やってみていい息抜きにも練習にもなる、練がアリーナに挑んだ感想だった。
一対一なので敵に集中すればいいし、持っていない武装を相手が使ってくるので予習になる。
それに相当マヌケなことしない限り死ぬ可能性は低いのもいい。
「おや、坊や。迷い込んだのか?」
かつて助けてもらった男の声を耳にする。
っていうか、いや、これ話しかけられてるな……?
「ご心配ありがとうございます。ですが、これでもレイヴンなんですよ、オーエンさん」
振り返りながら俺は返す。
UNオーエン。ランク上位層の化け物レイヴンだ。
「……失礼した」
「いえいえ、それに先日助けられた恩もありますし」
「と、言うと……そうか、あのときのレイヴン候補か」
お返しとしては、これじゃあ足りないとは思いますが。
と前置きして自販機でコーヒーを買ってくる。話を聞きたいので少し引き止めたいという意図もあった。
いくら企業の制限化にあるレイヴンでも報酬はいくらかもらっている。シャルさんがゆうk……引き取ってくれたお陰だ。
「オーエンさん、私は素人なので色々聞きたくて……」
「なるほどな、これを飲む間くらいは」
「ありがとうございます。ここはストレートに、戦いで生き抜く秘訣とかありませんか?」
手っ取り早く聞きたくて曖昧な質問になったが、ちゃんと答えてくれた。
「そうだな……普段は総火力を気にするな。」
「どうしてです?」
「昔、あんまり総火力があまりない機体でミッションに挑んだら、増援ラッシュが発生して死にかけたことがあってな。」
「不測の事態は、総火力は多いほうが対応しやすいですか。」
やっぱり手数は必要か。今のところ総火力不足に泣かされる場面がいくらかあった。パーツはいくらかシャルさんに借りられる状態ではあるものの、積載と速度の兼ね合いから少し意識が足りてなかったかもしれない。
「あ〜それから、地形に合わせたアセンブルは重要だな。起伏の激しい領域でタンクは向いてないし、閉所を紙装甲の機体で戦うのは難しい。」
「確かに、自分で難易度上げるのは自殺行為ですものね。参考になりました。」
「気にするな。こういう教訓は死にかけて手に入るが、そのために死にかけるのは本末転倒ってやつだ。どんどん聞いてくといい」
「なるほど……ありがとうございます!」
「……コーヒーはごちそうさま。あとに試合も控えてるんでな」
空になった紙コップを自販機横にある専用ゴミ箱へ突っ込みながら別れを切り出してきた。
素直に別れようとして、ふと気づく。
「……そういえば、起伏のあるところでタンク使ったり、閉所で軽量二脚使ったんですか?」
「……若気の至りというやつだ」
□
レイヴン、ハリソンは愛機のコックピットで思考にふけっていた。
今日の対戦相手はアキレス、以前僚機として雇ってもらったレイヴンだ。
(彼は中量二脚のオールラウンダー。遠距離からのヒットアンドアウェイで倒せるはず。)
いつもどうりやるだけだと自分に言い聞かせ、アリーナの戦闘エリアに出る。
「さあこい!」
相手もその機体を日のもとへと繰り出してきた。だが、その機体は
「四脚⁉話が違うぞ!」
四脚だった。搭載する武装は右手に反動と火力のバズーカ、肩はこれまた反動が高くかつ射程もあるリニアカノンだ。左手には懐に潜り込んだ時のためのショットガンまで握られていた。
(しかも完全に潰しに来てやがる。)
ハリソンにとっていい思い出の無い武器ばかり持ってこられた。
「ええい!ヤケクソだ!」
試合開始と同時にスナイパーライフルを発射するが、発射されてから横移動することで回避され、逆にリニアカノンによるカウンターがハリソンの愛機を穿った。直撃して反動で機体の制御がうまくいかない。
東京ACアリーナの広さはスナイパーライフルの最適距離よりやや短い。それに対してリニアカノンにはちょうどいい間合いだった。そのため撃ちあいとなれば反動で挙動が鈍るこちらの方が不利だった。
「このッ……」
不利な撃ちあいにより思うように動けないうちに、撃ちあいの過程で少しずつ距離を狭められていた。その状態にハリソンは毒づく。
その心の揺れ動きをアキレスは悟ったようで、その瞬間に一気に前進することでショットガンの間合いにまで踏み込んでいた。
「しまった!やらかし、グワッァ!」
バックステップするように後退のブーストを吹かすが、それが仇となった。ショットガンの間合いから離れた直後に右手のバズーカが榴弾を発射。弾速こそ遅いが横軸への動きない以上、直撃は避けられなかった。
その衝撃の圧力をあびたハリソンは、本能的にこの窮地を脱しようとオーバーブーストのスイッチを入れていた。
しかしOBの展開直後をリニアで狙い撃ちされ、機体温度が危険域に達する。そのうえ、衝撃で操作を誤りほんの少ししかオーバーブーストで移動できないという最悪のおまけまでついてきていた。
身動きが取れなくなったハリソンに、アキレスは追い打ちといわんばかりにバズーカとショットガンを撃ちこんでAPとエネルギーを奪い取っていく。
(せめてブレードでも当てられれば!)
ハリソンは思い切りブレードを振りかぶり。
ショットガンの散弾が左腕の表層をそのブレードごと粉砕した。
□
「ランク70位代突入おめでとう!」
シャルさんが用意したクラッカーを鳴らす。
今日の勝利で79位になった。そこを初心者卒業の境目とシャルさんが定めていたため、それを超えたお祝いを用意してくれたのだ。
「いやぁ、まだまだですよ。」
「あの
「あれだって弱点ついたからですよ。」
「それでも。っていうか弱点をつくための脚部選びもなかなかよ」
少しだけ食事が豪華だ。今どき合成物でも刺し身はなかなかお目にかかれないので、純粋に嬉しい。
どうやら俺が和食の方が比較的好きということに気づいたようで、最近は和のテイストが増えて行っているようだ。正直妄想どまりだったとはいえ、シミュレーターに押し入られるという懐柔策よりこちらの方が効くので困っている。
食事も程々に進んだ頃、俺は話を切り出した。
「さっきシャルさん、俺は脚部選ばないって話。どういう意味ですか?シャルだってニュースとか見ると足結構変えてますけど。」
あれから何回かミッションに出撃したが、確かに皆足を変えて無かったような……。
自分はあまり必要性を感じず今のところ二脚のままだったが。
「身近になった私やオーエンがそうだったから気付かなかったのね……基本、脚部を変更すると操作感が酷く変わるから、慣れた脚部以外あまり使わないのよ。」
「そうなんですか?」
余談だがランク戦前にあったオーエンとの会話では、聞いていた周囲は「それができたら苦労はない」とため息をついていたという。
「ええ。全部使えるのは世界でも数える程しかいない。って言うと聞こえはいいけど、器用貧乏とも取れるから気をつけてね。あくまで汎用性が高いってだけなんだから」
「はい……」
多分、釘を刺したのだろう。
確かに全部使えるからと言って強いとは限らない。あくまで手を出せる依頼の幅が広くなるというだけだ。
精進せねば。
「そういえばシャルさんはどちら側って知られてるんですか?あまりミッション内容を見せてもらえてないので。」
「私はまあ、中立って見られてるわね。んで、私自身としてもどっち派とかないかな。依頼と報酬次第。」
「そうですか。」
あとは他愛もない、とはいえ人とあまり会えない以上貴重な談話の時間が寝る前まで続いた。
□
「おはよう!」
玄関を開けると、あの元気な声と共にあの子が待っていた。
隣の家の、同級生。
「ああ、お前か。んでいきなりどうした。」
「ジャーン。これ見て!ついに……」
そこの手に持っているのは封筒。そしてそこから取り出された中身を見て、俺は自分のことのようにうれしくなる。
「おお!おめでと!オリンピック合宿参加状だなんて凄いな。」
「これで夢に一歩近づいた!」
「中学の夏休みか。」
「うん。絶対陸上でメダル取ってやるんだから!」
「気が早いって!あくまで合宿だろ。」
ふふん、と胸を張る彼女に俺は苦笑いで答える。
「そだね」
「まあ、とはいえ第一歩だもんな。応援するさ」
まるで早送りのように時間が過ぎていき、学校の卒業式が終わる。
「じゃあ、今度会うのは入学式ってことで。」
「うん。じゃあね。」
「ああ、またな。」
□
「マジ、かぁ……」
練にとって夢で自分の過去を見たのは初めてだった。春休み前、幼馴染である立上 紫蘭と最後にあった日のこと。
俺がヘマすれば最期にもなる、と練はふとそう付け加えた。
本人たちにとって、自分たちの幼い恋愛は脆くずっと続くものでないと何となく考えていた。だが同時にその思いは本物だという謎の自負もまた、あった。
「あいつ、どうしてるのかな」
故に、アキレスという仮面をかぶっていない練はこの時漠然とした寂しさを覚えるのだった。
心が少し重くなった練は、その思いを朝食と合わせて消化する。その間に情勢とミッションを渡されていたレイヴン用の携帯端末で確認していた。
ちなみに今日の朝食は目玉焼きとソーセージに味噌汁。非常にベーシックだが、目玉焼きにかけるモノはここにいる二人でさえ論争を繰り広げている状態だった。少なくとも練は醤油である。
練はレイヴンに関するニュースについて見ながら、ふと前から疑問に感じていたことを思い出しシャルに尋ねる。
「シャルさん。前から思っていたことなんですけど、いいですか。」
「どうしたの?」
「他のレイヴンのミッションファイル。撃破の項目がレイヴンだったりACネームだったりふらついてるんですけど。」
「それは、ACがAP0になるとAC撃破。さらにレイヴンが死亡、もしくは派手に病院送りになったらレイヴン撃破ってなるの。」
なるほど、ACネームだけなら、翌日に別パーツとか別機体に乗って復活してる事もありうる訳か。と練はかみ砕いて理解を深めていく。
「ここにあなたの名前が載らないことを祈るわ。」
「ブラックにも程があるでしょうッ!」
その最中に不謹慎極まりないジョークが襲い掛かり、練はその思考を中断してツッコミに移る。
「あ、撃破どうこうついでに、ちょっと教えておきたいことがあったの思い出した」
「……なんですか藪から棒に」
シャルの雰囲気が少しだけ変わる。こういうときは大抵ろくでもない情報が投げられるものと練はこの短い期間で学んでいた。
「実は、あなたのACには少しだけ細工されてるの。」
「何したんですか。というかいつから?」
「最初から」
「やってくれましたね……!?」
驚き、そしてシャルを睨みつける練。
試験は支給されたACなので、それをここで整備したりパーツを変えたりした時なのだろうと練は時期について考察する。
「で、いったい何を?」
「映像処理過程で、本来ついてるはずのARの機能が一部ついてない」
「……逆じゃ無いんですか?」
練は細工と聞いて何かをつけ足していると考えていたが、実際は機能の排除。その予想外に小首を傾げる。
「ええ。それ故あなたは見なくていいものを見ることになる。」
「つまり、外したのは一種のフィルター?」
「そうね。そのフィルターで弾かれるのは、戦争を起こす側が兵士に見せると少し不都合なもの。道徳違反、死体、虐殺すべて」
シャルは何てことないように言うが、場の空気はそれに対して完全に凍てついていた。
おそらく強引な引き抜きで採用した兵士や、間口の広すぎるレイヴンを失わないための措置だろう。このフィルターがあれば戦場でのメンタル維持はかなり楽になる。
「……何故です。俺はこれでも企業の駒、不都合なものを見る状態というのはそれこそ企業が黙ってないはず」
あくまでお情けでレイヴンにしてもらった練もまた、何も知らずに戦った方が企業としては都合が良いはずだ。虐殺に抵抗を持たれて反乱やさらなる脱走を企てるかもしれないし。心理的外傷で戦闘不能になっても面倒だ。
「君は自分自身で判断すべき。曲がりなりにもレイヴン、あなたはいずれ自由になりえる力がある。だからこそ君は自らの行いも含めて、すべて見ておくべきだと思った」
「それはあなたの判断ですか」
「ま、そうね。不満なら付け直せるはずだけど」
「……いえ、ゲームと勘違いして虐殺する自分は……イヤですから」
そこで練は自らの運の良さを知ることになる。
今まで2回の実戦を経験したが、コックピットが剥き出しの機体は作らなかったし歩兵部隊とかち合わなかった。
まだ練は戦場の初心者だ。もし悍ましい惨状に遭遇していたら、フィルターの無いACのカメラで直視することになっていた。練はそうなったときに折れない自信がなかった。
(無責任だな、俺は)
言葉にこそ出さないが、その不甲斐なさに歯噛みする。それと同時に自分がそういう場面に出会わすことが今後あるだろう、と怯えてもいた。
「まあ、そういうことなら。ちなみに他のレイヴンには、APが0の機体は炎上して見える。」
「なんでそんな機能が?」
全くの謎機能だと練は断じた。そんなことをして何の益があるのだろうか。
「過剰攻撃の抑止らしい。企業も国連も、どうやら兵士に死んでもらいたくないみたいだね。AP0っていうのは実は中破、爆発なんて運が悪くなけりゃ起きない」
「どうしてなんでしょう」
「そこまでは知らないな。お偉方に聞ける立場じゃ無いからね」
シャルはそういうと、こんな物騒な話をしたにもかかわらず平然と緑茶を啜る。
練は何となくはぐらかされていると朧げに感じることはできたが、それ以上追及するとお互いのためにならない気がしてそれ以上を尋ねることはなかった。
レイヴンになるというのは、こういうことなのだろうか。練は殺人に対して鈍感になっていくだろう自分の未来に悲哀を抱くのだった。
単語集やキャラクター集は必要そうですか
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私にはそれが必要なんだ
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単語集だけでいい
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キャラクター集だけでいい
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この小説には、不要だ……