か、満足の行く死か、──コイントスに左右されるような悪路か。どれを選ぶ」
「……この身はそもそもレールの上を行く身。争う相手は間引かれ、言われた通りの令を下し、示された方向だけを向く者よ」
「
ポケットから500センズを取り出し、ピン、と弾く。
落ちてくるソレを掴んで。
「Heads or Tails」
「……お前、私に"最強の眼"があることを忘れてはいないかね?」
「いいからいいから」
「表面だ。雄の龍。力強きモノ、正の流れを示すモノ、また、"理論化"の幻視体験を表す記号でもある」
「へぇ、じゃやっぱお前見る目ないよ」
手を開けば──そこには500センズが。
500と書かれた、裏面のコインがあった。
「……拳の中でひっくり返したか」
「そう見えたか?」
「……いや、見えなかった」
「ああ、ひっくり返してねぇもん」
少しの間。
考えているのだろう。どういうトリックか。
錬成反応の光は無かったから作り替えてはいない。そもそも俺にそんな細かい造形はできない。
ではどのようにして、この最強の眼の前で、表裏をひっくり返したか。
溜め息と共に、刀が振られる。
ぽーんと飛ぶ俺の手首。そこからぐちょっと出てくる500センズ。
騒ぎになる前に拾って自分の右手にくっつけて、生体錬成を発動させる。
「何が楽しい」
「死ぬよ、お前。もうすぐ」
「──……そうか。知っていたことだ」
まぁ、そうさな。
前も述べたけど、コイツは大詰め用。大詰めが終われば処分されておかしくないし、そもそも大詰めに合うように寿命も調整されていることだろう。
「
「……」
「
「欲の無いお前に問われてもな」
「わかってんだろ。フラスコの中の小人は感情を切り離し、自らの分身を作り出したと
家の前で、振り返る。
なんか電気ついてんな。ヤオ家が帰って来たか?
まぁいい。
振り返って、なんぞ、
「俺は貰った情は忘れないぞ、ブラッドレイ」
「そうか。勝手にしたまえ」
「おう」
んじゃーなー、とか言って、別れる。
等価交換だ。貰ったモンは必ず返す。
「よぅ、よーやく帰って来たか。ったく待ちくたびれたぜ」
「あれ、グリードにデビルズネストの面々に……ノックス医? と」
「初めましテ! 私、メイ・チャンと申しまス! あなたがブシュダイレンですネ?」
「そうだけど……何このメンツ。グリード」
「おいおい、再会したら宴、だろ?」
「待て待て待て待て! 先にこっちだ! ──神医ヴァルネラ。無理を承知で頼みがある!」
まってまって。
なになに。
誰が何したいか順番に言って。
「いいぜ、オレ達の用は後で。嬢ちゃんもいいだろ?」
「あ、はイ。わかりましタ」
何故グリードとメイ・チャンが共にいるのかも気になりはする──が。
額擦り付けて、つまり土下座の恰好で俺になんか頼んでるノックスの方だ。
「頼みって何。アンタが頭下げるってことは、医療関連? 完全な死体になってなきゃ治せるよ」
「……見てもらった方が早い」
「おうロア、ドルチェット! シーツ取ってやんな!」
ばさり。
そう取られたシーツの下から現れたのは──。
「げ、グラトニーじゃん。しかも暴走してないか」
「おお、グラトニーの暴走状態まで知ってんのか。相変わらず博識だねぇ。だが、がっはっは、この錬丹術使いの嬢ちゃんと俺様の合わせ技で、弟はこの通りの有様さ。動きゃしねぇよ」
「……硬化してる?」
「はイ! 遠隔錬成ト、グリードさんの硬化の合体技でス!」
へぇ。
そういうことできるんだ。面白。
「で、頼みっつーのは」
「……この化け物に、ロイが食われた。ロイだけじゃねえ、ロイの部下のホークアイ、あとリン・ヤオっつー奴とランファンって奴もだ。……正直俺には意味がわからねぇんだが、い……ぃ。……い、医者として、これを見過ごすわけにはいかない。が……俺の腕じゃどうにもならねえ。だから、頼む! ──ロイ達を救ってやってくれ!」
ふむ。
「代価は払えるのか、アンタ」
「……払えねえ。俺にはもう、何も残っちゃいねぇ」
「ほーん。ちなみにグリード、お前は?」
「いやぁ、流石に通りすがりのオッサンのために俺の賢者の石をやるってのは無理があるだろ」
「おん。そりゃそうだ」
「因むと通りすがったのは私達でス」
代価は払えない。何も持っていないから。
だけど、"共犯者"とその仲間を助けたい。医者だから。
けれど、技術が足りない。知識が足りない。
で、呑まれたのがロイ・マスタングとリザ・ホークアイとリン・ヤオとランファンね。
……まぁノックスから代価貰わなくてもやるけど。対価は後でこいつらからもらえばいいだろ。
「いいよ」
「……オイオイ、代価ナシの善行とか、お前らしくないんじゃねぇか?」
「ナシじゃないさ。出てきた連中からもらう」
「あー、そういう」
さて、じゃあどうするかなーとか考えながら。
グラトニーのオブジェに、触れる。
その瞬間だった。
最強の盾で覆われているはずのグラトニー。その表面にピシ、ピシ、ピシリと罅が入り──激しい爆発音と共に弾ける。
飛び散る破片。マーテルに向かうものはドルチェットが、メイ・チャンはグリードが、ノックスはロアがそれぞれ守る形となった……のはいいけど、それはもう、それはもう血だらけだ。
ウチが。
罅は収まらない。
が、最強の盾ゆえだろう。中々入っていかないそれ。
仕方がないので指を一本噛み千切って、その断面で円を描く。人が通れる大きさくらいのやつ。通り抜けフ~プ~。
するとその部分が緑礬化──直後、その穴からドバドバと血肉が、そして──人が放出され始めた。
おーおーおー。
「……もうちょっとやり方無かったのかよ」
「これは俺のせいじゃねーって」
出てきたのは、リン・ヤオ、ランファン、リザ・ホークアイ。……そして、ロイ・マスタング。
おお、依頼達成。だけど俺別に何もしてないから代価取れないな、こりゃ。
「は……はは、やっぱり、敵いやしねぇか。戦場の神医……」
とりあえず飛び散った肉片一個一個に緑礬を……めんどくさ。あとでロイ・マスタングに焼いてもらった方が早くねえか。
「あ、グリード。蓋、蓋」
「ん? おお。嬢ちゃん、もっかい合わせ技だ」
「はいでス」
グラトニーの身体に刺さる苦無。グリードの右腕を囲う苦無。
グリードが硬化を始めると、錬丹陣の円に入った部分から硬化が止まり、代わりにグラトニーの体が硬化していく。
成程、グリードの硬化っていう錬成反応を氣の流れに乗せて別の物に作用させてるのか。
やっぱ錬丹術は面白い。錬金術程特色が色濃く分かれない代わりに、こういう色々な応用が利きまくる。俺も使えはするけど遠隔錬成だけだからなぁ。
「……こっち二人は気を失ってるな。真理の扉の再錬成に耐えられなかったか。まぁキモいからなアレ」
「行ったことあんのか?」
「もち。あー、ノックスさん? この二人の身体洗ってベッドに寝かせてきてくれねぇ? あぁいや、そうか、男女って分けた方がいいんだっけ。じゃあマーテル、こっちの二人を頼む」
「りょーかい。ロア、洗うのは私がやるから、足持つだけ持って。ドルチェット、アンタはこのオジサンの手伝いね」
「へいへい、っと。うひぃ、くっせぇなぁ」
手際が良い。
ああそうか、元軍人ズなんだっけこいつら。
シャワーも……水出るかな。俺使ったこと無いんだけど。
そんな感じで、四人が出て行って。
「で、グリード。なんでセントラルに?」
「俺の用は後でもいいからよ。この嬢ちゃんの話を聞いてやってくれ」
「お前
「まぁ生きてきた年数が違わあな。がっはっは、それ言ったらアンタはどんだけって話だが」
ホントだよ。
そんでもって俺全然自分のこと大人だとか思ってないよ。我先にでもないけど。
「それでス。ブシュダイレン。あなたはブシュダイレンですよネ?」
「おう。俺が
「お、おお。シン語がいけるのですね。ありがとうございます。それで、不躾なお願いなんですけど」
「すまんが先約がいるんだよね。ヤオ家に先に誘われててさ。ついてきてほしい、って奴だろ?」
「あ……はい、そう、です」
「流石の俺も先約を大事にするよ。──ただし」
「ただし、美味しいものを振舞えば、こっちについてくれる──ですよネ?」
「あっはっは、なんだよよくわかってんじゃねーか。チャン家。昔行ったよ。あの黒砂糖が入ったクルミ砕いて入れてあるお汁粉めちゃくちゃ美味しかったんだわ。懐かしいな」
「あ! それ、私も小さい頃よく食べてました!」
「今でも小さいだろうよ」
「それは貴方もです!」
わかる。
──コイツ、食について話せる。
いや、いや。それもそのはずだ。
だってチャン家っていったらド貧乏なクセに腹ペコで、めちゃくちゃ味覚に優れている一族。美味い菓子がいっぱいあって、押しに弱い一族!!
「あー、何言ってるかわかんねぇが、盛り上がってるみたいだな?」
「あ、ごめんなさイ。こちらの言語を話せる方だとは思わズ……」
「ああいいぜ、別に。この部屋の現状じゃ宴って雰囲気でもねぇし、話ならいつでもできる。がっはっは、つーわけで、俺はちょいとセントラルの夜街をフラつきに……」
「ああやめとけやめとけ。さっきそこに
別に、マーテルもドルチェットもロアも要否で言えば否の方だ。
わざわざ守る価値が見つからん。
「……そうかい。んじゃー……寝とくわ」
「寝室どこ使ってもいいぞ。俺どこも使ってないから」
「あいよ」
階段を上がっていくグリード。
なんかしおらしいけど、なんかあったんかな。あのグリードがしおらしくなるとか珍しいにも程がある。
「そ……それで、ですね」
「おう」
「もし私と共に来てくだされば──チャン家総動員で、ブシュダイレンに料理のおもてなしを、と考えています」
「……チャン家総動員ということは、あの時は食えなかった"秘蔵のレシピ"なるものを握ってるおばばも出てくるのか?」
「おお、チャン家の秘密まで知っているとは……。そして、答えははいです! 全力でおもてなしします! 食べ放題です!」
「よし乗っ」
「待ったぁ!!」
そんなんついていかないはずないじゃん、と思いながら了承の声を上げようとしたら、シャワー室の方からずぶ濡れのリン・ヤオが出てきた。髪拭けよ。
「む!? あなたは──ヤオ家の皇子! さっき見た時と名前を聞いた時にもしや、とは思いましたが──やはりブシュダイレンを懐柔していましたか!」
「懐柔しているのはそっちだろう! ブシュダイレンをはじめに見つけたのも勧誘したのもこちらが先だ!」
「へぇ、そうですか。ですが、ヤオ家に有名な料理人がいるという話は聞いたことがありませんね。その点! チャン家は! 美味の宝庫!!」
「だが貧乏だろう! さっき食べ放題とか言っていたが、食材が尽きるまでの話! このブシュダイレンは大食いも大食いだぞ、チャン家に耐えられるわけがない!」
「失礼な。確かに私の一族は貧乏ですが、自らの土地で畜産や農業を行っています。他人の部族をまるで倉庫にしか食材が無い考えなしのように言わないでください!」
「──それはすまなかったと素直に謝ってやる。だが、ブシュダイレン。良いことを教えてやる──今フーがシンに料理書を取りに行っている。そしてランファンがシンの料理を作れる! ──この意味がわかるな?」
「え、今日からランファンが飯作るってこと? 別にいいよ無理しなくて」
「無理じゃない。これはフーを治療してくれたことに対する恩義だ。そして、俺達に付いてきてくれる恩義……いや代価でもある! 既にアンタは俺達に治療という代価を払っている! だから、俺達から返される代価を受け取る義務が生まれる! 違うか!?」
……おお。
錬金術師でもないのに、良い理解してるな。
既に貰っているから、上げる義務があり、だからこそ俺も貰わなければならない。
それは確かに等価交換の原則に則っている。
「リザ・ホークアイ。こういうのを"引く手数多"というんだ。覚えておけ」
「いえ、今シャワーを浴びてきたばかりである上に、シン語が一切わからないので全く意味がわかりません」
そうだった。
とまぁ、ギャーギャーギャーギャーシン国組が俺を取り合っていると──バァン! とドアを開けて、シャワーを浴びたらしいロイ・マスタングが、なんかめっちゃ怖い顔でツカツカツカツカ歩いてきて、めっちゃ詰め寄ってきて。
なんなら胸倉掴まれて、引き寄せられて。
「貴方はどこの国にも渡すつもりはない! 私の作る素晴らしき国で、毎日心を揺り動かして過ごすと良い!」
「お、おお」
「待テ、大佐! それは約束と違ウ! ブシュダイレンの一時的な渡航許可はくれルっていう約束だったじゃないカ!」
「アメストリス国軍の方ですカ!? 私にもブシュダイレンの渡航許可をくださイ!」
「いやお前が貰ってどうするんだよ」
しかし。
──これは、ハーレムって奴では?
ロイ・マスタングがなんであんなに怒ってんのかは知らないけど、ヤンギレという文化もある。……いや、多分だけど腕切ったのが空気読めてなかっただけなのはわかってるよ。あれだよな? 体の治療だけすれば良かったのに、俺が腕まで治しちゃったから怒ってるんだよな?
しかし……まぁ、謝らなくてもいいか。ロイ・マスタングが俺を嫌ってようがあんまり関係ないし。
ギャーギャー騒いでいるのにロイ・マスタングが加わって、さらにうるさくなって。
そんな三人を見るのは──疲れた顔のノックス。
いや、見てんのは俺か?
「……人の気持ちも知らねえで、呑気な顔してやがる」
「俺の事?」
「どわっ!? き……聞こえてたのか。すまねえ、口に出すべきじゃなかった」
「ああいいよいいよ。医者にとって俺が異端なのは理解してるし。でも、アンタ良い人だね」
「は?」
「アンタには家族がいる。だから命は差し出せない。アンタは医者だ。だから手足は差し出せない。人を救うための手足は差し出せない。視力もそうだ。医者として必要なものだから、差し出せない。──自分には差し出せるものが何もない。それでも助けてほしい。代価は払えないけれど、友人を、呑まれてしまった無辜の人々を──どうか助けてほしい」
「……」
「聞こえてたよ。あっはっは、口で偽悪的なのは俺も一緒だけどね、そこまで偏屈で純粋な願いは久しぶりに見た。アンタは医者だよ、紛う方なき医者だ」
だから、良い物を魅せてくれた対価を。
「過去も、嫉妬も、焦がれも憧れも。何もアンタの足を引っ張っちゃいないよ。アンタの肩を掴んでるのは家族だ。お疲れさん、ってな。でもアンタはまだ医者だ。だから、多少肩が重かろうが、後ろ髪を引かれようが、患者を診ないと気が済まない。治さないと気が済まない。辛い顔も苦しい顔も見たくないんだろう?」
「……おれ、は」
「はは、叫んでるよ、魂が。──医者、続けなよ。俺に焦がれてんなら、俺が背中を押してやる。あっはっは、俺はお前さんの思ってるような奴じゃねーけどな」
ただし、だ。
「タバコとコーヒーは程々にしなよ。早死にしちゃうぜ、人間。アンタは不老不死じゃないんだからさ」
さーて、飛び散った血肉のお片づけをしますかねーっと。
……つーかさ。
つーか、エドワード・エルリックはなーにしてん?
アルフォンス・エルリックもだけど。ダブリスで一瞬邂逅したっきりじゃん。なに? もう全部諦めてどっか外国に旅行してたりするの?