巻き込まれた少年は烏になった:Re   作:桜エビ

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勢い任せにいっくそー


遺伝子の枷

 

 あの後俺はサナトリウム(隔離病棟)に送られた。

 必死に目を逸してたから気付かなかったが、俺の右足の骨折は開放骨折だった。その上開放骨折だったせいか、治療中に未だに特効薬が見つかってないウイルスの感染が確認されたらしい。

 

 右足の手術から3日たった。

 その日あたりからおかしいと思った。ウイルスを抱えたにも関わらず、俺は右足以外にこれといった違和感を感じることはなかった。流石におかしいと看護師に訪ねたが、潜伏期間だと返された。

 痛み止めの効果もあるかもしれない。そう自分を納得させて眠りにつく。

 

 

 さらに4日たった。

 疑いは深まるばかりだ。もとから治りが早いのと、何だかんだ最新の再生医療を使わせてもらっているので、右足はかなり良くなった。

 その上、以前と変わらず体の調子はいい。

 ――病気は悪化してない?

 いくらなんでもおかしい。周りの言うことが信じられなくなってきた。

 

「父さんと母さん、心配してるだろうな。」

 

 

 

 入学式まで後3日になった日。

 右足はとりあえず治った。

 治りが速いと自負していたが、流石に早すぎないかと不安になる。

 リハビリのため病室から出てくるように言われ、看護師さんの後ろに着いていく。

 看護師さんはエレベーターに入り、俺もそこに続いた。俺は看護師さんが規則的に様々な階のボタンを押していくところを目撃する。

 するとどうだろうか。エレベーターは下に向かっていきリハビリ施設のある1階を通過、さらには地下1階を通過した。

 

「……どういうこと、なんです?」

 

 暇つぶしに病院のパンフレットを見ていたことがある。

 まず先述の通りリハビリ施設は1階だ。それでもってこの病院の地下は1階までしか描かれていなかった。

 

 なにが、起きているんだ。

 

 

 やがて目的の階に着く。ここまで来てしまうと、12の子供である俺には抵抗のしようが無かった。

 エレベーターの外にある廊下は別に暗くも、汚くも無かった。だがそれと同時にひたすら無機質だという印象を受ける。

 成すすべなく、といった調子で看護師さんの後ろを歩いていると、ある扉の前で看護師は立ち止まった。

 

「こちらです。」

 

 部屋の名前は【第9診断室】。

 危険、の文字が書かれた扉に恐怖心が顔を出す。

 ウイルスは本当だった?いったい何をされる?中学校に行く前に自分はここで……。

 怖くてたまらなかった。

 

 しかしそんな俺にはお構いなし、といった調子で扉が開かれる。

 

 どうぞ、の声で勝手に治ったばかりの足が動く。

 中は少し暗かった。奥の方が見えない。

 

「君には聞いてもらわなければならない話がある。」

 

 いきなり左から男の声が響く。

 そっちを向くとスーツに身を包んだ男。セールスマンチックな雰囲気。

 想定外と雰囲気に顔をしかめる。あの手の人間は苦手だ。

 

「僕に何をする気ですか。高すぎる治療はいりません。助かるなら、時間がかかっても構いません」

 

 言ってから状況を思い出す。

 嫌悪感が先走った。こういう時に思ったままをぽろっと言ってしまうのは悪い癖だと散々親にいわれていたのに……。

 しかし、そんな発言に男は少しも気にするような素振りもなく言葉を返してくる。

 

「始めに言っておく。君には、選択する権利はない。」

 

 何を言ってるんだ。

 選択の権利がない?恐怖の横に怒りが顔を出した。

 

「次に、君の血液中には今まで言ってきたウイルスなんて存在しない。こちらが君を引き止める為の言い訳、と言っておこう。」

「冗談じゃ無い!今までずっと我慢してたんだぞ、こっちは!もう入学式の3日前なんだ、お前たちの勝手で人生台無しにされてたまるか!」

 

 怒りを抑えられず、怒鳴り散らす。だが、男は吐き捨てるように、言い放った。

 

「言わなかったか。君に選択の権利は無いと。こっちは君に交渉してるのでは無い。」

 

 言い切られ、何も言えなくなった。

 こちらはどう言おうと、これから説明される事象を回避することはできないのだ、という宣言だった。

 

「自己紹介が遅れたな。私はオーメルから来たフレディ・ネイサンだ。」

 

 自己紹介だと。今さらふざけたことを。

 さっきまでのことを思い出し、そういった言葉を抑えるのに徹することにする。

 

「さていきなりだが、君はドミナント、という言葉を知っているかな。」

 

 黙って首を振る。知るか。そんな専門用語みたいな言葉。

 

「だろうな。先天的戦闘適性、つまり戦うために産まれてきたような存在、選ばれた人間だ。」

「嘘くさいですね」

 

 そんな眉唾もの、中学生男子が興味を持つわけ……いや、中二病とやらにはいいかもしれないが。

 

「私だってそう思ったさ。だがな、実際に【天才】という概念がある。そういう事だ。」

「そういうことって……どうやってですか。才能ななんてどうやって実証するですか。」

「君は見ただろう圧倒的な力を。」

 

 こうなった原因……レイヴンか。

 

「そう、レイヴンだ。そいつらの遺伝子と身体を徹底的に調べたんだ。そしたらどうだ。上位のレイヴンに共通する遺伝項目が山ほどあったのさ。先天的な筋肉構造、脳構造、体質。遺伝子からくる人格や反射神経。生まれつきというものがどういうものか思い知らされたさ。」

 

 ネイサンはそこで区切った。何が言いたいか少しづつ分かってきた。

 だが、同時に馬鹿馬鹿しいとも思った。

 

「君が聡明ならば、そろそろ理解できるはずだ。救急隊から君の遺伝子サンプルをもらってね。調べたんだ。」

 

 まさか自分が、とは思いたくはなかった。

 

「君はどうやら選ばれた人間らしい。出たんだよ。ドミナントの一因とされる遺伝子が。」

 

 この言葉に、首を傾けたくなった。正直なところ、自分がそんな強い人間だと思えないからだ。

 体育は並、特技もなければ優れた頭脳を持っているわけでも無い。The・平凡だと自分を評価してた。

 そんな自分が「貴方は戦いの天才なのですよ!」と言われてもピンと来ない。だが、最新の医療機器の手配、面倒な書類偽造などを考えると、嘘を言うにしては派手が過ぎる。

 

「……オーメル専属ACパイロットになれと?」

「ずいぶん話が早い。普通はレイヴンで切り出されるんだが」

 

 意外とやる気があるやつも多いんだな……と状況に対して能天気な発想が脳裏をよぎる。

 

「選択する権利はない、と言いましたよね。ここでの拒否やACに乗った途端逃げ出したらどうするつもりで?圧力かけて寝返りなんてよくある話ですが。」

「ほほう、子供の割にはいいカンをしている」

 

 ふん、と不機嫌そうな顔を。ドスの効いた声でネイサンは言った。

 

「こちらへ不利益なことをするなら、お前の家族や大切な者が無事では済まない、といえばいいかね?」

 

 まあそうなるよな。黒いことに手を付けているとは思っていたが、度合いとしては想像を超えていた。

 

「しかし、君は冷静な方だ。人によっては『選ばれた』の単語で堕ちる勇者気取りな者もいる。最初から首根っこを掴まれているのに気づく子供は少ない。」

「選択させる気が無い時点で怪しむものだろ。」

「大人はな。普通は怖がっている子供に優しく接して話しやすくするところから始めるんだが、君は早々に切り替わっていたからな。話しやすいよ」

 

 

 よく言う。子供に強気に出られて腹がたっているのもあるんだろう?と脳内でひたすらに罵った。口に出すのは少しオブラートに包む。

 

「ビジネスマンが好きじゃないだけです。」

「例えそうだとしてもだ。いやはや、これは上質なドミナントかもしれんぞ」

 

 目つきが変わる。どうやら判断能力が高いと判断されたらしい。

 ――早々に実戦へ回されるとでもいうのか……?

 選択肢が無いことには変わりない。あるなら最善だ。オーメルの完全な子分になってしまえば、匙加減で俺は簡単に死地に放り投げられるだろう。

 

「……配属先も、自由はないんですね?」

「ふ、さあな。私は通告者だ。細かいことに関しては上が決める」

 

 チッ、こいつと話すだけ無駄なのか。その後のことはこいつの上司が決める……ってあれ?

 

「閑職、ってわけですか?病人相手に死神ゴッコして遊んでると」

「……なんだと?」

 

 図星らしい。どうやらオーメルの中での権力はあまりないようで、そのことを指摘されたネイサンは眉をピクリと動かす。

 こうなりゃヤケだ。鬱憤晴らしにののしってやる。

 

「本当はこんなクソガキ相手じゃなくて、お仲間企業のお偉いさんと話してたかったでしょうね……こんな仕事じゃ昇進を狙えるのか……」

「貴様……言わせておけば……! 」

 

 ネイサンはがさつに立ち上がると、憤りを露わにした歩き方で詰め寄ってくる。そして俺の襟をつかんで、強引に立たせた。

 

 「少しは大人びてるかと甘くすれば、調子に乗って……ッ!今立場を分からせてやる!」

 

 どうせ、今後浴びるのは鉛玉。なら気晴らしの結果拳を浴びるくらいいいか。

 そういうあきらめと共に、俺は襲い掛かってくるであろう暴力に目を閉じた。

 

 

 

 だが、痛みは来ない。

 

 「はい、そこまで」

 

 聞き覚えのある女性の声に、俺は再び目を開いた。

 声の主であろう女性がネイサンの振り上げた腕を掴んで止めているのを、俺は見た。

 女性と言っても見た目は高校生くらいだろうか。日系らしい黒髪に琥珀色の不思議な瞳をしている。

 人によってはまだ「少女」と分類するかもしれないが、俺にとって年上になる彼女をどう呼ぶかは悩ましいため、女性と今は言っておく。

 

「お前は……!邪魔をするな!離、ガァアアッ!!」

「子供を殴って戦場送りだなんて、性根まで腐っちゃったみたいね」

 

 女性が相当な力で腕を握ったのか、ネイサンは俺の襟を手放して悶えた。その光景に、俺は落ちた勢いで尻餅をつく。

 なんだ、この人は……。

 

「こんなことをして……ただで済むはずが……」

「あら、じゃあせっかく持ってきたGAの20000Cの案件、他の人に回しちゃおうかな?」

 

 その言葉にネイサンは血相を変えた。

 俺の人生でおおよそお目にかかることのないであろう金額の案件が、閑職に追いやられた男の目の前にぶら下がっているということになる。

 こんな職場から這い上がるチャンスにもなりうるそれに、ネイサンが必死になるのは仕方のないことだった。

 

「じょ、じょじょ、条件はなんだ……!?」

「そうね……じゃ、この子をちょーだい♪」

「え?」

 

 俺?といわんばかりに自分を指さす。それに女性はうんうんと頷いてくるので、俺は尻餅したまま腰が抜けるかと思った。

 しかもこの声、聞き覚えが……

 

「あ、まさかあの時の黒い……」

「気づいてくれたのね、嬉しい !さっきネイサンに喰らいついてたとこ、結構好きよ」

 

 いや、俺はうれしくない。だって突き放してきた冷たい女レイヴンじゃないか。いや、あれはやさしさだったりするのか?

 奥の方では先ほどからネイサンの唸り声が聞こえてくる。どうやら損得勘定で忙しいようだ。

 

「私がいなかったらこの子も死んでた。そういうことで貸し借り無しにしない?」

「……いいだろう。今回限りだ。それだけは忘れるな」

「……ぅええええええええええ!!!!」

 

 父さん、母さん。

 俺、レイヴンになるらしいです……。

単語集やキャラクター集は必要そうですか

  • 私にはそれが必要なんだ
  • 単語集だけでいい
  • キャラクター集だけでいい
  • この小説には、不要だ……
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