緑礬の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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終盤、また転生者らしいことしてる! 偉い!


一応、知りあっといたって話の四個目と、三つめ

 1900年になった。

 新年祝い……という文化はあんまりないアメストリスだけど、個人的な吉報はいくつか。

 一つは、無事エドワード・エルリックが生まれたっぽい、ということ。わざわざ見に行ったりはしていないし、誰ぞから聞いたわけでもないんだけど、リゼンブール自体が田舎だから、子供が生まれたことに対する噂の広まり方は凄い。すごいはやい。

 そしてウィンリィ・ロックベルもまた生まれたのだろう。駅でおばちゃんが話してた。あの子は美人になるわ~みたいなの。

 

 そんでもってもう一つが──。

 

「あなたが緑礬の錬金術師……失礼ですが、想像していたよりお若いんですね」

「ちなみにどんなん想像してたワケ?」

「あ、いえ……その」

「もっともっと老人だと思ってたわけだ。ま、国家錬金術師歴65年だからな、フツーに考えたらそーなる」

 

 ロイ・マスタング。

 今はいないが、さっきまではマース・ヒューズもいた。まだ会ってはいないがリザ・ホークアイ、ジャン・ハボックなどの「東方司令部の面々」もどこかにいるのだろう。

 やはり出生はコントロールできないというべきか。原作に無い要素が増えようと、減ろうと、誰と誰が結婚し、誰と誰が離別し、誰が生まれてくるかは運命通りになる。

 

「が、俺は生体錬成が得意でね。若返りもできちゃうのサ」

「若返り……ええ、そのように聞いています。噂では……あなたは"不老不死である"なんて話も」

「不老不死! へぇ、それ誰が言ってた? ああいや、いいや。誰でも言ってることだろうし。ただまぁ、不老かもしんないけど、不死かどうかはわからないんじゃない? ほら、死んでみないことには死なないかってわからないわけだしさ」

 

 不老不死。

 まぁ、軍上層部が漏らした噂だろう。奴らにとっては喉から手が出る程欲しいものだろうし。今年の査定は「生体錬成でアンチエイジング!」って表題にしたし。一回突き返されかけたけど、内容がちゃんとしたものだったので認可された。

 ま、具体的にどうやるか、は書いていない。ただ「俺はそれができる」とは書いた。

 

「ちなみに聞くけどさ、ロイ・マスタング」

「はい?」

「不老不死が簡単に手に入る──って言われたら、どうするよ、君」

 

 意味深レイブン中将ムーブ!

 ただ、意識調査でもある。俺という完成された不老不死が存在している以上、若き軍人たるマスタング君がどこぞからからの圧力を受けていないとは限らない。そういうのロイ・マスタングは酷く嫌うだろうけれど、とりあえず地位を手に入れるまでは歯を食いしばってでも命令を聞くタイプだろうし。

 ロイ・マスタングは「そうですね」と一呼吸置いて。

 

「心から──お断りしますかね。死んでも不老不死などというものになろうとは思いませんので」

「へぇ、まぁ、君がそうなのはいいけどさ。誰か──たとえば友人に、さっきいたマース・ヒューズ君にプレゼントってのはどうかな。それも嫌?」

「アイツが不老不死の化け物か何かに成り果てたら、ボロ炭になるまで焼いて、暖炉にくべて、一生コキ使ってやりますよ」

「唐突に、突然に明日、いや今日の夜にでも彼が死んだとして、納得できるかい?」

「軍人ですから。それくらい覚悟しています」

 

 ほんとかなぁ。

 ……っていう"お父様"というよりはフラスコの中にいた頃の小人ムーブはこの辺でやめておこう。

 

 俺は別に、マース・ヒューズが死ぬことについてどうとも思っていない。

 救いたいとも死んでほしいとも思っていない。

 ただたとえば、あの時エドワード・エルリックがマース・ヒューズに第五研究所地下の錬成陣を見せなかったらどうなっていたか、とか。

 調べものを複数人でやっていたらどうなっていたか、とか。

 些細な変化で彼の命は浮き沈みするのだろうことは想像できる。だから、あるいは、とは。

 

「それに、アイツも嫌がると思います」

「へぇ?」

「はい。アイツ、一途なタイプですからね。恋人とか嫁さんとかできたら、自分が不老不死であることに耐えられなくなって発狂するかと」

 

 不老不死に耐えられない。

 ……ホーエンハイムも、ほとんどそうだった。あるいはアルフォンス・エルリックもそうだったか。

 眠れない。アルフォンスの言った「一人の夜はもう嫌だ」という台詞は、ホーエンハイムの「先に逝かれるのは寂しい」と同等の意味だ。

 

 そんなんじゃあ、不老不死向いてないよ。やめたほうがいい。

 

「それじゃ、精々俺の世話にならないよう頑張れ」

「というと……?」

「瀕死の重傷でも治せるからサ、俺。たとえば戦争になって、怪我する兵士の全てを万全の状態にして戦地に返したら、地獄が出来上がるだろ? 敵にとっては屍兵。味方にとっては終わらない戦いの始まりだ。そーならんように、怪我をせず、する前に相手を殲滅するよう頑張れ」

 

 まるで、近々そういう戦いがあるかのような発言と共に。

 

「俺はそういう火力とか殲滅力みたいな錬金術苦手だからさ」

「……よくわかりませんが、要約して激励と受け取ってよろしいのでしょうか」

「"年寄りは話が長い"ってか? はは、俺をジジイ扱いしたのはお前が初めてだよ、ロイ・マスタング」

「いえそんなつもりは」

 

 いやぁ、良いね。

 借りイチだ。いつか等価交換しに行くから待っててな。

 

 身に覚えのない借用契約が存在している、なんて詐欺、今更珍しくもないだろう?

 

 

** + **

 

 

 1901年。

 イシュヴァールの内乱が起きた。きっかけは軍人がイシュヴァール人の子供を誤射したこと。

 原作通り、エンヴィーが化けてやったんだろう。結果、併合されながらも元よりアメストリス軍と水面下での対立関係にあったイシュヴァール人らの怒りが爆発し、凄惨なりし地獄をその地に刻み込んでいく。

 

 まだ国家錬金術師は投入されていない。

 中央軍が出張ってきての内乱鎮圧は、その中央軍が足を引っ張ったりなんだりで長期化。イシュヴァールの武僧が強いのもあって、激戦も激戦が続いている。今も、だ。

 これに加えてアエルゴからも支援が来てさらに長引いて、東部全域までもが戦火に包まれて、ようやくの国家錬金術師投入。

 だから殲滅戦自体は1908年。いやホント、粘りに粘ったっつーかなんつーか。

 その傍らで行われていた人体実験、賢者の石の錬成にこそ主目的があったから長引かせたってのもあるんだろうけど……この辺、ちょいとな。

 

「先ほどからずっと南東……イシュヴァールの地を向いていますが、戦地に興味がおありで?」

「そっちこそ、さっきからニヤニヤニヤニヤと。アンタは合法的に人間を爆破できる環境が羨ましいだけだろうけどさ」

「おお、よくお分かりですね。さすがは緑礬の錬金術師。人体のことだけでなく、心理にまで精通していらっしゃるとは」

「俺じゃなくてもアンタの顔見りゃ誰だってわかるよ、紅蓮の錬金術師」

 

 まだだ。

 まだ投入されていない。俺の横に立つゾルフ・J・キンブリーも、俺も。

 だけど、キンブリーはもう今か今かとうずうずしているのがわかる。そしてそれは、()()()()()()()()()()()

 原作より国家錬金術師が多い。それはキンブリーのような狂人も多く孕んでいるということだ。あ、錬金術師は大抵狂人って前提でね?

 兵器という技術方面に錬金術の発達したアメストリスにおいて、錬金術とは戦う道具である、と考える錬金術師の多いこと多いこと。完全なる研究者の錬金術師なんて数えるほどしかいない。その中でも国家錬金術師はその全てが戦闘能力を有している。いや、戦闘能力を有しているからオマケで国家資格を取らせた、というべきなんだろうけど。

 

 兵器を作ってきた錬金術が生んだ人間兵器が錬金術師だ。

 その力を早く揮ってみたいと……そういう狂気的な考えを持つ奴は少なからずいる。ゾルフ・J・キンブリーがとりわけである、というだけの話。

 

「で、俺に用って何? わざわざ呼び出してまでさ」

「ああいえ、不老不死であると噂されているあなたに、聞いてみたいことがあったんですよ」

「またその噂か。噂広まりすぎだろ。誰か故意に広めてんな? ブラッドレイか?」

「大総統の名をそう軽々しく……やはり相当な年数を生きている様子」

 

 いやいいんだけどね。

 不老不死であることは事実だし、調べられても殺されてもこっちに何の損失もない。

 けどまぁ、動きづらくはなるよね。

 どこ行っても「あ、あの人不老不死なんだって~ウケる~」みたいな目線向けられるワケでしょ? そりゃめんど……くもないか。

 別にいいわな、そうであっても。

 

「国家錬金術師は人間兵器。軍事国家において軍事の面で使われるための資格制度です。戦い、殺し、敵を殲滅するための道具──ですが、あなたの錬金術は人の命を助けることに傾倒しているように感じます。"生体錬成の権威"。噂では失った手足でさえ生やすことができる、とか」

「それマジでただの噂ね。やったことない」

「ああそうですか。ではそれはそれとして。……貴方、結局どちらなんですか? "兵器"か"医者"か──それとも、不老不死であるだけの単なる"怪物"か」

 

 ……そういえば、そうか。

 ブラッドレイにぶっ刺されたのを除いて、俺ってば俺の二つ名たる緑礬を一切披露していないワケで。

 そうなってくると、緑礬の錬金術師の代名詞といえば生体錬成! になってくるわけだ。65年間、ずっとそうだったわけだ。

 確かに。

 国家錬金術師らしくないというか、ただの医者だねコレ。いやまぁ戦闘力皆無の国家錬金術師もいるけどさ、あくまで俺は戦闘もできるって登録にはしてあるんだわサ。

 

 ふむ。

 ゾルフ・J・キンブリーじゃ口が堅すぎて微妙だけど、ここいらでそれっぽいことしておく?

 

「紅蓮の錬金術師。アンタ造形系の錬金術得意?」

「まぁ、基本的なことはできますよ。美しくないのであまり使いませんが」

「おっけー」

 

 じゃあ、と。

 手首に噛み付き、橈側動脈を犬歯で破る。

 どろっと出てくる血液。それを近くのテーブルに擦り付けた──その瞬間。

 

「……これは」

 

 まるで潮が引くように、血液の付着した個所からサラサラと風化していくテーブル。

 地面に落ちたそれは人間が足を動かす程度の風圧で巻き上げられ、そのままどこぞへと飛んでいく。

 

 その間、俺はといえばわざわざメモ帳を取り出して、生体錬成の陣が書かれたページを一枚千切り、傷口に当てて治すというポーズを行っておく。再生は錬金術特有の光が出ないからね。バチバチしとかないと。

 

「緑礬の錬金術師。一応、人間兵器だ」

「……そのようで。ですがこの錬金術では、単身戦地に突っ込んで爆発四散するくらいしか使い道がないのでは?」

「審査員にロクな錬金術師のいない65年前の国家資格試験は甘っちょろかったよん」

「……まぁ、貴方には既に数々の功績がありますから、取り上げられることはないでしょうが……」

 

 そういう意味では、彼の錬金術とは非常に相性が良かったりする。

 戦場で俺を爆破すればいい。クラスター爆弾だ。飛び散った血肉からあらゆるものが風化していくタイプの。

 ただそれには俺が不老不死であるという確信と、俺自身と彼が迎合する必要がある。

 

 そしてそれは。

 

「……貴方とは気が合いそうにないですね。貴方からは……どうにも、生命の力熱(ねつ)というものが感じられない」

「老い先短いってか?」

「輝きが無い。貴方は最早死んでいるに等しい。今の錬金術は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と見ましたが……貴方、それをしている時に死を一瞬でも感じましたか?」

「おお、そこまで見抜くか。流石だ国家錬金術師。そんでもって答えはNOだ。俺は今まで生きてきて、死を隣に感じた事なんか一回もない」

 

 絶対に叶わない。

 

 だって俺に信念とか無いし。

 

「んじゃ、そのテーブル元通りに直しといてくれな~。俺造形する錬金術苦手なんだよ。あ、爆発物にはするなよ」

「しませんよそんなこと。私を何だと思ってるんですか」

「爆弾魔」

 

 んじゃな、と。

 手をひらひら振って、その場を去る。

 

 どうせすぐに自覚するさ。自分の本質くらい。

 

 

 

 

 何度も言っているけれど、俺は基本セントラルにいない。

 根無し草でふらふら世界を巡っている。ホーエンハイムから奪ったクセルクセスの民は既に打ち込み終わっているし、別に熱心に研究することもないし。年一の査定さえ忘れないようにしながらふらふらふらふらしているから、当然誰とも会わない期間というものが生まれる。

 

 ……そういう時に限ってグラトニーが食いに来たりラストが刺しに来たりするんだけど、今回は違った。

 

 ニューオープティン。

 原作ではあんまり触れられなかった東部の町で、例によって何もない場所……なんだけど。

 

「なんだなんだ、襲撃されるようなことした覚えはないぞ!?」

 

 夜の事だ。

 適当に宿取って適当に今日も一日お疲れさん、なんて目を瞑っていたら、急に頭に狙撃を受けた。いや急じゃない狙撃ってなんだよって言われたらその通りなんだけど。

 夜。誰もが寝静まった、とはいえないくらいの夜。0時過ぎとかそんくらい。

 だってのに、そんな──まだ民間人も酒飲んでくだまいてるかもしれないくらいの時間帯に、その襲撃はあった。

 

 急いで宿屋を飛び出してみれば、軍用犬らしき犬の群れと、武装した集団。

 

 そしてそいつらは──躊躇なく銃弾を乱射してくるではないか。

 

 俺は不老不死だ。再生能力持ちだ。

 だから避けなくても問題はない。

 

 ないけどフツーに住宅街である。

 たとえば今目の前で流れ弾によって老婆が撃ち殺されようと赤子が死のうと何を感じるでもないけど、「うわ今俺迷惑かけてんなー」くらいは思う。思うから宿を飛び出て、近くの林へと逃げ込む。

 

 さて、考える時間ができたので考えよう。

 これはなんだ?

 誰の差し金だ。不老不死が欲しい軍の上層部か、それともフラスコの中の小人か?

 まずフラスコの中の小人説は無し。使うならホムンクルス使うだろうし。じゃあ軍上層部か。いやだとして、こんな目立つことするか? 今なお俺を探している犬とか明らか軍用犬だし、武装集団も軍服こそ着ちゃいないが多分軍人だ。憲兵にでも取り押さえられたらすぐにわかる。

 

 そもそも俺がこの程度じゃ死なないことくらい周知の事実だろうに。不老不死だと知らなくても、銃弾程度じゃ死なないのは証明している。それくらいは開示している。

 それを、今になっての……って考えると、もしや俺を知らない層とかか?

 ……いやいや、そんな若いのがこんな頭数揃えられるかよ。

 

 なんだ? マジでわからん。 

 

「いたぞ、木の上だ! 撃て、撃て!」

「げ」

 

 バレた。

 樹上に行って匂いを生体錬成で消してたんだけど、なんだ、錬成の光でも見られたか。

 

 一斉掃射が行われる。

 着弾の衝撃であっち行ったりこっち行ったりする身体は蜂の巣になり、そのまま地面へべちゃっと落ちる。

 

 いや、いや。

 

「ねぇ何なん? この程度で死ぬと本気で思ってやって、」

 

 顔に銃弾。上あごから先がぶっちぎられて、言葉が止まる。

 

「思ってやってんにょ、うわ、何喋らせないようにぃ、さへっ」

「撃て、撃て! 全弾使え! グレネードもだ! あらゆる火力を以て対象を殲滅しろ!」

「死ね化け物! 死ね、死ね!!」

 

 マージで殺しに来てんな。

 なんだろ、アレか? 本気で軍部に巣食う怪物、みたいに見られて正義感のある将校とかに目えつけられたとか? 責任は全て私が負うから、どうかあの化け物を討伐してくれ……! みたいな。

 ありそう。

 アメストリス軍、割と独断で兵動かせるからな。

 ブラッドレイが独裁政治してるくせに罰則が緩いから恐怖政治になってないんだよ。だから「忠実な無能」とか「忠実だけど正義の心強すぎ君」とか「一切忠誠心無いけど超善人」とかが生まれる。

 

 全部ブラッドレイのせいってことでFA。フルメタルアルケミストじゃないよ。

 

「や……やった、か?」

「やってないよん」

「ひ、ひィっ!?」

 

 つからるど。

 

 見事なまでのフラグを口にした若者の真横で再生する。

 錬金術を使わない再生だ。だから光なんて出ない。

 

「なぁ、なぁよ。誰の命令だ。誰の命令で俺を殺しに来た。ああ、喋れないか。なら対価をやろう。そうだな、お前だけは助けてやる。だから話してくれ。な?」

「ば──化け物! 化け物!」

「ちょ、ショットガンなんてどこに背負って!」

 

 バラバラになる。つか、あーあー。無理な姿勢で撃つから右肘ボロボロじゃんか。

 治してやろうか? 対価は貰うけど。

 

 とか。

 

 言ってる雰囲気じゃねーなぁ。

 

「人殺しはさぁ、俺もしたくはないんだよ。殺すメリットがないからさ。見殺しにはするよ、結構な。……それで提案なんだけどさ」

 

 撃たれながら。バラバラに引き千切られながら。焼かれながら刺されながら切り刻まれながら──話す。ここにいる全員に向かって語り掛ける。

 軍用犬らはもう逃げている。俺がさっき再生した時くらいからかな、目の前の生物が生物としてやべぇのに気付いたんだろう。賢い犬だ。そして賢くない人々だ。

 

「お前らじゃ俺は殺せない。でもお上の命令は絶対。──じゃ、逃げちまおうぜ。殺せませんでした、っつってお上に殺されるんなら、俺に殺されたってことにして逃げよう。それが一番丸い」

 

 いつか、ダブリスの殺し屋にも出した提案。

 その言葉を聞いて──さっき脅かした一番若い兵が。

 

「父さんを──殺した、仇が、目の前にいるのに……今更退けるかよ」

 

 復讐の炎の灯った目で、銃を構える。

 

 他もそうだ。 

 ああ、気付いてみれば本当だ。若い兵士ばかりじゃないか。年寄りが全然いない。

 

「緑礬の錬金術師! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! イシュヴァールの地に赴いた兵士五十余名を食らった罪を、その恨みを、今ここで晴らす!!」

「返せ、返せよ! 戦争で死んだことなんてわかってる! だから、だけど、せめて遺体だけは……!」

「死ね、死ね、死ね──!」

 

 あいつら!

 賢者の石生成に使うための兵士とか、人体実験用に連れ去ったから"なかったこと"にしたい兵士の所在、その全てを俺に押し付けやがったな!?

 それで、もしかしてアレか?

 こいつら中途半端に生かしたら、こいつらもそれ行きか?

 

「──等価交換だ」

 

 別にそれはいいけど。

 そうでなくなってもいいよな、って。思った。

 

 彼らの目は復讐に燃えている。

 彼らは止まらない。死ぬまで止まらない。俺は死なないから、彼らが死ぬまで止まらない。

 

「お前たちの未来(これから)過去(これまで)──どっちを俺に差し出す?」

 

 Head or Tails.

 頭か尻尾か、表か裏か、未来か過去か。

 どちらかしか選べないのだとしたら。

 

「これからを掴むために! お前をここで殺すんだ!」

「おっけー、支払うのは過去、ね」

 

 姿を消す。

 シンの武術だ。別に消えたわけじゃないけれど、消えたようには見えただろう。

 そうして、身を低くして──まず最初の一人。

 

「ぁ──?」

 

 次。その次。その次の次。

 この場にいる全員の背後を取り、暗闇からその顔を掴み、バチバチと錬金光を走らせていく。

 誰もが倒れ、誰もが「ぁー」と声にならない声を出して、誰もが、誰もが誰もが誰もが誰もが。

 

 最後の一人になるまで、すべてが。

 

「……な、なんだ。何が起きた! 報告しろ! おい!?」

 

 そもそも、だ。

 錬金術に特別性、特異性がなくとも、錬金術師は兵器足り得る。

 傷の男(スカー)がそうであったように、エルリック兄弟だってそうだな。アイツらは真理見てるからズルっちゃズルだけど、錬成するものに特別なものはない。

 だから俺の錬金術も、ゾルフ・J・キンブリーやロイ・マスタングのような殲滅力のないものであっても関係がない。

 身体能力と技術。地形の利用法、歩法、関節の極め方。シンで習ったもの、スタイナー兄弟から教わったもの。その他諸々込みで緑礬の錬金術師である。

 

「緑礬の錬金術師……そいつがどういう奴か、聞いたことはなかったのか?」

「ひ、ま、まだ生きて……!」

「"生体錬成の権威"なんだと。だから、結晶化させたり風化させたりなんて荒っぽいことしなくても、生体錬成のみで色々できんだよ」

 

 顔を、掴む。

 一足で懐に潜り込んで、一息で銃の間合いから外れて。

 

「……!」

「顔を作り替えて、身体を作り替えて──記憶を作り替えて。脳だって生体錬成の一部さ。繊細な作りだから触りたくないって奴がほとんどで研究は中々進まないけどな、()()()()()()()()()

「ば、ばけも」

「お前らはこれからを手に入れるためにこれまでを差し出した。──忘れなよ、今までの全て。そして手に入れろ。新しい生を。これも一応、等価交換だぜ?」

 

 もがく。もがく。暴れる。暴れる。

 青年は、若者は、じたばたと手足を動かして、俺の腕や顔を何度も何度も殴って。

 

「恨みつらみなんて感情、持ってるだけ辛いんだからさ、忘れちゃいなよ。その方が楽だぜ」

 

 最後には涙を流して。

 

 

 

 

「この方がより酷い結果になる……とは考えなかったのかね?」

「出自不明の記憶喪失の若者三十人ちょい。どこの病院でも手を余し、セントラルの病院に預けられて、結果的に人体実験に、ってか?」

「そうだ。彼らは彼らとして生き、苦しみ、我々に恨みを抱いて死ぬ……その方が今よりは"マシ"だと、そうは思わないかね?」

「結果が同じなら、意思決定能力がない方が良いだろ。それともなんだ、お前さんの時みたいに仲間が一人、また一人と"不適合"になっていくのを見て、己への恐怖に震えて過ごさせる方が良いってか?」

「この場で殺してやれば良い、と言っているのだ」

 

 散らばった荷物を拾って、衣類を作って。

 暗闇の中、目だけが赤く光っている御老人とお話する。

 

「ヤだよ。なんで俺が命を奪わにゃならん」

「他者を殺す覚悟が無いか、不老不死」

「そーじゃないよ。奪ったら返さなきゃいけないだろ? でも命奪ったら返す先がなくなるだろ? この世界は等価交換なんだから、それは法則に反することになる。ところで大総統、規則は何のために存在すると思う? 何故守らなければならない?」

「……規則に守ってもらうためだ。そういうものを敷かなければ、人間は私欲を抑えられぬ」

「法則も同じなのさ。もっと概念的だけどね」

 

 よっこいしょ、と立ち上がって。

 血だらけになった森に「あちゃー」と後頭部を掻いて。

 

「法則を守っておけば、法則に縛られておけば──法則が守ってくれる。法則はフラスコなんだよ。俺もお前も、現時点においてはフラスコの中の小人だ。そして法則が守ってくれなくなったら、その外に出てしまったら──」

「そうなれば……その時は、お前も死ぬのかね、不老不死」

「いいや、お前は死ぬけど俺は死なない。不老不死だから」

 

 深緑色に色を変えてみたフードを被り直して──振り返り、人差し指を伸ばす。

 

 見開かれる目。人差し指の先に剣先がちょうど当たって、E.T...もとい。 

 またも結晶化し、風化していくその剣は、彼の油断の証である。

 

 

「最強の眼。そろそろ老眼なんじゃない?」

 

 

 トスッ、と投げナイフが額にぶっ刺さった。

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