巻き込まれた少年は烏になった:Re   作:桜エビ

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悍ましい二律背反

 とっくに梅雨入りも過ぎた。

 季節通りの雨が降り、明かりをつけてないため薄暗い隠れ家のリビングで俺は端末を見ていた。

 端末画面は送られてきたミッションの内容が書かれている。俺は再生ボタンを押してブリーフィング映像を流し始めた。

 

 

『ミッションを説明します』

 

『あなたの戦績が評価されました。今回の依頼主はローゼンタール、我々の親会社です』

 

『今回は中国西部の国境にある基地を襲撃する際の遊撃戦力をお願いします』

 

『我々は爆撃による航空機倉庫の破壊後、本格的な侵攻を考えています。その前段階としてあなたには我々の部隊とともに対空砲の破壊をしてください』

 

『その後、航空機以外の機動兵器の排除をお願いします。報酬は基本金額に加え破壊した兵器毎で追加の予定です』

 

『ローゼンタールとも繋がりを作れる良い機会です。そちらにとっても悪い話ではないと思いますが?』

 

 

 

 俺は、来るとこまで来たと思った。テロリストではなく国連軍が保有する基地を本格的な攻撃により奪う作戦。

 そんな基地に歩兵がいない方がおかしい。当然装甲で身を守ってない歩兵を直に撃たねばならばい状況に陥るだろう。

 

 その事に強い抵抗を感じたが、拒否権は無い。

 ブリーフィングでは認められたと言っているが、実際の意味合いとしては「親会社からの依頼。断ればどうなるか分かるだろ」ということなのだから。

 

 自分の中の欲求をそう誤魔化した。

 行きたいという欲ではなく、脅迫されていると良心に言い訳した。フィルターを解除したにも関わらず、俺は戦い(ゲーム)を楽しもうとしているのではないかと。

 

 突然、何もしていないのにリビングの明かりがつけられた。

 

「どうしたの?暗い部屋で深刻そうな顔して」

 

 シャルさんがリビングに入ってきた。電気をつけたのもシャルさんだろう。

 

「シャルさん、相談したい事があるんです」

「何?どうしたの?」

「レイヴンって、罪悪感を持つ人っているんですか?俺、ずっと人殺しした事を怖がってるんです。でも……」

 

 なよなよしているのは分かっている。

 

「別にそれが悪いとは思わないよ。そういう人は居るし、そういう人はすぐ辞めていった。あなたは好きに辞められない状態なわけだけど」

「そう、ですね。でも最近変なんです、俺」

 

 シャルさんは腰を下ろし、頷いて先を促した。

 

「楽しいんです、戦いが。ゲームとして見ないようにしても何処かで壊すのを愉しんでるんです。そんな自分が、嫌、なんです」

 

 シャルさんは少し考えた後、口を開いた。

 

「正直、答えは人それぞれ。私が手出しできる問題じゃない。なにより私は戦いを愉しんでる人種だから、いまだ抵抗がある君に無闇に答えられない」

 

 はぁ、とシャルさん少しため息を吐いて言葉を切る。

 

「いえ、こちらこそすいません。いきなり」

「いいのよ、それを口に出して気が楽になるなら」

 

 宥める様に優しい表情のシャルさん。ちょっと珍しい気がする。

 

「でも、苛つかないんですか。殺しているのにうだうだしてるんですよ」

「その歳でかつ一般的な感性をもってるのなら、そうなるのが当たり前。まあ、本当に悩むのはさ」

 

 そういうとシャルさんは打って変わって小悪魔のような笑みを浮かべる。琥珀色の瞳は少し妖しげに輝いていた。

 

「やってみてからでも遅くはないんじゃない?」

 

 まるで今後起きることを見通してるかのような、そんな錯覚に俺は陥るのだった。

 

 □

 

 『ミッション開始。プラン通り、まずは対空砲を攻撃してください』

 「了解」

 

 あの相談から3日後、作戦は実行に移された。

 

『敵襲!総員戦闘配置!』

 

 先行したローゼンタールのノーマルAC隊が接敵しており、当然それを認識した基地は臨戦態勢だ。

 基地はヘリで吊り下げられていた状態で遠目から見ても、騒がしく兵士と兵器が行き交っているのを認識できる状態だった。

 

 そういえば、攻める側は守る側の倍戦力がいるという話を聞いた気がする。こっちにそれだけ戦力があるか知らないが、俺はやれることをやればいいか。

 

 俺は散布型ミサイルを再び受け取っていた。それを選択して起動する。

 どうやらほぼ完成したらしく、これは先行試作量産型。この実戦投入のデータ次第で最終的な仕様を決定、ないしこのまま販売を開始するらしい。

 

 そのミサイルを対空砲にマルチロックする。

 

「いけよ」

 

 放たれたミサイルは煙の尾を引いて複数の砲台に突き刺さり、爆散する。

 それが基地攻撃の合図になったらしく、ノーマルAC隊にいるローゼンタール製のTYPE-DULAKEも対空砲を攻撃し始めた。

 なら俺はこれを妨害する敵を排除すべきだ。全員が対空砲を撃って横合いから攻撃を受ける形になるのは非効率的だ。

 

 基地の出入口から出てくる敵の戦車をリニアライフルで撃ち抜いた後、基地を守る塀よりも高度を取り、出入口の向こう側を確認する。

 先ほどの戦車の残骸で立ち往生する戦車とノーマルACの部隊を確認した俺は、そのままEOも起動してミサイルで空爆する。

 ありったけのマルチロックにより、隊列のいたるところにミサイルが突き刺さり混雑を悪化させる。

 

 しかし最初の方に確認の時間があったため1斉射でエネルギーと熱が限界に達し、ホバリングをやめ壁の外に着地。

 だが、そんなエネルギーに余裕のない瞬間を突くかのように、敵攻撃ヘリが来た。

 

『調子に乗るな!』

 

 ヘリが俺に向けてミサイルを発射する。それに対して俺は放たれたミサイルを飛び越える形で回避し、ヘリに高度を合わせた。

 ミサイルから武装を切り替えてなかった俺は、本能に近い思考をもってブレードでそいつを正面から切り裂いた。

 

 そして俺は見た。

 下半身のなくなったパイロットが、ガラスを突き破り落ちていくのを。

 自分の手で殺したのをはっきり見届けた。

 

 何も感じない訳じゃなかった。罪悪感、自分への失望。逆に空中のヘリにブレードを当てたという達成感。

 ホバリング後であることを無視したため発生したチャージングとオーバーヒートの警告がコックピットに響く。

 その電子音の中、俺はごちゃまぜの感情と少し吐き気を堪えていた。

 

 

『なんだと!どういう事だ!』

 

 偶然、指揮官と通信が繫がった。

 

『こちらのセリフだ!そちらはノーマルの部隊だと聞いていた。レイヴンがいるのはなぜだ!』

『そういう指定だろう!指示はそうなっている!』

『こちらとて同じだ。空爆はさせるなと』

 

 空爆?指定?一体なにを言ってるんだ。

 

『レイヴン。作戦変更です。爆撃機がここへ来る途中に要撃機によって撃墜されたそうです。あなたはこれから渡される爆弾を持って基地に突入、倉庫に仕掛けて下さい』

「……そうですか。了解」

 

 さっきの通信が気になるが、まず目の前の事だ。

 

 そうして、味方ACから、AC携帯用爆弾を渡された。

 

『味方も援護してくてるそうです。危険な役回りです。気をつけて』

「了解」

 

 西門から一気に敵陣のど真ん中に突っ込む。

 EOとリニアライフルをありったけ連射して入り口周囲を制圧した。

 

「西門前はクリア」

『了解です。このまま倉庫まで進んで下さい』

 

 制圧した空間を突っ切り、敵を回り込むようにして倉庫裏に回り込んだ。

 倉庫越しにリニアとEOを撃って再び隠れることで撹乱の為に来たように見せかけ、爆弾設置という本来の目的を覆い隠す。

 そして、装備ブレードのためマニピュレータが空いている左手で、倉庫の壁の比較的高い位置に爆弾を設置。

 

 即解除なんて事は無いだろう、と思った。

 しかし。

 

「ACだ!オーダーがいるぞ!」

 

 運悪くそこを通りかかった歩兵の一団に見つかった。ざっと見たところ10人、1分隊か。

 発見が早すぎる。ここで爆弾が設置されたことを報告されればギリギリ解除されてしまうかもしれない。

 無意識にその考えに至った俺はリニアライフルを歩兵に向ける。

 

「邪魔だ」

 

 トリガーの瞬間、口から漏れた言葉はあまりにも冷酷だった。

 轟音とともに、怯んだ歩兵隊の真ん中へ弾頭が突き刺さった。

 

「ぁ……あ」

 

 そして、後悔した。

 高初速、大口径砲の砲弾を人に撃った結果なんて目に見えている。

 血の霧と化した者。半身がない肉塊。内臓が撒き散ってるもの。

 運良く生きている者でも手足が無くなっていた。加えて弾や地面の破片が誰も等しく貫いていたため、いずれ全員死ぬだろう。

 

 自分が地獄絵図を作った。

 光景と直前の思考が、ヘリパイロットを殺したとき以上の吐き気と嫌悪が襲う。

 

 

 

『……聞こえますか⁉すぐに脱出してください!』

「……!了、解……ッ!」

 

 

 

 数分後、基地の倉庫は盛大に爆発した。

 おそらくあの分隊は一人残らず死んだだろう。先述の通り助かる傷ではなかったし、あの状況で運び出せたとは思えない。

 

 ACが作戦領域外に出るまでは耐えられた。

 だが、ヘリに繋がれた辺りで限界が来て、胃から来たものをぶちまけた。

 幸いACには備え付けの袋があったのでそれを使う。

 

 やはり、機体を壊すのと直接死体を見るの違う。生理的嫌悪感には抗えない。

 だが、兵器に乗っていようがいまいが、俺は敵を殺している。そこに違いはない、今までやってきた事だ。

 それに加え、俺は何処かで戦いを愉しんでいる。今だって歩兵にしっかりとリニアライフルを当てられたという達成感が吐き気の裏側に隠れてる。

 戦いには自分にとって色んな意味で都合の良い敵が出てくる訳では無いのだ。

 

 追ってくる吐き気に苦しみながら、俺は矛盾に藻掻き続ける。

 

 □

 

 俺は仮の家に帰ってきた。

 ミッション前に交わした言葉と、自分が見た光景がフラッシュバックする。

 

「おかえり……大丈夫?」

 

 シャルさんが玄関で迎えてくれた。

 中国から日本までの半日かけて帰ってきた。にも関わらず未だにグロッキーな俺を見て、流石のシャルさんも心配している。

 

「なんとも言えません。歩兵を直接攻撃ってクルものがあります」

「……まあ、あのミッション内容だと、ね」

 

 いつかは起きることだった。と言うふうにシャルさんは頷く。

 

「ええ、フィルターないと聞いた時から覚悟はしていましたが」

「無理もない。君はまだ子供なんだから」

 

 付け加えるように「そんな状態で立ち話は酷でしょう?」とシャルさんにリビングまで招き入れられる。

 

「シャルさんは歩兵を直接攻撃した事、あるんですか?」

 

 俺は素朴で物騒な疑問を口にした。

 

「あるよ。何しろ私はACに乗る前から殺しはしてたから、それほど抵抗は無かったな。」

「そう、なんですね」

 

 驚いたが、当然だとも思う。じゃなきゃレイヴンは厳しいだろう。

 

「私の生まれたところでは人殺しは身近だった。まあ初めて大型兵器とかに殺されたのを見たときはビビったけどね」

 

 シャルさんはなんともなさそうに言い放つ。

 生まれが違いすぎる。殺しが当たり前の世界にいたシャルさんと、平和ボケした世界で生まれた俺。

 そんな俺でも受け入れてくれたし、価値観の違いを知りつつ話を聞いてくれていた。

 

「そうですか……でも今は逃げられない。それに、別に吹き飛ばしたMTにだって人はいた。それに」

 

 その時の俺はどんな顔だっただろう。

 辛そうだっただろうか。

 楽しそうな顔だろうか。

 でも、自分に嘘をつき続けるのはきっと良くはない。

 

「あんな酷い事をして、なお楽しい気持ちが完全に無いわけじゃない。きっと俺は……慣れてしまえる。そんな気がするんです」

 

 シャルさんは一瞬以前見せた妖しい瞳を輝かせ、その後に目を細める。

 あの瞳がどういう感情なのか、俺はまだ読み取れない。

 

「そう……でも、無理しないでね。まずはACを見たら?自分の商売道具なんだから」

「そうします。ありがとうございました」

 

 俺は席を立ち、ガレージへと歩き始める。

 

 □

 

 歩み始めた練の背中を見届けたシャルは、鳴り出した端末の着信に答える。

『俺だ』

「詐欺?」

『おいおい、そんなんに引っ掛かる歳じゃないだろう』

「数字だけ見れば十分対象じゃない?」

『数字はな!そんな事より、お前んとこのレイヴンの参加した戦闘が()()()の内容と違うって問題になってる。上は気付いてないらしいが、おそらく乱入者の仕業だ』

 

 シャルは少し眉を釣り上げた。

 練は気にしてなかったようだが、異常事態に巻き込まれていたのか。そうシャルは脳内で呟く。

 

「どのタイミングで情報が入れ替わったか分かる?」

『GAからの情報だが、この時の[打ち合わせ]は顔を合わせて行われたらしい』

「じゃあ、命令が下に伝わる途中ですり替えられた訳だ」

『ああ、部下に伝達する過程でインターネットで命令をやり取りした履歴も見つかったらしい』

「もう社内ネットワークに侵入してるのね。ホットラインに手を出されるのも時間の問題か」

 

 壁によりかかる。

 電話相手はやれやれとくたびれた調子で言った。

 

『そうだな。おそらくあいつにも動いてもらわなきゃならない』

「ええ、そうね。で、もう一人は?」

『こっちも動きがあった。レイレナードの物資が不自然に消えた事件。その運搬担当が監視カメラに写ってたが、銀髪の青年、奴だ』

「物資の内容は?」

『全部は掴めなかったが、一覧ファイルを端末に送った。見てみろ』

 

 端末からホログラムディスプレイでシャルの目の前に盗まれた物資が表示された。

 

「……アクチュエータ複雑系の最新モデル、それと炭素繊維装甲の原料。掘削機械?心当たりはある?」

『いや……ないな。ACでも自前で組み立てる気なんじゃないか?』

 

 おどけたようにジョークを言う電話相手。シャルはその声にすこし嘘があるように思えたが、こういうときの嘘は暴いてもどうしようもないと割り切りスルーした。

 

「そう。にしても、そのキャラいつまで続ける気?この世界は本人がいるんだから必要はないでしょ」

『レイヴンである間はこうする事にしている。俺が決めたことだ』

「……ハイハイ、分かった。じゃあ切るね」

 

 

 

 

 端末を握ったまま、シャルの電話相手はため息をついた。

 

「杞憂だといいが……フラグだな、あり得ないのに。マシなとこに投入されることを祈るか」

 

 端末に地図が映る。物資が消息不明になったエリアの地図だ。

 そこにアプリの合成機能でもう1つの地図が重ねられる。

 

【コジマ物質採掘場】

 

 消息を断ったポイントと重なるように、2枚目の地図にはそう記されていた。

単語集やキャラクター集は必要そうですか

  • 私にはそれが必要なんだ
  • 単語集だけでいい
  • キャラクター集だけでいい
  • この小説には、不要だ……
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