緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
つまるところ、茶番である。
フラスコの中の小人を殺したとて、ゾンビはいなくならない。俺の見立てではゾンビの保存期間は一か月くらい。死体にしちゃ長い方だ。フツーは二日三日で腐り果てるからな。
元々防腐剤の類が塗布されていたのだと思われるけれど、こうやって放逐されてからはそれがなくなって、結果ボロボロと崩れるようになった身体で俺に治療を求めに来ている、と。
冬は越せないんじゃないかなー、なんて零したら、混乱を避けるために一芝居打たなくてはな、とのことで。
順を追って話せば、まぁブラッドレイだ。ブラッドレイが屋根暮らしのヴァルネッティをしていた俺を見つけ出し、まず中央司令部へ。なんとそこには難しい顔をしたロイ・マスタング君が。すわブラッドレイがホムンクルスである関連で脅されているのかと思ったら、どうもそうではないっぽい。
その後ちょっと待ってたらアレックス・ルイ・アームストロングとエルリック兄弟まで現れたではないか。
それが冒頭に繋がる、と。
「これで、ゾンビ諸君に自分たちの命には限りがあることが周知された。その周囲の人間にも彼らの苦悩が伝わったことだろう。最期の時までを、今度こそは戦争などではなく、ちゃんとした別れで終わらせることができる」
「……それはスゲー良いことだと思いますけどー、なんでこのチビを悪者にしなきゃいけなかったワケ?」
「ちょ、兄さん。大総統だよ大総統、一番偉い人だよ!」
「はっはっは、構わんよ。若者はそれくらいで十分だ。それで、ヴァルネラを悪者にしなければいけなかった理由は単純。敵がヴァルネラを悪者にしようとしていたから、だ」
「……」
そう、敵──。
フラスコの中の小人とは別の思惑で動いているのか、はたまたこれさえもフラスコの中の小人の計画の内なのかは知らないけど、此度の設定ではブラッドレイと俺には共通の敵がいて、それに対抗するために仲間を集めたい、みたいな感じ。アレだね、ブラッドレイの正体がわからなかった時の気の良いおじさんムーブ。
で、その敵とやら。
おそらくは軍上層部の誰かが俺に罪を被せようとしていたのは確実だった。俺がああやって堂々と宣言せずとも、当然彼らゾンビの身体は腐り落ちていただろう。そうなっていた時、「永遠の命とはなんだったんですか」と神医ヴァルネラに苦情が殺到するのは目に見えていて、さらにはそれが殺意やら何やらに変わるのも時間の問題。
敵はそれを読んで俺の名を名乗ったはずだし、俺がそういう状態に陥ることで得られる何かが敵にはあったんだろう。
だから、もっと早めに悪者になって計画を狂わせちゃえ☆ 作戦だ。
それも敵が想定している以上の悪者──俺が「ソンナコトシテナイヨー、タスケテヨー」って逃げて泣き寝入りしている間に軍側として発表する予定だったのだろう俺の罪状を、もうこれでもかってほどにグレードアップして、尚且つ俺が超悪い奴な感じで演技して。
あ、勿論モデルはショウ・タッカーですよ。いやぁ勘の良いガキは嫌いだよって言える場面が無かったのが惜しいね!
「無論、これにより緑礬の錬金術師ヴァルネラは国家資格を剥奪、家も家財も押収……というよりは財産の全てを押収される。が、別に困らんだろうお前」
「おん。ウチ何にもないよ。居候が物置いてたくらいで、あと一般的な生体錬金術師の家にある研究道具くらいじゃない? 銀行に預けてあるお金は、俺が生きていく上で必要ないものだし。国庫にしちゃいなよ。そこそこ莫大ではあるからさ」
「……」
「納得が行かない、という顔だな鋼の。私も同じだ」
「……そうは言うけど、大佐はもっと前から知ってたんだろ? ホークアイ中尉達ずーっと大佐のこと待ってたぜ。行ってやらなくていいの?」
「む? 中尉とは通信で会話済みだぞ。フュリーが早々に回線機構を作り上げてくれてな。大総統にも、完全な緘口令を敷けるのならば、という条件のもと話していいと言われている」
もうなんとも言えない顔というか、スライムみたいになるエドワード・エルリック。
アレかな? ホーエンハイムがいない間お留守番してて、リザ・ホークアイからイシュヴァールの昔話とか、ロイ・マスタングのアレソレとか色々聞いててセンチメンタルになってたのかな?
「……ハボック大尉とブレダ少尉は?」
「それについては後で話そう。鋼の、今は私事を話す場ではない。ああ無事ではあるから安心しろ」
「……へーい」
おほん、とブラッドレイが咳ばらいをする。
「改めて──諸君。敵が誰なのかは未だわからず、その所在、目的も曖昧なままとはいえ、少なくともここに一致団結したことは納得してくれるだろうか」
「はい。私はこの国を使って何かをしようとしている連中を許せませんので──大総統閣下に従います」
「吾輩もまた、アームストロング家故に。そして姉上がヴァルネラ殿に世話になったと聞き、さらに、さらに忠誠を!」
「オレ達も、とりあえずこのゾンビ騒ぎなんて悪趣味なことやってる連中はボッコボコにしてぇから、それでいいよ」
「僕も同じです」
一致団結というか利害の一致だよね、とか。
余計なことは口に出さない。あれ? 今俺空気読めてね?
「ヴァルネラ、お前は?」
「お前が払う代価次第」
「……いいだろう。ではまず、君達に一つ開示しておかねばならないことがある」
全員の──俺以外の皆の頭の上に、クエスチョンマークが浮かぶ。
ブラッドレイの秘密。
それは、勿論。
「私は
言いながら眼帯を取るブラッドレイ。
その左目に浮かぶ、ウロボロスのマーク。
「……っ!」
「
「あのラストって姉ちゃんも確かそうだったよな」
「うん。そしてそもそも、父さんが言ってた全部の黒幕……フラスコの中の小人、という人も」
全部の黒幕、ねぇ。
はてさてだなぁ、まだ。
「そうだな。私は憤怒。ラース、と呼ばれている。……が、君達に敵対するつもりは毛頭ない」
「それを、信じろと?」
「信じないのならそれで結構。ちなみに私は2秒もあれば君達を殺し切れるが、どうかね? ああそこの不老不死はカウントせずに」
「……それは脅しか? 大総統閣下殿」
「いや、信じて欲しいということだ。君達を殺すことが目的に含まれているのならとっくにやっている」
「利用価値があるから残している、という可能性は?」
「無論ある。だから信じる信じないは君達に任せる。ただ君達にわかってほしいのは、私が武勲で大総統にまで上り詰めたといえど結局は60を越える老人──などではなく、君達よりはるかに強く、戦力として期待できる、ということだ」
「ちなみにそれは俺が保証する。
だから俺
ぜってー無理だね。フー爺さんとバッカニア大尉の死闘、グリリンからの傷、列車爆破からの生存とそっからの全力ダッシュ、戦車とか潰したりなんだりをやった上で、両腕刺青
どんだけつえーんだよこの爺さん本気で。
「ま、いいや。アンタはめちゃんこ強い! んで、オレ達を殺す気はない! それだけだな?」
「ああ、それだけだ」
「オーケーだ、大総統閣下殿。そんで、ヴァルネラじゃねえけど、これからの話をしようじゃねえか。ゾンビになった民間人にはその"限り"を伝えることができた。これをやったら、その敵とやらはどう動くと思ってんだ、アンタらは」
「……恐らくだが、偽のヴァルネラとやらが表舞台に出てくるものと思われる。こちらのヴァルネラがこうも悪者になった以上、あちらでヴァルネラを名乗る何者かも悪事をやりやすくなるだろうからな」
「ああそうそれ。言い忘れてたわ」
話の腰を折るな、という視線が突き刺さる。
いやしょうがないじゃん言い忘れてんだから。
「名前。ヴァルネラじゃなくてクロードでいいよ。元からヴァルネラは偽名でさ。本名はクロードなんだよね。あっちのヴァルネラとかこっちのヴァルネラとか偽とか本物とか、ダルいだろ?」
「……慣れませんが、いいでしょう。どの道その姿のあなたをヴァルネラ医師などと呼ぶと混乱が起きそうだ」
この真っ白な法衣の金髪金眼少年を、ってか。
「……クロード=ルイ・アントワーヌ・デクレスト・ド・サン=ジェルマン……だったか」
「おん? なんで俺のフルネーム知ってんの、エドワード・エルリック」
「……。……ホーエンハイムから聞いた」
「……ああ俺が生まれた場所に行ったのか。つーことは何、もしかしてホーエンハイムずっとクセルクセスにいたの? あぁなるほどなー」
だから会わなかったのか。
……何してたんだよ十年間も。あそこなんもねーだろ。
「クロード……なんですと?」
「クロードだけでいい。長いからすぐに覚えられないんで名乗らないんだよ普段。はい、話の腰今治したから、続けてくれブラッドレイ」
「……お前は。まぁ良い。では続けよう。つまり、アメストリスのどこかでヴァルネラがまた悪事を犯すはずだ。そこを叩き、ヴァルネラを名乗る何者かと、ゾンビ化の技術を取り押さえる。出来得るのなら黒幕にまで辿り着きたい所だが……すべての黒幕と呼ばれていた我が父は死んだ。私の兄弟に殺されてな。故、あまり深追いはしないように。危険すぎるゆえな」
つまるところ、待ちの姿勢である。
が。
それができないのがここに一人。
「しつもーん」
「なんだねエドワード・エルリック君」
「アンタの他の
「十分にある。特に
「他のは?」
「
「ああ。まぁ傍から見たら浮気ですね」
「姉弟なのだがな。そして
「それだけ聞くと、ただの人間と同じですね」
「……はっはっは、……ああ、そうだな」
感慨深く、少しだけ、ぼそりと。
人間から
「おや、グラトニー、プライド、エンヴィー、ラスト、グリード……そして閣下がラースと。七つの大罪を冠するのならば、あと一人……スロウスにあたる者がいるのではないですかな?」
「
「まー、いい機会だったからな。殺したよ」
「……」
「……」
「アレックス・ルイ・アームストロング」
「……なんですかな、クロード殿」
「今これ俺空気読めてなかったか?」
「失礼ながら……かなり、かと」
「おーん……これよくやるんだよな。マジで。別に治したいとかじゃないんだけど、空気冷えっ冷えになるのは迷惑じゃん? やっぱ俺喋らん方が良いかねこれ」
「ううむ。クロード殿。一つ助言をいたしますと、吾輩たち人間は生物の生死については敏感でして……たとえ
「あー、なーほーね? おっけーおっけー。ちょいやり直すわ」
言い直す。
「まー、いい機会だったからな。消滅させた」
「話を進めるぞ。"お父様"……フラスコの中の小人と君達が呼ぶ我らが父がいなくなった今、
「わかりました。十分に気をつけます。……ですがもし、襲われたのであれば」
「殺していい。私を含め、人類の害となるのなら、迷わず殺せ。ただ油断はするな? 奴らは狡猾で強靭だ。クロード程ではないが再生もする」
「りょーかい。気を付けるよ」
ええとあとは、と。
言葉を探すターンが挟まって。
そうだ、とブラッドレイが手を打つ。
「ロイ・マスタング君」
「はい。……はい?」
「君を次期大総統として推薦する。周囲にも話は通しておくから、準備しておくように」
「……はい?」
「他、聞きたいことがある者はいるかね?」
「別に待ちの姿勢じゃなくとも、ガンガンに聞き込み調査してバンバン叩きまくっても良いんだよな?」
「勿論良いが、目立ちすぎてヴァルネラを名乗る者達が引っ込んでしまわぬようにだけ気を付けてくれたまえ」
「りょーかいっと。んじゃアル、善は急げだ、まずはラッシュバレーに行くぞ。あああと大佐! 次期大総統就任おめっとさん!」
「え、ちょっと待ってよ兄さん! あ、大佐。次期大総統就任決定おめでとうございます。それと、ハボックさんとブレダさんのことは、信頼してます!」
まぁまだ決定したわけじゃないけど、ブラッドレイの発言力は強大だろう。
決まったようなもんだ。
それに、彼は"悪の錬金術師を倒した正義の錬金術師"──ヒーローになったわけだからな。
国民人気は高いぜぇ?
「それでは吾輩も失礼しますぞ。ところでクロード殿、姉上とはその、良い空気になったりは」
「してないねぇ。つーか見た目の歳の差エグすぎだろ。俺と婚姻結んだら少将の方がバッシング食らうぞ。あと俺もう今何の功績もない一般10歳だし」
「む、むぅ……しかし姉上もそろそろ結婚適齢期……を過ぎつつありまして……」
「ならばマスタング君などどうだね? 次期大総統だ」
「いえ、マスタング大佐には心に決めた人がおります。それはできませぬ」
「な、黙って聞いていればアームストロング少佐! 誰の事だそれは!」
「……それでは失礼いたしますぞ!」
「逃げるな!」
まぁリザ・ホークアイなんだろうけど、なんか言ってたよな。
くっついちゃったら、大佐と中尉の関係でいられないから云々、みたいなこと。
大総統になりゃ解決だな!
「……はあ。では私も失礼します。大総統、次は、こういうことはもう少し前から……そしてああいう騒がしいののいないところでお願いしますよ」
「次はないだろう。なんせ君が大総統になるのだから、一般市民の私から大総統たる君に耳打ちすることなどなくなる」
「……わかりましたわかりました。謹んでお受けいたします──それと」
ロイ・マスタングは、俺を見て。
「まだ何も終わっていない。まだ何も解決していない。──クロード医師。そう簡単に逃げられると思わないでください。逃げるというのなら、私は地の底まで追っていく所存です」
「地の果てじゃないんだ」
「地の果てだとあなた泳いで行くでしょう」
「それはそう」
地獄は行き止まりってか。
「では、失礼いたします」
「うむ。気を付けてな」
ロイ・マスタングも、去る。
つーことで。
「──さて、ようやく本題か、ブラッドレイ」
「ああ」
「まず三文芝居の代価……は、楽しかったからいいや」
「ほう? いいのかね?」
「どうせお前も用意してないだろ」
「ああ、していないな」
長机の上に座り、膝を組んで話す。行儀が悪い──結構!
「フラスコの中の小人はどうした」
「知っての通り死した……はずなのだがな」
「歯切れが悪いな」
「正直私にもわからんのだ。お前の報告が確かならば、"お父様"は余程消耗していた。だがあの方がそこまで消耗する理由がわからん」
「まぁ、だよな。ゾンビの中にクセルクセス人なんかいなかったし」
全員、アメストリスの人々だった。
これでクセルクセス人がいたらアイツの中から使ってる、が通らなくもないんだけど、アメストリス人の魂を取り込む、ってのは「約束の日」までやってなかったはずだから、恐らく違う。
そして。
「お前その言い方……出家したか?」
「少し前に、言われたよ。
「解雇通告じゃん」
「なんとでも言え。……その後"お父様"のいる場所に行こうとしても、プライドの影が塞ぐばかりだった。攻撃はしてこなかったがな、アレは斬れん。ので帰った」
「パーペキに離縁宣言されてんじゃん」
フラスコの中の小人がいなくなって、
……しっくりこねぇな。
そもそもなんだっけ。
あれほど強大な力を持つ
それが……鍵、だとは思うんだけど。
「結局ゾンビ騒動はお前らの仕業なんじゃねぇの?」
「知らぬ。私が彼らと袂を別った後にゾンビ騒動は起きている。私は関与しておらん」
「ほーん。セリムは?」
「沈黙だ。家族でいる時はいつものようにセリムを演じ、二人でいる時は完全な沈黙。取り付く島もないわ」
「嫌われてんなー完全に」
破門……じゃないけど、いやマジで解雇だな。
グリードとラース解雇って大丈夫か
「どう思う?」
「ゾンビ騒動についてかね?」
「ああ。俺は一応フラスコの中の小人の計画の一部だとは思っている。けど、軍上層部の不老不死を欲する奴らも噛んでると考えている」
「私も概ね同意見だ。……マスタング君に引き継ぐ前に、膿は全て吐き出しておきたいところだが」
「へぇ、なんだよ殊勝だな。そんないきなり人間側に付くのかお前」
「生まれた時から足元にレールがあった。その上を歩くだけの人生だった。──それが、突然レールがなくなって、好きな場所に行けと言われたのだ。何かを成し遂げてみたい、と思うのは普通ではないかね?」
へー。
いいじゃん。それだぜ、ブラッドレイ。
俺に無いもの。だから普通じゃなくて、ちゃんと特別なんだよ。言ってやんねーけど。
「錬金術師としてはどう見る?」
「……人間ってのはさ、勝手に移動する生き物だ」
「……」
「帰巣本能っつーか帰郷本能とでも言い換えたらいいかね? 寂しくなったり、久しぶりに来たり、あるいは──永い眠りから覚めたりして、自分の居場所がわからなくなったりしたら──人間は勝手に移動するんだよ」
「勝手に移動する……」
自分の意思じゃない。
自分の意思だと思っている奴が過半数だろうけど、違う。
中にはいるんだ。寂しいと思ったらその場で仲間を作って安堵を埋められる奴が。
中にはいるんだ。居場所がなくなったら、自らで居場所を作れるような強い奴が。
でも、大体が弱い奴だから、大体は帰る。
もうそこに家族がいなくとも、友達がいなくとも、故郷が、家が更地になっていても。
懐かしいという感情が暖かいから、それを求めて移動する。
「大総統令3066号。イシュヴァール殲滅戦。──あん時に徴兵した兵士は、どんだけいた?」
「……」
「ああ、人数はいいや。だから──北部、西部、南部から来た兵士はどんだけいたか、って話」
「相当数、だな」
「じゃあそいつらがさ、今、セントラルの病院で目覚めたら──どこへ行くだろう」
セントラルに家族がいる奴は良い。
そこで幸せを学べる。再認識して、最後には砕け散る。
そうではない奴は、そうなる前に、時間切れが来る前に、と。
「向かうよな。それぞれの家に。勝手に移動してくれる。勝手に線を描いてくれる。──円は実は要らないんだわ。天体が勝手に作ってくれるから。あとはそこに、必要な分の記号と文字があれば錬金術は発動する」
日食によって落ちる月の本影。
その存在を知っていたのがホーエンハイムだけ、なんてワケないんだ。
フラスコの中の小人だって十分に考えつく可能性があった。だってアイツだってそれを、影の方じゃないとしても、日食そのものを狙っていたのだから。
「死んで良いんだよ。腐っていいんだ。そうすれば勝手に刻まれるから。──人間が、大勢の人間が、うじゃうじゃいる人間が、勝手に錬成陣を刻んでくれる。巨大な国土錬成陣を、だ。
「……我らを不要と断じたか、父は」
「そこは知らん。アイツ家族欲しがってたし、不要になったんじゃなくて惜しくなったのかもしれん。俺がスロウス殺した時に、寂しくなったのかもしれん。そこはアイツに聞けよ、家族だろ」
「聞く前に死んでしまった」
「はン、アイツが何にも為せず、あんな風に諦め良く死ぬかよ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だと喚いて泣き叫んで、手を伸ばして何かに縋って頼む頼むと誰かにせがんで──そうやって死んでいくのがフラスコの中の小人だ」
「つまりお前は、父は死んでいないと……そう言うのかね?」
「じゃあお前は、アルフォンス・エルリックは死んでいると、そう罵倒するのか?」
「……質問の意図がわからんな。回答を控えさせてもらおう」
なぁに、俺はそう思っている、そう考えているって話だ。
「っと、じゃあそろそろ俺は行くよ、ブラッドレイ」
「どこへ行くというのかね。この国にはもうお前の居場所などないぞ」
「ローブの色変えたから大丈夫大丈夫。──ああ、そうだ。最後に一つ。全然また来るつもりだし、何が最後なんだ、一つでさえないではないか、ってツッコミは全く受け付けないけど、最後に一つ言っておくことがある。ブラッドレイ」
「なんだ」
夕暮れの空を背景に、ってのは、中々乙で良いな。
「憤怒。お前の恐怖は悪であることだろう。お前は憤怒だからこそ、善良でありたい。怒りは善良の側でこそ最も昂るものだからな。善良で高潔でありたいんだよ、お前は」
「……わかったような口を利くものだ」
「お前は今、不安な状態にある。何故って今、お前の中はぐちゃぐちゃだからだ。敷かれたレールの上を走るだけ、というだけでしかなかったお前の世界観に、突然レールの無い世界が現れた。今お前が成し遂げてみたいと思ったことは偽善だろうか。今の今まで敵対していた者に手を伸ばすのは、その背を押すのは──邪悪だろうか。怖いだろう、ブラッドレイ。悩むだろう、キング・ブラッドレイ」
わかったような口。
何様。
おーおー、全部言え全部言え。あっはっは、俺の方が長く生きてる。それだけで理由なんか十分だ。
「好きに生きろよ、ブラッドレイ。静穏に長く生きることも、うだるような熱と共に駆け抜けることも、どちらも人間にしかできない特権だ。──化け物の心は凪いでるぜー、一生な」
仰向けになって。
窓から、落ちる。布から血を抜く錬成陣をメモ帳から取り出してーっと。
「んじゃ、俺に対しての責任感とか罪悪感とか要らねーからな!」
ぐちゃ、っと潰れて。
ぐじゅり、と再生して。
パキパキと血を抜いて。
てるてる坊主こと真っ白ローブなクロード君のアメストリス観光の始まり始まりである!
なお、セントラル市民にはソッコーバレかけたのでセントラルにはあんまり近づかないものとする。