緑礬の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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それぞれの事情/打算/目的


第40話 溶け落つ牙城

「お前はキング・ブラッドレイだ。まずそれは変わらねえ。ブラッドレイ夫人を妻とし、セリム・ブラッドレイの父親。これも変わらねえ。別にお前の存在自体はなーんにも変わらねえ」

「そうだな。間違いはない」

 

 だが。

 

「お前、なんつってたっけ? "人造人間(ホムンクルス)を一掃し、その企みを阻止せんとするために動こうと思う"──だっけ」

「ああそうだとも。そしてそれは何も変わってはいない。嘘など一言も吐いておらん」

 

 故に、コイツはブラッドレイだ。

 フラスコの中の小人(アイツ)ではなく、ブラッドレイ。では何故俺がコイツをフラスコの中の小人と呼んだのかと言えば。

 

「言の葉の先を取るな、と何度も言っているはずだぞ、クロード。──これより私がフラスコの中の小人と……"お父様"となるのだ。そこで大人しく見ていろ、不老不死」

「あいよ」

 

 さて、ではコイツが語ろうともしないことについて、軽く触れておこうと思う。

 

 そもそもの話からだ。

 エンヴィーが呟いた積方球体錬成陣。これはフラスコの中の小人の発案。魂とその不純物で作り上げた半球は黒く目を引き、地中への意識を逸らす。地中の半球は賢者の石で動かして記号を作る。これで球体の錬成陣──どの角度から見ても、様々な意味を抽出することのできる錬成陣が完成する。

 人造人間(ホムンクルス)らが傘作りを妨害しなかったのも似た理由。

 勝手に四隅に行って、勝手に真ん中に人柱がばらけてくれるんだ。止める理由がない。

 月に開いた真理の扉から降ってくるフラスコの中の小人からしっかりと見える形で、積方球体錬成陣、及び十字に並んだ人柱があそこにいた。

 

 そして、本来は。

 

「何故──何故だ、何故だ憤怒(ラース)……何故ワタシの中に戻ってこない! オマエはワタシのものだ……ワタシの感情だ、憤怒(ラース)……!」

「あまり失望させないでいただきたい、父よ。──貴方は感情を切り離すことなどできてはいない。人間を見下し、傲岸不遜に振舞う傲慢さも、カミなどというものを欲さんとしていた強欲さも、自らがフラスコの中でしか生きられないことを嘆く嫉妬も、これほどの力を有しながらまだ満たされぬと感じる暴食も、支配されることを嫌い、自身は自身で完結していると嘯く邪淫も、他者に任せきりな怠惰も──そして、今あなたがしているカオ……我が名の冠する憤怒も」

 

 誰もが動かなくなった黒の中で、ブラッドレイだけが朗々と話す。

 話す相手は、再誕したフラスコの中の小人だ。巨大な水の塊のようなソイツに、講を垂れる。

 

「貴方は何一つ切り離せてはいない。ならば、ヴァン・ホーエンハイムではなく、()()()()()()()使()()()()()()()ところで、貴方は貴方だ。何も変わりはしない」

 

 そう。

 フラスコの中の小人の目的は、再誕。

 ヴァン・ホーエンハイムなどという出自の知れない一般人の血からではなく、俺という不老不死の血を媒介にこの世に()()()()()。血という神の構築式を用い、扉のムコウから取り出されたフラスコの中の小人ならではの再誕方法。

 

「オマエの眼は節穴か、憤怒(ラース)。現に、ワタシはフラスコの外にいる! これほどまでに巨大な体を手にいれ、真理の引力さえも味方につけた──このワタシが、以前のワタシと変わりないだと? そんなはずがないだろう!」

 

 べたべたと。べちゃべちゃと。

 真理の扉から伸びた黒い手は、未だにこの錬成陣……錬成球に手を伸ばしている。

 地鳴り、地響き。

 地面が隆起したように見えたのは錯覚ではない。

 

 ()()()()()()()()()のだ。

 

「では、あなたに何ができる。──何ができるようになった、と問うた方がよろしいか?」

「──では、死ね。憤怒(ラース)

 

 作り上げられるは、原作でも見た小型の太陽。それ引力どーなってんのとかいやたとえ作れてもこの距離だと熱で全部蒸発するだろとかの一切を無視した輝きが、ブラッドレイに向かって落とされる。

 

「クロード」

「おいしょー」

 

 ぶん投げる。

 腕を。

 

 それは小型太陽に直撃し──熱線となって誰もいない荒野に突き刺さる。

 熱を操る錬金術。俺の師たるシルバ・スタイナーより教わった錬金術の、攻撃転化だ。

 

「邪魔をするな、不老不死。これは親子の問題だ」

「親が子を殺すのを黙って見てろって、無茶言うよな」

「今更医者面かね? もうとっくに辞めたものと思っていたが」

「アレェ、なんで味方してやった奴にまで刺されてんの俺」

 

 話を戻そう。

 真理の扉から出てきた黒い手くんは、何もフラスコの中の小人の味方をしているわけではない。

 代価を──支払いを求めているだけだ。

 

 フラスコの中の小人の目論見通りに行っていたら、フラスコの中の小人がこの世に生まれ出でる代価として、アメストリスそのものを差し出していた。さらにその最中国土錬成陣が発動し、俺という存在から自らへ不老不死……という名の「神の代替品」を自らに上書きして、今度こそ本物になろうとしたわけだ。

 あの病院にあった石板の奴ね。

 

 だが、それを利用した奴がいた。

 

 ブラッドレイ。

 敷かれたレールが無くなった時から、他の人造人間(ホムンクルス)を一掃し、その企みを阻止し、フラスコの中の小人の秘中の秘を潰すことを画策していた。

 そしてすべての準備が揃った今、最も無垢な状態のフラスコの中の小人を取り込もうと……っつか成り代わろうとしている、が正しいか。

 

 さて、そろそろ日蝕が終わる。

 暗い世界が晴れていく。

 

 これによって発動するのは、ブリーフィングでも話した通り「元に戻す」効果を持つ錬成陣だ。

 

 本来のフラスコの中の小人の計画であれば、「カミ」を自らに上書きし、このアメストリスの大地から賢者の石を含むあらゆるものを自身に戻し、アメストリスと、そこに住まう人々を代価として扉に渡しての再誕──という流れだった。

 

 だがここにはまだブラッドレイがいる。

 

 今、「元に戻す」という効果が発動した場合、元に戻るのは何か。何が、どこへ戻るのか。

 

「お──オォォォオオオオ!?」

「兄弟はいない。そして、()()()()()()()()()、"()()()"」

 

 引きずり込まれる。

 元のフラスコの中の小人の中身、その過半数以上を一度扉の中に戻し、しかし帰って来た。方法はアルフォンス・エルリックとエドワード・エルリックの混線と同じ。魂で繋がった者がこの地にいるのだから、死んだわけではない、持っていかれた──持って行かせた──だけの魂が戻せないはずがない。

 この手段を用いてフラスコの中の小人は再誕し、だからこそ未だ消えていない元のフラスコの中の小人の魂に引きずり込まれる。

 これもアレだ、原作でグリリンの中のグリードがリン・ヤオよりもフラスコの中の小人に強く引っ張られたのとおんなじ理論。

 

「オマエは、オマエは人間だ! ワタシを御せるモノか! カミでもない、何十万の命も持っていないオマエの肉体如きで、今やカミをも上書きしたワタシを──ワタシを飲みこめるものか! 否、否だ! ──そのまま内側から破裂しろ、憤怒(ラース)! その血肉、余すところなく消滅させてくれる!」

 

 黒の巨人が、黒の海が。

 この球体の中にどっぷりと詰まったフラスコの中の小人という名の雨が、全てブラッドレイに吸い込まれていく。

 

 さて──俺がロイ・マスタングに言った、半分の確率。

 

 とりあえず真理の引く手は止まった。

 当然だ。かつてのクセルクセスで、扉のムコウからフラスコの中の小人を取り出すための実験が行われた。正確には"大いなる叡智"を引き出す実験。そのために使われたホーエンハイムの血が奴に人格を与えた。

 ──その裏側で、錬金術師が一人いなくなっている。

 これもまた当然だろう。生きた真理の断片、とでもいうべきものを呼び出したのだ。真理の代価が持っていかれる、なんてのは今更過ぎて説明の余地もない。

 

 そして今、同じことを、今度はフラスコの中の小人自らがやった。

 真理の断片たる己を俺の血を用いて呼び出し、代価として持っていかれるはずだったアメストリス。けれど呼び出したのではなく取り返したのだとすれば、それは等価交換でもなんでもない。

 売ったものを買い戻した、が一番わかりやすい概念か。買戻しの手数料だけが差っ引かれて、フラスコの中の小人は元に戻る。ブラッドレイという"元"に。

 

「アメストリスは代価にならん。あれは私のものであって、"お父様"のものではない。故に返せ、真理の扉よ。そして──持っていけ」

 

 ブラッドレイが眼帯を取る。

 その目から──ウロボロスの紋が消えていく。

 通行料だ。ブラッドレイは扉を潜っていないが、今しがた吸収したフラスコの中の小人が潜った分の対価を代わりに支払う必要が出たのだ。何故ならその潜ったフラスコの中の小人はブラッドレイの中の人造人間(ホムンクルス)たる部分と融合し、本人となったに等しいのだから。

 故に一新する。

 故に成り代わる。

 

 ブラッドレイは憤怒(ラース)を通行料として明け渡し、代わりにフラスコの中の小人を取り戻す。

 扉が──閉じる。黒い手はブラッドレイから赤黒いモノを奪っていき、そして。

 閉じて。

 

 閉じた。

 

 結果は。

 

 

 

「……フン……人間が、大それたことを考えるからそうなるのだ。まったく……こんな、単なる人間の身体……これでどうワタシを抑えようと思ったのか」

 

 結果は……まぁ、70点、ってところか。

 少しでも意識が残ってることを期待したんだがな。完全に食われたか、これは。グリリンみたいに中に残っててくれるとありがたいんだが。

 

 さぁて、じゃあクロード君お得意の時間稼ぎの時間だ。稼ぎ時だからな。

 

「なんだ、クロード=ルイ・アントワーヌ・デクレスト・ド・サン=ジェルマン。まさかとは思うが、憤怒(ラース)の敵討ちでもする気かな?」

「あっはっは、お前、俺にそんな力熱あると思ってんの?」

「では何故準備運動などしている。というかオマエに準備運動など必要ないだろう。凝り固まる筋肉などないクセに」

「それはそう」

 

 日蝕が終わるまで、あと四分ちょいくらいか。

 会話でどーにかできたら楽なんだけど、ま、そうもいかないわな。

 

「……何を以て、ワタシの前に立ちふさがる。クロード=ルイ・アントワーヌ・デクレスト・ド・サン=ジェルマン」

「一々フルネームで呼ぶなよなげーから。んで、立ちふさがるだろ。お前今アメストリスに何しに行こうとしたよ」

「賢者の石を作りに」

「素直だなぁ。美徳として誇っていいぜ」

 

 まぁ、一人分の賢者の石というか、ブラッドレイ一人の命じゃコイツは我慢できないだろう。

 別に扉のムコウから来たコイツが数多の命を持っているわけでもなし。今は一応フラスコの中の小人も加算して二人分かね。

 

 魂はまだぐちゃぐちゃしててよくわからんが……お。

 

「──流石に、堪えるな……これは」

「む……」

 

 走り出したブラッドレイ、つーかフラスコの中の小人の持つ剣に手のひらグサァして、柄ごと握って剣を止める。

 

「よぉ、おはようさん。刺青の男(スカー)兄」

「イシュヴァールの……ふむ、クロード。何故このような男を守る? オマエに守られる価値があるようには見えないが」

 

 俺が散々言ってる、要否の要。

 希望。

 

「──成程、事情は把握した。一応断っておくが──私はイシュヴァールの民だ。殲滅戦の令を出したのがブラッドレイであることは忘れていないな?」

「勿論だ。嫌なら逃げな。お前以外の要に頼む」

「成程、君が事あるごとに言っていた要否とはこれか」

 

 俺がずっと言っていた要否。

 実はめちゃくちゃ簡単なんだ、その判定基準。

 

「生憎と、魂の錬金術は門外漢でね──コイツとブラッドレイを交換する錬成陣を頼むわ。俺より頭が良くて、魂の錬金術に携わったことのある奴、つまり、今この時の俺に必要な奴!」

 

 軍刀を緑礬で風化させて、組技を仕掛ける。

 コイツがブラッドレイの身体に慣れる前に封じておきたい。ぶっちゃけ俺じゃ本気ブラッドレイに勝てん。いや、今この場にいる奴が何人束になったところで勝てはしないだろう。憤怒(ラース)の付随物たる最強の眼は無いから、列車爆破ならワンチャン……いやコイツ身体能力マジでお化けだからなぁ。

 そんな体をフラスコの中の小人が手に入れたとあらば──まぁ、あとはお察しである。

 

 ブラッドレイがフラスコの中の小人を抑え込めていたら、アメストリスは滅びない。

 ブラッドレイがフラスコの中の小人を抑え込めなかったら、アメストリスの民は多分全部賢者の石にされる。今度こそ、徹底的に、すべての芽を摘まれた上で。

 

 な、半々の確率だろ。

 

 確率を一から調べ直してこいという意見は受け付けん!

 

「む……?」

「ち、」

 

 組技仕掛けようとしたら距離を離された。

 素人もいいところな動きなのに、身体能力差で追いつけん。なんじゃそりゃ。コイツ人間の、60歳の爺さんだぞ。

 

「おお?」

「最悪別にブラッドレイは死んでてもいいんだけどな──コイツを残しておくのが、めんどい!」

 

 時折感嘆詞と疑問符を混ぜながら……着実に、確実に動きが良くなっていくフラスコの中の小人。

 気付いたのだろう。

 

 めちゃくちゃ動きやすい体に。

 

 ゴキッ、と。

 今時ヤンキーの皆様方でもやんないようなテレフォンパンチで、首の骨を折られる。

 ダメージは当然ないけど、なんであんなの避けられなかった。なんで折られるに至る。

 

 やっぱりコイツの最強は最強の眼じゃなくて身体能力なんだって! 賢者の石に適合した最強の肉体の持ち主なんだって!

 

「これは……中々。ふむ、そういう路線もアリだったか」

「つーかお前、俺への代価まだ払ってないだろ! 寄越せよ!」

「そう言われてもな。オマエ達の企みのせいで、今持ち合わせがない。おお、そうだ。すぐそこで賢者の石を作ってくるから少し待っていろ、クロード」

「んな小銭作ってくるからみたいに──ッ」

 

 斬られた。軍刀持ってることに気付いたか。

 肋骨を真一文字にぶった切るとかいう意味の分からん攻撃で、身体が両断される。

 

 丁度いい。

 

「食らえ、テケテケ砲!」

 

 瞬時に腕を再生させての上半身投擲。撒き散らされる血は触れただけで緑礬を咲かせる。別にブラッドレイが死んでもあの身体が死んでもどうでもいいんだ。あー、他に流れ弾あったらスマンな!

 

「……」

「壁っ!? って、ああそうか、コイツ普通に錬金術も……」

 

 おいおい、転生チートキャラかよ。

 真理見てて、今は賢者の石ないから手合わせ錬成使って来たけど、それでいてブラッドレイの身体能力だと? これで賢者の石で寿命問題クリアしたら最悪だぞオイ。

 

「──こなくそ!」

「む……」

 

 疾走するフラスコの中の小人をスパイクが襲う。飛ぶようにして避けたフラスコの中の小人を追撃するように、その小剣をぶつけようと──はい割り込みキック!

 

「接近戦はダメだ、エドワード・エルリック。賢者の石にされるぞ!」

「……結局アンタらが戦ってんのかよ。ああもう、傲慢(プライド)の甘言に踊らされた自分が馬鹿みたいだ……」

「何を悔やんでるのかは知らんがありゃブラッドレイじゃなくてフラスコの中の小人だ。セントラルへ入られたら目に付く一般人全部賢者の石にされるぞ。その後アメストリス全土を賢者の石にして、キング・ブラッドレイの身体能力を持つ不老長寿のノーモーション錬金術師の完成だ」

「言ってることは半分以上わかんねぇが、要はあのオッサンぶちのめしゃいいってことだろ!?」

「お前がそんなに脳筋馬鹿だったとは思っていなかったが今はそれで十分だ!」

 

 エドワード・エルリック。なんか悩んでたっぽいけど、なんか吹っ切れたっぽい。

 んで、アイツの錬金術はとても良い。遠距離攻撃ができる上で想像力も豊か。造形系の錬金術が苦手ってことはそういうのができないってことなんだよ俺。実は錬金術師としてはかなり弱いんだよ俺。

 つーことで、俺は近接戦闘だ。

 命を吸われる心配が無いんだ、俺が前に出るべきだろう。

 

「エドワード・エルリック! 切れ味良い剣くれ!」

「ンなもん自分で作れよ! アンタだって錬金術師だろ!」

「つくれねーから言ってんだよ! あとでなんか払うから! あるいは怪我したら治してやるから!」

「──言ったな。重傷者が一人いるんだ、その人を治してもらう。だから、ほら、よ!」

 

 手を合わせて、バチバチと錬成反応が出て、地面から趣味の悪い意匠の施された剣が出てくる。いやこれ真面目に凄いんだよな。脳内に意匠と剣の形状、刀身の材質、その他諸々──全部を"理解"して、周囲の鉱物類を"分解"して剣に"再構築"している。

 一瞬で、だ。

 手合わせ錬成ができるから、とかじゃない。マジの天才なんだよ国家錬金術師って。バスク・グランとかジョリオ・コマンチもそう。あり得ん思考速度してんの。

 

「その等価交換、受け取った!」

 

 ロン家で習った武術に剣を使うものは存在しない。

 ただ、腕力による拳じゃあブラッドレイボディに傷一つ付けられないと思っての選択だ。剣ってのは振り回すだけでも力に──。

 

「顔が、斬れ……ッ!」

「ああいやそれは大丈夫治るから。だけど剣も斬られちまったわ。ああ、等価交換はちゃんとするから安心していい。が……これは困ったな」

 

 ここはセントラルの北、ノースシティの手前。

 人口の多い方としてセントラルに向かってくれたからいいものの、そろそろ俺の足も限界だ。疲労とかじゃなくて、単純に走力差がヤバい。

 

「だぁっ、遅ぇ! こっち乗ってけ!」

 

 ほら怒られた。

 お前も歩幅狭いんだから同じだろ、とかどうでもいいこと言おうとしたけど、そもそも自分に言った可能性もあるな、と思い直す。

 ぐい、と引っ張られてソレ……土でできた掌みたいなのに乗って追い縋らんとする。

 

「あの爺さんどうなってんだ……錬成速度より速く走れるとか……」

「もっと高さをくれ。つか、俺を上空に殴り飛ばしてくれ」

「──思いっきりでいいんだな!?」

「ああ、殺す勢いでやれ。死なねえから」

 

 瞬間、ぶん殴られる。

 真下から突き出た拳。それは俺をぶっ飛ばし──いや、はや。

 

 傷の男(スカー)のあの容赦ない武器扱いがここで役に立つとは。

 

「えー、天気予報天気予報。これは防いでも無駄だぜ──血の雨、ところによって緑礬の花畑!」

 

 広範囲に降り注ぐは血の雨。マージで殺す気で殴ってくれたのは感謝だな。手加減されてたら逆にこうも破裂できなかった。

 さぁ、これなら──。

 

「ふむ。中々いい考えだが、やはりオマエは錬金術への造詣が浅いな」

 

 ぶわっ、と。

 ──原作でもあった、衝撃波らしきもの。何をどーやって錬金してんのか欠片もわからんけど、それによって血液の雨は吹き飛ばされる。

 

 おーん。

 ……やばいな。

 

 俺は今、「ブラッドレイと共にフラスコの中の小人の秘中の秘を潰す」という口約束──等価交換ですらないもののために、こんな熱量を持ってコイツを止めようとしている。

 前も言った通り、別に良いんだ。アメストリスが無くなったって、大勢が死んだって。

 で、どーにも俺じゃ勝てそうにない。

 んで賢者の石を作れば俺への代価は返してくれるというじゃないか。

 

 だったら……よくないか、って。

 今急激に冷めてきている自分がいる。

 

 やばいな。

 このまま行くと、フツーに諦めるぞ、俺。

 

「一回失敗したくらいで諦めてんじゃねえよ!」

「……おお」

 

 落ちてくる俺を無理矢理キャッチして。

 今度は掌ではなく、なんか趣味の悪い龍みたいなものに乗ってフラスコの中の小人へ追い縋るエドワード・エルリック。

 よくわかったな。俺が諦めかけてるって。

 

「だぁあ、熱量がどうのって言われてたけど、マジで何にもねえのかよ! なんかないのか、アンタが本気になれるもの! いねえのかよ、アメストリスに──友人とか、仲間とか、大切な奴とか家族とか!」

「いねーなー」

「答えんの早っ!? あー、じゃあ思い出の場所とか」

「ねーなー」

「あぁもうメンドクセェ! アンタの友人は大総統だろ! 誰がどう見てもそうだっただろうが! そいつが乗っ取られてて、なんとも思わねえのかよ!」

 

 ……あー、マブダチって奴?

 いやまぁ、言いはしたけど。

 友人ねぇ。別に、いつ死んでもおかしくなかったし。俺は死なねえから、いつかは必ず離別が来るし。それが早まったってだけだしなぁ。

 

 日蝕が終わるまであと二分半くらいか。

 

 ──その時、フラスコの中の小人の眼前で、爆炎が上がる。

 流石にか。流石に、と言った風に走るのを止め、振り向く小人。その膝に直撃しかけた銃弾を避けて……って、アイツほんとに最強の眼ないんだよな?

 

「大佐!」

「鋼の! クロード医師! 事情は聴いている──あれだけの大言壮語を吐いておいて、エンヴィーを倒せなかったからな! この辺りで活躍させてもらおう!」

「吾輩もいますぞ──そしてクロード医師! 代価は支払いますので、吾輩の勝手で! 姉上を治していただきたく!」

 

 その後にも、続く続く。

 人造人間(ホムンクルス)退治に集まっていた面々で、怪我が酷くない者が。あるいは酷くとも──アメストリスを守らんとする者が。一般兵までいるよ。

 どうかしてるだろ、流石に。無理無理。アレは。

 

「エドワード。そいつ、こっちに寄越せ。アルフォンスはそっちに」

「うん! 兄さん、行くよ!」

「お、おう。投げりゃ……いいのか?」

「取りこぼしても別にそいつは死なないからな……投げろ、エドワード」

 

 投げ渡される。 

 まぁ、そうだな。俺という荷物背負ってるより、エルリック兄弟で行った方がまだ勝率は高いだろう。

 

 で。

 

「なんだよホーエンハイム。怖い顔してんじゃん」

「嘘を吐いたな」

「嘘?」

「"傘が必要だ"と言っただろう、お前」

「必要だっただろう?」

「……だが、お前は地中の陣にも気付いていた」

「リソースの問題だよ。人柱足り得る錬金術師は五人しかいないんだ。地中もカバーするなら八人は欲しい。それともなんだ、あと三人に扉を開けてもらう、という提案をしていたか」

「……」

 

 怒りを向けてくるなら嫌味で返すよ。敵意を向けてくるなら皮肉で返すよ。

 等価交換だろう。

 

「──アレが、フラスコの中の小人なんだな?」

「そうだな。中にまだブラッドレイがいるが」

「……降り注ぐフラスコの中の小人を吸収してくれたのは、彼なんだよな」

「してくれた、っつーのはおかしな話だが、まぁそうだな。アイツにはアイツの打算があったから」

「十分だ」

 

 ホーエンハイムは──体内の賢者の石を用いて、錬成を行う。

 それは原作でプライドを閉じ込める時に使ったものに似た、地盤をひっくり返して壁とする巨大錬成。

 

「あの()は俺達を、俺の子供を助けてくれた。等価交換なら──あの人を助ける理由になる。俺の何を使ってでも」

 

 言って、ホーエンハイムは降りていく。

 俺を岩の錬成物にのっけたまま。

 

 ……日蝕が終わるまで、あと一分。

 

 何を、そんな熱くなっているんだ。

 

 あーあー、ヤオ家も来てら。あそこにいるのはデビルズネストか? そんで一般兵と……わかってんのかね、アイツ命を直接賢者の石にするような錬金術使うんだぞ。多少のタイムラグはあるが、不老不死でもねーのが近づいたら即死に等しいってのに。

 なにやってんだか。

 

 

「──まぁ、おかしな話ではあったのでしょう。ですが、思い出していただけると助かりますね。お父さんが君に与えすぎたこと。お父さんは壊れてしまえばいい、などといいましたし、君は別に真理の天秤を司る者でもないですが──それでも君が、等価交換を謳うなら」

「……」

 

 

 そこに、いたのは。

 頭になんか丸いのがついた、少しばかり幼い──。

 

「なんだよ。そんなに好きか、アイツのこと」

「いえ。ただ、彼がいなくなったと知ったら、母上が悲しむので」

 

 らしい。

 あっはっは、そりゃいい理由だ。

 

 等価交換も満たしている。何より俺は、そういう願いにゃ弱いんだ。

 

 

 それに、なんか勘違いされまくってるけど。

 

 別に俺は、アイツを倒すの諦めただけで──他は諦めてないぜ?

 

 

 ──日蝕が終わるまで、あと30秒。

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