緑礬の錬金術師 作:ONE DICE TWENTY
イシュヴァール殲滅戦は終了した。
流石にやっぱり原作よりも早い段階で。だからというかなんというか、フツーに適当な予定調和に巻き込まれて死ぬと思っていたロックベル夫妻が生き残ってしまったのは誤算オブ誤算。
別に生き残ったって構わない……んだけど、また未来が想像し難くなったなぁという印象。
もし研究書物を持ちだせていなかったら──まぁ、他の賢い連中と仲良くしてくれや、って感じで。
ま、そんなこんなでかなり早期に終わった殲滅戦は、だからこそ多くの犠牲があった。特に国家錬金術師の。そして、それに巻き込まれた一般兵の。
キンブリーに言われた通り軍法会議モノな行いをした俺だけど、あれだけ綺麗に爆発四散してその後すぐにアメストリス軍のテントへ帰ってきたものだから、化け物扱いは勿論恐怖の的だし視認されただけで嘔吐されるしで大変大変。
が──
内乱が始まってからずっと付き合いのある看護師たちが兵士の輪から俺を連れ出し、「負傷者がいっぱいいるんです! お願いしますヴァルネラ先生!」と頼み込んできた。
はいはいおっけー、って感じで生体錬成を使いまくること四日くらいかな。
四肢欠損や眼球破裂こそ残れど、他は全て健常、ってレベルにまで兵士を復活させたあたりで──ブラッドレイが来た。
ブラッドレイ。キング・ブラッドレイである。
どよめきもざわめきも当然だ。国のトップが護衛もつけずに出張ってきたのだから。あ、いや、護衛はいたけど遥か後方だった。
そうして開口一番が。
「何か、申し開きはあるかね?」
「資格剥奪は好きにしな。その代わり年一の査定は来なくなるぜぃ?」
瞬間、俺の手足は四本の刀によって壁に縫い留められていた。
早業だ。まぁこれくらいなら抜け出せるんだけど、別に抜け出す理由もなし。大人しく縫い留められておく。
抵抗する気がないとわかったのだろう、ブラッドレイも小さく、本当に小さく溜め息を吐いて、その辺にいた適当な錬金術師に声をかけ、俺の拘束を命令。
名前も知らない錬金術師君は俺が縫い留められている壁ごと切り離し、全身を鋼鉄のワイヤーでぐるぐる巻きにして、引き車の上に乗せて。
一言、誰にも聞こえない、誰に聞かせる気も無かったのだろう声で、「ごめんなさい」とか言って。
それが俺のイシュヴァール殲滅戦における最後。
いやー、このぐるぐる巻き。
クセルクセスで罪人扱いされた時以来だ。懐かしいねぇ。
で、だよ。
「よぉ、久しぶりだなフラスコの中の小人」
「久しいな罪人。オマエはいつ見ても縛られているな。不老不死という自由であり完璧な存在でありながら、何故そうも縛られることを好む」
「これが縛られてるように見えんのか? 何なら今すぐにでもこの拘束解いて逃げてやってもいいんだぜ?」
連れてこられたのは査問会議や牢獄ではなく、セントラル地下。つまりフラスコの中の小人のいる場所だった。
そこに、磔のままゴトン、と置かれて、ひっさびさの対面だ。
「老いたなぁ、フラスコの中の小人」
「……そうだな。たかが容れ物ではあるが、オマエに比べたら老いたのだろう。そういうオマエはやはり老いぬか。朽ち果てさえもせぬか」
「そりゃそうだ。不老不死だぜ?」
既にブラッドレイの軍刀は抜け落ちている。
鋼鉄のワイヤーもまた、内側から風化が始まっている。ま、その前に後ろの壁が崩れるだろうけど。
「アメストリスが広がるたびに覆う範囲も増えるんだ、賢者の石が足りなくなるか」
「……補充の算段は整っている。否、補充ではなく、不完全な賢者の石ではなく──真なる石を、真なる存在になるための算段だ。罪人。オマエと同じ、真人になるための」
「ああ、知ってるよ。血の紋による国土錬成陣だろ?」
「……ああ」
ん。
今、なんか間があったな。他にも何か隠してる、か?
そいや結局コイツが俺の血を狙ってた理由ってなんだったんだ。今とか大チャンスじゃねーの?
「罪人。長い付き合いだ。そろそろ名を教えてほしいものだな」
「あん? 伝わってんだろ、ヴァルネラだよ」
「本来の名ではないだろう、それは。私はオマエの名が知りたいのだ。オマエがこの世に生まれ出でるために授かった名を」
……うーん。
教えたのゴルドの爺さんだけだからなぁ。いや別に隠してるわけでもないんだけど、なんでフラスコの中の小人なんかに、って思っちゃうよな。
「等価交換だ、フラスコの中の小人。俺の名前と等価たるモンを寄越せ。そしたら教えてやるよ」
「此度の命令違反を無かったものとする、ではどうだ?」
「そんなもんが等価になるかよ。命令違反があった事実は俺を揺るがすか?」
「ではオマエに対する各種噂の緘口令などはどうだ」
「おいおいフラスコの中の小人。自分でわかってる間違いを俺に正させるなよ。お前ならわかるはずだろう、何が等価で、何が等価でないのか。それとも、名前じゃないもんが欲しいのか? 俺の存在。俺の魂の情報。不老不死。完璧なる存在。そうだよな、俺が持ってるモンで、お前が欲しいモンはたくさんある」
「確かにオマエは私から見ても魅力的だが、今はオマエの名を知りたい。ふぅむ、そうだな……では、こういうのはどうだろうか」
フラスコの中の小人が、それを提示する。
それは。
それは……ああ。
「いいよ、少し足りないけどな。それで交換してやる。──クロードだ」
「クロード……? ……まさかオマエ、アントワーヌでもあるのか?」
「はは、パラケルススを知っていたお前だ、当然辿り着くか」
「ナルホドナルホド……それならばオマエが不老不死である理由にも納得が行くし、私の知識にオマエを殺す術がないことも頷ける」
得心のいったようで何より。
そいじゃま、そろそろ。
ざらりとなった鋼鉄のワイヤーから抜け出して、磔状態から解放される。
「なんだ、わざわざ壊さずとも私が解放してやったのに」
「要らないよ。返せない施しは受けないようにしてるんだ。等価交換の法則を大事にするタチでね。だから」
「ああ、わかっている。必ず支払うさ。必ず、な」
含みあるなぁ。
それさ、頭に「私が"カミ"を手に入れたら」とか「すべてが終わった暁には」とかついてない? それあれよ? 「倍にして返すから今貸してくれ!」ってギャンブルの金せびるのと一緒だよ?
──ま、返せなかったら取り立てに行くけどさ。
「あ、そうそう。お前俺の血欲しいんだっけ? なら今やるからさ、もうホムンクルスけしかけるのやめてくんね?」
「それについてはもう随分と前に要らなくなった。……が、要らなくなったと子供達に伝えるのを忘れていたな」
「……」
「ふむ。ここでまた等価交換を持ちだされ、陣に無駄な傷をつけられても面倒だ。ほら、これで許してくれ」
ぽいっ、と。
放り投げられるは──赤い石。人差し指の第一関節くらいの大きさのソレは、紛う方なき。
「要らねー」
生体錬成を用い、指先の破壊と再生を連続して行う。
それにより見る見るうちに罅の入っていく赤い石。そうして、一分と経たない内にソレは消費され尽くした。
「オマエが要らなかろうと、伝え忘れていたことに対する対価はそれで十分だろう?」
「ああ、そうだな。俺はちゃんと対価を受け取って、要らなくなったから消しただけ。これで等価交換は成立だ」
赤きティンクトゥラなんていつ使うんだよ。
また爆発四散した時俺の体内からぽろっと賢者の石が出てきてみろ、
俺はれっきとした不老不死であって、
「フラスコの中の小人」
「なんだ、まだ何か用か?」
「──帰り道を教えろ。でないと壊していくぞ」
案内は、ブラッドレイがしてくれた。
フラスコの中の小人の間からの帰り道。
並んで歩く俺達にぎょっとする兵士の多いこと多いこと。はてさて、彼らの中で俺はどんな扱いになっているのやら。
「流石の私達でも、お前のやったことの全てをもみ消すことはできん」
「だろうなぁ。めちゃくちゃ見られてたし」
「よって相応の罰が必要だ。──が、困ったことに嘆願書が届いていてな」
「嘆願書?」
なんだ、それこそもみ消しゃいいのに。
「お前に助けられた負傷兵、お前を手伝った看護師、お前の生体錬成を間近で見た錬金医師。他、殲滅戦に加わる前から戦地にいたほとんどの兵士がお前の罪の緩和を願っている。理由は様々だが、一番多いのは"もったいない"という声だな」
「ほーん」
「"生体錬成の権威"。お前の手でしか救えない患者がごまんといる。お前の頭脳でしか発展できない科学が数えきれんほどある。イシュヴァールの民を庇い、逃がした、という事実は外道のそれでなく、ヴァルネラ医師の本懐が医者だったがためと──本当に多くの兵士、医療関係者から声が届いた」
……なんか無駄に慕われてんな。
だけど、そりゃ殲滅戦以前から内乱抑えてた兵士だけだろ。
殲滅戦に加わって、最前線にいて。
ゾルフ・J・キンブリーに敵対した俺を見た兵士は。
「おかしなこともあるものだ」
「なんだ、全員喋れなかったか」
「言の葉の先を取るな。……そうだ。狙撃兵も一般兵も、イシュヴァールの民を庇い逃がしたお前についての詳細を尋ねた瞬間、顔を蒼褪め、震え頭を抱えて動けなくなった。嘔吐をするものも多くいたし、あり得ないあり得ないと連呼する者もいた。……詳細を話すことのできた兵士は一人とていなかったよ」
トラウマである。
まー、化け物だからな。そんでもってキンブリーに関しちゃそっちの手のモンになったからなかったことになったと。
しかし、狙撃兵も、っつったな。
えー、リザ・ホークアイに会いに行ったら対面の瞬間吐かれるのかな。そりゃヤだなー。
「嘆願書と証拠不十分。そして数々の功績とアメストリスへの貢献度。これらから、お前の罪は──」
「……へー、結構でけぇ家」
俺の罪状。
様々な緩和と軍への協力を対価に、国家錬金術師の称号剥奪は無しに。投獄も無し。
ただ、条件として。
「とうとう俺が持ち家を、ねぇ」
根無し草で旅をするのを止め、拠点を持つこと。
具体的にはセントラル内に用意された邸宅に住み着き、そこで暮らすこと。別に申請すれば旅行に行くのは構わないし、増築・改築も思うままで良い、とのことで。
温情も温情だ。
が、まぁフラスコの中の小人との等価交換は終えているからな。
これ以上俺に何かを課したり俺から何かを奪ったりしたら、相応の何かが奪われるとでも思ったんじゃないかね。
ということで、いきなり一国一城の主になったわけだ。
しっかし。
気のせいでなければ……というかほぼ確で。
ここ、ショウ・タッカーの邸宅……だよなぁ。
玄関の作りとか内部とか、蔵書に関しちゃ今ゼロだからアレだけど、庭の感じとか……うん。場所こそイーストシティでなくセントラルだけど……。
こーれ成り代わりましたかね?
ふむ。
ニーナとアレキサンダーの悲劇が起こらないことによる影響。まぁ、エルリック兄弟が自分たちをちっぽけな存在だと認識しない程度か。
はは、良識を問うならどっちなんだろうね。
愛犬と不完全に合成され、殺される他ない結末か。
そもそもこの世に生まれ出でない、という結論か。
どっちが幸せで、どっちが不幸か──なんて。
「俺は好きだぜ、勘の良いガキ。話が早いしな」
なんて呟いて。
それを供養の言葉にさせてもらおう。
んで、です。
まぁ家を貰ったんだ、じゃあ改造するよな。
でも何度も言っているように造形系の錬金術が苦手なヴァルネラ君。こういう家にしたい! という構想はあっても自分でやるとどーしても不格好になる。
フツーに大工に頼むのも手……というか本棚やら何やらの部分は既に本職に任せている。問題は研究設備の方だ。
造形が得意な錬金術師って誰だろうって考えると、真っ先に出てくるのはエルリック兄弟。
でも彼らはまだ子供で。つかそろそろイズミ・カーティスに弟子入りしてる時期だから結構大事な時期で。
次に考えつくのはアレックス・ルイ・アームストロング。
だけどあの人に頼むとなんか無駄にマッチョメンなレリーフが作られそうで嫌。
じゃあ次は──。
「それで、その矛先が私に向いたと。……正直な感想を言わせてもらいますと、馬鹿ですか?」
「おいおいひでーなロイ・マスタング。ちゃんと金は払っただろうがよー、前払いで」
「突然"昨日緑礬の錬金術師から大規模な入金がありましたが、お心当たりはありますか?"と銀行員に問われることは前払いとは言いませんが」
「じゃあいいよ他の錬金術師に頼むから。金は迷惑料でいいよ貰っとけ貰っとけ若造」
「……いえ、既にここへ来た以上依頼を承ったのと同じ。仕事はしますよ」
ロイ・マスタング。
どうしてもというか当然のように焔の錬金術に目が行きがちだけど、素の錬金術もバリバリ素養のあるこの人。
野心家ではあるが口はそこそこ堅く、変に畏まらないで言いたいことはズバズバ言う。
隣にいて気の置けないタイプだ。あっちはそーでもないんだろうけど。
「んじゃこれ、作ってほしいモンリストアップしといたから、頼むわ」
「……テーブルとか台座とか、この程度なら自分でできるでしょう」
「だから俺生体錬成特化なんだよ。いやまぁ昔はできてたんだけど、ずっと使ってなかったら練度が落ちたっていうか、……とにかく不格好になるんだよ。バランス悪かったり、妙に脆かったり」
「はぁ。……もはや伝説となりつつある緑礬の錬金術師が聞いて呆れますね」
ぶつぶつ文句を言いながら、作業に取り掛かってくれるロイ・マスタング。
紙に錬成陣を画いてはそれを用いて家具を作り、また別のところに行って研究設備を作り。
素材は俺が用意した。まぁそこは当然だ。
……いやホント、日に日に、年々できなくなっていっている。造形系の錬成。
これ別に奪われてるとかそういうんじゃなくて、マジで使わないから練度が落ちて行っているだけだ。毎日毎日生体錬成生体錬成の奴がいつ造形するんだよ。たまにメスが刃こぼれした時に直すくらいだわ。
「あなたも……殲滅戦に、参加したそうですね」
「俺はもとから戦地で医者やってたよ」
「ああ、そうでしたか。……噂、広まってますよ」
「なんの?」
「化け物を見た。怪物を見た。緑礬の錬金術師は人間じゃない──とかなんとか」
「へぇ。その噂聞いてどう思ったよ、焔の錬金術師」
「くだらないとは思いましたね。だからなんだ、と」
「へぇ! ……と、すまん。予想外でつい大声出しちまった」
マース・ヒューズが不老不死の怪物になったらボロ炭にする、とまで言っていたのに、俺はいいのか? あ、いや、アレは二人の友情あってこそか。二人が仲がいいからこその、だよな。
俺は仲良くないからね!!
「あなたは……国家錬金術師でありながら、あの戦場で多くの命を救った。掬い上げた。たくさんの兵士から聞きましたよ。痛みもなく、苦しみもなく、あまりの早業で恐怖する間もなく──気付けば怪我がなくなっていた、と」
「なんかその言い方だと俺が違法な手段使ってるみたいじゃん」
「いえ、表現を間違えました。ですから、感謝していると。痛みは精神を折ります。苦痛が長引けば長引く程兵は疲弊します。けれどあなたの施術ではそれがない。だからアメストリスを守るために戦えた、戦い続けることができた、と」
「"内乱を長引かせた張本人だ"──とか、言われなかったか?」
「そんなこという奴はいませんよ。……あなたが本当に不老不死かどうかは知りませんが、あなたのように怪我や死を恐れない、すぐに治療できる存在と違って、一般兵にとって怪我も死も恐ろしいものです。それを跳ね除けてくれる存在を、そう簡単に悪と見ることはできないでしょう」
はん。
善人め。好印象なんざ百あったって悪印象の一つで覆るんだ。泥の混じったワインは泥水なんだよ。
が、まぁ。
あんまり悪ぶるのも面白くない。自虐ネタは適度にしないとウザいだけだからな。
「羨ましくなったか?」
「──……」
「お前、見るからに義憤から軍人になったタイプだもんな。国家錬金術師になったのだって、アメストリスを、その民を守るため。だってのになってすぐの大仕事がコレだ。併合された民族とはいえ、同じアメストリス人を焔で焼き尽くす仕事」
「……」
ギリ、と。奥歯を食いしばる音が聞こえる。
その手がわなわなと震えているのがわかる。
「味方を守った場面、あったか? 戦えない奴らを、老人を、子供を、そういう奴らを焼き焦がしていただけで、決して夢見たヒーローのような存在ではなく、ただの、単なる、どこまでも──殺人者でしかなかったって」
ドン、と。
今しがた作られたばかりのテーブルに拳を打ち付けるマスタング。おいおいそれ俺の家具なんだからやめてくれよ。壊したら作り直しな。まぁ煽ったの俺だから罅くらいなら自分で直すけど。
「ヴァルネラ医師」
「なんだ、ロイ・マスタング」
「あなたが……身を挺してまで、イシュヴァール人を庇った理由はなんですか。自軍に敵対してまで彼らを逃がした理由はなんですか」
「要否」
簡潔に答える。
人を殺す理由も、人を救う理由も、いつだって単純だ。理由なんていくつかあっても、その一つ一つは酷く単純なものでしかない。
「要否……? 必要だったから、ということですか?」
「ああ、そうだ。あのイシュヴァール人には生きててもらわなきゃいけない。ま、今はわからんだろうし、わかる必要もない。わかったところで何にもならんからな」
「その……理由が、無ければ。あなたは、イシュヴァール人を見捨てていましたか」
ほう。
……ふむ。
「ああ、そうだな。別に救う意思もない。何かかかわりがあるわけでもない。それともなんだ、ロイ・マスタング。もしかしてお前の眼には、俺が視界に入る命全てを救いたい──なんて夢物語を口にするような奴に見えているのか?」
「……少なくとも、殲滅戦以前にいた兵士たちは、あなたをそのように語っていました」
「はは、人の語る誰かの美談なんざ美化に美化を重ねたモンだってそろそろ分かれよ。噂通りの人物なんてこの世にゃいないし、評判通りの奴なんか大体裏の顔持ってるよ」
……まぁ、それにしたってこの世界は善人が多いが。
クセルクセス王とか軍上層部くらいじゃないか? 俺が出会った中で、己の保身しか考えてなかった奴って。
「幻滅したか?」
「そう、ですね。いえ、あなたに、ではなく……あなたに焦がれていた己を滅しました。あなたは戦場にて命を救い続ける聖人君子などではなく、一介の錬金術師だった、と」
「それを幻滅したっつーんだよ。……ま、安心しな、ロイ・マスタング」
「何が、でしょうか」
反省である。
「ちょっと煽りすぎた。お前をそこまで悪い気分にさせる気は無かったんだ。だから、等価交換だ。お礼にするのはなんだが、お前が怪我したり、お前の周囲の奴が大怪我したりした時はウチに来な。程度にも寄るが、治してやるよ。あ、死者は無理だからな」
「……当然です。人体錬成は禁忌ですよ、ヴァルネラ医師」
「できてもやらねーっつってんだよ。できないけど」
「はぁ」
「だから、なに? 他人の言葉をカッコつけて使うけどさ。死んでなきゃ治してやるから、死なせんなよ」
ゴートゥーヘヴンはキャンセルです、ってな。
そこで会話は途切れる。
何か思うところがあったのか、それとも信用していないのか。
あるいは、殲滅戦があるって示唆してすぐに殲滅戦が起きたからな。
近々身近な人が怪我するかもしれない、とか真面目に考えてるのかもしれない。
いや、いや。
真面目だねぇ。錬金術も真面目だ。何あの綺麗な家具。角度も直線もあんまりにも綺麗。俺のガッタガタのそれとは違う、完璧に練られた錬金術だ。
ガラスやアルミなんかの研究設備も一切の撓みなく作っている。几帳面だし、仕事熱心だし。
コイツ軍人やってるより民間で錬金術師やってた方が絶対幸せになったって。なんで焔の錬金術習いに行ったんだよ別のいっぱいあっただろ。
……コイツに俺の生体錬成の知識授けたら、どうなるんだろう。
攻守万能なさいきょー錬金術師になるんじゃないか?
「なぁ」
「はい、依頼分は全て作り終えました。完璧な自負はありますが、一応触って確かめてみてください」
「……ん。流石だな、エリート」
「あなたに言われちゃ形無しですよ」
どうやら、運命はその未来を望まないらしい。
俺はこういうすれ違い行き違い、その場で言えなかったこととか全部大事にするんだ。ロイ・マスタング。彼と俺の縁はこの程度が限界ってこったな。
「おう、完璧だ。またほしくなったら頼むかもしれないけど、そん時は」
「この連絡先にお願いします。急な入金は心臓に悪いので」
「あいよん」
よーし言ったそばから縁の限界突破。
ロイ・マスタングの電番ゲットだぜ!