俺は意を決して言った。
「俺は生きるために戦うと決めました。それが俺のレイヴンとしての生き方……ですが、たった今それでは足りないと気づきました」
「へえ、それは?」
「【少しでも納得できる生き方】をするために俺は戦います。そのためにも……俺はここで退けない」
しん、と静まり返る。その静寂の中、俺は真っ直ぐunknownの目を見つめ返した。
unknownの右手が動く。
「なら……握手をしましょうか」
俺は疑いを持ちながらもそれに応じた。右手を握り合う。
その刹那、一瞬で相手の握力が上がった。
(そんな事だろうと思ったよ‼)
俺はunknownをテーブルの反対側に背負い投した。
そして腰からナイフを抜き喉元に突きつける。
そして扉の方に行くため、ジリジリと彼女の正面から頭の上の方に回る。
また、静寂が場を支配した。
「……何よぉ〜定番のイタズラじゃないのよぉ」
「……は?」
Unknownさんはその静寂と同時に場の雰囲気等も全て破壊した。
「まいったまいった〜まあ、接し方としては正解かもね」
unknownは立ち上がり、俺はナイフを仕舞う。こんな空気だが、俺はまだ警戒を解いてない。
「おいおい、お前のせいで信用ガタ落ちじゃないか!」
「……腰抜けじゃないかの確認よ。まあ合格点を斜め上で超えたけど」
ストレイドが茶々のごとくUnknownに罵るが、彼女は全く気にしていない。
「実際不信感が止まらないんですけど……」
「まあ、化け物は疑うに越したことはないからいいんじゃない?」
なんとも言えない空気感の中、俺達は席に戻った。
「話を戻すけど、無関係では居られなくなる。きっと私達がずっと付き纏うことになるわ。それでもいいの?」
「目は背けません。それにこれで拒否してもそもそも監視が付きまとう人生になるでしょうから些細な差です」
unknownさんは俺の目をじっと見つめる。そして納得したのか、椅子に座り直した。
「それじゃあ、私達の存在について幾らか言っといたほうが良さそうね」
しばらく話し続けるつもりか、水を一口飲む。
「貴方は幻想郷って言葉は聞いたことある?」
「ネット上でちらりと名前だけ。かなり眉唾の都市伝説のようでした」
たった1回だけSNSの記事表題として見たっきり。
名前も見出しも露骨な作り話みたいだったのでスルーしたが、名前は偶然覚えていた。
「まあそう作ったものね」
「……というとあれは」
「脚色はしてあるけど実在する。あからさまな法螺話として撒いたほうが、隠すより手を出されないと思ってね」
あらゆる情報の真偽を確かめる術を失いつつある現在、真実や情報とはもはや宗教。
真実を暴こうとする野心家を相手取ることを考えれば、存在を隠すより嘘にしてしまったほうが早かったのかもしれない。
「それであなた達はその幻想郷の関係者と言うわけですね」
「そういうこと。ここにいるのは幻想郷の首脳陣と、外界対策チームの実行部隊メンバーよ」
周りを改めて見回す。強者らしい雰囲気と異常な存在感をひしひしと感じた。
「シャルは実行部隊の方。天狗の中でも腕利きで、本来の力を発揮できる環境なら単身で亜音速飛行できるし、木をへし折ったりも余裕よ」
怖い。普通の人間が身ひとつでいたら即死。
というか、俺はその中に居るのか。身体が震えてきた。
「日常生活で事故は起こさないわよ……流石に手加減は当たり前のようにしてるから……」
「そこまで怯える……?」
俺の様子にシャルさんも苦笑い。それを見て俺はその発言を信じることにした。
そしてシャルさんが引き継ぐように話を再開した。
「幻想郷で生まれた妖怪である私達には、国籍が存在しない。レイヴンなら実力さえあれば戸籍の有無とかどうでもいいし、戸籍代わりとして外界の活動がしやすくなる」
「なるほど、それでレイヴンの方が多いんですね」
今ここに集まっているメンバーは殆どがレイヴンだ。実行部隊はレイヴンになるのがほぼ必須なのだろう。
「つまり全面戦争を止めるのも、その幻想郷ってモノの為ということですか」
「そうなるね、何もなければ外の世界に関わるつもりはなかったけど、外の人間が起こした壊滅的な戦争に巻き込まれたくはない」
シャルさんここの人達の戦う理由に俺はしっかりと納得した。
レイヴンになったのも、戦うのも幻想郷のため。
「……まだ分からない事はあります」
「何かしら?」
ミストレス――バーの【マスター】という言葉は男性のことを指し、女性はこう呼ぶらしい――が反応する。
恐らく彼女が幻想郷のトップらしいので、知りたいこと教えてくれるかだったり俺の処遇だったりは彼女が決めるのだろう。
「1つ。俺がシャルさんに借りてるACにあるデータや、まるで未来を知っているかのような情報等は何なのか」
彼女は表情を変えず相槌で先を促す。
「2つ。妖怪、でしたっけ。その強大な力や存在をやけに秘密にしたがること」
「……そうね、順を追って説明したほうが良さそうだし、2つ目を先に説明しようかしら」
そう言うとホログラムを切り替える。
表示されるのは、古そうな文献の数々。
「そもそも、妖怪や怪異とはなにか。そこからになるわね」
「……」
「今では【迷信】などと言われるようになったそれは、それを【信じる】ことで存在することができる。恐れや信仰という思念の集合体が私達」
「思念の集合体……」
光あれ、とはよく言ったものだ。多くの人々がそれを信じること自体がそれを実在させた。
書物がそれを広げ人々に伝播し、それは産み落とされた。
だが、逆もまた真なり。
「つまり、使わないのではなく、使えない……」
「当然ながら科学が台頭し、信心が無くなれば消える。私達がまだここのいるのは、生き残るため閉鎖されたコミュニティを用意したから」
それが幻想郷ということか、と俺は一人納得する。
ホログラムは地図に変わり、時代劇で見るような人里とそれを取り囲む山岳部、その上を更にドーム状の何かが包み込んだ。
「情報の宗教化が進む昨今、信心を持つ人が少しずつ出ている。お陰で消滅のリスクこそ減ったわ。それでも意識や思想に作用するこの結界の外では、信仰の密度が薄いことに変わらない」
「幻想郷の存在は命綱なんですね……」
愛おしそうにホログラムを眺め、そしてそれを撫でるような仕草をするミストレス。それを見て俺は彼女が心から幻想郷を愛してる事を思い知らされる。
「……いけない、聞きたいのは秘密主義の理由だったわね」
「そ、そうでした」
俺はその様子に魅入っていた為少し忘れていた。
「幻想郷の境界線は2つの論理結界から成り立ってるの。そのうちの1つが博麗大結界。常識と非常識を隔て、意識の余計な侵入を防ぐ結界よ」
「ひ、常識と非常識……? 」
「理解が難しいとは思うけど、妖怪の存在を確かにして、内外の常識が異なっているほど強力になる結界という部分だけは理解してくれると嬉しいわね」
かなりちんぷんかんぷんだが、仕組みはともかく必要とされていることと秘密主義の理由はうっすらわかった。
「……必要な部分だけかい摘むと、魔法とかが使えるという【常識】がこっちに広がると、幻想郷とこっち側の常識の差が小さくなって結界が壊れる、ってことですか?」
「正解よ。納得してもらえたかしら?こっち側が幻想郷と同じようになれば問題ないのだけれども、現在時点では妖怪が姿を消す方が速そうだから」
俺は思わず唸る。
納得はしたが、面倒くさい話になったものだと思わずにいられない。
「じゃ、1つ目のは私から説明しようかしら」
「そうね、その件は貴女が話すべきかもしれないわ」
Unknownさんが後ろの壁に寄りかかったまま声をかけてくる。
俺は丸椅子を座り直してUnknownさんの方に向き直った。
「まあぶっちゃけると本当に未来を知ってる……というと語弊があるけど、平行世界の未来を見たからね」
「……ファンタジーから急にSFになりましたね」
妖怪、魔法ときて今度は平行世界と未来だ。落差が激しすぎる。
「40年前、幻想郷そのものの存亡の危機に陥ったの。私は当時その世界の裁定者的な存在だったけど、上手く行かなくて」
少し嫌な記憶を掘り返すような表情で語る彼女に、俺は止めようか悩んだ。
だが、聞いた以上しっかり聞くべきだと真剣に耳を傾けることにする。
「最後の手段みたいなモノを用いてどうにかしたんだけど、その際力が暴走して幻想郷どころかこの世界から吹き飛ばされちゃったの」
最後の手段ということを考えると、おそらくそれよりも最悪な結果を覚悟しての行為だっただろう。
彼女の決意は相当なものだったに違いない。
「様々な世界……マルチバースといえば伝わりやすいかしら。それを放浪する羽目になった。かなりいろんな世界を回ったわ。当然ACがある世界も」
「つまりはそこの知識なんですね……」
かなり近い歴史を持った平行世界ならば、それは未来と変わらない。それを知っているならば歴史改変のような介入を行えるはずだ。
「補足だけど、ここのいるメンバーはその時の捜索隊メンバーでもある」
「捜索隊……? 」
ちょっと遠めの席にいたストレイドさんが付け足してきた。
「私達にとって必要な存在だったからな。そいつと違ってそうホイホイ世界を渡れるわけじゃないから、偶然痕跡を観測できたそのAC世界に私達も乗り込んだんだ」
「なる……ほど……」
まあ確かにこれだけの事をするのに、1人が見聞きしただけの情報では心許ないか。
「それに幻想郷は外の常識を持ってる存在も少ないからな。その時に学んだやつしか外でまともに動けないってのもある」
「というと……」
「携帯端末を見て驚き、巨大な液晶広告に尻餅をついて、エスカレーターを遡りそうな非常識な奴が目立たず行動できるわけないだろ?」
それは……そうなるな。
おそらく明治初頭の文明レベルなのだろう。そのような状態の人妖をこちらに送り込んでも生活からして困難だ。
「ちなみに最初はこの世界にACが生まれるなんて思わなかったわ」
「え?どうして……」
「始まりは40年前よ、ACなんて影も形もないし民族浄化戦争も未来の話だった。あくまで遥か遠いマルチバースの別シナリオと考えてたの」
様々な、それこそ魔法が主体となる世界みたいなものもあるくらいだったのだろう。そうなればどれが自分たち世界の未来足り得るか分からない、ということか。
「だから、MTが生まれたという情報を聞いたときには戦慄したわ。私たちが見た世界は幻想郷どころか人類が生存するのにも必死になるレベルの終末世界。当然そんな未来を私たちは許容できない」
「……幻想郷にとってシナリオ通りは絶対に許せない。戦争を起こさないか、結末を変えたい」
俺が解釈を呟き、Unknownは頷き肯定する。
「だから私たちは、根本からシナリオを捻じ曲げた。国家が開戦するために用いた戦略兵器を事前に消した」
「……すでにそんな改変を?」
「そう。コジマ技術という莫大なエネルギーと汚染を生む忌むべき技術。それを生まれる前に研究所を破壊することで兵器体系を消滅させたの。これにより企業は国家解体戦争を2年ずらし、子飼いのレイヴンを充実させる戦略に出た」
シナリオを根底から変える大胆な直接攻撃。もしこれが純粋な未来からの知識であったならばタイムパラドックスは避けられないだろう。
存在を秘匿していた彼女たちにとっては決死の攻撃だったに違いない。
「それでも足りない……それにコジマ研究所を破壊する少し前に、さらに間違いに気づくことになった」
「間違い?」
「これは本来この世界のシナリオではない。いるはずの人物の何人かがいない、生まれる場所や時代が平行世界のズレどころではない。歴史の修正力とかではなく、何かの意思で歴史がシナリオに戻されている」
「ど、どういうことですか?」
「この世界は他のマルチバースのシナリオを何者かに演じさせられている、ということ。黒幕が、確かにいる」
幻想郷にとっての明らかな敵。借り物のシナリオを押し付けてくるその存在がこの戦争やこの後の滅びを演じさせようとしている。
おそらく国家解体戦争を仕掛けただろうその存在は、俺にとっても敵だろう。戦争は俺から本来の人生を奪い、戦いに突き落としたのだから。
「そして、私たちは深刻な人手不足よ。外界に適応できる人材が限られる以上、ここにいるメンバーと海外にいる2人しか実働できない現状。私たちはあなたを引き入れたい」
「……それなら望むところです。真実を知った以上、納得して生きていくためにも依頼主はあなたたちの方がいい」
腹立たしい存在を撃つことができるという点でも、幻想郷および協力関係にあるGAへついた方がいい。
もとから縛られた生き方を強要される状況だった俺だ。むしろ自由になったくらいだ。
仲間になった俺を、妖怪たちは受け入れ宴会へとなっていく。
本来事件を解決した際のお決まりだそうだが、それ以前に宴会が好きらしいので俺を口実に酒を飲みたいだけなのかもしれない。
俺は今日を以って幻想郷、組織のコード【ForGotten.Who】の協力者となり、表の勢力としてもGAへと後援者を移して活動することになった。
単語集やキャラクター集は必要そうですか
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私にはそれが必要なんだ
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単語集だけでいい
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キャラクター集だけでいい
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この小説には、不要だ……