先日の戦闘記録を眺めていた。ハイエンドノーマルの項目を見るたび心が痛む。確かに俺はまだマシな境遇にいる。
依頼は受けなきゃいけないが、奴隷労働というほどではない。
食事はまともだし、正体を隠せば外出だってできる。
嫉妬されても当然だ。立場が逆なら俺だってキレる。
「どうしたの?」
シャルさんだ。
「いや、初任務のレポートを見ていて。」
そのままレポートに目を落とす。
「ハイエンドの子たちのこと?」
「はい、自分だけいいとこに居て、これでいいのかなって。」
「べつにいいんじゃない?」
ザッパリ斬られた。
「そんなもの、気にするだけ損よ。レイヴンになったからには変に気にしてると持たないわよ?」
「ええ……」
口調が荒れてらっしゃる。なんか地雷でも踏んだんだろうか……。
「それに、もしあんたがあの子たちと同じになったとしてもさ。きっとあなたは脱走して、何かを掴んでたはず。黙って従ってたらただ使われるだけだよ」
「買いかぶりすぎです」
「さて、どうかしら」
そういうものなのか。納得しきれた訳じゃないが理解できるようにしておこう。
……俺が案外やんちゃだと思われているようだが。
「あの子達だって、脱走を選んだ。あんたがあれこれ言われる筋合いはないんだから、胸張りなさい。」
「了解です」
よし、と一声の後に、シャルさんがいきなり立ち上がると出かける用意をし始めつつ口を開く。
「さて、気分転換にアリーナでも行ってみましょうか。」
「話題の転換も激しいですね……」
「賞金取れれば後々楽になる。資金調達とトレーニングするのにいいところよ。」
□
連れて行ってもらったのは東京アリーナ。到着するや否やシャルさんはチケットを手渡す。
「チケットこれね。あと最後の方まで見ていくこと、いいわね。」
そういうと俺を残して、どっかへ行ってしまった。
「ちょっと!もう……一人で見ろって言うのか。シャルさんの解説付きだと思ったのに。」
相変わらず自由奔放な人だ。と、唐突すぎて呟くことしかできなかった。
指定席で前から6列目、右から5番目。そうチケットに書かれていた席につく。
右隣が空いている。シャルさんの席だろうか。
『有澤重工主催、東京アリーナへようこそ。定刻となりましたので、第一試合を開始します!』
会場が沸き立つと同時に、AC左手用に比べて何倍もの出力を持つエネルギーシールドが張られる。
まずは下位リーグ。俺が見習うべきところを探す。レベルが近いからこそ参考になる点も多いはずだ。ブースト、射撃タイミング、位置取り、武装切り替え。見逃さないよう目を凝らす。
指定席にはイアホンジャックがあり、つけると実況が聞ける。当然それにも耳を傾けた。
下位リーグが終わり、上位リーグまでのインターバル。
まずは今見たレイヴン達と戦うことになる。そう思いつつ隣を見た。
――まだシャルさんは来ない。
ため息をつき、アリーナの上の方にある売店へランチ買いに立った。買ったのはサンドイッチ、サラダ、あとオレンジジュースだ。
売店から戻ってきて上の方から席に戻ろうと階段を下る途中、俺の席の右隣に誰かいるのが見えた。女性だが、ブロンドのロングヘアで、黒髪ショートのシャルさんじゃないことは確かだった。
席へ向かいながら様子を窺い続ける。
「こんにちは。お隣り失礼しています。」
年齢を考えるのは失礼だが20後半の女性。外国人のようだが、日本語が流暢で違和感のないものだった。
「ああ、はい」
と曖昧な返事をし、席に座る。サンドイッチを開けようとしたとき、女性が声を掛けてきた。
「自己紹介をさせて下さい。」
なんだろうと黙って先を促す。
上位リーグは始まっていた。が、ハイレベルすぎて参考になるかどうか、といった激しい戦いが展開されていた。
「私は、次回の依頼から専属オペレーターになります、ナジェージダ・ドロワです。よろしくお願いします。」
「え……? 」
突然のことに驚いて何も言えなかった。
「本日は挨拶に参ったのですが……その様子だとシャルさんから何も言われてないようですね。」
「は、はい。」
「あの人は全く……」
いつも肝心なことを言わない人らしい。あきれた様子でため息をついた後に、こちらに向き直った。
「そちらの事情は存じております。」
奥でグレネードランチャーの轟音が目の前で響く。
「と同時に、私の業務とは一切関係ありません。私の業務はあなた方レイヴンの補佐です。それ以外の事情には一切関与しません。」
「分かりました。仕事熱心、と受け取らせてもらいます」
「オペレーターはそういうものです。必要以上の会話は戦場では命取りです。」
今までの人間味のあった口調から一転、業務的でフラットな話し方に変わったナジェージダさん。俺はここに来る前のやり取りを思い出し、この業界の冷たさを強く再認識した。
「そう、ですか。しかしなんでシャルさんがオペレーターじゃ無いんですか?」
「不満でしたか?」
「いえいえ。ただなんとなくそう思ってましたもので。」
「彼女には彼女の仕事がありますから。ほら」
そう言って正面を向いた。俺も釣られるように正面を向いて、片耳に実況の流れるイアホンをつけた。
『さぁーて、次のカードはとんでもないですよ!!ランク3とランク5が同時にピットイン。世界レベルの試合となりそうだぁ!』
「ランク3‼この前の!」
U.N.オーエンさんだ。
フレームはそのまま中量二脚、右手はリニアライフル、左手はショットガン。肩に6連小型ミサ。
相手は……。
(なんかデジャヴが)
黒の下地に、濃いグレーのカラーリングあたりが特に見覚えある。フレームは軽量で両手マシンガン。右肩に7連マイクロミサイルを搭載しており速度と弾幕を両立しているように見える。
「まさか、ここまで彼女のことを知らなかったとは。AC・サルタクロスは彼女、シャル・マメイヤーのアリーナ用フレームなんですよ?」
「あの人ランク5だったんですか!」
「やはり……ここまでの秘密主義はレイヴンでも度が過ぎて……もうっ」
強い方っていう認識しか無かった。ふたを開けてみれば1桁ランカーという化け物。なんで俺を拾ったのかよくわからない。
さっきまでオペレーターらしい口調だったナジェージダさんが再び感情的になっているのを見るに、相当なじゃじゃ馬なんだと思わされる。
『今回の試合、どう見ますか』
『実際、上から20くらいはコロコロ順位が入れ替わってますからねぇ。どっちかが上位なんてほぼ飾り同然です。まあ、今までの勝敗を見るとオーエンが若干上です。さらに機体を見ると、レンジ的にマメイヤーの方がさら不利のようです。』
『ありがとうございます。さて、試合開始のブザーが..........鳴ったぁー!』
□
とても遠かった。それがあの試合の感想だった。
結果はオーエンさんの勝利。といっても、残りAPは800くらいだったようだ。
二人の戦いはとても白熱していた。距離を取ろうと後退するローレンス。それに食らいつくサルタクロス。側面に取り付いて離さない軽量二脚にショットガンを向けようと激しい機動をする中量二脚。
ホログラムディスプレイで見ることができた、楽しみをかみしめるオーエンさんと興奮に震えるシャルさん。
あまりにも違いすぎた。住んでる世界が違う。
今は、あれを理想として自分ができることをやるべきだ。
そう思って端末を見ると、依頼が来ていた。見出しは『国連軍MT・ノーマル混成部隊撃破』
ついに戦争の一端を担うことになる。
レイヴンは本来、自分の意志で依頼を受け、戦うものだ。そしてそれによって、レイヴンは自らの所属を示す。
だが、もともとオーメルの見出したドミナントである俺は、基本的に企業の依頼しか受けられない。当然周りからは企業派として見られる。
俺としてはこの際どっちでもいいから早く終わらないかとすら思っているが、当事者なのでそんなこと言っていられない。
まずはコレをクリアすることをまず考えよう。そう思って依頼ファイルを開いた。
『作戦を説明する。依頼主はGA、対象はアメリカ、ニュー・メキシコ郊外を進行予定のBFF社製ノーマル・MT部隊だ』
『先日、国連軍がこのルートを取り、5日後アリゾナに向けて侵攻することを掴んだ』
『なんで国連がACやMTを持ってるか?あっち側につく企業だっているからさ。うちのお偉いさんの子会社もいくつかはあっち側さ』
『これを君達に襲撃してもらう。手段は問わない』
『だが、こんな早すぎる情報だ、ダミーもありうる。万が一を考えといた方が良い』
『こっちから僚機を一人つけさせてもらう。もう一機つけるかはお前さんの判断次第だ』
『こんなところか。まあ、悪い話ではないと思うぜ。返事を待ってる』
今来ている依頼はこれ1つだ。駆け出しレイヴンなので贅沢は言っていられない。少々怪しいが、受けるしかないだろう。
さて僚機は、レイヴンネームはラビエス・モンテ、ACはエイブラムスか。戦車みたいな名前してる。
説明文はええっと......あった。
【古参ランカー。かつて重量二脚の使い手として名をはせ、門前と呼ばれるランク30まで上り詰めた。しかし、ある日突然タンク型に乗り換えそのランクを60位まで落としている。周囲は重量二脚に戻すように勧めるが全く聞き入れない。しかしその火力と精度に衰えはなく。正面に立ったが最後、跡型もなく吹き飛ばされる。】
もう一機は任意で選べるのか。
(地形は……ルート66沿いの荒野か。ボックスキャニオン?よさそうな地形だな。なら……)
独り言をぶつぶつ呟くようにして、ミッションの攻略方法を練っていく……
□
『カルロス・ハリソン、スタンバイOK。』
『ラビエス・モンテ、準備できたぞ』
新規に雇ったのはカルロス・ハリソン、ACはドラグノフ。
全機が所定の準備を終え、敵を待つのみになった。
『ミッション開始。敵部隊を殲滅してください』
対象がミッション区域に侵入したことで、オペレーターがミッション開始をこの場にいるレイヴンへ告げる。
相手は道路を南西に向かって進んでいた。MT運搬車はノーマルACに取り囲まれ護衛されている。
やがて部隊は谷に差し掛かった。道路のあるところだけが橋のように盛り上がっている。
俺は敵が狙った位置に来るまで引き付けて、そしてエクステンションのスイッチを入れた。
『ECMだと?総員警戒。』
部隊が敵襲を警戒して停止する。
『ヒュゥ!いい的だぜ』
その通信の直後、MT運搬車を弾丸が襲った。超高速大口径のそれはたやすく積荷をも貫通し破壊する。
『なんだ!何があった!』
『北西より砲撃!』
『スナイパーか!』
『BFF社製ノーマルの部隊なんだぞ。狙撃で負けるなど……ッ!』
通信の主も、その直後に射貫かれ絶命する羽目となった。
「ファーストフェイズクリア」
ACドラグノフはスナイプを得意とした軽量二脚だ。徹底的にチューンしたその射程距離はノーマルなどでも太刀打ちは難しい。
「セカンドフェイズ。ラビエスさん」
『任せろ』
エイブラムスはECMもお構いなしにグレネードライフルを乱射、部隊に大量の榴弾が襲いかかった。
『退け!一時退却だ。』
強烈な圧力に。たまらず敵部隊は来た道を引き返そうと旋回する。
しかしそこに俺が立ちふさがる。
ここは起伏が多い。だからステルスと偽装マントでやり過ごし、敵の後ろをとった。パージするまで機体が重かったが、この瞬間までの辛抱だった。
足を止めたECMはロケットで敵の足元に打ち込んだものだ。
二人はレーダー距離外からの狙撃と物陰からの制圧。ハイエンドノーマルはいなかったからレーダー距離で勝てた故の蹂躙だった。
騙されたらどうしようかとひやひやしたが何とか成功し、後は包囲殲滅だった。
カルロス・ハリソンが後詰めに距離を詰めようとした時には、もう終わっていた。
あっさりミッション完了なので合流する。
『仕事早いね。ま、狙撃が役に立ったみたいでよかった』
『想像の何倍も簡単だった。出る幕はなかったか』
「二人ともありがとうございました。それじゃあ......」
その時だった。俺の後ろの道路が爆ぜたのは。
『東に敵勢力を確認。武装列車です』
「「「……は?」」」
嘘だろ。こうなるのかよ。
俺はそう毒づこうとして、しかしあきれて言葉にならなかった。
あまりの事態に3人そろって腑抜けていると、ふざけるなと言わんばかりにグレネードキャノンの弾丸の雨が降ってくる。
「皆さんどうします。」
『ミッション終わったし……』
『俺は……弾がないのでな……』
同じ意見らしい。
『三十六計逃げるに如かずッ!』
『命あっての物種ェ!』
「……にぃげるんだよぉおおお!!」
なお、依頼主からも戦わなくていいと直後に連絡が入るがそんなことどうでもよかった。あんな火力をどうこうできるアセンと状態ではなかったのだから、どちらにしろ逃げるだけだった。
3人はそろって必死に領域を離脱していく。
『お……おいていく気か……ッ!』
「俺たちだって死にたくはないんですよ!!!」
ラビエスさんは俺達以上に必死だった。
機動力の低いタンクで必死に作戦領域外に向かって走るラビエスさん。しかし、俺たちはそんな彼を助ける手もなければ余裕もなかった……
領域外に出た時には、全員のAPは残り3割を切っており、かろうじて黒字といった塩梅であった。
後日別のレイヴンが撃破したというメールが依頼主から届いたが、それこそ本当にどうでもいい連絡ではないか。
そう思ってしまっても仕方ないと思うのは俺だけだろうか。
……不備あったら教えてください(無責任
単語集やキャラクター集は必要そうですか
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私にはそれが必要なんだ
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単語集だけでいい
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キャラクター集だけでいい
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この小説には、不要だ……