緑礬の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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ちゃんと転生者らしいことしていくぅ!!


一応、告げといたって話

 街の墓地にあるものとは違う、勝手に建てさせてもらった墓標。

 そこにユキツバキの花束……に模した造花を供える。墓前に椿は最悪の組み合わせなんだけどね。だからこそこの造花は「決して衰えぬ」という意味を込めていたりして……とかなんとか。

 

 たかだか15年。

 俺がこの世界に放り出されてからの年月を考えれば、一瞬にも等しい時間。

 

「中々、面白かったよ、シルバの爺さん」

「寂しくなるのぅ」

「……おいおい、ゴルドの爺さん。アンタもう87歳なんだから、こんな雪山の深くまで入ってきちゃダメだろう。クマかオオカミの餌になるのが関の山だ」

 

 振り返るとそこには、同じく15年を共にした格闘家爺さんが佇んでいた。

 

「はん、儂はまだまだ現役じゃわい」

「そうかい。じゃあ、もう少し……そうだな、あと20年くらいは生きてくれ。それまで生きてたら、また会いに来るからさ」

 

 コートを羽織る。フードを被る。

 

「世話になった。15年……短い間だったけど、ちゃんといい思い出になったよ」

「短い、のぅ。フ……そうじゃの。坊主にとってはそうなんじゃろう。……ヴァルネラ。最後に一つだけ良いかの?」

「ん? あぁ、若さの秘訣? そりゃ教えらんねーんだわ」

「誰もそんなこと聞いとらんわ」

 

 珍しく、本当に珍しく晴天なブリッグズ山。

 吹雪も降雪もないなんて果たして何年ぶりか。いいね、門出の祝いって奴だ。

 

「お主に終わりは──お主が安らかに眠ることのできる日は」

「来ないよ。だから楽しむんじゃないか」

「……そうか。それは、悲しいことか?」

「さてね。でも、自分が楽しく思おうと思えばどんなもんでも楽しくなるってもんでさ。それは悲しみも同じこと。悲しく思わなけりゃ悲しくならないんだから、悲しく思わない方が得ってモンでショ」

 

 だから俺はマイナス思考にはならない。

 つーかまだまだ見てないモンばっかだし。真面目に。シンだって全土回るのにどんだけかかったか。アメストリスだってまだまだ見ていない場所だらけだ。それが五年や十年で目まぐるしく変わっていくんだ、面白くないはずがない。

 さらに言えば、今のこの世界って産業革命直後のイギリスとかその辺の文明だ。それが段々と近代化していって、その中に錬金術が組み込まれて行って。当然前世の"現代"よりもっと多彩な文明、文化が生まれるだろうし、その先にまた全く別の世界が広がることがあるだろうし。

 

 それを飽きろって、無茶言うよ。

 "約束の日"が過ぎ去ったとて、俺は死なない。終わらない。

 なら未来に展望を持つのは当然だろうに。

 

「いや、そうか。いや、良い。良い。心配だったんじゃ。儂の……儂らの大切な()が、世界に悲観していては、あまりに心苦しいからの。楽しいのならば、儂も笑って送り出せる」

「孫って。アンタにゃ実の孫がいるだろ。つか、もうわかってんだろ? 俺は爺さんらよりずっと──」

「ふん、坊主には全くと言っていいほど"貫禄"というモンが無いからの、年上面したいのなら、少しは貫禄つけてから来い」

 

 そりゃ、まぁ無理だわ。

 俺はずーっとこのチャラいままだからさ。

 

「ああ、また来るよ。じゃあな、ゴルド・スタイナー」

「言って意味のあることかはわからんが、達者での、ヴァルネラ」

「ん。あ、そうだ。歯切れ悪いけどさ。俺のホントの名前、クロードって言うんだ。ヴァルネラは自分でつけたあだ名」

「歯切れも悪いし今更じゃし……が、わかった、わかった。──達者での、クロード。お主の旅路に幸多からんことを」

「ああ、じゃあな!」

 

 うん、本当に。

 良い15年間だった。

 

 

** + **

 

 

 ブリッグズ山を東南東方面に下っていく。

 列車は使わないし、相も変わらず雪国仕様の服装じゃないから何度か現地人に止められたけど、「この服装で来る場所じゃなかったって反省して下山してるんですよ~」で大体乗り切れた。

 今は1894年。もうそろブラッドレイが大総統に就任する時期で、前後はわからないけれどホーエンハイムとトリシャ・エルリックが出会う時期でもある。

 こっからはまーリオールへ立ち寄って、一回セントラルに戻り、そのままクレタとの国境まで突っ切って、今度はまた北上してペンドルトンの国境へ……っていうぐちゃぐちゃなルートを描くつもりでいる。ホムンクルス達も俺がとうとう動き出したってんで目を光らせているだろうからな、余計攪乱してやるのさ。

 

 とはいえ、己がタスクとして設定した各主要人物の若い頃に出会う、というものの達成を考えるに、どうしても無理な……体の足りない部分が出てくる。軍部の連中はイシュヴァール殲滅戦で会えるだろうけど、じゃあ逆に殲滅戦に出てこなかったメンツはどうかってったら厳しいし、軍人じゃないのはもっと厳しい。

 

 別に。

 別に、ブラッドレイに語った言葉をそのまま実行する必要が無い、ってのもわかってる。

 あの時上げたのは奴らがこれから血の紋を刻む場所だ。挑発の意味を込めて話したその場所は、だからといってなんか観光スポットがあるわけでもない。

 それに、あんまりアイツらにとっての主要スポットばかりを回っていると、逆に行ってない場所に目をつけられかねん。

 いい具合にグラデーションしていくのがベストと考える。

 

 なら。

 

「変わらず目的地はリオール、っと……」

「なんだ、君の事だから一目散に私の元へ来て就任祝いをくれると踏んでいたのだがね」

 

 気付いてはいた。だから口に出したんだし。

 だけど声をかけてくるとは思ってなかった。つかこういうのプライドとかエンヴィーにやらせりゃいいのに。盗聴なんか十八番だろアイツら。

 

「まぁ、異例の若さでの就任おめっとさん。キング・ブラッドレイ大総統殿?」

「うむ。ついては君に聞きたいことがあるのだがね」

「なんだ、また奢ってくれんの? いーよ、奢ってくれるんなら行く行く。軽々しくついていくよ」

「残念ながら此度はそれほどの時間が無い。大総統になってから仕事が山積みでな、本来ならばこう易々と抜け出して良いものではないのだよ」

「だろうね」

 

 ここがセントラルからどんだけ離れてると思ってんだ。

 まぁ若きブラッドレイだ。ホムンクルスとしての身体能力もフルに使って突っ走ってきたんだろうけど、そいつはやっぱり結構な無茶だと思う。

 そこまでして俺に聞きたいこと。

 

 ……なんか俺他に失言したっけ?

 

「ゴルド・スタイナー」

「ああ、いいよ。あれただの格闘家の爺さんだから。錬金術はレの字もわかんないよ」

「……いい、とは?」

「監視するのも攫うのも好きにしなよ、ってこと。それとも何? 俺にとっての人質になるとでも思った?」

 

 15年、世話になった。

 雪を扱う錬金術について、また熱を操作する錬金術についての知識が増えた。

 悪路での戦闘、体格差のある相手、人間以外との戦闘についての知識を貰った。彼らは俺を最後まで孫のように扱い、見た目が変わらない俺を気味悪がることなく接してくれた。

 

 無論、感謝の心はある。

 けれどそれが俺の行動を縛るかって言ったらそんなことはない。

 

「加えて言うと、あの爺さんは俺に庇われるのとか絶対嫌がるってのもあるかな。はは、あの爺さん、御年87にしてまだ熊とか素手で狩ってくるんだぜ? プライド高いんだよ、自分の実力に対して、どこまでもな」

「……元気な老人だな」

「このままいけばアンタもそうなるだろ?」

 

 はん、クセルクセスの民を当然のように見殺しにした俺をなめるなよ。

 これまで刻まれてきた血の紋を「リアタイする」なんて言葉で片付けてきた俺に真っ当な良識があると、本当に思ってんのか。

 ないっちゅーの。原作で起きた事件、くらいにしか思っとらんわ。

 

「君に人間性というものを少しでも期待した我々が愚かだったようだな」

「おいおい、ホムンクルスがそれを問うのかよ」

「違いないな」

 

 ブラッドレイが──帽子に手をかける。

 話は終わった、とばかりに踵を返して。

 

「おー」

 

 とす、と。

 簡単な音。簡単に突き破る音が胸のあたりから響く。

 

「なんだ、今更。アレか、俺の血でも採取しようって魂胆か?」

「察しが良いな」

「ああ、そいじゃタイミングが悪い。丁度心臓には()()()()()()()()()んだ」

「──!」

 

 俺の身体を突き破った剣。それが、それの血液がついたところから、肉片の付着したところから──次々と、花が散るように崩れ落ちていく。

 常人には見えないだろうが、彼の目には見えていることだろう。

 結晶だ。浸透するように、浸食するように、血が、肉が結晶化して、それの付着した刀身をも結晶化させて──そのままボロボロと崩れていく。

 

 風化していく。

 

「……全く、これを"生体錬成"などと、良く言ったものだ」

「生体錬成だよ、ちゃんと。シンの技術を汲んだ遠隔錬成と、俺が不老不死であることを利用した"血の媒介"をフル活用した錬金術だ。ははは、錬金術に詳しくない軍人ばかりの審査は甘っちょろかったよ、ホント」

 

 そうして閉じる。

 傷口が。風化した剣はその柄までを残し、まるでぽっきりと折れたかのように、あるいは元からそういうオブジェクトであったかのように存在している。

 ブラッドレイはソレをポイ、と捨てて。

 

「"お父様"がお前の血を欲しておる。これより先、私以外のホムンクルス達もその血を狙ってくるだろう。あるいはその身ごと確保するやもしれんがな」

「アイツが欲しいのは"カミ"であって永遠の命じゃなかったと思うんだけどなぁ。その辺はグリードの分野だろ」

()()()()()。さらばだ、緑礬の錬金術師」

 

 ブラッドレイの姿が掻き消える。

 いや、掻き消えたように見えただけだ。ただ彼は、爆速ダッシュをしたってだけだから。

 

 それより……なんだ。

 伝えはした? そいやこの前の「君を組み込まんとしているのだとしても」といい、なんでアイツ俺にヒント与えるようなことを。

 

 ふむ。

 

 セントラル行くのやめよっかな。

 

 

** + **

 

 

 リオールには何にもなかった。

 そういえばリオールにレト教が流行し始めたのって1911年……原作開始のちょっと前くらいなんだよね。だからあそこには何もなく、ちょっと頑張って探したけどロゼも見つからず。そんでもって、ユースウェルにも行ったけど、ヨキもいなかった。ヨキに関しては会いたいかどうかっつったら微妙なトコなんだけど、よくよく考えたら今アイツまだ十代そこらの若者だろうし、いなくて当然。

 

 そこで俺は考えたわけだ。

 

 果たして今行ける場所で、"若い頃に出会う"が達成できる人物って具体的に誰だろう、と。

 軍部なら、たとえばグラマン中将やらレイブン中将やらはいる。が、どこにいるかはわからない。アームストロング家の面々はまだ若いから軍人になっているかどうかわからん時期だし、それはマスタング大佐達も同じ。つか士官学校にいるんじゃないかな、多分だけど。

 既に軍属……国家錬金術師として認められている俺は士官学校にゃ入学できないし、するつもりもない。

 ほいじゃま「焔の錬金術師」殿、とか考えたけどあの人話通じるかわからんのがなぁ、とかあーだーこーだ。

 

 そうして──俺は、結論に辿り着く。

 

「……」

 

 ドサッ、と。

 彼は持っていた書物を取り落とした。ボサボサの毛がさらにボサボサに見える……眼鏡も真っ白に曇って見えるくらいの、なんか、デフォルメ絵感を出して。

 その尋常ではない様子に彼の妻が彼を心配するけれど、残念ながら彼の再起動にまではまだまだ時間がかかりそうだった。

 

 ので。

 

「よぉ、ホーエンハイム。久しぶりだな、元気してたか?」

 

 如何にも彼の知り合いですよ、風の挨拶で──この場を乗り切ることにした。

 

 

 

 

 ホーエンハイムの旧知と知って、おもてなしをしてくれようとしたトリシャ・エルリックを止めて、ホーエンハイムと部屋の中に入る。

 いやぁいいねリゼンブール。人目を気にする必要が無い。だだっ広いから。

 ……リゼンブールなんていう片田舎に行ったら俺が覚えられるから行かない、とか言ったな! あれは……ホントだけど、今フード被ってるからいいんだ!

 

「……久しぶり、なんてもんじゃないだろう……お前は、本当に」

「不老不死なのか、って? ああ、そうだよ。あの時お前らに語った言葉に噓偽りは一つもない」

「その体の中心に、赤い石があったりはしないのか?」

「しないね。お前らみたいな紛い物とは違うのよ、この永遠は」

 

 たかだか53万の命を使っただけで再生できなくなるなんて、永遠とは程遠い。不老不死とは程遠い。

 

「何をしに来た……って、あ。そういえば名前、聞いてなかったな」

「ヴァルネラ。今はそう名乗ってる」

「……クセルクセス人の名前じゃないな、それ」

「あだ名だよ。俺が俺につけたあだ名」

 

 俺がここに来た理由。

 それは勿論、死ぬ前にトリシャ・エルリックに会っておきたかった、ってのもあるけれど。

 

「フラスコの中の小人を覚えているな?」

「当然だ。ひと時たりとも忘れたことは無い」

「アイツがな、最近俺の血を求めているらしいんだ。あるいは俺そのものを」

「何?」

 

 相談しに来た──のである。

 ヴァン・ホーエンハイム。彼は賢者の石について、そして門を開く陣についてだけを一心に研究する錬金術師だ。

 俺も錬金術師になれはしたけど、扱う内容が違い過ぎてしょーじきわからん部分が大きい。

 

 ならば適任は、っつったらね。

 

「俺は"不老不死"だ。それは紛う方なき事実。そしてその記号は、それを必要とする陣とは何だと思う?」

「……まず、血は"魂の情報"だ。それを欲しがったということは、アイツはお前の魂に目をつけている可能性が高い」

「ああ、その辺はわかってるよ。俺も一応錬金術修めたんでね」

 

 生物は魂、精神、肉体で構成され、精神は魂と肉体を繋ぎ止めるための識別票みたいなもんだと認識している。賢者の石を注入されて自我を失うのは、一つの肉体に複数の魂が入ったせいで精神の接続先が混乱するからだ。精神ってのは拡張子しか識別してくれないから、魂ファイル内に複数が入ることを想定していないっていう。

 そして、魂と肉体は魂の方に比重が置かれている。

 魂さえ無事なら肉体は「取り戻せる」し、「治る」。逆に肉体から魂を探るってのはどーにも難しいらしい。違うものに縫い付ければ簡単に乖離しかけるし、簡単に侵入も許してしまう。

 

 そんな魂の情報をフラスコの中の小人が欲している。

 となれば。

 

「まさか、フラスコを入れ替えるつもりか?」

「ああ、そういうこと? なんだっけアイツ、今お前の皮被ってんだっけ。それを俺に、って? はは、んなことしたって不老不死にゃなれやしないんだけどな」

「それをした後に、お前の魂をアイツが取り込んだら、どうなる?」

 

 ふむ。

 まぁ、パーツごとにはなるけれど、俺と融合するようなものか。

 俺の中にアイツが入り、俺を追い出し、追い出した俺をアイツが飲み込む。

 それで、アイツは不老不死の身体を、そして魂をも手に入れる……って?

 

「今パッと思いついたのはこれくらいだ……だが、フラスコの中の小人(アイツ)のことだ。他の、もっと悪辣な考えを張り巡らせているかもしれない」

「……」

 

 少し。

 少しばかり、考えを巡らせる。

 今パッと思いついたことだ。計画性なんて欠片もない、できれば原作通りになってほしいとか言った俺を真っ向から否定するような考え。

 

「──1904年。この年は、中頃辺りから病が流行り始める」

「……いきなりなんだ。1904年? 未来も未来じゃないか」

「流行り病の波はリゼンブールにまで来て──さっきの女性、トリシャと言ったか。あの人も罹患する」

 

 ペンが。

 何か図式を走らせていたホーエンハイムの手から、ペンがポトりと落ちる。

 

「何を、言っている」

「いやなに、フラスコの中の小人が計画を変更するというのなら、俺だって方針を変えてもいいだろうと思ってね。──罹患したトリシャ・エルリックは、その年の内に──死、」

 

 拳が来た。

 避けない。避けずに殴られる。

 おーおー、もうそこまでアツアツなのか。いいね、だったら俺も楽しいことがしたくなる。

 

「錬金術は万能じゃない。怪我を治すことのできる錬金術は、けれど病は治せない。生体錬成ではなく医術の領域だからだ。毒とかならいけるけどね」

「……それが、なんだ」

「看取れよ、ホーエンハイム。時間が無いのは知っているし、お前の使命感も理解している。だから──()()()()()()()()()()

「! ──ぐ、ぅ!?」

 

 突き刺す。

 その腹……ホーエンハイムの腹部に、腕を突っ込む。

 すぐさま修復せんとするホーエンハイムの組織は、けれど不老不死を前に首を垂れる。無理だと理解し、諦め、血を流す。魂を流す。

 

 それを幾らか受け取って、小瓶に詰めて。

 

「懐かしの見張り番の奴ら、灌漑工事の監督役たち、罪人を拷問する係……名前さえ憶えちゃいないが、はは、なんだ、久しぶりだな、とは言っておくか?」

「待て……返せ、彼らは……」

「わかってるわかってる。だから、遠い所は任せな。ペンドルトンとか、クレタとか、お前の足じゃ遠すぎるだろ? その分浮いた時間を有意義に使えよ、奴隷二十三号。時間に縛られているのはフラスコの中にいるのと一緒だ──って言われなかったか?」

 

 それは、ささやかばかりの原作改変だ。

 あるいはホーエンハイムが流行り病を治してしまうかもしれないが──そうなったらまぁ、そうなったら。別にエルリック兄弟が人柱にならなくたっていい。例えばほら、ハンベルガング家に仕えてるジュドウさんとかさ、マルコーとかさ。

 結構いるんだ、人柱候補。

 もしかしたら、ホーエンハイムが病に対処できず、トリシャはそのまま死ぬのかもしれない。だけど看取れはするだろう。兄弟と一緒に、悲嘆に暮れながら愛した妻を見送るといい。その後旅に出たって遅くはない。

 遅くはならないように、今から俺が動く。

 

「これは礼だぜ、ホーエンハイム。あの日、俺を自由にしてくれた礼だ。等価交換さ。俺に自由をくれたお前に、自由をやる。その後すぐに縛られるのだとしても──最期くらいは、自由を謳歌しろ」

「……どんな病が流行る。今からでも遅くはないだろう。10年もあれば、治療薬くらい──」

「それは教えない。お前が俺にくれたのは自由であって知識じゃない。等価交換だ。自由と知識は等価足り得ない」

 

 決まりきった死と等価に交換できるものなどありはしない。

 あるとしたら、愛情とかかね? なーんて。

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くよ、ホーエンハイム。久しぶりに会えて良かった。そんじゃーな」

 

 待て、という声はかからなかった。

 俯いたままのホーエンハイムに後ろ手を振って部屋を出る。

 

 出て、お盆にお茶を乗せたトリシャ・エルリックにばったり出会った。

 

「あら、もうお帰りなんですか?」

「ああうん、言いたいことは言ったし、再会も祝えたからね。お気遣いありがとう」

「いえいえ……あの人の友人なんて、あんまりにも珍しかったので、驚いてしまいましたが……良いご友人がいたようで、私も嬉しいです」

 

 友人。

 ……ちなみにホーエンハイムと出会ったのこれが二回目ね。ハハッ、それで友人なら、万国共通全員友人だな。

 

「ああ、俺からしても良い友人だ。それじゃ」

 

 言って、今度こそエルリック家を去る。

 

 ま、あっちが友人なんて位高いモンに思ってくれてるかは知らんがね。

 フラスコの中の小人とおんなじで邪魔者にしか思ってないんでねーの。

 

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