緑礬の錬金術師   作:ONE DICE TWENTY

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次の話から原作開始です。


一応、原作開始前って話

 アイザック・マクドゥーガル。

 元国家錬金術師にして現在は反体制派の一人。原作じゃちょろっと名前が出ただけ、FAではガッツリ戦闘の描写が為された武闘派錬金術師の一人。

 コイツが今どこまで掴んでいるかは知らないが、調べれば調べるほどに憎悪が溜まっていっているのだろう、その表情は復讐者のソレだった。

 

「氷結の錬金術師、アイザック・マクドゥーガル……で間違いないな?」

「……深緑色のフード付きコート。子供のような背丈。軽薄そうな声。……お前が緑礬の錬金術師ヴァルネラか」

 

 え、軽薄そうな声とかまで噂になってんの。酷くない?

 貫禄が無いだの覇気がないだのまではわかるけど、軽薄そうな声はもう罵倒じゃん。

 

「それで、最早伝説に謳われし緑礬の錬金術師殿が俺に何の用だ」

「ん-。俺からは特に用とか無いんだけど、要約すると"開ける気無いなら邪魔すんな"ってさ」

「何が言いたいか──わからん、な!」

 

 氷が走る。昨日雨だったからな、そこかしこに水たまりがあった。

 それを伝って、アイザックから四筋の氷が俺に殺到する。殺到して、俺が特に避けたりしないもんだから、普通に足が凍り付く。

 

「ハ! やはり見た目が子供でも中身はジジイ──避け切れなかったか!」

「俺からの用事は二つ。一つは今告げた事。伝言だな。もう一つはお前をセントラルへ入れないこと。これからたくさんの錬成陣をセントラル内に刻むつもりなんだろ? 事故防止は未然に防ぐのが第一ってな、アイツに言われるのすげぇ違和感あったけど」

「な……にを言っている? 状況が理解できていないのか?」

 

 膝を前に進ませる。

 体を前傾にする。

 そうすれば当然、びきびきと。ぎちぎちと音を立てて──足が折れ千切れる。

 

「等価交換だ、アイザック・マクドゥーガル」

「……!」

 

 だが、それも一瞬の事。

 血管は管だ。故に円を描いている。そこに綿密なまでに施された錬成陣が組織を作る。

 血管は血液を循環させるものだ。故にそれは大きな流れの縮小版であり、他の部位からの遠隔錬成を可能とする。

 血管は拡縮を繰り返すものだ。故に描かれた陣は短い間に二度姿を変え、組織創造と部位修復をほぼ同時に行える。

 

 ま、再生すればいい話なんだけど。

 

「お前がセントラルに入らなければ、俺はお前を見逃す。お前を入れないことが条件だからな。だが、お前がセントラルに入るというのなら、俺はお前から通行料を貰わなければならん。別に番人でもなんでもない俺だけど、大総統直々の命だ、従わないわけにはいかないだろう?」

「大総統……ブラッドレイ。そうか、そうか! つまり貴様も──貴様も奴らの仲間か!」

「お前が仲間じゃなくなったんだよ、アイザック・マクドゥーガル」

 

 絶対わざとだと思う。

 なーにが「民の命を脅かさんとしているテロリストから"通行料"を貰って来てくれ」だ。俺はカミでも真理の扉でもないっつーの。

 

「ならば話が早い! 戦場の神医ヴァルネラ! お前だけは違うと──そう祈っていたが、故に足止めで終わらせるつもりだったが! お前がそちら側だというのなら、俺はお前の敵だ!」

「えー、戦場の神医ってなにー」

「あの殲滅戦を生き残った兵士たちがお前に付けたあだ名だよ! だが──結局はただの、耄碌爺だったというわけだ!」

 

 空気中の水分を凝結させてつくられたサーベル。

 それを片手に突っ込んでくるアイザック・マクドゥーガル。もう片方の手にも錬金術が仕込まれていて、あれに触れると今度は体内の水が沸騰してドーンだ。

 もったいない。

 それこそ生体錬成の域だ。体内の水分を自在に操作できるのなら、やれることだってたくさんあっただろうに。

 

 でも、彼の身体はもう、セントラルの市境を跨いだ。

 

「もう一度いうよ。等価交換だ、アイザック・マクドゥーガル」

「遅い!」

 

 氷のサーベルが俺の顔に突き刺さる。

 簡単に貫通したソレは──だけど、やっぱり、俺にとって、なんでもなくて。

 

 ニヤりとしたアイザック・マクドゥーガルの表情が次第に恐怖へと変じていくのを見ながら、彼の顔に手を伸ばす。

 流石は武闘派、すぐに危険を察知して逃げようとしたのだろう。だけどできなかった。

 氷のサーベルが、自身の手にまでその範囲を広げていたから。

 

 熱を操作する錬金術。

 俺も昔習ってたんだよ。

 

「噂は、噂は、噂は噂ではなかったのか、そうか、緑礬の錬金術師──人間ではないというあの噂は、やはり、やはり──」

「ああ、直前まで噂は噂だって思ってくれてたんだ。ありがとう、お前、良い奴だよ」

 

 錬金術が発動する。

 青い光がアイザック・マクドゥーガルの顔の付近で輝き走り──彼は四肢から力を失った。否、意識を失ったのだ。

 

 ズルリと落ちる彼の身体。伴い抜ける……というか俺の身体を切り裂きながら抜けるサーベル。再生する俺。

 んじゃま、縛って、と。

 

「殺さなかったのかね」

「お前それ俺に何度言わせんの? 命を奪うメリットがないし、奪ったら返さなきゃいけないだろっつってんじゃん」

「だがそれ以前に此奴はお前に攻撃を与えた。攻撃されたから仕返す、というのも等価交換であろう?」

「俺が攻撃されることと、した奴が命を落とすこと。等価になるはずないだろ、そんなん」

 

 いくらでも再生する奴のどこを斬ったってソイツが命を落とすに値する攻撃には成り得ねえだろ。

 なるとしたら普通の人間同士だけだ。復讐の連鎖。命を奪ったから、代価として誰かに命を差し出す。その命を貰ったから、また別の誰かに命を渡す。

 終わりがないことこそ欠点だが、それは等価交換。俺は止めない。

 

「……セントラルへの入場料が今までの記憶全ての消去、か。それは等価なのかね?」

「いや、俺を狙おうと思って狙ってきたアレらと一緒にすんなって。消してないよ記憶なんか。今ソイツから俺が奪ったのは意識だけだ。テロリストがセントラルに入るのに一日だけ意識を失う。妥当な通行料だろ。一日経ったら自動で返せるしな」

「……」

「なんだよそのきょとんとした顔は」

 

 こちとら"生体錬成の権威"さんだぞ。

 人間の意識を一時的に奪うとかお茶の子さいさいだわ。……まぁ近づく必要はあるし、アルフォンス・エルリックみたいなのには効かないんですけどね?

 

「いや、そうか。そういえば私が君に下した命は"伝言"と"捕縛"であったな」

「いまさら何言ってんだよ。とうとうボケたか?」

「はっはっは、このアメストリス広しといえど、私をボケ老人扱いできるのはお前だけだ」

 

 言って。

 一刀のもと、アイザック・マクドゥーガルを切り伏せた。

 

「国民の安全を脅かすテロリストだ。殺さない理由があるかね?」

「じゃあ最初から捕縛じゃなくて殺害で依頼しろよ」

「殺害で依頼していたらお前は動かなかっただろう」

「なんだ俺のことよくわかってんじゃん」

「はっはっは、長い付き合いだからな」

 

 抜かりはないというかなんというか。

 俺が手を挟む余地もない──つまり、今の一撃で完全に絶命している。死んだ人間は生き返らせられない。いやぁ、手際の良いこって。

 

「ああ、彼の血を止めてはくれないか、緑礬の錬金術師」

「死人に止血を? ……ああ担いで運ぶとき汚れるからってか、大総統」

「対価はこれで十分だろう?」

 

 言って投げ渡されるのは、先ほどアイザック・マクドゥーガルを切り伏せた時に落ちた赤い石。

 ……親子揃って、っていうのかね?

 

「要らねーっつの」

 

 アイザック・マクドゥーガルの止血を行ったあと、その赤い石を握り締め、破壊と再生を以て消滅させる。

 

 まったくさぁ。

 

「俺はゴミ箱じゃねーっての……っていねーし」

 

 シンで培った氣を探る技術があれど、単純走力で一瞬でいなくなられたら気づけない。あの爺さん身体はちゃんと年老いてるはずなのに、まだまだ現役だねぇホント。

 

 ……ま、これで年一の査定がスルーでおっけーになるってんだから、安い仕事だったよ。

 

 

** + **

 

 

 さて──1911年11月。

 イシュヴァールの内乱終結から二年後。人々の心の傷は癒えたとは言えないものの、次第に活気を取り戻しつつあったアメストリス。そしてそれは軍も同じで、軍拡が進むその中で、ある風が──新しい風が舞い込んだ。

 実に76年ぶり。

 76年ぶりに、()()()()()()()()()()()()()()()()()──というのだ。

 

 そうなってくると……まぁ、ギャラリーが。

 原作の100倍はいるんじゃねーかってくらいのギャラリーが。勿論ブラッドレイもいるし、何故か呼ばれた俺もいる。子供を推薦したロイ・マスタングもいる。

 

「それでは、試験を始めたまえ」

 

 大の大人二人に連れられやってきたのは──金髪金眼の少年。

 右腕の機械鎧。足音からしてやはり左足も機械鎧。

 

 おいおいホーエンハイム。折角教えてやったのに何にも活かせなかったのかよ。

 

 彼は一度合掌し、手を地面に当てて──槍を作る。綺麗な槍だ。造形系の錬金術。その極致にあると言っても過言ではないだろう。錬成陣無しの錬成も、錬成速度も申し分なし。

 槍を作り上げた少年は──そのまま走り出し、ブラッドレイへ突き進む。

 

 その槍をブラッドレイが斬って、おしまい。

 まぁ原作通りだ。 

 原作通りだけど……なんだ、なんだ。そうなるようにとは心のどこかで期待してたけどさぁ、お前。俺を自由にしてくれた対価に未来を教えて、自由になる時間をやったってのにさぁ。

 

 いやいーよ、トリシャ・エルリックが死ぬところまでは。どうせ代価を支払えなかっただけだろうから。

 けどさぁ、自分の子供が人体錬成を行っちまうのを──止められなかった、って。

 もしかして原作通り失踪してたりする? はは、そりゃ……なんつーか、罪悪感あるな、少しは。

 多分本来より更にキてるだろ、アイツ。馬鹿がよ、知ってるのに、知ってたのに止められなくて、失敗体験が積み重なって……失意の果てにどっかで倒れてねーだろーなアイツ。

 

 えー、親愛なるクセルクセスの民よ。

 慰め頼んだ。優しくしてやってくれ、そいつ愛された経験が少ないんだわ。

 

「行くぞ、ヴァルネラ」

「……へーい」

 

 なんか大総統の付き人みたいになってるけど違うからね。

 一緒に来たから一緒に帰るだけだからね。

 

 彼。少年。

 

 エドワード・エルリック。

 俺をただの審査員の一人だと思っていたか、軍人の何かだと思っていたか。軍服も着てないフードマンを疑いもせず興味も向けず、見向きもしない彼に──長らくを待った"激動"の最潮を感じる。

 

「ブラッドレイ」

「なんだね」

「今、楽しいか?」

「若くて有望な芽が軍に来たのだ。楽しくないはずがなかろう」

「にしちゃぁシケた面だけどな」

「……」

 

 感じているのだろう。

 終わりの日が近いことを。

 そう──だってもし、フラスコの中の小人が門を開き、カミサマを抑え込み、真なる存在になったら。

 人間の寿命しか持たないラースも、"キング・ブラッドレイ"も、どちらも終わりだ。一度フラスコの中の小人の中に戻されて、もう一度、今度は他のホムンクルスと同じく再生する身体を持って作り直されることだろう。

 そうなれば勿論記憶はノイズの嵐に消えるし、何よりこの国は──消える。

 

 キング・ブラッドレイは最終投入された大詰め。

 逆に言えば大詰め以外の存在意義を持たないホムンクルスでもある、というわけで。

 

「ヴァルネラ医院では若返りは受け付けてねーからな」

「医院を拓いたのかね?」

「金にゃ困ってないから商売なんざしないよ」

「ふむ。私も寄る年波には困っているが、若返りたいとまでは思っていないな。老い(これ)も、私の一部だ。──永遠に取ることのできないお前と違ってな」

「そうかい」

 

 分かれ道。

 彼は大総統府へ向かい、俺はフツーに帰る。

 

「じゃあな、ブラッドレイ。養生しろよ」

「いつになくこちらを気に掛けるな。やはりあの少年が人柱だと気付いているか、緑礬」

「たりめーだろ手合わせ錬成俺だってしたいわ真理見れねーから無理だけど」

「はっはっは、お前が嫉妬するとは中々だな。では、私も彼の動向を注意深く見ているとしよう。それだけ価値のあるものなのだろうからな」

 

 そう言って、ブラッドレイは手を振って去っていく。

 

 ……無駄に警戒させたか?

 

 まいっか。

 どうせ殺されやしないよ人柱だもん。……怪我はするかもだけど、その時は……今の対価として、一回くらいは治療してやらぁよ。

 

 

 

 

 エリシア・ヒューズが生まれた。

 

 いや。

 いや、本来俺が関わることでも気に掛けることでも、なんなら言及することでもないんだが……呼ばれちゃったからな。

 

 マース・ヒューズに。

 イシュヴァール殲滅戦以降顔を合わせてさえいなかった彼に、「この祝いの席に来てくれませんか」って。

 

 なんで断る理由もないからはるばるイーストシティにまで来た……んだけど。

 

「……」

「ばぁ~べろべろばぁ~! エリシアた~ん、おとうちゃまですよ~!」

「だぁああ!!」

 

 ……場違い感パねぇ。

 祝いの席っていうからパーティ形式にしてんのかと思ったら、マジで生まれたことを祝いに来る場所だった。

 

 えぇ。えぇ、お前、ここで俺に何しろと。

 ロイ・マスタングに助けを求める視線を送る……と、彼は口の端を上げて歯を光らせ、サムズアップを送ってきた。今度胃腸薬と称して屁の止まらなくなる薬をあげよう彼のデート前に。

 他、マース・ヒューズの友達らしい若い軍人も、俺の方を見て……あ、これ誰だかわかってないヤーツだ。そりゃそうだよな、東方司令部なんかずーっと行ってなかったから、俺の姿見て緑礬の錬金術師と繋げられる奴なんかいねーわ。

 

 えぇ……。

 とか困ってる間に、俺の番が来た。

 番って何っていうと、つまり一人一人エリシア・ヒューズに挨拶……というか祝いの言葉をかけていく、っていう謎儀式だ。アメストリスの謎は深い。

 

「だぁ……?」

「えっと、あなたは……?」

「グレイシア、エリシア。彼はヴァルネラ医師。セントラルではとても有名なお医者さんでな、俺も……世話になった人だから、今回特別に来てもらったんだ」

「そうだったんですか。セントラルから……すみません、遠路はるばる来ていただいて」

 

 屈んでエリシア・ヒューズと目線を合わせる。俺が低身長だからって、まぁ流石にな。

 

「いえ、構いませんよ。マース・ヒューズ……ヒューズ大尉は頭の回転が速く、私と共に行った作戦においても途轍もない功績を残してくれました。そんな彼の娘さんが生まれたのならば、こうして駆けつけるのも苦ではありません」

 

 今言った言葉全部嘘ね。あ、苦ではない、以外嘘ね。

 作戦を一緒にしたのって殲滅戦だけだし、そこでは顔合わせてないし、途轍もない功績って何か知らないし。

 実際、視界の端でロイ・マスタングが噴き出して、マース・ヒューズは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。……いや、これ、ロイ・マスタングが噴き出したのは言った内容に対してじゃなく俺の口調に対してだな?

 

「だぁああ」

「ええ、そうですね。……それくらいはしましょう」

「だぁっ、だぁっ」

「ああいえ、私、こんなナリですが子供ではないので」

「だぅ?」

「はい。ですが、……その代価が、等価と認められたら、ですかね」

「ぁぅい!」

「それでは私はこれで。失礼しますよ」

 

 立ち上がる。

 

 呆気に取られているマース・ヒューズ、グレイシア・ヒューズに一礼し、ヒューズ邸を出た。

 

 出て、適当に歩いて、路地裏に入って。

 一応ポーズで、両手を上げる。

 

「……ヴァルネラ医師。"生体錬成の権威"。その力は脳に……患者のトラウマや恐怖症といった意識の部分にまで作用するとまで言われる神医」

「"功罪相半ばする"って言葉知ってるかい、ロイ・マスタング。あぁいや、今のお前に言っても意味ないか」

 

 背後には、()()()をつけたロイ・マスタングが。

 

 そして前方には──。

 

「……はっ、……っはぁ……」

「そんでもって随分と体調悪そうだなぁリザ・ホークアイ。いいのかい、狙撃兵がこんなとこに出てきて。それともアレか、スコープ越しに俺を覗くのはまだ怖いか?」

「っ……!」

 

 二丁拳銃を構えたリザ・ホークアイ。

 あれ、この構図だと俺の立ち位置エンヴィーじゃね?

 

「ヒューズの娘と会話していたように見えましたが……何かしたのですか?」

「してないしてない。会話したフリだよ。当然だろ?」

「あなたはそれを当然としないことができるから問うているのです」

 

 ……。

 ふむ。

 

 そうか。じゃあ、まぁ、少しだけ開示するのもアリか。

 だからこれは、ホーエンハイムの中にいた魂たちを見分けることのできた理由の一つ。理由の一つっていうか、他にちゃんとした理由があって、その副産物で、って感じだけど。

 

「俺は意識と会話ができる。意識だけの存在と意思の疎通が図れる」

「……! それは……あなたの錬金術がゆえ、ですか」

「俺が俺だから、だね。ああ、つっても言語で何かが伝わってくるわけじゃないよ? 何をしたい、何をしてほしい、苦しい、楽しい、怒っている、嫌だ……とかその程度だ」

 

 嘘だ。もっとくっきりと見える。

 当然だ。だって俺自身がそうだから。

 

「それで……彼女と、どんな話を?」

「"嘘を吐いた対価を払え"だってさ。いやはや、噓つきは泥棒の始まりとかいうけど、等価交換に縛られる以上は泥棒なんてできねぇんだ、ちゃんと返すしかないわな」

「……赤子がそんなことを言うようには思えませんが」

「ん? あぁ、だから、彼女の中の真、」

「あ! いた! おいロイ! お前の抜け癖は昔からだけど、今じゃなくたっていいだろ!」

 

 ここまでだな。

 運命は言葉を遮ることを選んだ。これ以上の情報は渡せない。

 

 マース・ヒューズに絡まれているロイ・マスタングを後目に、ゆっくりと歩き出す。

 その際、リザ・ホークアイとすれ違って。

 

「トラウマ。よっぽどだったら消してやるけど、どうするね?」

「ッ!」

「あっはっは、冗談冗談。記憶ってのは大事なモンだ。意思決定能力があるうちは手放さないことをお勧めするよ。それがどんなに凄惨で、思い出すことさえつらいモンでもな……って刻み付けた俺が言うのは違うか」

 

 ま、吐かれなかっただけマシってことで。

 

「ヒューズ大尉! すまんが俺はこれで失礼! 午後に急患が入る予定なんでな、急いで帰らせてもらう!」

「あ、はい。……ん? 急患が入る予定……?」

 

 結局、なんでマース・ヒューズが俺を呼んだのかは聞きそびれたけど。

 中々ないからなー、赤子に触れる機会って。

 

 それなりに新鮮だったよ。

 

 

** + **

 

 

 

「マージで急患が入るとは……」

 

 家に帰ってきてすぐのこと。

 セントラル病院から連絡があって、すぐに来てください先生にしか治せないんですみたいなこと言われたから行って。

 

 そこには、鉄血の錬金術師、バスク・グラン准将が。

 彼の顔、身体、腕……と様々な部位がぐちゃぐちゃになっていて、且つ穴だったりなんだりが開いていて。

 意識はない。だけど応急処置が上手いな。内乱当時の看護師がいるな?

 

「ヴァルネラ先生、何か手伝えることは」

「ちょっと大規模な生体錬成やるから出てってくれない? んで術後、めちゃくちゃ喉乾いてると思うし腹も減ってるはずだから、病人食の用意。あと点滴ね」

「はい!」

 

 人払いを済ませて。

 

 少々傷を見聞する。

 

「……おっかしいな」

 

 おかしかった。

 だってこの傷は、錬金術によるものだ。

 それも再構築前……分解の。

 

 つまり、原作における傷の男(スカー)のやる分解、その被害である。

  

 が、傷の男(スカー)も、傷の男(スカー)の兄も生きているはずだ。あれからそれとなく死体を探しているけれど見つかっていないし、氣も感じ取れていない。

 なんなら両腕も綺麗なままだから移植もされていないだろうし、額の傷もついていないので傷の男(スカー)にさえなっていないはず。

 

 じゃあ、誰が。他のイシュヴァール人?

 ……確かにイシュヴァール人の仕業ではあるのかもしれない。俺に逃がされた武僧ら数名、原作の通りクセルクセスへと逃げていた人々なんかは、フツーにアメストリス人を憎んでいるだろうし。国家錬金術師を殺したいとも思っているだろうし。

 ただ、この分解の錬金術を使えるのは……格闘術と共にコレを使えるのは、傷の男(スカー)だけ……のはず。傷の男(スカー)の兄は武僧じゃない研究者で、他の武僧は錬金術からっきしだし。

 

「うーん。まぁとりあえず治すか」

 

 治す。

 分解された状態の傷は実は治しやすい。錬金術の基礎、理解、分解、再構築の分解段階で止めているだけなこの錬金術は、生体錬成においては日常茶飯事な光景だ。俺もよく肉体の分解するし。

 生体錬成で分解した皮膚や肉、内臓や骨は、同じく生体錬成で再構築できる。また錬丹術を使えば元の流れを汲み取る……つまり、再構築ではなく再生、あるいは治癒とでもいうべきことが行える。生体錬成とフツーの錬金術の違いは相手が人体であり、引き延ばしたり他から持ってきたりすると二次被害が起きる、って点だけど……。

 

 まぁ、そこは俺。

 肉を補充するのも内臓を補填するのも筋肉を移植するのも血液を弄って血液型合わせて輸血するのも。

 

 なーんだってできる。なんせ資源は無限だからね!

 眼球破裂の復元もできるって公言しちゃったので治せちゃう。ただ世界中から隻眼の奴らが集まってきても面倒なので、「潰れた眼球が手元にあり、それが腐ってなかったら」にした。そうしないとまずブラッドレイの眼治せって言われるだろうしな。アイツ眼あるから無理だっちゅーに。

 

 あ、四肢欠損についてはまだ無理にしてある。

 俺の手足千切ってくっつけて、筋肉とか神経とか全部作り変えて……もできなくはないんだけど、それはどう頑張っても生体錬成としてのレポート提出ができない。

 ちぎれた手足がその場にあって、それをくっつけるならできる、とは言ってあるけど、とうの昔に失った手足を生やせってのが無理難題なのは軍も理解してくれたようで、「流石に無理か」と言われて終わった。ブラッドレイはできるだろうに、とか思ってんだろうけど。

 

 そんなことつらつら考えてる内に治療完了だ。

 五体満足のバスク・グラン准将。ただし肝臓に機能低下の兆しあり。ここまで完璧に再現させてもらった。肝機能障害だね。お酒、もう少し控えるよーに。俺は生活習慣病とか酒、タバコの飲みすぎ、ドラッグのやり過ぎにおける治療はしないよ。それは等価交換で自分たちが得たものだからネ。

 

「はーい治ったよー」

「流石ですヴァルネラ先生! ほら、あなた達、言ったでしょう一時間かからず終わるって!」

「い……いや、あの怪我は、集中治療室で一日かけても治るか治らないかの……それ以前に命を繋げられたこと自体」

「はいはいはいはい点滴通りますよどいてくださーい。あ、ヴァルネラ先生、グラン准将の意識は」

「戻ってないけど疲労で寝てるだけだから、点滴だけしといて。あ、あとアルコール性肝炎が見られたから、目覚めて病院食食わせて、そろそろ退院だ、って頃に伝えて絶望させといて」

「了解しました!」

 

 うん。

 やはりイシュヴァール内乱帰りの看護師は手際が良い。そして話も通じやすい。余計なことは聞かないししない。

 医院をひらくつもりはサラッサラないけど、フラスコの中の小人の目論見が破綻したらマルコー医師とかにこいつら紹介しようかな。あとノックス医師とかに。ああそういや彼、医者やってんだろうか。検死医になったかどうかも知らないんだけど。

 

 ……俺が気にすることでもないか!

 頑張れ准将、ああ、俺はアルコール性肝炎で早死にしたっていいと思うぞ。大好きなお酒に溺れた等価交換だからな。

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