緑礬の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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第23話 持碁の鯨幕

 治せって言われたから消滅させたら、行方不明者の最期の目撃情報だのなんだので憲兵に事情聴取された次の日のことである。

 というか、なんならその夜のこと。

 ──長蛇の列、という言葉は知っていても、見て実感するのは初めてだった。って程に長い列が俺の家の前にずらーり。

 

 ダルいので逃げるよねそりゃ。

 

 聞けば「ヴァルネラ医師」、「ヴァルネラ様」、「生き返らせてくれたヴァルネラ様に感謝を」とか……俺を讃える声の群れ。

 取れた腕をくっつけてくれとか、胃をまた使えるようにしてくれとか、落ちた目を作ってほしいとか。

 知らん知らん。"生体錬成の権威"って呼ばれたのをそのままにしてたのがいけなかったのはわかったからもうやめてくれーとか思いつつ、別にやめてくれって主張するほどでもないか、とか思って家を出たのも束の間。

 

 別に俺は飲まず食わずでいいし、寝なくてもいいし、雨風を防げなくてもいいから、浮浪者になるのもアリだな、いやこの場合浮浪児か? とかどーでもいいこと考えながらアメストリスの路地裏歩いていたら、ガチ浮浪者の皆さんに襲われた。

 寄越せ寄越せ永遠の命、ズルイ、お前のなら、お前が……と、錯乱している御様子だったので建物を三角飛びに昇って放置。全員ゾンビだったけど、まぁ別にいいんじゃない? 存在していること自体は。

 

 そんな感じで、その日暮らしの屋根暮らしが始まった。

 屋根は良い──。

 誰も来ないし、空は広いし、風も強いし、雨も激しく当たるし。でもすぐ乾く日光サンサンだから。

 

 刺青の男(スカー)兄含むイシュヴァールの武僧の行方、ロイ・マスタングやマース・ヒューズの所在、ブラッドレイやプライドの所在、グリードとかヤオ家とかの居候の行方。

 なーんもわからんが、まぁいっか、って空を見上げてたら──トス、と。

 

 チョップが俺の額を捉えた。

 

「やっと見つけた……」

「……おお、ホーエンハイムじゃん。元気してたかよ」

「ふざけるのも大概に……ああ、いや。良い。お前に期待する方が馬鹿、だもんな」

「あっはっは、よくわかってるじゃねぇか」

 

 ホーエンハイムだった。

 なんだかくたびれた様子の彼は、どうやら俺を探していたようで。

 

 ただ俺の気配って氣も流れも自然物とほぼ一緒だから、探し様がなかったりする。森の中からフツーの木を一本見つけろ、みたいな。

 んでもって氣も流れも感じ取れないホーエンハイムが探すなら、フツーに高い所から見渡すしかなくって。でも俺今高い所に居て。

 

 うーん、この。

 

「セントラルにはいつ頃から?」

「昨日だよ。アイツのところに向かう前、お前に返してもらうものがあったのを思い出してな」

「……俺なんかお前から借りたっけ?」

 

 俺は等価交換を忘れない。

 借りたものは絶対返す。けど、借りた覚えが無い。

 

「トリシャの死を俺に告げてくる前。お前、相談をしてきただろう、俺に」

「おん」

「その恩返しを貰っていない」

「……ほーぉ」

 

 まぁ、確かに言った。

 そっちの錬金術はホーエンハイムの方が詳しいから、と。

 その代価は、確かに支払っていない。トリシャ・エルリックの死を告げたのはあくまでフラスコの中の小人への仕返しだし。

 

 ほう。

 借金取り立てか。

 

「何を望む?」

「一緒に来い。フラスコの中の小人を相手取るには、都合のいい"盾"が必要だ。それも、無限に再生する奴がな」

「……あの頃の純粋ホーエンハイムはどこへ行ってしまったのやら。凄惨な拷問を受けていた俺を見て見るからに動揺していたヴァン君はいなくなっちゃったのかねぇ」

「ああ、いなくなった。今の俺は父親なんだよ。──子供を守らなきゃならないんだ。四の五の言ってる暇はない」

 

 強い眼。

 へぇ、ホーエンハイム。お前そんな目できたのか。

 

 意志の硬い目だ。

 

 人間の、目。

 

「相談の代価が肉盾たぁちょいと暴利が過ぎねえ?」

「お前を解放し、自由を与えた代価が、俺とトリシャの過ごせる僅かな時間、というのは釣り合っていないだろう」

「ほーぉ。それを減らしても、だ。他者を盾に自分は安全圏にいるってのを契らせるにゃちと足りなくねえか?」

「お前、シンに初めて行った時、俺の特徴を持っているから、という理由で信用を得ただろう?」

「──へぇ、知ってんだ。いいね、あと一押しくれ。俺は今気分が良い」

 

 代価。

 俺を動かす代価。

 熱量の無い奴に、フラスコの中の小人を止めさせる──アイツのところに直接殴り込みに行かせる代価をどう継ぎ接ぐのか。

 

「ブリッグズ。お前、暴れたそうだな」

「耳が早いねぇ。どっから漏れたんだか」

「今のはカマかけだよ。やっぱりお前がアイツの作戦を妨害したんだな。だからアイツはこんな派手な手段に出た」

「……ちぇ。それで?」

「俺から奪っていったクセルクセスの人々。──アイツの国土錬成陣が発動しないのなら、奪われ損だ。──返せよ彼らを」

「……お前のためを思って持って行ってやったってのにさ。お前、結局トリシャ・エルリック救えないしよ、10年間姿くらますしよ。あっはっは、裏目も裏目だ」

 

 起き上がる。

 

「成立だ、錬金術師。お前に借りた分の代価、キッチリ働いてやる」

「じゃあ、すぐにでも行くぞ。地上が死に溢れていく様を、俺はもう見たくはない」

「おぅけぇぃ」

 

 さて。

 まーたバイトの時間だよ。今度はレンタルビデオの超過分を払う感じだけどサ。

 

 

 

 

 さて、敵はゾンビだけである。

 人間が混じっていないのは良いことだ。返す必要が無い。

 アメストリス内、数多くのゾンビを見逃していた俺だけど、それはやる気の問題であって、彼らを生命と認めたが故の等価交換不履行を恐れて、じゃない。

 

「お前、攻撃的な錬金術は使えないんじゃなかったのか?」

「あん? いやこれ医療行為だよ。戦場でさ、銃創なんてしこたま見るんだわ。それ摘出すんのに緑礬なんか使うわけねーだろ。全分解だって無駄だよ無駄。だから」

 

 斬る。

 道具は、イシュヴァール戦役時代に使っていたメス。剣だのなんだのの心得はないんでね。シンの武術も徒手空拳しか知らん。

 

「切開用のメス。これで斬れるモンなんか皮膚と筋肉のちょっとくらいだけどさ、十分だろ?」

 

 すれ違いざまに鎖骨からメスを入れて、鉄板の内側の錬成陣をクイッてやって消す。そんだけだ。

 馬鹿正直に全部の鉄板が後ろ……名前を後ろにして向いているから、錬成陣も消しやすくて消しやすくて。なんだろうね、識別番号的なアレで埋め込んだのかね。

 

「にしてもさぁ、ホーエンハイム」

「なんだ?」

「ちょいとさ、フラスコの中の小人っぽくねぇ、とは思わねえか、この状況」

「そうか? アイツは追い詰められたら効率が良くなるタイプだ。その上で雑になる」

「そーじゃなくてさ、俺の名を騙ったり、人間一人一人の名前を刻み付けたり、だよ。アイツにとって人間は下等生物だってのに、なんだ、やけに認めてねえ? 俺の名を騙れば民衆の心が掴める、安心させられる。計画が失敗しても俺のせいにできる。──でもそもそもアイツ表舞台に出てねえんだから、んな必要ないワケよ」

「……ふむ」

「んで、ネームプレート。ドッグタグでもいいけどさ。アイツが人間一人一人の名前調べると思うか? あっはっは、アイツ、エルリック兄弟がお前の息子だってことも知らないんだぜ? ファミリーネームが違うから、ってだけで。あんなわかりやすい特徴持ってんのにさ」

「じゃあなんだ。お前は、この件の黒幕がアイツじゃないと思ってるのか?」

「いや?」

 

 サクサク斬って、サクサク魂を放して行く。

 まーフツーに俺の方が遅くて噛み付かれたりもするし、刺されたり撃たれたりもするけど、それが何って感じ。緑礬は使わない。使ったら中央司令部が陥没しかねんし。

 

 ちなみに噛まれてもゾンビウイルスみたいなのは入ってこなかった。パンデミックにはありがちなのにネ。

 

「これを企てたのは勿論フラスコの中の小人だろうけど、中間……実行した奴との間にアイツのモンじゃない思惑が絡まってそうだな、って話さ。特に人間の、永遠の命を欲する一同。永遠の命製作委員会みたいなやつが」

「……」

 

 だって、単純に面倒くさい。

 人間一人一人を認識して、そいつらを蘇らせるって行為も、そうだと喧伝する行為も。

 どーせ生きた人間から魂引っぺがして肉体殺してからその死体に定着、っていうクソ面倒なプロセス取ってるんだろうけど、フラスコの中の小人はそういう面倒な事やる奴じゃないっつーか。

 国土錬成陣だって、やりようならいくらでもあったはずなんだ。勿論水面下で動いていたことを細かいと表現するのならそうかもしれないけど、スロウスの穴掘りとかもっとあっただろ。つかプライドがやりゃいいじゃんって思う。アイツ掘削能力あるし。

 他、国家錬金術師の監視システムも杜撰だし、人柱も結局その日までに集まってなかったし、傷の男(スカー)兄だって偶然殺せただけだし。把握できてないし。

 

 アイツ面倒くさがりだし、人間見下してるから「人間がそこまでできる」とは思ってないんだよ。

 だから見通しの甘い計画もバリバリ通す。困るのは下請け……人造人間(ホムンクルス)達なんだけど。

 

 んで、今回のアレソレは、魂をうんぬんはアイツのやりそうなこととして、他の準備があんまりにも面倒くさい。

 ゾンビに関しては国内の流血沙汰事件、つまり血の紋に関係した場所のゾンビばかりなあたり、中央軍に手引きしてたやつがいたんだろう。それくらいはわかる。つかそれくらいまでしか同感できんというか。

 中央軍を動かす、まではアイツの「面倒くさくない」の範囲内だろうけど、中央軍に死ぬ奴一人一人の名前と錬成陣刻んだ鉄板を仕込ませる、はパーペキ「面倒くさい」の範囲だ。

 俺だったら絶対やんない。いやまぁ俺は上記全部やんないけど。

 

「それでも、大本を断てばそれで終わりだろう」

「それはそう。あ、ホーエンハイム。二歩下がりな」

「む」

 

 瞬間、ぶち破られる壁。

 大量の土煙と共に出てきたのは──全身ツルツル炭素人間。

 

「──見つけたぜぇ、親父殿ォ!」

「え、おいちょ、ま」

「俺のモンに手ェ出したらどうなるかくらいわかってんだろ、なぁ!?」

「別人別人! 似てるけど別人! というかアイツが俺に似てるんだが」

「あぁ!? ……ああ? ……随分と見ない間になよっとしたじゃねぇか、親父殿。なんだ、イメチェンか?」

「だから別人! ……俺はフラスコの中の小人じゃないよ」

 

 グリードだ。

 ……仲間はいない様子だけど。

 

「ようグリード。無事でなにより。ドルチェット達は?」

「……なーにが無事で何より、だ。心配なんざ欠片もしてなかっただろう、テメェ」

「あっはっは、当たり前じゃん。俺にそんな熱量あると思ってんの?」

「がっはっは、ねえな。テメェがここにいること自体驚きだ!」

 

 それにゃ俺も同意。

 こういう最終決戦みたいなのはどっか遠い所で眺めてるのが俺だと思ってたんだけどね。

 

「──本当に別人らしいな、オッサン。すまねえ、他人の空似って奴だ。許してくれや」

「いや、他人ではないんだけど……まぁわかってくれたならいいや」

「おう。それで、ドルチェット達はアレだ。……なんつーか、仲間の無念を晴らしに行ってる。ゾンビ共を感知できる嬢ちゃんがついてるから平気だよ」

「なるほろ。ほんじゃま、行こうか。不死身三人組だ。敵も永遠の命を名乗ってる群れだけどサ」

「お前と一緒にされてもな……俺は尽きる命だよ」

「がっはっは、俺も尽きる命だ。オッサンよりは長いだろうがな!」

 

 さて、まぁ。

 盾追加ってことで。

 

 

 

 

 当然だけど、敵なんかいなかった。

 敵なし。無敵。

 人造人間(ホムンクルス)の妨害が入らなかったのがデカい。つーかなんで邪魔しに来ないんだ真面目に。お前らのとーちゃんの危機だぞ。

 ゾンビしかいないってお前、守る気ないだろ。

 

「──来たか」

「ああ、来た。──久しいな、フラスコの中の小人」

「俺はイシュヴァール戦役ぶりか。よぅ、フラスコの中の小人」

「ざっと100年ぶりか、親父殿。元気してたかよ」

 

 フラスコの中の小人は──明らかに窶れていた。

 痩せているし、老けている。

 ……。

 

「ふむ……ホーエンハイム。オマエ、あとどれくらい生きる?」

「さてな。お前よりは長く、だが──もう永く生きるつもりはないよ」

「そうか……。グリード。お前はどうだ」

「がっはっは、随分とわかり切ったことを聞くじゃねえか親父殿。アンタよりは長く生きるだろうよ。なんせアンタはここで死ぬんだからなぁ!」

「ふむ……そして、クロード。オマエには聞く必要もない」

「オイオイ仲間はずれかよ。聞いてくれても良かったぜ?」

「私にはあまり時間が無いんだ。時間を無駄にしたくない」

 

 ……時間が無い。時間を無駄にしたくない。

 フラスコの中の小人が?

 

 同じ疑問をホーエンハイムも持ったらしい。一瞬彼と視線が交わる。

 

「……海に水を垂らすようなものか。全く、どうしてオマエ達は命を大事にしないのだ……」

「おお、親父殿の口から最も出なさそうな言葉が出た」

「グリード。聞いたぞ。オマエ、パフォーマンスとして死んでみたりしているそうじゃないか……嘆かわしい。勿体ないと思わないのかね?」

「……お、おう。だから、コイツにそれ言われて、やめるようにはしたが……いやそんな話をしに来たんじゃねえよ!」

 

 確かに、少ない。

 生憎と原作時点でのコイツの魂の総量はわからない。直接見れたわけじゃないから。

 でも、だとしても、明らかに少ない。フラスコの中の小人の命は──あと幾許か。なんなら、今年の冬も越せないくらいの。

 

「つまり、なんだ。やはりヴァルネラの中に入る気か、フラスコの中の小人」

「……それも考えはしたがな。クロードの中に入り込んだとて、私がクロードに消費される未来しか見えんのだ。支配するどころかされ返す……無為に消費されて私はまた扉のムコウ。笑えない話だ……」

「おお、大正解。入ってきたら一瞬で使い切るつもりだったよ。俺の事よくわかってんじゃん。大総統なれるよお前」

「……お前のどうでもいい冗談も、昔ならば笑い飛ばせたものを。せめてホーエンハイム、オマエがもう少し魂をため込んでいてくれたら……オマエに乗り移れたのだがなぁ」

 

 フラスコの中の小人は、ずっと。

 溜め息を吐いて、嫌だ嫌だと……まるで、本物の老人のように。

 迫りくる死に、死期に。

 

「──だから、んなことはどうでもいい。俺は俺のモンに手ェ出したアンタを許さねえ。俺は強欲だからなぁ!」

「父を殺すか? グリード」

「あぁ、俺は強欲だからな──父殺しの称号も欲しいのさ!」

「……ホーエンハイム。私が憎いか? それとも、何か守りたいものでもできたか……。いつか言っていたな、家庭がどうのと」

「ああ。俺の大事なものを、お前に壊させるわけにはいかない。──ここで絶たせてもらうぞ、フラスコの中の小人」

「クロード……お前は……まぁ、いいか。どうせグリードかホーエンハイムか、どちらかの代価で動いているのだろうし」

「おん。正解」

「……はぁ」

 

 嫌だ嫌だ、と。

 フラスコの中の小人は──よっこいしょ、って感じに立ち上がって。

 

「いいだろう。相手をしてやろう、我が息子と血を分けた半身と……ええと、何の関係もない不老不死。まぁ、私の、長い生の──最期を締めくくる光景としては、壮観なものだろうよ」

 

 瞬間、ノーモーションで無数の槍が錬成された。

 射出されるそれら──は、グリードが盾になることで解決。あ、俺は別に避けてないよ。バリバリ食らってる。グリードを盾にしたのはホーエンハイムだ。アイツ、一瞬で俺程度じゃ盾にならないって判断してグリードに鞍替えしやがった。

 

「ハン、効かないねぇ、親父殿がくれた"最強の盾"のおかげでなぁ!」

「最強の盾、ねぇ。炭素が集中しているだけなんだ。分解されたら終わりだろうに……まぁ、こうして遠距離戦をしている分には最強を名乗れるか」

「あぁ?」

「過去の過ちを嘆いているだけだ。気にするな、我が息子」

 

 槍の雨。 

 絨毯爆撃もたるや、というほどの衝撃の中、けれどグリードの盾は壊れない。それの影に隠れたホーエンハイムもまた同じ。

 

 ぐじゅりと再生する。

 

「オイオイ、いいのか? そんなに力を使って。寿命を減らすだけだぞ」

「だから嫌だと初めから言っているだろう……。オマエ達のような再生する者を相手するのは骨が折れるのだ。私の寿命を心配するというのなら、とっととこの場から去ってくれると嬉しいのだがなぁ」

「そりゃ、できねぇ相談だな!」

 

 グリードが前に出る。

 槍の威力が自身の硬化になんらダメージを与えないレベルだと判断したためだろう、前に出て、槍を全身にくらいながらも一歩、また一歩と前進していく。

 困ったのはホーエンハイムだ。すぐに錬金術で壁を作ったようだけど、一回死んだなアレは。

 

「がっはっは、どうしたどうしたァ! 親父殿、以前の感じが全然ねぇなぁ! この程度なら──」

 

 ザク、と。

 グリードの手、最強の盾による最硬の斬撃がフラスコの中の小人を捉える。

 

 思いっきり吹き飛ばされるフラスコの中の小人。壁にぶち当たって止まった彼の頭部は、バチバチと音を鳴らしながら再生していく……けれど、遅い。それに……さらに減った。一度生き返るためにもかなりのエネルギーを消費しなければならないってことは、もう器に限界が来ているってことだ。

 

「まだまだァ!」

「う……ぐ……」

 

 追撃。

 ノーモーション錬成で迎撃しようとしても、やはり威力が足りない。速度が足りない。

 グリードの盾を破れずに、何度も、何度も何度も死ぬフラスコの中の小人。

 

「いいのか、ホーエンハイム」

「……何が」

「殺されちまうぞ、フツーに。グリードの連撃で十分だ。アレだけでフラスコの中の小人の中の魂は尽きる。──手、出さなくていいのか。お前の動機に、復讐は欠片もないのか?」

「……昔ならあったかもしれない。だけど今はない。俺は守るためにここにいる。……アイツが生み出した奴にアイツが殺されるというのなら、俺は黙って見守るだけだ」

「そうかい」

 

 そんなホーエンハイムと違って、グリードの拳には、攻撃には、恨みが、怨恨が詰まっている。

 さっき「俺のモンに手ェ出した」とか言ってたな。

 

 ……死んだのか、デビルズネストの奴ら。それも、ゾンビ関連で、と見た。

 

「グリード!」

「あァ!? なんだよ、止めんのか、不老不死!」

「違う違う。──あと40人だ。フラスコの中の小人の中の魂」

「……言わずとも良いことを。そんなことを言えば、グリードは私を甚振るじゃあないか」

「あっはっは、まぁ代価だよ、フラスコの中の小人。んじゃ、俺はもう帰るよ。これで借金返済だ。いいな、ホーエンハイム」

「……あぁ」

 

 がっはっは、がっはっはと。

 鬼のような、悪魔のような。

 

 声が、声が──響く。なくように、叫ぶように。

 

 仲間の死を嘆くように。

 

 声は──俺が地下道を出るまで、ずっとずっと続いていた。

 

 

** + **

 

 

 で、まぁ当然だけど、ゾンビは消えてない。

 フラスコの中の小人は死んだんじゃないかな。グリードもホーエンハイムもそこは抜からんだろうし。その後を知らんから何とも言えんけど。

 

 でもゾンビは消えてない。当然だわな。アイツらが生きてる……というか動いている原因って魂定着の錬成陣だし。フラスコの中の小人の生死はなーんにも関係ないし。

 だから、俺は今日も屋根暮らしだ。まだまだ死霊の患者が多いこと多いこと。腕取れたくらい自分でくっつけろよ、とか思わないでもない。痛み感じないんだから自分で縫えるだろ。

 

 ……しかし。

 まぁ、気になることは残った。

 

 なんでフラスコの中の小人があんなに消耗していたのか、とか。

 人造人間(ホムンクルス)達はどこ行ったねん、とか。

 だからエルリック兄弟はどこ行ったんだよ、とか。

 

 ……おーん。

 探しに行くほどの……やる気はないなぁ。特に今、地上歩くのダルいし。

 

 ま、ゾンビは次第に腐り果てるだろう。今は冬だからアレだけど、あったかくなるにつれて腐って、病気が蔓延して、アメストリス人もかなり死んで……隣国とかに攻め入られて。ブラッドレイかロイ・マスタングか、あとはグラマン中将とか? が大総統になって、上手くやるか下手こくか知らんけど、どーにかして。

 んじゃ俺はシンでも行くか、それとも一応「約束の日」を待つか。

 

 なんにせよ──鋼の錬金術師、完ってことでいいのかね?

 

 


 

 

 

 

「まったく……こんなところにいたのか。探したぞ、ヴァルネラ」

「おー」

 

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