緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
最終話までの中で、最後の、平和。
わからないことをそのままにしておくのは中々に気分が悪い。
結局、ロイ・マスタングはクロードを見つけることができなかった。できないまま新年を迎えた。
ただ、アメストリスにもあった新年を祝う催し物の類は今年は開催されていない。当然だ。真っ黒な空が晴れない限り、夜とも朝とも昼とも言えない──まるで時間が止まったかのような数日間。
あの時から──誰の時間も、進んでいない。
クロード捜しも、ブレダとハボックの
1915年を迎えられた気分のしないままに、ずっと。
ただ、不安の最中であるものの──珍しく平和な日々だった。
無論暴動を起こす者はいたけれど、すぐに鎮圧されて。空が黒いこと以外は、ただの日々。
「……嵐の前の静けさ、ね」
「中尉。気持ちはわかるがあまり滅多なことを言うものではないぞ」
「すみません、大佐。気が抜けていました」
真っ黒な空を見上げるのは二人。
「……オレら、死んでなくていいんすかね」
「ブレダ。……言わなくていいことも、言わないでくれ」
「……っすね。すんません」
ブレダとハボック。二人じゃない。この二人も、いた。
そして──それはおかしなことでもあった。
「どの道私には見えんが……まだ暗いか、空は」
「暗いっつか黒いっつか。絶対に自然現象じゃねえ黒だ」
「距離もわかりません。疑似・真理の扉でしたか、あそこは。あそこと似ているような、全く別であるような」
「銃弾は届くのか?」
「届いています。ただ、消滅している、としか」
「……質量保存の法則も無視か。つくづく……いや、まったく別のところに……?」
アメストリス全土にあったゾンビ騒動の名残。
各ゾンビに埋め込まれていた名前の刻まれた鉄板。それが、空が黒くなると同時に空へと昇って行った。
一部を除いて、だ。
それはマース・ヒューズの見つけた六角形。「元に戻す効果を元に戻す」錬成陣の内部にあった鉄板だけは、魂が出て行かなかった。ロイ・マスタングはギリギリその六角形の中にいて、だからブレダとハボックが「元に戻す」効果を受けずに残っている。
ただそれが錬成陣の外に出ても同じかどうかはわからない。
誰も──誰もそれを試せない。当然だろう。やり直しなど利かないのだから。
「鋼のを見たという報告はあったか?」
「いいえ。エルリック兄弟、ホーエンハイムさん、
「……そうか」
「ただ、アームストロング少佐から先ほど通信が」
「少佐が? 何と言っていた」
目が見えず、自分で歩くことも出来ないロイは、かつては頻繁にやっていたような自ら情報収集をする、ということができない。電話が鳴ってもすぐには取れず、報告書も資料も読めない。ブレダに読んでもらう、ハボックに報告してもらうしかできないのだ。
故、やはりどうしても、何もかもの行動がワンテンポ遅れる。
「各地で盗みを働く白い妖精のようなものの目撃情報が報告されている、と……」
「……」
「……」
沈黙。溜め息。
怒りというものは維持をするのに非常に多くのエネルギーを必要とする。どんなに怒りっぽい人でもずっと怒っていることは難しく、体力をかなり消費する。それが元々良識ある、怒らないのが常である人ならば──。
「……憲兵に手配を出す。多少手荒な手段を使っても……いや手荒でいいからそれを捕まえて来いと発布しろ」
「はい」
ロイは。
その腹立たしさを──ああ、何度振り返っても、何度考えても苦しいのに。
己の無力。己の考えの至らなさ。全てに苛立っているのに。
「──ふぅ……ああ」
「大佐。無理に怒らなくていいすよ」
「ははっ、だから言ったんだ。大佐には復讐者は似合わない、って」
お前たちの事で悩んでいるんだ、と言いかけて、それも違うと飲み込んで。
「あのですね、大佐。こういう機会だから言わせてもらいますけど──俺ら、めちゃくちゃ後悔してるんです」
「……だろうな。全て私の責任だ。……取れもしない責任だが」
「違いますよ。最後まで聞いてくださいや。……後悔してる。記憶は飛んじまってて正確なことはわからねぇが、単独行動をしたか、あるいはブレダと一緒にいて敵わなかったか。どっちかだろう。──そん時死んどけば、アンタにこうも後悔を続けさせることは無かった」
「……それ以上を言うな」
「まーまー。毎回毎回止められるんで、今回くらい最後まで言わせてください。死んどけばよかったって、何度も何度も思ったんだ。俺達はアンタを支えたくてアンタの下にいた。それが重荷になっちまったら意味がない。──だけど、多分アンタは俺達がそこで死んでたって、俺達の事を背負い続けたでしょう」
想像に易い。
想像に、易かった。目が見えていても、足が動いていても、二人の事で頭がいっぱいになって、鬼のような顔でセントラルを歩き回っていただろう。
「だから、あそこで死んどけばよかったし、今生きててよかったって思うんすわ」
「矛盾しているぞ」
「まー、ハボは学がないんで許してやってください。ただオレも一緒スよ。タバコが吸えねえのが一番でかい後悔で、それ以外はまぁ、大佐に背負わせるものじゃない。多分ですけど、オレらがあそこで死んじまって、声も届けられなかったら──アンタは癇癪みたいに全部を燃やして、自分自身も燃やし尽くしてた。復讐っつーのはそういうもんだ」
「なんだブレダ、経験したことあんのか?」
「ねーよ。ただ、そういう奴は沢山見てきた。ハボも大佐もそうでしょう」
「……ああ」
見てきた。
あの国家錬金術師殺し──
自身さえも焦がし尽くす炎に包まれた復讐者。自らの命どころか、周囲の命も、仲間の命さえも顧みなくなる怪物。
あれは──少なくとも、軍人じゃない。
少なくとも、国を、誰かを守る存在じゃない。
「多分今、ここにオレ達がいなかったら、アンタはずーっとそうだった。多分ずーっと、燻ぶった火が消え切らねえまま、ずっとずっとおかしな思考で突き進んでた。あん時の……ブリーフィングの時の、一応利害の一致したメンバーが集まった時の大佐なんか見てらんなかったスよ。全員に敵意振りまいて、誰も信用できないから信用できる要素を出せって言って」
「あー、あの時の大佐はヤバかったな。ぶっちゃけ連中の方が和を乱しそうなメンツなのに、大佐が一番乱してた」
「……中尉も、そう思うかね」
「思わないと思いました?」
「いや……そうか」
マスタングは車椅子に背を預け、天を仰ぎ見る。
何も見えないが──そこに仲間を幻視する。
「だから、良かったと思ってますよ。──オレは今、アンタを止められる。声が出せるってだけでこんなにすげぇことができるんだ。焔の錬金術師、巷じゃ浄火の錬金術師でしたっけ? ははっ、そんなすげぇ人が上司で、そんなすげぇ人を止められる。大佐、この先どうなっても、多分オレ達は死ぬ。そりゃ絶対だ」
「もう死んでるんじゃなかったか?」
「……まぁ錬金術のことはわからねぇが、オレらは絶対アンタと一緒には歩んでいけない。だから……別に今すぐ死ぬってわけじゃないですけど、今言っときますよ」
「俺はアンタが大総統になって、この国を変えるところを
「先に言いやがったよコイツ」
ぎゃいぎゃいと。
二人の声はロイの耳にそのまま突き刺さるというのに、言い争いを始める二人。うるさかった。もう単純にうるさかった。
うるさくて。
「……中尉」
「はい」
「今の私の顔は、どうだ。酷いか?」
リザが、ロイの顔を覗き込む。
その顔は。
「──それセクハラだぞ、ロイ」
べちん、と。
資料の束で、ぶっ叩かれた。
「……ヒューズ。今良い雰囲気だったのだが」
「ちなみに顔は酷いです。隈が深い上、すこし老けて見えます」
「老けっ!?」
でも。
何故か、見えた。苦笑している二人の顔が。いや、ブレダもハボックも、今はここにいないがファルマンやフュリーも──苦笑している姿が。
溜め息をもう一度。大きく、大きく吐く。
「似合わないか。私に、老け顔は」
「いえ、人間いずれ老けるものですから。大佐がこのままだろうと元に戻ろうと、老けはするものかと」
「……中尉。容赦という言葉を知っているか?」
「いえ、存じ上げませんね」
「ちなみに俺も知らねえ。大佐にまでなって部下に迷惑かけすぎだろ。士官学生かお前は」
「士官学校からやり直すのは、手かもしれないな」
口角を上げる。
笑い方。ロイは覚えているだろうか。ちゃんと、できているだろうか。
「──すまなかった」
声に出せば。
「よぅ、色男。久しぶりじゃねえか」
「お、下向いてくださいよ大佐。オレらにもキザな顔見せてくださいって」
また、賑やかになる。
今度は──本当に無理なく。
さて、ここは一応東方司令部だったりする。というのも、セントラルは「元に戻す効果を元に戻す」錬成陣の端っこ過ぎて、万が一があり得たからだ。
よって東方司令部に居を戻し、ハクロ少将に司令室を一つ分けてもらっての、これ。
だから色々勝手知ったる部分があるし、なんならもう実家のようなもの。だから色々開けっ放しで、兵士なんかも顔パスで、だから、だから──。
とか関係なく、ソイツは降りてきた。
真白のローブ。金髪金眼の特徴。ニヤニヤした笑みを浮かべる10歳くらいの子供。
ここは司令室である。天井はちゃんとある。ただ、冬でも換気意識が高くて、窓は開いていた。それが原因だろう。
ソイツはフードの端を掴んで──ヒーロー着地で、ロイの前に降り立った。ロイは見えていないが。
「よぉ、色男。久しぶ」
「捕らえろ!」
「おっしゃ! 縄!」
「手錠をかけますね」
「えっ」
何故憲兵でもないリザが手錠を常備していたのか。何故東方司令部に手軽に使える縄があるのか。
そういうのは一切合切どうでもよく、とても効率的にとても良い連携で、その「各地の食べ物を盗み食いする白い妖精さん」は捕らえられた。
人がせっかくの久々ヒーロー着地キメたら、なんか捕らえられたわ。
「どこへ行っていた、クロード」
「アメストリス全土」
「……何をしに?」
「色々食べに」
「何故」
「お前らが
重大情報をポロっと零してみる。
これは等価交換とかじゃなくて、この後ブリーフィングなりなんなりすれば絶対話すことだから。
「……色々聞きたいことがある」
「代価次第と言いたいところだが、俺さ、金無いからめっちゃ盗み食いしてきたんだよね。それの代金くれたら話すよある程度は」
「金額は?」
「これ」
「……結構ですね。とはいえそこまででもないので、大佐の貯金から払っておきます」
「まぁ……良いが」
それくらいの金は持ってるだろうから、いい交換だろうこれは。うん。
「まず、上の膜とやらはなんだ。ドームだか黒いのだか」
「フラスコだよ。今アメストリスはフラスコの中にある現状だ。外界と隔絶された……つっても錬金術的に隔離されている、が正しいか」
「出る手段、入る手段は?」
「あるっちゃあるし、ないっちゃない」
「……代価は払ったのだ。言葉は正確に頼む」
「死んだら出られる。生きてる内は出られない」
「……成程」
命の無いもの、生命判定を受けないものは素通りできる。光は通さないけど熱は通る。俺もコレについてはよくわからん。結界とか防御とか、そういうのに詳しい奴……アレだ、メイ・チャンとかは詳しいんじゃないか?
少なくともアメストリスの錬金術はあんまりこういうことしないからなぁ。
「このフラスコには何の目的がある」
「そりゃ中のものを出さないためとか、中のものに何かを作用させる時、その効果を内々に留めるためとか、より効果的に効果を発揮するためとか」
「フラスコの利用目的など聞いていない」
「いやだから同じだよ。実験で使うフラスコと、このフラスコは同じ」
定着させる力の無い魂は上に上がって、なんか俺の血で勝手に作りやがった「戻す」錬成陣の中にあるものはその効果を受け付けない。
……あの錬成陣は多分、もう一個目的があるんだろうけど、まぁ今は言及しなくていいだろう。
「他のメンバーの動向は?」
「他の奴らに聞けよ」
「……
「ブラッドレイはフツーに大総統府にいるだろ。グリードはダブリスの酒場にいるよ。ネオ・デビルズネストって酒場」
「敵の
「知らね。この前エンヴィーがガゼルになってるのは見かけたけど。プライドとラストは適当などっかにいんじゃね?」
まー。
プライドの居場所は、アメストリス全土だし。セリムの居場所は大総統府だけど。
ラストは本気でわからん。近くに来たら氣でわかるけど、アイツの居場所だけはマージで知らん。何やってんだろね今。
「今まで──私の前に姿を現さなかった理由は?」
「お前がピリピリしてたから。苛立ってる奴の前にわざわざ行くこたねーだろ」
「──そうか」
小声で、ハイマンス・ブレダとジャン・ハボックが「言われてますよ」とか「ほらやっぱり」とか言ってる。
うん。
こいつらとか、マース・ヒューズとかが、何とかしたんだろう。
憑き物が落ちたような顔をしている。前に
火が消えたなら。
落ち着いて、失った感情を取り戻すことだって良いだろう。
「この錬成陣から出たら、ハボックとブレダはどうなる」
「天に召されるだろうな。ああだから、出るなら俺が等価交換屋さんしてやるよ。お前の視力と足、治してやる」
「……その話については、後で良い。それで……
「日蝕がある。意味は自分で考えな」
よし。
食べ歩き代金の等価はこれくらいだろう。
「ロイ・マスタング」
「……なんですか」
元のキザ男になったロイ・マスタングに──万感の意を込めて言う。
「──金を貸してくれないか。あとで返す」
貸してくれた。
……高くつきますよ、とは言われたけど。
ところで、最近になってできた付き合いで、一番ウマが合うのは、なんとアレックス・ルイ・アームストロングだったりする。
俺って空気読めないんだけど、読めないらしいんだけど、そんな空気読めない俺に対して怒るでもなく呆れるでもなく、正しい空気の読み方をこっそり教えてくれる彼。姉の方も怒るでもなく呆れるでもなく「そうか」って言っていい利用方法を考えてくるあたり、やっぱり姉弟だ。
また、原作と違ってアームストロング家が小旅行に出かけていないこともあって、たまに家に呼ばれてご飯貰ったりしてる。等価交換にお礼しようとしたら「友と食事をすることにお礼など要りませぬ」とか言われて真面目に困ったりした。いや等価交換に縛られる必要のない俺だけど、基本的にはっつーか人相手には結構守ってる方ではある上、盗んだのでもない、友好的な相手に貰ったもの。
……お礼は要らない、って言われてもなぁ。
いやだって、アームストロング家も俺が緑礬の錬金術師ヴァルネラだと知った上で受け入れてくれていて、料理も貰って、それで何もいらないとか。
ダメだろう。
元生体錬成の権威で、ちょーっと色々なことを知ってるこのヴァルネラ君が無償の施しを受けるのは……こう、概念というか存在的に。
「つーわけなんだよブラッドレイ。なんかいい案ない?」
「……お前は。わかっているのかね? 私はお前にさえも怪しまれる立場にあることを」
「俺がお前の何を怪しむんだよ。好きに裏切れっつったろ?」
「……では、それをさておくにしても、だ」
だから聞く相手絶対間違ってるとは思うけど、こういう話して割合的確な答えくれるのコイツくらいだよな、って思ってブラッドレイを選んだ。
「君、私と敵対していること忘れていませんか?」
「してたか? お前らが勝手に敵対しただけだろ。俺はしてねーよ」
「……まぁ、構いませんが。母上には接触しないでくださいね。君は一応大犯罪者なのですから」
「はいほいへい」
当然のようにプライド……セリムもいたけど、まぁ関係はない。
何度も何度も言ってるけど俺は別にどっちが勝っても良いんだ。たとえ今お礼しようとしているアームストロング家が目の前で賢者の石にされても別にいいし、この二人が人間に打倒されても構わない。
だったら付き合い方を変える必要もない。
「で、要らないと言われた礼をする方法か」
「おん。なんかある? 良い案」
「……わからん。私も自ら礼を送ったことなどほとんどない。スイカなどではダメなのかね?」
「そういう物は受け取ってくれないんだよ。俺も料理の対価は料理で、とか考えたけどさ。俺が料理作れないし、ランファンになんか料理覚えたか聞きに行ったらまだ人に振舞えるものではないとか言われたし。他の何を買っていくにしても、アームストロング家が手に入れられないモンで俺が手に入れられる料理なんざないし」
「ふむ」
悩ましかった。
いや、なまじっかあの家金持ちなんだよ。マジで。
ゾンビのための集合住宅作って、それが無駄になっても金に困らない程度に金持ってんだよ。この国の美味珍味なんか全部知ってるんだよ。
それでいてなんか大怪我してるとかもないし、家族全員美肌だし、怪力だし。
俺があげられるモンが一個もない。
「……たまに思うのですが、お父さんも君も、馬鹿ですよね」
「ほう? 中々言うな、セリム。ではお前は何か考えつくというのかね?」
「また行けばいいんですよ。アームストロング少佐が友人を家に呼んで食卓を囲むこと。それがアームストロング家への礼となるのですから」
「……え、
「見下していることと理解していないことは違いますよ、不老不死。今でも愚かだと思っていますし、道化だと思っています。くだらないことしかできない、くだらないことで争い、傷つき、どうでもいいことしか成し遂げられない烏合の衆だと。──ただ、良いサンプルケースではありますから」
溜め息をついて、プライド……つーかセリムは。
「私も家族を演じるにあたって、子供の振舞い方を日々勉強しているのですよ。もうすぐ意味のなくなることであっても──母上とは、その最期までを家族として過ごしたいので」
「ほーん……」
「はっはっは、どうだクロード。これが"成長"というものだ。私たちは親子喧嘩を経て一歩前に進んだのだよ」
「お前進んでねーじゃん」
顔が半分に切られる。
おいおい血が飛び散るって流石に。
「私もセリムも──そしてラストやエンヴィーも進んでいるとも。グリードは……一歩どころではない程に進んだようだが」
「アイツはもう人間だろ。まぁ人間になることを進むと表現するかどうかまでは俺は判定しないけど」
「もうすぐだ。もうすぐ──全ての意味がなくなる。人の営みは失われ、"お父様"がこの地に降る。……それでも私が、私を含む
「お前は死ぬからだろ。計画の成否に関係なく、寿命で」
だから、嬉しいんだ。
誰も彼も──自身を追い抜いていく者達が、自身を糧に変わっていくことが。
俺には無い感覚でありながら、本来はもっともっと経験値積んだ爺さんが持つような視点だろう。
「セリム。私が死んだ後、頼んだぞ」
「……だから、全て意味がなくなると言っているじゃないですか」
「お前たちの企みが阻止された場合の話をしている」
「阻止されたら私だっていなくなりますよ。君もね。──母上は、独りになるんです。だから今、少しでも……」
おお。
これ、俺退散した方が良いな。
家族の団欒だ、コレ。もう答えは貰ったし──帰ろう。
「クロード」
「ん」
「……おかしな話だがな。
「おかしな話だよそりゃ。答えも貰って礼も貰ったら、貰い過ぎだろ。等価交換だっつってんだろこっちは」
「はっはっは、そのまま等価交換の法則など壊れてしまえば良い。……次に会うときは、敵か、味方か」
「どっちでも変わんねえよ。またな、ブラッドレイ親子」
「……あまり来てほしくはありませんが。はい、また」
1915年1月。
それが──彼らとの、ほのぼのとした会話の、最後。