敵2機は彼らを追いかけるように行動した。連携ではなく一人につき1機がついてくる。
二人はそれを見て比較的直線的にそれぞれ戦いの場を移す。ただの休戦状態である以上連携は望めなければ相手も連携していないので、お互いに足を引っ張らないよう各々で戦闘する形にするしかない。
アキレスはどんどん基地の外に、ヤンは基地の入り組んだエリアへと敵を引き込んだ。
「幸いAPに余裕がある。んでもって敵は射撃頻度が少ない。継続的に攻撃して打ち勝つ!」
アキレスはマシンガンとイクシードオービットを撃ちながら後退し戦場を基地の外に移していく。
充分に敵を外まで引き付けた後に、エネルギー切れ防止のためEOを格納。マシンガンのトリガーを引きながらアキレスは敵の周囲を回るような機動で距離を維持して戦い続ける。
グレネードが当たらないと踏んだ敵はミサイルに切り替える。確かに命中弾が出るものの、発射数と頻度の関係からダメージは散発的でアキレスの与えてくるダメージと釣り合わない。
敵がどう動こうとアキレスは敵を捉え続けた。
やがてI-C003-INは業を煮やしたかのように、プラズマキャノンを連射するための予備動作に入る。右手に装備された大型のキャノンを両手で保持し、どっしりと構えた。
「そこッ!」
最初に見た時からそれが狙い目だった。あの体勢に加え連射力と威力からどうやら敵は足を止めなければならいようだ。
おそらくすぐには中断できない。構えた時点で相手は攻撃を回避出来なくなる。
そこに散布型ミサイルを敵に全ロックし発射。18発のミサイルは動けない敵に容赦無く喰らいついた。
□
「先程のダメージが気になる……旋回は中量並か。あれを使えば十分翻弄できるか」
ヤンは基地で倉庫が乱立するエリアに敵を引き寄せた。
当然ながらら倉庫という遮蔽物は敵からヤンの姿を覆い隠し、光学センサーからヤンをかばう。
無論I-C003-INにレーダーはあり見失った時点でレーダー索敵に移る。
だがノイズが酷く敵はヤンの位置をいつまでたっても特定できなかった。
「ECMだ、こちらのな」
予想通りの位置で動きが鈍くなった敵の姿を発見し、ヤンはほくそ笑む。
ECMは敵味方関係なく電子機器の機能を低下、停止させる。基地の中にあった大型のモノを部下に起動させたのだ。
だが、ヤンには関係ない。この基地はヤンがかつて一時的に所属しており、地形を把握している。
そして入り組んだ地形で、自分以下の機動力でどう動こうと考えるかなどベテランのヤンには手に取るようにわかるのだ。
「……動かないのならこちらから行こう」
索敵に没頭し動かないでいる敵の後ろから、ASTライフルで攻撃する。
敵は被弾の衝撃で攻撃された方向を認識するが、振り返る頃にはヤンは倉庫の影へと姿を消していた。
「今さら動き出したか。だが」
ヤンは敵のブースト音を聞いて移動方向を捕らえると、それを倉庫越しに並走する形で追いかける。
当然移動性能のすべてで優っているヤンのハイエンドACは敵のブーストダッシュに追いつき、側面を路地越しに捉える。
ミサイルは無事に全弾ロックオンが完了した。
「単純な動きだ」
倉庫エリアを貫く大通りに飛び出た2機。その瞬間を逃さずヤンはミサイルを放って倉庫群の中へと姿を消す。
エネルギー切れ間近でブレーキを掛けた敵はミサイルの直撃を受けてよろける。
追いかけるようにヤンが消えた倉庫の路地を見るが、当然そこにヤンの姿はない。
次の襲撃方向をAIは模索した。
――後部上方からブレード。グレネードランチャー、スタンバイ。
そしてヤンは敵の後ろの倉庫の上から飛びかかる。
そこにグレネードを構える敵がいた。
しかしブラフ。ブレードを振りかざした姿勢のまま、ヤンはブーストペダルを蹴り飛ばしそのままの姿勢のまま急上昇。グレネードが彼の下を通り過ぎていった。
敵は2射目を用意しようとするが、俯角の限界を超えられその間ライフルの弾丸が雨のように突き刺さる。空中にいる状態での再捕捉のため旋回し着地点を模索する敵だが、捕捉よりヤンが敵の右手後方に着地する方が早かった。
振り返るまでの間にヤンは4発分のミサイルロックを終えて発射する、伸びていく白煙はすべて正確にI-C003-INの胸部に殺到し、ミサイルの爆炎が敵の視界を潰す。
ヤンはオーバーブーストを少しの間だけ起動。動きが鈍った敵の右脇腹にまるで一歩で踏み込んだかのような機動で潜り込む。
『「トドメェ!!』」
二箇所で二人は同時に叫ぶ。
アキレスは鈍った機体を正面から叩き斬り、ヤンはその脇腹めがけて真横に一閃、両断した。
『こちらは片付いた。そちらは?』
「こちらもちょうど終わりました」
二人はその場でお互いに通信を繫げる。
『こちらの方が手負いといえ、ほぼ同時か……お前のような実力者が居るとはな。傭兵も捨てたものではないな』
「お褒めに預かり光栄です。しかし、申し訳ないですが、国連の依頼は受けれません」
『受けられない?受けないではなく?』
ヤンがレイヴン相手ならそっちだろうと言わんばかりに問いかける。
「はい。俺、春まで一般人だったんです。日本の。企業に人質を取られて、無理矢理レイヴンを始めたもので」
『本当か!無理しているだろう。それは……』
「今は企業側の依頼しか受けられないですが、レイヴンとして普通にやってけていますから大丈夫です。あ、依頼はあいつらに盗られましたので撤退します」
I-C003-INという謎の人型兵器により、国連基地はすでに多くの個所が破壊されている。
アキレスの持つマシンガンは34発しか残っておらず、休戦した直後に戦う気にもなれなかったため報酬は諦めて帰ることにしたのだ。
「今オペレーターがあなたの戦闘を様子をおくってくれました。素人目ではありますが見事でした。一時の共闘、誇りに思います」
『そうか……身勝手ながら1つ言わせてくれ』
ヘッドマウントディスプレイに映る映像の一角に1つのウィンドウが開かれ、そこに彼の姿が映る。
『国連の者を代表して謝罪する。お前達を戦争に巻き込む事を許してしまった。済まない』
「いえ、そんな、今は好きでレイヴンやってるんで、そんなこと言わないでください」
ウィンドウの向こうで深々と頭を下げるヤンにアキレス――練はしどろもどろしてしまう。
練としては生き残るためとはいえ好きに戦う、という決心を固めて日が浅いため気後れしたのだ。
頭を上げたヤンさんは何かに気づいたように話す。
『……知らないのか。念のため、お節介だと思って聞いてくれ』
「……? はい」
『ある軍事評論家が戦争開始時に言った言葉だ。そいつによると、企業は3ヵ月も保たず国家に負ける見込みだと。だが、現実は違った。お前はこれをどう捉える?』
「企業のノーマルのアップデートとか?それとレイヴンの雇用頻度?そういう部分で補填したのでは……? 」
『そんなもの、物量と税金でどうにかなる……税金は言いすぎたが、よく考えてみろ。初期の情報精度の高さを。レオーネグループですら対国家戦は戦力予想に大きな間違いは無かった。おかしいと思わないか』
「確かに……でも、それって……」
あまり考えたく無い答え。確固たる物証もない。
だが、あり得ない話ではない。力のなくなった国家と、碌なことを考えない企業。
『そういえばアキレスといったか?』
「そうです。レイヴン、アキレスです」
『お前が……なるほど。お前の近くには裏に詳しいやつがいるはずだ。聞いてみろ、真相を知りたければ……話し過ぎた、帰った方がいい。味方が集まってくる』
「……分かりました。ありがとうございます。戦争が終わった時に。また」
そうして、アキレスはそのまま作戦領域を離脱した。
『アキレス……』
「オペレーター。探られたくないと?」
戦闘モードを切り巡行ブーストで移動していると、オペレーターのナジェージダさんから通信が入った。
最近、彼女とはオペレーターとレイヴンの関係であるために、そしてあまり子供と悟られないために、あえてタメ口で話している。
『いえ、あなたの心象が心配なだけです』
「そうか、世話をかけた」
□
東京の新宿付近の路地裏。そこにとあるバーがある。
――スカーレット・ナイト。少し古風の酒場といったテイストの店だ。
その店は貸し切りの看板が掛かっている。
その貸し切り客は6人、それに加えて店内には店主と店員が1人ずついた。
「さて久しぶりにこんな人数が集まったんだし、飲むか」
「このメンツであんたから言い出すとか……あいかわらずですね」
そう言ってシャルは隣の老婆にワインを注いだ。
「はは、まだ動ける。これからだよ」
「おお、怖い。お孫さんは?」
その老婆はGA代表取締役、宇佐見菫子その人である。
年老いて快活、という表現が似合うであろう董子は渡されたワインを景気よく飲み干す。
「元気にやっているよ。私が若い頃やらかしたくらいにはな」
「それは……また引っ掻き回さないようしっかり教育してほしいんだが?」
隣から少し草臥れた様子の中年がツッコミを入れる。
その彼はオーエンと顔のパーツがいくらかに通っていた。
「保証できん。ありゃかなり私に似てるからな。痛い目見てようやくか?ハッハッハ!」
「勘弁してくれ……」
グロッキーになった中年の隣で高らかに笑う。
「なんです?いざという時は私が斬ります!」
「知り合いの孫を斬るな刀バカ」
あとからやってきた銀髪の少女がいきなりそういい放ち、少し離れた席にいたストレイドがツッコミを入れる。
ストレイドはシャルより年上のような印象を受ける装いだ。
「で、そういえばアキレスはどうなんだ」
思い出したかのようにストレイドはシャルに切り出した。
「最近そればっかね。どうして?」
「そりゃ、期待の新星だからな。気になるんだ」
この異常な空間で、彼に興味の無い者はいなかった。
「成長速度は期待通りかそれ以上。それにどこか私たちとも違う伸び方してる気がするのよね~」
「へえ、楽しみ。戦ってみたいなぁ」
闘志の滲んだ声で反応するのは金髪ではあるがストレイドと違って深紅の瞳を持つ少女。外見は中学生前後くらいだろうか。
外見にそぐわないが店員であり、エプロンを身に着けて追加の酒をカウンター越しに渡しつつ反応していた。
「お前は駄目だ。焼き尽くすだろ」
「あの頃とは違うって!多少は加減できるわよ」
少女はカウンターから身を乗り出し主張する。
だが。
「競り合う、手に汗握る戦いだったら?」
「そりゃぁ、もう、全部をぶつけて……」
「アウトォォォ!」
恍惚とした表情で語るが、内容は
思わずストレイドがツッコミを入れた。
オーエン似の男が立ち上がる。
「さて、本題に移ろう」
パン、と手を叩く。その途端、空気が張り詰める。
「情勢はどうなんだ?」
「……もうあの均衡は保たん。既に敢えて[打ち合わせ]を無視する事案も出てきた。お互い潰しにかかるだろうよ。全く人はどこに行っても変わらんもんだ……」
老婆は残念そうに言った。だが全面戦争の結果は見えている。
そして同時にそのような結果が見えている戦いを進んで続ける企業とも思えない。
「強がるにも限界がある。もし”乱入者”が全面戦争を望むなら、何かしら企業に対抗手段を持たせる筈だがその様子も……」
全員が唸る。
その時扉の開く音がした。
「俺に思い当たる所があります」
扉の方で声がする。振り返ると、3人の影。
「なに?ってお前!何でアキレスが居るんだよ!」
ストレイドが驚きの声を上げる。
彼より年上の男女二人に挟まれ、アキレスが居た。
その二人は申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめん。店の前にいたら問い詰められちゃって」
「あそこまでしつこいとな……」
「もう……アキレスはどうやってここを?」
「オヤジさんに普段何処へ行ってるか徹底的に問い詰めさせてもらいました。そしたらここ、と。この二人が店へ入る寸前に問い詰めもしましたし」
すらすらと経緯を喋るアキレスは、既に言いたい事は決まっていた。
「シャルさん、そして皆さんに聞きたいことがあります」
「なに?」
少し深呼吸する。この話を振れば、今後自分はさらにヤヤコシイ立場になるだろうと分かってはいた。
だが、この疑心を抱えたまま戦い続けて生き残れる自信もなかった。
「この国家解体戦争は……発端すら仕組まれた、大掛かりな管理戦争なんですか?」
「……辿り着いたのね。その答えに」
まあそうなる、と、知られたくなかったな、が混じったかのような複雑な表情をするシャル。
「いえ、国連軍のヤンさんにヒントをもらえました。企業の戦力は国家に対する戦争には足りないと。以前から違和感はありましたが」
「彼か、お節介焼きなんだから……管理戦争の件は正解よ。そしてそれを利用しようとする者たちもいる」
アキレスは彼より年下の店員にカウンター席へ案内された。
「ここから話す事は他言無用。バレたらここに居る私達が全滅すると思って聞いて」
「……え?」
アキレスはまさかそこまで口封じするほどの機密だとは思っていなかった。なにせ国連軍のエースが漏らしたのだから公然の秘密ぐらいに考えていたのだ。
途端に居心地が悪くなっていったアキレスであった。
単語集やキャラクター集は必要そうですか
-
私にはそれが必要なんだ
-
単語集だけでいい
-
キャラクター集だけでいい
-
この小説には、不要だ……