緑礬の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第22話 強欲の慟哭

 セントラルへ近づくにつれ、ゾンビも増えてきた。

 増えてきた──けど。

 

「……」

「長閑だな」

「……ああ」

 

 戦闘のせの字もない。争いのあの字もない。

 ゾンビと人間のカップル、ゾンビと人間の親子。人間と人間の子がゾンビ──というように、それらがあまりにも自然に社会になじんでいて、さらには襲っても来ない。

 また、時たま俺の姿を見たゾンビが「ヴァルネラ様?」とか「ヴァルネラ医師、本当にありがとうございます!」とか言ってくるものだから……別にどうとも感じないんだけど。

 

「死者に好かれるようなことでもしたか?」

「さぁね。瀕死者は治したら放置だったけど、死者はある程度弔ってきたからとかじゃない?」

「……成程」

 

 そのまま刺青の男(スカー)と共にセントラルへ入って──そのゾンビの多さにげんなりしながら、家に戻って。

 

「……誰もいないのは流石に珍しいな」

「なんだ、家族でもいるのか?」

「いや……居候がいっぱいいたんだけど」

 

 グリード一行、ヤオ家面々。グラトニーのオブジェもないし、かといって何か物が壊されているということもない。連れ去られたとかではない……のかな?

 

刺青の男(スカー)兄との無線は?」

「繋がらん。妨害されているな」

「そこはそうなのか」

 

 通信妨害自体は起きている。

 とすれば、まぁ、悪意ある何かが跋扈しているのは間違いない。

 

「何をしている」

「ん、何って?」

「何故くつろいでいるのかと聞いている」

「いやだって、ここ俺の家だし」

「……居候とやらを探しには行かないのか?」

「必要ないでしょ。死んでたら死んでた、じゃない? 俺に何かできることある?」

「……そうか。俺は兄者を探しに行く」

「おう。じゃあな」

 

 別に。

 ウチの居候に要否の要たる人間はいなかった。辛うじてメイ・チャンくらいか? 流れの感知器として。

 もしデビルズネストの面々が死んでいても、グリードがどーなっていても、リン・ヤオがどうなっていても、グリリンになっていても。

 

 まぁ、別に。

 そこまで気にすることじゃない。

 

 俺がセントラルへこうも急いで帰ってきた理由は、あくまでセントラルで混乱が……ブリッグズで起きていたような争いが起きていないか心配したためだ。それによってロイ・マスタングやエルリック兄弟がどうにかなったらヤバかったから。

 けど、こんなにも平和で、なんなら出ていく前よりも活気づいているというのなら、じゃあいいじゃん、となっている。街が賑やかなことに目くじらを立てるほど俺心狭くないからさ。まぁ流れが止まったゾンビがうようよいるのはちょっと慣れないけど、次第に慣れて行けばいい。

 

 時間は腐るほどある。ゾンビだけにってな!

 

 ……。

 俺"氷結"の錬金術師なれるかもしれない。

 

「ヴァルネラ医師……帰られたのですね?」

「おん?」

「すみません、予約もとらずに……」

 

 もうゆったーりしてたところに、一人の軍人がやってきた。

 ゾンビだ。が、特に襲ってきたりしない。フツーに家に入ってきて、フツーに俺の前に来て。

 あ、俺鍵かけない派だから入ってくるのは全然良いからね。

 

「すみません、腕、取れてしまって……くっつけてくださいませんか?」

 

 だけどそんな治療を頼まれるとは思っていなかったなぁ、って。

 

 

** + **

 

 

「え、大佐戻ってきてねぇの?」

「ええ……。大佐だけじゃないわ。ハボック大尉、ブレダ少尉も行方不明のままよ」

「……そんなに」

 

 エルリック兄弟とホーエンハイムがセントラルに到着してすぐのことだ。

 どうみても人の多いセントラルに辟易しながら、少しでも情報を、と考えてマスタングへ電話をつないでもらおうとしていた──そんな時。

 エドワード君、と。自動車のウィンドウが開いて、中からオフモードのリザ・ホークアイが話しかけてきた。そして「ここは人が多すぎるから、乗って」なんていう彼女に三人でついて行って──辿り着いたのは、破壊痕の新しい郊外の空き家。

 そこにはヒューズ中佐、ファルマン准尉、フュリー曹長が。

 主にフュリー曹長のおかげで通信傍受と監視体制の整ったほぼほぼ軍施設のような内装になっているこの空き家で、一週間。

 ロイ・マスタングの帰還を待っている、と。

 

「……なんで中央から出てきたんだ?」

「大佐が出て行ってすぐのことよ。一人の将校が私たちを訪ねてきたの。レイブン中将、と言ってわかるかしら」

「あー……わかるような、わからないような。で、その中将がなんて言ってきたんだ?」

「──"永遠の命に興味は無いか、君達"と」

「うわ胡散臭ぇー……」

 

 永遠の命。

 それと、現状。繋がらないはずもない。

 

「大佐の言葉もあったから、私たちはそれを断った。そうしたら、レイブン中将は少しだけ雰囲気を変えて、"そうか"とだけ言って去って──そのすぐあと、私たちは何者かに襲われた」

「何者か?」

「深緑色のローブを纏う何者か、よ。急所に何発か当てたけれど、倒れなかった。……恐らくは」

「やっぱり、ゾンビか」

「ええ、多分」

 

 人を襲うゾンビ。

 というよりは、完全に使役されているように聞こえる。軍用犬のようなものだとすれば厄介だ。統率の取れた死なない人間の軍隊など──誰も倒せやしない。

 

「オレ達は、そのゾンビを生み出してんだろう奴をぶっ飛ばしにきたんだ」

「それが誰かわかるの?」

「……ああ。わかる」

 

 エドワードはホーエンハイムを見る。

 先ほどから顔色一つ変えず、フュリーの作った傍受設備で何かを聞いている彼。

 

「ソイツが全部の元凶だ。だからソイツをぶっ飛ばしちまえば」

「ゾンビは、消える?」

「……う」

 

 それは、考えていたことではあった。

 フラスコの中の小人を放置しておけば無限にゾンビが作られる。故に黒幕たるソイツを止めるべきだ。この考えにこそ賛意したエドワードだったけれど、ではその後は、を考えると──胸が苦しくなる。

 一人一人殺していくべきか。

 それとも何か──勝手に死ぬのか。

 

 どちらにせよ、アメストリスの人々の心には深い傷が残ることだろう。

 死者との別れを二度も、なんて。

 

「いえ、ごめんなさい。これ以上増えないだけでもありがたいわ。ただ、私達としては」

「ああ、大佐だろ。ったくあのバカ大佐、何してんだか」

 

 ロイ・マスタング。

 彼は火力だ。彼の扱う錬金術の話ではない。否その話ではあるけれど、そういう話ではない。

 

 エルリック兄弟に無い殲滅力。それは焔の錬金術師でこそ。

 もし、ゾンビが物量でせめて来た時、エドワード達だけでは時間を食い過ぎる。その点ロイの焔なら──。

 

「……なぁ中尉」

「"大佐はゾンビを焼けるのか"、かしら」

「……。ああ。大佐も、中尉も……イシュヴァールでトラウマ持ってるんだろ。……どうなんだ」

「私は問題ないわ。相手がイシュヴァール人でもアメストリス人でも人造人間(ホムンクルス)でも撃ち抜ける。敵なら、ね。……極々一部の相手にだけはまだ拒否反応が出るけれど」

「そっか」

「そしてそれは大佐も同じだと思うわ。でも、やっぱり私も大佐も、敵なら、という言葉が鍵となる。……アメストリス人の、こちらを襲う素振りもない──過去に死んだ味方を撃て、というのは」

 

 それがどれほど酷な話か。

 

「エドワード。ちょいと口を挟むが、良いか?」

「ん、ああ。いいけど」

 

 エドワードとリザが話しているそこに割って入って来たのはヒューズだ。

 苦い顔をしたヒューズ。

 

「正直な、俺もロイも中尉も、つか准尉も曹長も軍人だ。──敵じゃなくとも、害になるなら撃つ。そうしねぇと自分たちの家族が危うくなるんだ。躊躇するつもりはねぇ。だが」

 

 ヒューズが見るのは、エドワードとアルフォンスだ。

 

「お前ら、そうじゃねえだろ」

「……どういう」

「どういうこと、じゃねえよ。お前ら軍人じゃねえだろ。……お前ら黒幕とかいう奴のところにいくつもりなんだろ? でも絶対道中にゾンビの集団がいるはずだ。道を塞いでる。……ゾンビの奴らは見た目じゃ見分けがつかねえ。お前らそれを殺していくんだ。わかってんのか?」

「ああ、わかって」

「わかってねえだろ。喋らない奴だけじゃねえぞ。普通に、昔話をしながら銃を向けてくるやつもいる。世間話とか、挨拶とか。本人はまるでなんでもねぇことしてるかのように振舞わされて、けど襲ってくるって奴もいんだよ。──殺せるのか、そういうのを」

 

 そう言う、ということは、それに遭遇した、ということでもあり。

 エドワードがリザに、ファルマンに、フュリーに目を向ければ──彼ら彼女らは揃って目を逸らす。

 

 ホーエンハイムは。

 

「当然、あるだろうな。その方が殺しづらい。──無いとは思うが、俺もトリシャが出てきたら、手を止める自信がある。……他の……セントラルの人間は、知り合いなんてほとんどいないから、どうとでもなるが」

「母さんが……」

「肉体をどうにか再構築し、彼女の魂を誰かが繋ぎ止めていたらあり得ない話じゃないんだ。……俺はあり得ないと信じているが、もしこの計画がもっともっと昔から進められていたら──あるいは」

 

 それを、殺せるのか。

 

 兄弟の脳裏に浮かぶ母の笑顔。

 苦しそうで、けれど愛情を感じられる彼女の顔。

 

「何が言いたいんだよ……ホーエンハイム。ヒューズ中佐も」

「降りろ、と言っている。やっぱりお前には無理だよ、エドワード。お前は……覚悟が足りない。割り切れていないんだろう? ゾンビと人を。人間というものの境界線がまだちゃんと引けてないんだ。こういう、つらくて苦しいことは、大人や軍人に任せて……」

「ただ、見てろっていうのか……?」

「見ているのはつらい。待っているのはつらいさ。俺も……後方支援だったからな。よくわかる。だがよ、エド。殺すのはもっとつらいぞ。お前さん、人間殺したことねぇだろ。──相手は人間の形をしているんだ。殺せるのか?」

「……っ!」

 

 人間を殺す。

 ああ、そうだ。それはまだ経験したことが無い。エルリック兄弟は、人の命を奪ったことが無い。

 あの母親ではないナニカでさえ、違ったのだ。中に入っていたのはアルフォンスだった。だから誰も、誰の命も奪っていない。

 奪ったとするのならば──彼らが暴き、彼らが白日の下に真実を晒したレト教の。

 

「ヒューズさん。父さん。……はっきり言ってください」

「……」

「戦場で、あるいは敵の前で……迷ってしまうかもしれない僕たちは、()()()()()

()()。邪魔で、足手纏いだ。戦場に居たら最悪の部類のな」

 

 言い淀むことなく言う。

 ヒューズは、まっすぐに言う。

 

「……言っときますけど、アンタもですよ。ホーエンハイムさん、っつったか」

「俺も?」

「そのトリシャって人が出てきたら躊躇するんでしょう。つーか、そもそも軍人じゃねえんだ、アンタだって」

「……俺は、化け物だからな。常識は通じない」

「化け物?」

「俺はヴァルネラと同郷だ、と言えば伝わるかな、軍人さん」

「!」

 

 そういえば、と。 

 ヒューズも、ホークアイも彼を見る。彼の特徴を見る。

 金髪金眼。そしてその遺伝子はエドワードにも引き継がれていて。

 

「……アンタも、あの医者先生ばりにとんでもねぇってか」

「ああ、そうだ。だから戦える」

 

 ホーエンハイムはエルリック兄弟を見る。

 

「すまないな」

「!」

「あのままリオールにいたら、お前たちは耐えきれなくなっていたと思った。だから連れてきた。だが、セントラルがこの状況なら……リオールの方が、まだマシだったかもしれないな」

「……そんな」

「すまない。やはり俺は、子供の心がわからないらしい。……すまないが、軍人さんたち。こいつらを頼んでもいいかな」

「一人で行く気ってか」

「君たちはその大佐という人を待たなくてはならないんだろう? でも俺にはその人を待つ理由がない。だから、その待っている間だけでいいから、こいつらを頼むよ。俺がいなくなったら、また意地張って危ないことしそうだからさ」

 

 力なく微笑むホーエンハイム。

 

 その顔に、その声色に、今更子ども扱いするな、と声に出そうとして、けれど出なかった。

 エドワードは。

 声が出せない。何か別のものがつっかえていて、「さて、そろそろ行くか」なんて言いながら出ていく彼を止められない。

 

 ──そうでないアルフォンスでさえ、同じだった。

 

「それじゃ」

「……ええ、責任を持ってお子さんをお預かりしますよ」

「ああ、あんた達なら安心できる」

 

 そうして、空き家から、一人が減った。

 

 

** + **

 

 

 セントラル市内は地下水道。

 そこを歩く輩……もといグリード一行。

 

 ゾンビよりも合成獣(キメラ)……人間と、ではなく動物と動物を掛け合わせたものが多く放たれているそこを無双しながら通っていく彼らの前に、一つの人影が現れた。

 

「グリードさん!」

「あん? ……おお、ビドーじゃねえか。なんだ、ウルチ達もセントラルに入ったのか?」

「ええ、外があんなになっちまってやすから、セントラルに逃げ込んだんですけど……セントラルもこのありさまで」

 

 そう、デビルズネストで斥候役を務めていたトカゲの合成獣(キメラ)ビドーである。

 そもそもデビルズネストの面々はそれぞれの特性ごとにいくつかの班に分かれて活動していて、ビドー含むウルチなどの爬虫類合成獣(キメラ)は南部での情報収集に努めていたはず。

 グリードが出す合図に従って合流するという予定ではあったが──我慢できなかった、という者も多いのだろう。

 

「ぐ、グリードさン!」

「ああわかってるわかってる。だがちょいと待ってな」

 

 焦った声でグリードに声をかけるのはメイ・チャン。

 だけど、その内容を言わせない内にグリードが彼女の言葉を遮った。

 

「他の奴らも地下に?」

「ええ、オレ達にゃこういうじめっとしたところが住みやすいですからね」

「だが、危ねぇだろ。こんだけ凶暴な合成獣(キメラ)がいちゃよ」

「いえまぁ、いい感じの小部屋がありまして。水路点検用のものだとは思うんですがね、長年使われてなかったらしいそれをアジトに改造したんでさぁ」

「中々やるじゃねえか」

「いえ、いえ、それほどでもないですよ、へへ」

 

 だから、ついてきてください、と。

 アジトに。

 そう案内するビドーに──彼らも、彼女らも、何も言わない。

 一人だけあわあわしているメイ・チャンも、ロアが担いで連れて行く。

 

 ビドーに案内される方向へ向かえば向かうほど、合成獣(キメラ)が少なくなっていく。住みやすい場所を探した、というのは本当らしい。じめじめした空気は、マーテルにとっても馴染み深いものだ。

 

 ──ああ、けれど。

 

「ここか」

「はい、ここでさぁ」

 

 確かに、点検用と見られる小部屋。マンホールのすぐ近くにあって、錠前もついている。

 

 その前でビドーは立ち止まった。

 

「──どうかしたか、ビドー」

「……ホントは、怖いとは、言っておきます。オレだって……オレ達だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──また死ぬなんて、怖いって、それだけは、それだけは、言っておきます」

「おう」

「へへ、へへへ……でも、オレ達は──仲間ですから。ね。だから。だから──」

「わかってるよ、ビドー」

 

 ビドーの身体が──より、トカゲに近くなる。

 普段からトカゲ寄りであるから滅多にしない、トカゲ的特徴の顕著化。

 

「怖いです。怖いです、グリードさん。──でもオレ、──アンタの仲間じゃなくなる方が、もっと怖えーみたいで」

 

 彼は、にこり、と笑って。

 ──グリードにとびかかる。その爪は鋭く、その牙は小さくとも凶暴で、そして素早くしなやかな体は。

 

「わかってるよ」

 

 "最強の盾"によって、屠られる。

 血はもうほとんど吹き出ない。体は元からボロボロに近かった。

 ()()なった時の損壊具合が酷かったのだろう、そしてロクに治されもせず、実験体として蘇らせられ──放逐された。あるいは逃げ出したのか。

 

「グリード、さん。もっとだ。もっと、バラバラに、してくれ」

「……これでもダメか」

「へへ、ああ、ダメだ。オレは……へへ、アンタの仲間でいたい。アンタを敵と思いたくない。うるさいんだ。ずっと頭の中で、うるさいんだ。永遠の命だの、ずるいだの、ストックだの、わからねえ、ずっとずっとうるさいんだ。──頭じゃない。もっと胸の、首の根元。そのあたりだ。頼むよ、頼むよグリードさ、」

 

 ザク、と。

 的確に、彼が貫き砕いたのは──鉄の板。

 BIDOの文字が刻まれたそれごと"最強の盾"は砕いた。砕き割った。

 

 それが最後。

 もう、彼の声はしなくなって。

 そして彼の身体の中から、ちゃりん、と。

 

 鍵が一本落ちた。飲み込んでいたのだろう。

 誰にも──グリード以外には開けさせないように。

 

 鍵は、小部屋の錠前と合致し。

 開いたそこには──。

 

「……嬢ちゃん。全員か?」

「……はいでス。全員、流れがありませン」

「そうか。……そうかよ」

 

 少し前、しおらしい、と言われた。

 グリードは自ら「何かあった」と答えた。

 

 あったのだ。

 グリードが流した「合図」。──それに応えたデビルズネストの面々は、ゼロだった。

 

「……グリードさん。つらいなら俺がやりましょうか」

「がっはっは、なんだドルチェット。いっちょまえに俺を気遣ってんのかよ」

「気遣いますよ。……アンタは俺達を、仲間を大事にしてくれる。アンタが化け物かどうかなんて関係ない。アンタが俺達を大事に思ってくれてんだから、俺達だってアンタを大事に思う。そんなアンタが……つらそうな顔してたら、その代わりになってやりてぇって思いますよ」

「……」

 

 小部屋の中。

 そこには、手錠や鎖、あらゆるもので拘束された爬虫類の合成獣(キメラ)達がいた。デビルズネストの面々だ。

 皆涎を垂らし、皆自傷をものともせずに暴れ──皆、入って来たグリードを見て。

 

「グリードさん……はは、あはは、グリードさん。グリードさんだぁ……ほら、グリードさん! オレ達も、アンタと同じだ、同じ、永遠の命になれましたよ! グリードさん──グリードさん、だから、だから、だからさぁ!」

 

 ごりゅ、と。

 首が取れる。転がり、グリードの足元まで来たのはウルチの首。

 でもそんなものは気にしないとばかりに、首の取れたウルチの体が叫びたてる。

 

「だから──アンタずりぃよ。アンタもさぁ、マーテルも、ロアもドルチェットも、あぁ!? なんでお前ら生きてんだよ。おい、なぁ、お前らなんで死んでねえんだ……生き返った方が得だぜ、なぁ、オイ!」

「永遠の命だ──永遠の命! 死なねえ、死ぬことはねえ! 何も飲まずとも、食わずとも、死なねえ便利な体だ! ひゃひゃ、腕が取れても指が折れても痛くも痒くもねえ!」

「最高だ──最高だよ、グリードさん。アンタずっとそんな最高の気分味わってたんだなぁ。──なぁ、こっち来いよ、三人とも。グリードさんもだ。アンタのそれ、永遠じゃないんだろ? 尽きる果てがあるんだろ? なぁ、なぁ! ……死んで、楽になろうぜ。この身体は──楽だぞ、ずっと」

 

 泣いているのか、怒っているのか。

 狂っているのは間違いなくとも、何か、何かを伝えようとしている。彼らは、だから、"仲間"は。

 

「嬢ちゃん。一つ、聞きてえ」

「はイ」

「全員、胸んトコか? ビドーとおんなじ、首の根元」

「恐らくそうでス。他の部位には流れがないのニ、そこだけ源泉のようナ何かがありまス」

「ありがとうよ。それだけわかりゃ十分だ」

 

 グリードは硬化する。爪だけじゃない、全身だ。

 醜男になるからと嫌っていた全身硬化。そして彼の隣で、ドルチェットが刀を、ロアがハンマーを構えた。マーテルまでもが、金槌のようなものを掲げている。

 

「あん? なんだ、お前ら。俺は代われ、なんて言ってねぇぞ」

「仲間を想う気持ちは一緒だ、グリードさん」

「うむ」

「ええ」

 

 "仲間"。

 グリードが永遠の命と天秤にかけたもの。

 

 ああ、ならば。

 

「がっはっは──ああ、変わっちまっても、変わり果てちまっても──仲間だと思ってるぜ、俺は!」

「俺らだって!」

 

 屠る。

 殺す。

 殺されたのだろう、その痕跡がある。それを覆い隠すように鏖殺する。鉄板も含め、すべてを切り裂き全てを潰す。

 

「恨むぜ、親父殿──俺様のモンに手ェ出したんだ。ぶっ殺される覚悟はできてんだろうなぁ、ァア!?」

 

 その力熱(ねつ)は。

 

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