緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
あらかた治した。
未だ運ばれてくる兵はいるが、少なくとも外に、雪の上に落ちて身動き取れずにいる、みたいな兵士はいなくなった。
ただし、全員じゃない。何故ならまだ敵が全員健在だから。
すごいのは、ブリッグズ兵が勇猛であるというところか。
折れない。
どれほど重傷を負い、凄絶な怪我で運ばれてきても、治ればまた戦いに行くと言うのだ。
折れない。折れない。
屈強、堅牢、不屈。
対して敵──
ブリッグズ兵が殺せているのはエンヴィーくらいだけど、コイツも何に化けているかは彼らで判断できない以上手を出しづらく、俺が教える頃には離脱している。
キンブリーは……キンブリーはよくわからん。
さっきから明らか致命傷食らってるんだけど、一旦姿を隠したと思ったら全快して戻ってきている。
賢者の石を持った医者がいる、と聞いてはいるものの、ソイツの姿も見えない。
「
「負傷者は先ほどので最後だ。だが、紅蓮の錬金術師の動きが明らかにおかしい。人間業ではないというか……」
「だよな。俺もそー思ってた」
作戦会議室に武僧のガード二枚置いて中に集中治療室を作成。そこそこ猟奇的なのは理解しているけれど、壁一面と床天井を
「とりあえずプライドが邪魔過ぎる。閃光弾を自作できる武僧は何人いる?」
「材料次第だが、三人」
「よし、ソイツらにありったけの材料持たせてそのスロウスが出てきた穴ってとこに向かわせてくれ。プライドの影は全部繋がってる。根本ブチ切れば問題ない」
「成程。──ああ、行ってくれ」
インカムだの無線機だの、色々な技術を取り入れているらしい
そのおかげで武僧たちの動きはスムーズだ。
ブリッグズ兵は砦内の放送での行動が主だったためだろう、今はあまり統率が取れているとは言えないが、個々の結束力が強い。そして恐らく違う隊員だとしても、瞬時に連携できるという長所がある。こーりゃ強いわ。
「緑礬。錬金術に地点Aから地点Bに瞬間的に移動するようなものはあるか?」
「あるにはあるけどそんなん発動したら俺がわかる」
「だが……明らかに奴はそれをしている。神出鬼没が過ぎる」
そんで、アームストロング少将も合流した。
最高戦力がここに集まっていることはあんまり良いことじゃないのですぐにみんな出ていく予定だけど、認識のすり合わせは必要だ。
「多分、本物のキンブリーが致命傷を負った時に出てくる方はエンヴィーだ。それで時間を稼いで、本物の方をどっかで治療している」
「……となると、致命傷を与えた後に何が何でもくらいついて追うべきか」
「それができたらそれでいいのだがな。奴が撤退するとき必ず影……プライドが近くにいる」
「そのプライドは今からイシュヴァールの武僧が断つよ。だから」
「……次で決めろ、ということか」
アームストロング少将が作戦会議室を出ていく。
追従するのはブリッグズ兵。そうだな、彼らは彼女について行った方が効率よく動けるだろう。
「
「ああ。この六角形には意味がある。ただ、円がまだできていない」
「凸レンズは?」
「……それをやれるのは技量的に私くらいか」
「残念ながら俺は造形無理。一番ヤバいのはスロウスだな。いいよ、俺が相手する」
「君は治療をするべきだ。それができる者がここにはいな過ぎる」
「お前さんがレンズ作り終わったらまた治しに戻ってくればいい話だ。そうだろ?」
「……──考えている暇はなさそうだ。それでいこう」
ううんスムーズ。
余計な言葉が無い。主語もない。でも通じる。
頭良い奴との会話は楽でいいわ。俺が喋んなくていいもん。
「兄者。俺は紅蓮を殺しに行く」
「ああ、アームストロング少将について行ってくれ。我らの手が必要な場合も多々あるだろうからな」
「承知した。──緑礬」
「ん?」
「兄者を頼む」
……少し、キョトンとしてしまった。
彼は知らないことだけど、
「いいけど、そっちはもう殺し損ねるとかナシで」
「わかっている」
死んだ人間が蘇ってくるとかマジ勘弁。
そこだけは覆らない法則なんだからさ。大人しく死んどけよゾルフ・J・キンブリー。
「私たちも行こうか。君、負傷兵の管理を頼めるか。私とヴァルネラは少し外で戦ってくるから──」
「誰も中に入れるな、患者の頬は一度抓ってエンヴィーかどうか確認しろ、運んできた奴もそうだ、ですよね?」
「ああ、頼むよ」
……なんかホントにエンヴィーの確認方法が……いや、なんでもない。
エンヴィーが食事するだけで賢者の石回復するような奴に……は、なってるな。いやいや。
で、である。
「大口叩いたものの、そもそもスロウスが俺を狙ってくれないといけないんだよな」
背後の壁。氷壁にとっかかりを錬成しながら登る
そこへ行かせないように、すべてを俺が止める、と。
「──珍しいですね、緑礬の錬金術師ヴァルネラ。貴方が前線に出てくるとは思いません、」
「うるせぇお前はお呼びじゃねーんだわ」
またアルミニウムの粉をかけて燃焼させる。
いっちょ前に瞼らしきものをしかめているプライドに、更なる試練が襲い掛かる。
カッ、と。
遠くの方で莫大な光が上がり──プライドの身体が潮の引くように消えていくではないか。
「……要らぬ助言を!」
「お前の相手は後で、だ」
「く、そ……!」
ジュッと消えるプライド。
その瞬間、ブリッグズの巨壁が右方で大きな爆発が起きる。恐らくアームストロング少将とキンブリーが衝突したのだろう。あとは彼らが武僧の閃光弾祭りが尽きる前に奴を仕留めて、その医者とやらも仕留めてくれるのを願うばかりだ。
「──チビの錬金術師、ころす」
「ほう! プライド、そりゃいい置き土産だ!」
スロウスの行動を操っていたのは恐らくプライドで、そのプライドが消え際にスロウスに耳打ちしたんだろう。
一番の邪魔者は不老不死のヒーラーだ、つってな。
左腕を前に突き出す。
瞬間、半身持ってかれた。
──流石に生体錬成で誤魔化せる量じゃないので、フツーに再生する。
そんでもって、緑礬発動。
「……あ? うで……かた……消え……?」
「生体を緑礬化できないなんて俺言ったかよって」
ドン、と。
上半身が全て持っていかれる。
「消えても……べつに……いいか。めんどくせー……考えんの……」
「──同意見だ」
下半身が潰される。
再生するのはさっき持っていかれてブリッグズの巨壁にすりつぶされるように付着した上半身。
コイツの体当たりは疑似・真理の扉と違って消滅するわけじゃないからな。
相性は最悪さ。
まぁ
「えー……治んの……か」
「あぁ、不老不死なんで」
「めんどくせぇ……」
すり潰される。
再生したそばから、何回も何回も巨壁に打ち付けられて、ぐしゃぐしゃにされる。
ならば今度は下半身からだ。
氷壁にぶち当たった下半身から──再生したのを、踏みつぶされた。そのまま地団太を踏むようにしてぐしゃぐしゃにされる。
ぐじゅる、ぐじゅり。
「あっはっは、面倒くさいだろう。不老不死はな、相手にすると面倒くさいんだ」
「……めんどくせぇ。他ころす……」
「あぁだが残念、お前さんの足は緑礬に成っちまってて脆いんだわ」
崩れ落ちるスロウス。
俺の血にそんな迂闊に触れちゃぁなあ。
……しかし、遅いな。
キンブリーまだ倒せないのか? 俺の体内錬成陣ももうそろ尽きるぞ。面制圧に弱いな俺こう考えると。
「めんどく、せぇ……もういいや……めんどくせぇし、プライド……いねぇし。ちょっとやすむ……」
「──!!」
再生する。
死体から衣服を錬成し──驚きを送る。
寝転がって、動く気を見せなくなったスロウスに。
「お前……もしかして不老不死の医者と対峙したことあんのか?」
「……うるせぇ。ねみぃ……」
「正解だよ。不老不死の医者で、攻撃方法がカウンターしかない奴とタイマンするときにどういう立ち回りすればいいかって、そりゃそうやって寝っ転がるのが一番だ。お前さんの身体に俺は攻撃を通せず、だがお前さんがいつ動くかわからんから俺もこっから離れるわけには行かない。なんだスロウスお前、頭脳タイプだったのか?」
「うるせぇ……寝るから……しずかにしろ……」
「え、何? お前静かじゃないと寝れないタイプ? あぁそっか、今までずっと地下で寝て掘って寝てだったもんな。こんなうるさいとこ初めてか。そいじゃま残念だけど、もう少し踊ってもらうわ」
「うる、へぇ……?」
うるさい、と。
口を開いたスロウスの口に、腕を突っ込む。
そんでそれを上顎側に──ぼきっと。
発動する緑礬。再生する腕。
ハハハハ、カウンターしかできない俺だけどな、こういう戦い方はできんのサ!
「──錬金術師!! 射線開けろ──!!」
「ん? ああいいよ、勝手に避けるから撃て。好きに撃て」
「りょーぉかい! ってぇ!!」
俺が確認した限り、全機潰されていたはずの戦車。それが一機出てきて、その砲塔から砲弾を発射する。
狙いは正確だ。
俺の緑礬が侵食した顔面に突き刺さる砲弾。物凄く仰け反るスロウス。
「ブリッグズ兵、どうしたよその戦車!」
「壊れたのバラして使えるパーツ取り出して組み立てたんだよ! いつ暴発するかわからん! 暴発したら俺達を治してくれ!」
「はは、りょーかい!」
おいおい、原作崩壊もいい所だがな──コレ、いけるなぁ。
「なぁオイ
「あぁ……? ……めんどくせぇ……考えるの、も……」
二発目の砲弾は腹にぶっ刺さる──が、止まる。
単純威力じゃコイツは貫けない。
「お前からさ、何かしたいとか、言ったことあるか? 寝たい、休みたい、やりたくない──なんでもいい。プライド相手じゃねぇぞ、フラスコの中の小人相手にだ!」
「……うるせぇ……思い出すのも……だりぃ、だりぃ……」
「ないだろ。だって言えば」
「うるせぇ……お前の声……頭の奥の……その奥に響いて……うる、せぇ……」
響くだろう。
反響するだろう。
何もない空間。扉さえもない空間。白い、白い、けれど──狭い空間。
そこがお前たちの最期だ。
なぁ、
「ってぇ!!」
俺に構わず撃てと言ったのに、俺を避けて通る砲弾の射線上に自ら入る。
自ら入り、身体をぐちゃぐちゃにされながら──スロウスに着弾する。
「ぁあ……?」
「お前が怖いのは、喪失だ。分断だ。ダルくとも繋がりがあり、面倒くさくとも家族がいる。お前の怠惰は愛情であり、お前の美徳はその行動力であり──」
「うるせぇ……離れろ……」
「お前が求むるは、安心だ。
「……もう……めんどくせぇって……」
スロウスは俺の首を掴み、べきべきと剥がしていく。
だからまぁ、魚の骨を取るみたいに。
──そんな時だ。
ふと、影が差した。まだ昼間だというのに、空を何かが覆ったのだ。
「あ……?」
「流石だな。寸分違わず。性格出てるよ」
光。
光が落ちる。
集約せんとしていた光はしかし途中で止まり──だからこそ、円を描く。
ブリッグズ上空にできた氷のレンズだ。
「お……ぁ……?」
「っ、これは……やっべぇ!」
「なんだこれは!」
円に六角形を刻んだだけの錬成陣。
六角形。それもヘキサグラムではなくヘキサゴンの方だ。六芒星だったら地水火風の意味合いを拾えたんだけど、単なる六角形だと拾える意味が限られてくる。
どろり、と。
目に見える範囲で──氷壁が。
否──雪という雪が全て──解けていく。水になっていく。
その量、大量。
ブリッグズ山の表面にあった雪も、ブリッグズの巨壁周辺にあった雪も、氷壁も、すべてが全て水になる。
六角形。
それは「戻す」というただそれだけの記号。本来は錬成陣の各所に散りばめたり、他の構築式と共に使うものだけど──今回は緊急だったし、これでここまでの結果出せるのが
さて、起きるのは大洪水である。
どちらにも、だ。
ブリッグズ山の中腹から中腹へかかるようにして建てられている巨壁。それを覆っていた氷壁と雪が解けたのだから──アメストリス側へは、スロウスが来た方向へ。そしてドラクマ側にも突然の大洪水が。
兵は流され銃器は湿気って、何よりその場所は血の紋じゃない!
「う……ぉ……流され……」
「さぁ問題だ、お前はこのまま元々掘っていた穴の中へ帰る。大量の水と共にな。そうなるとどうなると思う?」
「……しらねぇ」
離脱する。
濁流はスロウスの身体を押し流し、綺麗に穴へとホールインワン。勿論閃光弾を使ってプライドを牽制していた武僧も退避している。
「う……つめて……」
急ぎだ。
だから自分の血を使って、腕や足、腹などの出来る限りの場所に緑礬の錬金術を描いていく。
そんでまた穴に入ってーっと。
「穴……そうだ……ほら、ねぇ……と」
「ああ大丈夫、俺が掘ってやるよ、スロウス。疲れただろ?」
「……なんだ……じゃあ……俺は、もう……いらねえのか……」
「ああ、お前はもう要らない。だから安心して──」
混合燃料程の速度ではないが、確実に凍っていくスロウス。
もう掘らなくていいと、座り込み、凍り付くことを気にも留めないスロウス。
超高速で迫る影の刃が、俺をズタズタに切り裂いて──穴の入り口で閃光弾が破裂する。
たとえどんなことがあろうと、影の刃が見えたら閃光弾を放つ。武僧が言い含められていたこと。
俺が中にいようと、だ。
「せめて一緒に散ってやるよ」
「──嘘……指摘すんのも、めんどうくせえ」
「あっはっは、バレた?」
結晶化していく。
凍り付いた俺とスロウスが、緑礬になっていく。そうして、そのままサラサラと、サラサラと。
「あぁ……まぁ……どうでも……いい、か……」
黒と緑と黄色は、風に吹かれて消えた。
作戦会議室。
「当然のように生きているか、貴様。穴の底で化け物と心中したと聞いていたが?」
「まだ代価を返し終わってないのに死ぬわけないじゃん。元から死なないし」
「そうか。それで、報告をしろ」
「スロウスは死んだよ。プライドはしばらく来られないはず。氷の壁が塞いでるのもそうだけど、アイツがもっと嫌がるモンを置いてきた」
「……そうか」
「キンブリーは?」
「殺した──はずなのだがな。首を斬れども、心臓を突けども、ダメだ。必ず復活する。錬金術師、聞くが──」
「死者蘇生はあり得ないよ。だから少将、アンタが殺したのはエンヴィーなんじゃ」
「だが奴は紅蓮の錬金術を使ってきた。爆破だ」
「えー」
……えー?
まさか俺みたいに? あっはっは、そりゃないんだけども。
つーか俺みたいにならずとも、本当に不死性を獲得したんなら一旦下がったりせず一生そこにいるだろ。だからなんかタネはある。
「賢者の石を持った医者ってのは?」
「殺せはしなかったが、部下が人相を見たのでな。書かせた」
そこに書かれていた顔は。
「……あー、ティム・マルコーか」
「知り合いか?」
「うんにゃ。ただまぁ、イシュヴァール戦役に参加した国家錬金術師だよ。それも、イシュヴァール人を使って人体実験をするために来たタイプの」
ピシ、と空気が割れる。
「……火に油を注ぐ才能に恵まれているな。……とにかく、恥じ入るべきことに、我らはその二人を逃した。殺した回数は34回。斬首14回、両断12回、心臓を突き刺し、貫いて体外にまで出したのが8回だ」
「それでも死ななかった、と」
「ああ」
うーん。
何かタネがあるのは間違いないだろうけど、ちょいとわからんな。
ティム・マルコーがずっと一緒にいるのが何かのトリックなんだろうけど……。賢者の石ありきでも、そこまでの頻度を五体満足で、となると、俺みたいに移植とか必要になってくる。
が、流石にそりゃできんはずだから……ふむ。
「エンヴィーは?」
「知らん。紅蓮の錬金術師の身代わりになって出てくるかと思ったが、そういうことは無かった。お前が察知できるのではなかったか?」
「こっちにも引っかかってないよ。……逃げた、と見るのが一番かね」
「他人に成り代わることのできる
「あー。斬りかかって死んだら仲間。死ななかったらエンヴィーってのはどう?」
「よし、それで行こう」
「待て待て待て待て待て!!」
ブリッグズ兵から総ツッコミを受ける。
ははーん。
「さてはお前ら、誰かがエンヴィーだな」
「ちげーよ!」
「お前わかるんだろ!?」
「あぁホントだ、違う」
でも。
「実際コレが一番良い方法なんだわ。前も言った通り、技量はないからさ、アイツ。強さはあるけど。だから斬りかかって受け止められて、どっちも技量を確かめて高かったら本物、くらいにするしかないよ」
「よし、それで行くぞ」
「……これだから脳筋共は、ぁ」
……うん、何もなかった。
「ドラクマは?」
「殲滅した。血の紋なる場所とは違う場所でな」
「ん、おっけー。こっちの損害は?」
「ブリッグズ兵は40人は死んだな。武僧はどうだ?」
「こっちは2人だ。
「プライド以外は弱いのが揃った方だよ。突進オンリーのスロウスと変身できるだけのエンヴィー。プライドはフツーに最強クラスだからアイツ単体で見たら善戦したほうだけど、前者二人相手にこの連合軍でこの結果は惨敗だね」
原作じゃ最終的にカーティス夫妻の助けがあったとはいえ、ほとんどアームストロング家の二人で殺し切ったようなものだ。
それを死者40人って。
つーか武僧は1人でブリッグズ兵20人分なのね。つっよ。そんな単純計算じゃないのはわかってるけどさ。
「──そろそろ良いだろう、ヴァルネラ」
「ん?」
「私と君は約定を交わしている。そしてここブリッグズは君のものになったと聞く」
「おん」
「ならば、話してくれ。私たちが殺すべき敵。それがどこにいるか。──もうこの場に、君を裏切る者はいない。違うか?」
あー。
これも……慎重に言葉選ばないとダメな奴だ。
考えろー。KYは治せる。うん。
「まず、初めに言うと、別に裏切りを恐れて話さなかったわけじゃない」
「……では何故? 何故途中までしか話してくれなかった?」
「意味が無いからだ」
「……」
「黒幕の名を口にし、どこにいるかを話していたら──
「……否定は、しない」
「だから言わなかった」
……まぁ、理由はもう一つあるんだが。
この集団であっても、万全状態のブラッドレイに勝てる気がしない──って至極単純な理由が。
「つまり、私たちを信用できなかった。そういうことだね」
「そうだな。逆にあるか? お前らを俺がそこまで信頼する理由」
「君が逃がした相手だから……は、通じないか」
「通じねえよ。むしろ逃がした相手がテロリストになってるなんて誤算もいい所だろ」
「──だが、君は私を名指しで逃がした。私を希望だと称して。それは何故だ」
うーん。
わからん。ここで答えに詰まるよりは、素直に言った方が良い気がする。
「要否だ」
「必要だと判断したから、か」
「ああ。実際に必要だっただろう。お前の頭脳は凡そアメストリス全土、いや世界全てをしても敵う者のいない稀有なものだ。判断材料さえ揃えばすべての解を導き出せる頭脳。それが殺されんとしているのをどうして止めない」
「……そこまで褒められると面映ゆいが、どうしてそこまで私を買っている? 君と出会ったことは無かったはずだ」
まぁそこに辿り着くわな。
そんで、その答えは簡単だ。
「俺には未来が見える」
ザンッ、と。
右腕が斬られる。
斬ったのはアームストロング少将。
「──見えていないようだが」
「見えてるよ」
ぐじゅりと再生させる。
それが生体錬成によるものでないことはもうわかるだろう。何しろ、アームストロング少将の右手にはまだ、10歳少年の右腕が掴まれているのだから。
「取るに足らない攻撃は避ける必要ないだろ?」
「ほう。我が剣が取るに足らないか。流石はブリッグズの所有者、発言の格が違う」
「そうだけど。所有物のクセに所有者を疑うとか、もしかして不良品?」
「……フン、くだらん煽りあいに興味は無い。続けろ」
そっちが始めたんじゃーん、とか言うとブラッドレイの二の舞になる。
ヴァルネラ、おぼえた!
「それじゃ、まぁ、計画の全容を話そうか。本当に大事な部分は教えないけどね」
「──良いだろう。そこはこちらで考える。以降も君に協力するかどうかを含めて、だ」
さぁて、フラスコの中の小人。
血の紋を刻めなかったどころか、円も途中で終わってしまったけれど──どう出る?
俺の知らないことをしてくれるんだろう。イーストシティの件とか、キンブリーの件とか。
それとも、もっと。もっとか?
もっと──思いもよらないような……俺が錬金術になることだ、くらいの予想外を。