「この戦争自体は企業と国家の利害が一致したからこそ管理戦争として成立してたの」
「利害の一致ですか」
国家と企業による管理戦争。
それが今の実態。
俺は今、シャルさんに真の現状を教えてもらうため、カウンター席の端の方に座っている。
「企業の開戦の表向きの理由って確か国家が現状をさばき切れないことによる不信と、今の企業側の会社に対して不利な政策ばかりをしたことでしたっけ」
「表向き……まあそうよねぇ」
管理戦争の始まりの本当の理由が公の場に出るとは考えにくい。
「そうね。それ以外には主に2つ、大きな理由がある。さっき言った通り言いふらさないで。消されるよ」
「分かりましたから……それでどんな理由ですか」
先程は結構驚いてしまったが、こうなっては仕方ない。
「まず1つ目は企業が人類史に残る失敗をした事を隠すため。君はここ最近、宇宙に関するニュースを聞いたかい?」
「あまり聞きませんね、言われてみれば。軌道エレベーターの話はパッタリ聞かなくなりました」
「これを見て。ミストレス、お願い」
ミストレスさんが手元で何か操作をすると、テーブルの向こう側にホログラムディスプレイが現れた。
「衛星兵器アサルトセル。企業は世間の目をこれから逸したかった。こいつは地上から宇宙に上がってくる飛翔体を迎撃する無人砲台なの」
図面のような画像。
その横から、地球のCGが表示される。そしてその周囲は真っ赤な点でびっしりと埋まった。
「15年ほど前から、お互いの宇宙開発を妨害するためにばら撒かれ始めたんだけど、その結果衛星軌道がこれで埋まってしまい、地上から物を打ち上げられなくなったの」
「自滅、ですか」
「ええ、フロンティアを自らのものにしようと争って、自ら閉ざしてしまった」
これを国民が聞いたら、暴動が起こりそうだ。
これを戦争でそれどころじゃなくして、忘れてもらおうという魂胆か。
「既に私達は解決に動いてる。でも、今企業にバレたら潰されるわね」
「口封じですか。企業が体裁を気にして」
じゃあ2つ目、とシャルさんが話を進める。
「17年前の民族浄化戦争については?」
「ええ、歴史の授業で少しふれました。ACの概念が生まれたのもこの時でしたよね。それと関係が?」
小学生の最後の方で習った。国家解体戦争が勃発する以前としては一番最近の大規模紛争。
民族という最も差別的な対立が引き起こした凄惨な戦争だったと記憶している。
「企業も国家も、当時その後のベビーブームを予想して政策を立てていたの」
「先読みしてインフラ整備しときたかったってことですか」
「でもその後の出生率は予想を下回る数値だったの。結果赤字だらけで大騒ぎ。続く企業の立て直しも失敗し不況が発生。国家の統治能力は結果的に下がることになったの。その上少子高齢化が進んで、今後世界経済そのものが支えられなくなるとの予想さえ出ている」
そこまで来て、なんとなく分かった。
だが、その答えに、怒りが沸き立つのを抑えられなかった。
「まさか、そのインフラと政策、少子高齢化対策の為に、人為的にベビーブームを起こしたくて無理矢理戦争を起こしたってことですか⁉」
「そういうこと。まあ他に戦争する理由はあったから、これは後押しなっただけと思うけど」
――殺し合いをして、人口を増やす?ふざけるな!!!
俺は思い切りテーブルを叩いた。
テーブルは丈夫で、寧ろ自分がダメージを受けたくらいだ。だけど、その握りこぶしを緩めることは出来なかった。
確かに俺は生きる為に何人も殺した。戦いを心から望んでいる立派なクソ野郎だ。
でも、それは本末転倒にも程があるんじゃないか。だけど、説明がついてしまう。
「ACやその他全ての兵器にAPが設定されているのも。ブレードによる相打ち事故防止のとして斬り結び用の磁気反発装備の義務化も。APが0になった際、過剰演出をつけるARシステムも」
「全部、戦死者を少なくして、戦場から帰還する兵士を増やし新たな子を産んでもらうために、戦前になって整備されたもの、と……」
レイヴンなんかの何倍、おぞましいほどに利己的だった。それで多くの人が翻弄される事をまったく気にしていない、企業らしい考え方だ。
「戦場での戦死者減少。一般人上がりの俺が理由を知らなければ、きっと良く聞こえたんでしょう」
俺はテーブルの上で握りこぶしを一層強く握り込んだ。
「でも今はそいつ等の身勝手さに腸が煮えぐりかえりそうです」
場が静まり返る。周りの人たちにとってはとっくの昔に分かっていた、当たり前のことなのだろう。
子供らしい感性を振り回してしまったのが急に恥ずかしくなった。
「……ッん!ちなみにこれだの情報ってどこから……」
咳払いをしてごまかすと、無理やり話題を転換する。周りがクスっと笑ったのが余計こっぱずかしかった。
「わしじゃよ」
微笑を残したまま初老の女性が立ち上がる。かなりの権力を持っていそうな風格が備わっている、外見の年齢を感じさせない雰囲気を持っていた。
「あなたは……」
「グローバルアーマメント、代表取締役。宇佐見菫子というものだ」
――ん?
しばらく飲み込めなかった。
そして。
「えっぇええええええええ!?⁉⁉」
理解した途端、椅子から転げ落ちそうになった。
最大クラスの企業がシャルさん達を後援している。その事実があまりにも衝撃的だった。
「彼女には随分前からお世話になってる。一種のスポンサーよ」
「そうだったんですか……でも、そんな凄い人が居るなら最初からどうにかなりそうな気がするんですが」
企業の一角。
その権力からすれば開戦を止めることはできた筈だ。
「本当はそうしたかったんだ。だが私がこの地位に辿り着いたのは6年前。その頃にはアサルトセルはもう地球を囲んでおった」
シャルさんを挟んで向こう側の席に座り、洋酒(俺は未成年なので、酒に何があるのかわかってない)を注文しながら話を続けた。
「既に国家との管理戦争の話も進んでいて、GAが参加するかしないかの差だった。規模の問題だよ。外交上拒否もむずかしかったしの。だから、鬼札として潜り込む事にした」
つまり彼女が社長さんになる頃には既に手遅れだったと。
「なるほど……」
「さて、こちらからは話した。次は君の番だ。心当たりとはなんだ?……他の企業が持つ逆転の一手は」
宇佐美氏はこちらの中身を覗き込むような目で問いかけてくる。
「私も気になります」
「外野は黙ってて」
白髪の少女に釘を刺すシャルさん。
しかし、これは企業の手ではない。もし盗み聞いた通り、誰かが全面戦争を望んでいるのなら、直接的であからさまな方法がある。
「その一手は企業からじゃありません。乱入者とやらが直接手を下せばいい。国家を削るんです。無人機で」
「無人機……お前は何を見た」
動揺が見て取れる。
「I-C003-IN……特殊ハイエンドと機体COMは言ってました。そいつが基地に大打撃を与え、依頼にあたっていた俺に襲いかかってきました。」
「まさか……ミストレス‼」
血色を変えたオーエンさん似の人が呼びかける頃には、マスターが情報を切り替えていた。
そこに映るのは国連軍の現状を報告する画面。
おそらく戦争を管理しているメンバーの1人である宇佐見社長の情報だろう。
国連軍基地は何処もかしこも被害の報告が上がってる。
「いつか見た状況…!なんで直接介入の可能性に気付かなかったの⁉」
「仕方ないんじゃないか?無駄な先入観を持ってたんだ。それに知ってても出来たことはたかが知れてる」
シャルさんが苛立ちを抑えられない声で言うのをストレイドさんがなだめる。
「これで、国家と企業は名実共に戦争状態に入るわけね」
「なら、早く乱入者を抑えて、こいつが黒幕だったっという証拠を手に入れ、その上終戦協定に持ち込めるよう手を回さないと手遅れになる。」
オーエンさん似の人が言う、手遅れという不穏な単語。間に合わないとどうなるのか。
「簡単に言えば全面戦争。お互いに戦えなくなるまで、手段を選ばず戦争を続ける。世界は荒廃するだろろうね」
「……ん?」
シャルさんが補うように言葉を続け。
俺は違和感を覚える。
「それを止めたいんですか?」
「そうよ」
やっぱり、違和感がある。俺が一般人上がりだから気付かなかった。
この人達の動機。そして、知識。
2つともただのレイヴンにしては、やはり不自然なんだ。
「あなた達が
「……どういうこと?」
「何故戦いを否定するんです?あなた達は」
戦いに生きるのなら、止めようと努力するとは思えない。
少しだけ空気が変わった。
そこにいた面々の目が全員以前のシャルさんのように妖しい光を放っているように思うが、気になってしまった俺は止まれなかった。
「本当は何が望みなんです?一体何者なんです……」
「あら、深入りは命取りとシャルから学ばなかった?」
その声を聞くまでは。
テーブルの向こう側からミストレスさんが冷たく、妖しげな声で言い放った。
「っ……!?」
装甲越しとはいえ戦場を見てきた俺が硬直する。
「あなたが知ることでは無いのよ。知る価値のあるものも無いの」
殺意ではない。これは処分とか処理とか、そういう意識の向け方だ。
この人は多分存在の次元が違うのだ、という飛躍した発想が脳裏を過る。
「何故知ろうとするのかしら。」
この異常な圧力は、ACで戦える以外はガキである俺を硬直させるのに十分すぎるほどだ。
――見るな。
――来るな。
――知るな。
――渡るな。
無言で発せられる何かが俺の中で、そう警鐘を鳴らす。
「何故……ですか……?」
「そうよ、あなたは部外者。ここに居るべきではない人物。」
辛うじてそれだけを絞り出せた。
見つめてくるそのナニカは、最早人では無い。そう思わせるような眼差し。
――聞くな。
――寄るな。
――理解るな。
――探るな。
頭の中の警告が止まらない。俺の生存本能がうるさいくらいに警鐘を鳴らしている。
シャルさんも、この人も、この周りにいるのも。きっと人智を凌駕している、そう言うモノなんだろう。
「……ミストレス。もう充分じゃないか?それに彼は有用だ」
オーエンさん似の男がミストレスさんを止め、それを聞いたのか圧力が緩む。少しだが。
その男は席を立ち、こちらを向いた。
「初めまして。ランク32、unknownだ。」
自己紹介が入る。アンノウン、未知という名を持つ男は、俺が冷静になったのを見届けてから話を続ける。
「先に言っておく。いまので分かっただろうが、君が好奇心で知ろうとしてるなら、よした方がいい」
そう言って一歩、こちらに踏み出す。
その目の前で、信じがたい事が起こった。
「このまま進んで知ることになるのは、非常識のその裏側」
その男がこちらにコツ、コツ、と歩みよる間に背が縮む――いや若返っているのか。
「もう一つのダークサイドを覗き見る行為」
声は高く別人のものとなり。
髪は艷やかな色合いに変化し伸びていく。
「そこは企業とは違う、そしてそれよりも恐ろしいものが蔓延る深淵」
それを纏めるように彼女はリボンを付ける。
Unknownさんは大人の女性へと変貌を遂げた。
「あなたはが知るのはこういう事。知ってはいけないモノ達の楽園」
上手く言葉が発せない。彼女が屈んで顔が同じ高さになる。近くなる顔は整っており、そこには妖しげな微笑み浮かべていた。
当然ながら、そこには美しさを見出す余裕は俺にない。
「それでも知りたい?この世界の
単語集やキャラクター集は必要そうですか
-
私にはそれが必要なんだ
-
単語集だけでいい
-
キャラクター集だけでいい
-
この小説には、不要だ……